第20☆
「星空12!?」
僕は声がうらがえるほどに驚愕する。
星空12と言えば、政府が12☆Worldの販促のために作りだしたイケメン男性ギルドA10 (エートォ)や、美少女ギルド 11+1(イレブンプラスワン)をしのぐ人気を誇る、超人気ギルドだ。
メンバーは全員芸能活動をしていないらしい、一般の素人で、12歳くらいの少年少女達で構成されているのだが、販促用の動画を取るためにβ期間に開催された大会で魅せたメンバーの卓越した動きと、その麗しい美貌に、一気にブームなっていった。
思わぬスターの誕生に、12☆Worldのスタッフ(つまり国)も星空12を販促キャラクターに使おうと思ったのだが、全員素人の小中学生たちで、しかもほとんど全員が装備で顔の一部を隠したりしていたため、個人情報が公開も特定もされず、本人たちの協力も得られないので、星空12は謎のアイドル集団と化していた。
そんな謎のアイドルが僕の目の前にいる。
目の前で、味噌カツともソースかつとも言えない、謎の料理と化したとんかつを食べている。
あ、そのとんかつがカレーの上に。
なんて事だ。
僕が丹精込めて作ったカレーが……ってそんな事はどうでもいい。
「で。じ、じゃマキは星空12の誰なんだ?」
僕は恐る恐る聞いた。
星空12は僕の学年でも流行っていて、その画像とかは僕も目にしていた。
確かに全員可愛いしカッコいい。
顔の一部分が隠れているから、なおさら神秘性が増して、アイドル性が際立っていた。
そして、主に男性に星空12が人気になった訳は……
「巫女委員長カオリか? 麗結の魔少女レイカか? それとも大斧メイドアリスか? もしかして、魔銃教師メリッサだったりして……」
僕は、とにかく星空12の女性メンバーの名前を列挙する。
これでは無いと信じたい名前を除いて。
違うはずだ。あの子では、ないはずだ。
「んーにゃ。ミカだよ」
僕が除いた名前が出てきてしまった。
頭痛がする。
いや。
まだだ。
マキは星空12の一般に知られていないメンバーなのかもしれない。
「ミカ……夢幻忍者のミカ。じゃないよな?」
「んにゃ。忙殺エロふん小学生のミカだよ」
僕があえて避けた通り名を自ら言いやがった。コイツ。
吐き気も来た。
ミカ。夢幻と称されるこの小学生は、おそらく、先輩を除いて、12☆Worldでの一番の有名人だろう。
特に男性陣にとって。
頭には鉢がねを巻き、顔半分を布で覆い隠し、すらりと伸びた足には網タイツ。
ミニスカートというには短すぎる白色の忍服を着ている彼女は、その頭から伸びる綺麗な淡いピンク色のツインテールをなびかせながら、縦横無尽にフィールドを駆け回り、手にしている日本刀とクナイで敵の急所を突いて鮮やかに殺していくプレイヤーだ。
鮮やかに、縦横無尽に。
側転バク転バク宙を常に移動手段にして、そのスピードから本当に分身しているようなそのプレイスタイルは、見る者を確かに魅了する素晴らしいプレイなのだが、世のロリコンどもを魅了したのはそこでは無い。
足を広げての動作の際に見えてしまう、あるものだ。
短いスカートの忍服。
忍服=和装。
短いスカート=下着が見える。
和装の下着=ふんどし。
つまり、ミカが動くと、これでもかとピンク色のふんどしがあらわになるのだ。
ふんどし姿の大開脚。
ミカに世のロリコンは狂喜した。
ロリコン以外の男性も反応した。
まぁ、客観的に見て綺麗で可愛いしな。
マキ。
顔を隠して画像だけで見たら、10代後半のトップモデルと並んでても違和感はないだろう。
そんな小学生のふんどし姿は、所詮ゲーム内の画像なので、とくに法令違反とかは無い。
非実在青少年は、今でも保護の対象ではない。
だから、ミカのふんどし動画は消されることなく、世界中の人に見られている。
ホント、女子小学生の開脚ふんどし動画が年間再生数トップなこの国は間違いなく滅んでいいと思う。
