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12☆World  作者: おしゃかしゃまま
2112年7月5日(火) 200万人☆金色リンゴ☆笑顔のおじさん
24/85

第23☆


「 いやースマンスマン。助かったよー」

と満足げにお腹をさすりながらニコニコ笑顔を俺に向けるおじさん。


50代後半といったところだろうか。

髪は黒く、少しウェーブがかかっていて、無精ひげが生えているが、それがよく似合う笑顔が素敵な人だ。

おじさんの前には、綺麗に空になったお皿が並んでいる。


「君は命の恩人だ! 本当にありがとう」

頭を下げるおじさん。

ピシリと音がしそうなお辞儀は、見ていて美しかった。


「いえ、気になさらずに」

と答えた僕は、上手く笑えただろうか。


目の前で倒れていたおじさんは、介抱した僕に空腹を訴えた。

倒れた人をそのままにしておけなかった僕は、このおじさんに配給された分の食事を全てあげてしまった。

常に紳士でいたいと思っている僕ではあるが、これはさすがに失敗だろうとやや後悔気味だ。


600以上のSPがある僕が、SPを完全に回復するためにはリンゴを60個以上食べなくてはいけない。

 こんなにリンゴばかり食べる事は出来ない。

 いくらゲームの世界でも、さすがに飽きる!


 まぁこのおじさんなら喜んで食べそうだけど。

 このおじさんの食べ方は見事だった。美しいと言っていいかもしれない。

 空腹のあまり焦っていたんだろうけど、その食べ方にいやらしさが一切なく、しかも常に笑顔で美味しそうに食べていたのだ。

 あげてよかったと思えるくらいの食べっぷりだった。


 結局おじさんは、僕のお盆に乗せられた大量の食事。

 食パン5斤 

 野菜とかが入ったスープ約2リットル。

 ソーセージがおそらく3メートルくらい。

 リンゴを12個。

 を10分ほどで完食した。


 なんでも、おじさんも食料の配給を受けて食べたらしいけど、そのあまりの少なさに、食べたすぐ後だったのに倒れてしまったそうだ。

 どんだけ食うんだこのおじさん!


 「君たちのような冒険者ならともかく、私のような浮浪者にはあまり食事を配給してくれなくてね。いやー私は大喰らいだから本当に助かったよー」

 今度は、おじさんは両手を前に合わせて拝むように僕に頭を下げる。


 止めてくれ!親よりも年上の人に頭を下げられるとなんか恥ずかしい!


 やりすぎた礼や謝罪は逆に人を傷つける。

 ……少しアイツを思い出した。8日前のあの出来事。


 「いや本当に気になさらないでください」

 と僕は言っていると、突然目の前が霞んできた。お腹にまた小火が……

 アイツを思い出したせいか?

 いや、違う。

 ステータス画面が開き、何が危険か僕に教えてくれる。


 ヤバい。


 コレは。


 僕はアイテムボックスから30分かけて作ったリンゴジュースを取り出し、一気飲みする。



「…………あっぶねーーーー!!また餓死するところだった!!」


 最大SPの値が0になっていた


 餓死で復活した場合のSP回復量は、最大SPの12パーセント。

 その後、ログアウトの回復分を含めても僕のSPは20パーセントくらいだっただろう。

 つまりゲームのプレイ可能時間は約20分。

 ちょうどゲームを始めてそれくらいはたっていた。

 おじさんのあまりに美しい食べっぷりにすっかり失念していた。


 最大値が0になってすぐに死ぬわけでは無くて、3分以内に食事を食べれば復活するそうだが、今の僕がまさにそれだった。

 ギリギリ。

 本当にあと少しで死ぬところだった。


 SPの最大値が60になって安堵したが、このままだと僕は10分もたたずにまた先ほどのめまいに襲われて餓死することになる。


 僕はアイテムボックスから美味しそうなオレンジから作ったオレンジジュースを取り出して揉み始めた。

 コレは、一時間ムチを振っている間に作ったモノだ。

 実は、リンゴに比べて、他の果物からジュースを作るのは簡単だった。

 他の果物は分解一回でジュースになるのだ。

 なんでリンゴだけあんな手間が……とも思うが、そのせいか、リンゴと他の果物では効果が微妙に違う。


 【美味しそうなリンゴジュース(錬金)200ml】

 効果 SP 60回復 MP 20回復


 だったが、他のジュース。


 たとえばオレンジジュースの場合


 【美味しそうなオレンジジュース(錬金)200ml】

 効果 SP 60回復 HP12回復


 となっている。


 まぁ手間がかかった分効果が良くなっているのかもしれない。

 僕はオレンジジュースを飲み干すと、次のジュースを選びつつ、果物を取り出そうとする。

 ジュースにした方が、少しだが回復効果が上がる。

 ジュースを飲みつつ、どの果物をジュースにしようか悩んでいると、おじさんがこっちを見ている事に気付いた。


 おじさん、少し申し訳なさそうで、頬を少し赤く染めながら上目づかいで僕の様子をうかがながらモジモジしている。


 ……オヤジの萌えキャラなんていらん!


 「……なんですか?」


 ついさっき餓死しそうになったのだ。少々焦りつつ、何か言いたげなおじさんの手助けをする。


 するとおじさんは


 「いや。……わたしは、リンゴとブドウを混ぜた飲み物が大好物だなーという。まぁ、その自己紹介というか……なぁ?」

 とうつむきながら言う。


 はぁーーと僕は大きくため息をつく。


 このオヤジ!まだ食うんかい!!


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