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組立に破壊

作者: 可零 蹴


 いつもの会社の昼休み、タバコをふかしながら短い昼休みを満喫する。

 脳を休め体を休め昼からの業務に備える。中には昼休みにしゃべりで費やし、ストレス解消している人間もいる。自然と居住する場所も二分してくるが、仲が悪いわけじゃない。そんな意識する事柄でもないな……。

 俺は食堂のソファーに座り、周りに目を配らすと新入社員の梅田が机の上で何か組み立てている。

 一緒の印刷機械を回している仲間だが、入って間もないせいもあり、いまいち掴めないところがある。ちょうどいい、ここで少し距離を詰めることを試みてみよう。

 俺は梅田の横に座りしゃべりかけた。

「何組み立ててるんや」

 梅田は器用にパーツを切り離しながら言った。

「お菓子のおまけみたいなもんですよ」

 説明書を見ると新型のスポーツカーを組み立てる手順が、かなり細かく書かれていた。とてもお菓子のおまけには見えない説明書だ。俺は感心して、

「最近のおまけすげーな。人も乗ってるやん」

 と言い説明書に目を走らせてると梅田が言った。

「リアルすぎて、一目惚れですよ。後三種類出てるんですよ」

 そんなもんに一目惚れすんなよ。と突っ込みをいれたいが、グッとこらえた。

 俺がこの年頃は、実車の方に夢中だった。時代が変われば、実車よりプラモデルが人気だとは、これがジェネレーションギャップか……。

 俺は細かいパーツを見てると、ある不安がよぎった。

「バラバラやけど、ちゃんと組み立てれるんか」

 梅田は形になってきた車を眺めながら言った。

「大丈夫ですよ。案外器用ですよ僕」

「おいおい、俺の器用の概念あっさり覆すなよ……」

 梅田は視線をプラモデルから俺に移した。

 その目は少しうるんでいた。そして訴えるように言葉を捻りだした。

「なんて事言うですか、器用ですよ!」

 そんな必死に弁解しなくても、冗談があまり通じないタイプだな覚えておこう。

 そして梅田はトイレに立った。

 俺はプラモデルを摘み、隅々まで観察しだした。

「人まで乗ってるのか、よくできてるやん」

 俺らの時代の菓子のオマケなんざ、軟質プラスチックに車輪が付いているのが精一杯だったのに最近のときたら……

 感心しながら見入っていると、車輪が落ちた。マズイと思い机の上の車輪を拾い上げプラモデルに付けようとした時、悲劇が端から見れば喜劇がおきた。

 俺は机の上に散乱した喜劇を見ながら、しばし呆然とした。

 俺は普段あまり使わない頭脳をフル回転させ、この状況を収束させる行動を三つ絞った。

 一つ目、今からこのパーツを組立直す。梅田がトイレに行ってかなり時間が立つ。大でもないかぎり、もうそろそろ帰ってきてもおかしくない。

 二つ目、素知らぬ顔でここから去る。鬼畜かと思うが、なかった事にしてしまった方が俺の心は平穏を保てる気がする。

 三つ目、素直にあやまる。これが人間として当たり前の行為だが、これだと面白くない。


 食堂のドアが開いた、梅田の帰りが俺の予想を上回った瞬間だ。こいつ俺を困らせて楽しいのか。

 そんな八つ当たり以外なにものでもない心情のまま、俺がとった行動は……。


「はっはっ、梅田そろそろ昼休み終わるぞ……」

 梅田の顔にハテナマークが浮かぶ。

 それは当たり前の感情の動きだ。昼休み終了まで、まだ十分以上あるのだ。

 俺はその時、なにくわぬ顔で食堂を後にした時、叫び声が聞こえた。

「なんじゃこりゃ、バラバラやんけ!」

 俺は心の中で土下座していた。

 わざとじゃないんだよ、わざとじゃないんだ!


 その日は、梅田と残業代がつかない残業をした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませて頂きました。 最近のお菓子のおまけって細かくてすごいですよね! 現実とかなりリンクした小説ってことは、本当にプラモデルを壊されたんでしょうか?(汗
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