大切な妹的存在の痴態が世界中の人々に見られていると知った今、何が何でも青少年は健全にすべきだという思いがふつふつとわいてくる。
「ホント、私の下着を見て、世界中の男性がムラムラしているんだって思うと、ワクワクするよね!」
「お前何言ってんだ!?」
僕は絶叫気味に叫ぶ。
もう。
本当にこいつはもう。
ていうか。
「お前、今日僕に下着姿を見られて怒っていたよな!? なんだよその反応!」
「え? いや、あれは不意打ちだったし……、ゲームの中はふんどし含めて衣装だし、正直見られても何ともないんだよね。"アレ"は私じゃないし」
もはやカレーとも呼べなくなった食べ物を口に運ぶマキ。
もう、本当にもう。
女性の下着に関する概念が分からない。
確かにね。
ふんどしよりも過激な水着を着て泳ぐ女性もいるけどさ。
なんだろうこの違い。
男性には一生分からないんだろうな。
僕は頭を抱える。
妹的存在がただの痴女だったのだ。
しかも世界的な。
小学生で。
気分が悪い。
なんてことだ。
このサクラが、妹的存在の所為で、頭を破壊された吸血鬼のような状態になってしまっている。
なんとか、妹的存在をまともにする方法を考えなくては……!
そんな僕を嬉しそうに見ながらマキは食事を続ける。
「そういえば、メンバーにサク兄ぃの話をしたら、皆会いたいって言っていたよ。特にカツヤとシュウが」
「カツヤとシュウって、打拳のカツヤに、叡賢のシュウか? なんでまた?」
打拳に叡賢っていかにも中二っぽいが、二人ともその名前が似合うイケメンくんだ。
たしか星空12の男性メンバーでは1、2を争う人気モノ達だよな。
「私が、「サク兄ぃって世界で一番カッコいいんだよー」って惚気てたら、ぜひ会いたいんだってさー」
……なぜだろう。
とても危険な気配を感じる。
「てなわけで、今週。来週になるんだっけ? とにかく今度の日曜日に、皆と顔合わせさせるから、そのつもりで!」
と最後の一口と共に、宣言するマキ。
「いや、勝手に僕の予定を決めるな!」
「どうせヒマでしょう? 彼女もいない。今まで部活一辺倒だった男子高校生!」
「ぐっ!」
言葉に詰まる。
……ええ、暇ですよ! いつも部活ばかりしてたしね! 友達もそんなに多くないしね! なんだよ! 悪いかよ!
ちなみに、振られた経験も片手では数え切れません。
ふふ。なんか涙出てきた。
「まぁ、皆と会う前に一度ゲームで会った方がいいかな? うーん。じゃあ金曜日、一緒にやろう! 2番目の街に連れて行ってあげるよ!」
「だから僕の予定を勝手に決めるな!」
「だから、どうせヒマでしょう! アドレス登録100件未満!!」
「チクショウ!」
勝てません。
小学生でも、女性と言い合いして勝てるわけがありません。
「とにかく色々準備したいからさ。サク兄ぃ、初期スターは何選んだの? どうせ変なの選んでそうだけど」
とマキはカレーを食べた後とは思えない様相のお皿を片づけながら聞いてくる。
「ふふふ。聞いて驚くなよ? この完璧さにな! 職業スターは旅人と錬金術師。武器がムチで、あとは錬金術師の調理と調薬。基本補助スターは走りとジャンプに、五感を上げる感覚スター全種だ!」
どうだ!
まいったか!
調薬とか使っていないスターもあるけど、けっこう楽しめた。
このスター達は気にいっている。
するとマキは目を大きくした後、天井を見上げて、大きくため息をついた。
「はぁー……サク兄ぃ? ちょっといいかな?」
マキはあきれたように、僕の正面に座り直した。
ルーズ「あんだけヒドイ目にあったのに、サク様はまだゲームをするのかニャ?」
マキのおかげで精神は回復したし、ゲーム内で走りたい欲求の方が強いからな。
ルーズ「それをなぜ後書きで?」
本文に入れるとウソ臭くなった。
ルーズ「それは作者の実力不足じゃ……」
……
(∩゜д゜)アー アー キコエナイ




