第22☆
その後マキは、僕に二つの条件を出した。
一つは、武器スターをムチから剣か槍のスターに変えること。
走りにくいなら、武器を外せばいいでしょう?だって。
もう一つは、マキと一緒に行くまで、モンスターのいる西の島に行かないことだそうだ。
そんなハズレスターばっかり選んでいる人がいたら、お金がかかっているこのゲームだと即行で晒されるよ!とのことだ。
そんなにひどいのか……
ちなみに、この条件を破った時は、隠したエロ本達を燃やすとの事だ。
(……生きていたのか! マイバイブル!! 待っていろ! 僕が必ず助けてやるからな!!)
僕は、星が見えすぎる12☆Worldの空に誓った。
てか、星空スゴイな! 星座を全部集めたみたいだ!
その美しい12☆Worldの夜空を見つつ、僕はため息をつく。
「けど、金曜日までに12万Bもの大金を稼いで、武器を買うって多分かなり辛いぞ」
僕は自分のステータス画面を見る。
所持金は500Bだ。
これが、プレイヤーがゲームの開始時に持っている金額。
NPCのお店でルーキーポーションが30B、簡易食糧が70Bで売ってある。
初期の武器は、一律500Bで販売されているし、店売りの最高防具、鋼の鎧は5000Bだ。
ん? まだ12万Bがどれほどの大金か分からない?
では、僕が先ほどまで採取していたリンゴが一つ10Bで売れるモノだと言えばいいだろうか。
12万B稼ぐのに、リンゴを1万2千個採取して売らないといけないのだ。
これ、なんて無理ゲー。
マキが提案したこの大金を稼ぐ方法を思い出す。
『ゲームのお金が無いなら現実のお金を使いなよ』
うん。まぁ、確かにこの12☆Worldは、円をBに変換する銀行が存在していて、その倍率は1円=10Bだ。
1万2千円で、なんとスターを一つ買えます!
うわー。超お買い得―♪
って高いわ! このゲームと同じ値段じゃないか! 高校生をなめんな! 高校生のお小遣いは月5千円じゃ!
「まぁ、稼ぐ方法が無いわけではないけどな」
色々読んできた小説やマンガを思い出す僕。
ゲーム内でお金が無い主人公が、大金を生み出す方法。
それは……
「サイトでは散々錬金術師の事をバカにしていたけど、その実力を見せてやるぜ!」
ぐぅ、とお腹が鳴る音と共に拳を上げる僕。
超恥ずかしい。
「とにかく、今は腹ごしらえだな」
食後なのに、今はお腹が空いていると思えるのは、さすがプレエク3だと思いつつ、僕は教会の前に出来ている行列に並ぶ。
50人は並んでいるだろうか。
ここは食糧の配給が受けれる所。
SPが重要なこのゲーム。
餓死するプレイヤーも多くいて、その救済措置がこの食糧配給だ。
一応ゲームをログアウトすると、HP MP SPは徐々に回復していくのだが、その倍率は1時間で10パーセント。
完全回復に10時間もかかるだ。
しかし、SPの最大値が2割以下のプレイヤーのみ受ける事が出来る食料配給は、食べたプレイヤーのSPを80パーセント分回復してくれる。
しかもタダ。
なので餓死したり、SPが少なくなったプレイヤーは、序盤はよくこの食糧配給を受ける。
まぁ、この食糧配給を受けれるのは最初のこの街のみらしいが。
後は、お金を払って宿屋で食事付きの場所に止まるとかでSPを回復するんだって。
とにかく、タダでSPを回復出来るこの食糧配給は超人気で、街に12か所ある食糧配給施設は常に行列が出来ている。
一番人が少ない南東の教会でさえ50人以上の行列だ。
人が多い西の神社なんて1000人も並ぶらしい。
そんなに並ぶなら買えよ!と思うかもしれないが、この街の食事は最低一300Bから。それも回復量は80。
簡易食料は70Bだし、初期の所持金500Bのプレイヤーが安々と食べに行けるモノではないのだ。
と思っていると、もう僕が食料を受け取る順番になった。
食料の配給といっても、パンとかを受け取るだけだから行列は次々と消化されていく。
皆パンとスープの入った器のようなモノを持って離れていった。
量はけっこうあるようだ。
小学校の時の給食の3倍くらいはある。
「お待たせしました。お腹いっぱい食べてくださいね」
綺麗なシスターのNPCが僕に微笑みかけてくる。カワイイ。
20代半ばくらいの設定の人かな?
ゲーム内の人物は全てコンピューターで補正がかかるから、必然的に容姿が良くなる。
ましてや初めから造られたNPCだ、均整のとれた顔は、現実ではありえないほど美しかった。
彫刻みたい。
「それでは、こちらが配給の……少々お待ち下さい」
その均整のとれた顔をしていたシスターの顔がゆがむ。そしてそのまま奥に駆け出していく。
「なんだ?」
何も分からずただ立って待っていた僕は、ヨロヨロと大きなお盆に乗っている食料? かな? あれ? 何人分だろうか? 桶みたいなモノも見えるけど、
を抱える先ほどのシスターを見た。
(危ないな……手を貸してあげたいけど……)
柵があって向こう側に行けない僕はただ見ていることしかできなかったのだが、ヨロヨロシスターは、なんとか僕の所まで来ると、持っていたお盆を僕の目の前に置いた。
置いた時、ドシャン!と激しい音がした。
桶に入っていたスープのようなモノが僕の顔にかかる。
「はい! コレがアナタの分です! 重いから気を付けてくださいね」
と額に汗を流しつつほほ笑むシスター。
いや、コレは……
「お兄さん。細いのに沢山食べられるんですね」
とシスター。
何か嫌な予感がした僕は自分のステータス画面を確認する。
(え!? なんでこんな急に!?)
僕のSPの最大値は660になっていた。
SPの初期値が100だから、僕は常人の6倍食べる人になったわけだ。
ステータスは行動で上がるから、フルーツを食べたりしてSPが上がったのだろう。
それでも急に上がりすぎだが。
突然のステータスの上昇に戸惑いつつも、配給を受け取った人ではなく、コレから配給しそうな量の食事を持った僕は、ヨロヨロと近くにある空いていた席に座る。
二つの意味でヨロヨロだ。どうして急に。
またマキの言葉を思い出す。
『SP250って! 高すぎ! バカじゃないの!?』
このゲームの仕様上、SPは上げすぎてはいけないステータスらしい。
それはそうだ。
SPを回復する携帯食糧なんかは、30とかの固定回復量なのに対し、最大SPは割合で減っていく。
つまり、最大SPが100の人は、携帯食糧を一つ食べたら30分ゲームが出来る時間が増えるのに対して、最大SPが660ある今の僕は5分しか増えないのだ……
コレはマズイ。
金策だけでなく、食料の確保も考えなくてはいけなくなった。
幸い、フルーツを大量に採取していたから、当分は大丈夫だろうが……
と悩んでいると。
ぐぅーと大きな音がした。
僕じゃない。いや本当に。
かなり大きな音だった。
僕はその音源を捜すと、地面に倒れている薄汚い衣服を身に付けたボロボロのおじさんを見つけた。
「大丈夫ですか!?」
僕は駆け寄り、そのおじさんを抱える。
するとそのおじさんは一言
「お……なか……すいた」
と言ったのだった。




