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レッドサイレンスー⑦


 保安課のピッチは今日も、威勢よくロビーを歩いて回る。


「そこのキミ、剣帯がゆるい! そっちも、銃器は表面が三分の二以上覆われるケースに収納する事!」


 冒険者に紛れて近づいてきた一人が、「ピッチ主任、副長がお呼びです」と耳打ちする。

 ピッチはメガホンを口から外し、それでもロビーいっぱいに響き渡るとんでもない声量で、


「おお! 帰ってこられたか!」


 と叫んだ。


 会議室には副長のシークをはじめ、ドラウト、ジュハンセ、サディーレイ、ピッチ、そして総務課のマティアスが(かい)し、クラムの洞窟騒動について経過報告が行われた。


「まずは本件、モール商会には根回し済みです」


 ジュハンセの言葉にシークは肩の力を抜き、「オッケー。じゃあ俺はこれで」と席を立つ。

 ここにいる面々の中で、それを咎められる命知らずはいない。後の諸々を補佐のドラウトに任せ、シークはドア枠に頭をぶつけないよう身を屈めながら、さっさと部屋を後にした。


「で、今何が問題なんですかね」


 ドラウトが静寂を破る。「俺も大まかにしか把握してなくて」と、今回の事件とは関係のない書類の束をめくりながら、ジュハンセに続きを促した。




 報告を聞き終えたドラウトは「なるほど」と一言。

 大半はエラ本人の語った内容と一致、大きな進展があったようには見えない。しかし、机に置かれた一本の杖に不可解な点があった。


「これはエラの杖ですが、故障しています。装備課のロッテンが気づいて回収しました。装備品登録は済んでいますから、クエスト出撃時点では問題なかったかと思われますが」


 ジュハンセは杖に手をかざし魔力を流し込むが、波動はそのままの形で跳ね返り一切の吸収を拒んだ。

 ”ただの木の棒”。

 そう言って差し支えない。


 ドラウトは低くうなる。

 ピッチはふと、先日の訓練場での出来事を思い出した。受付のレニータインとともにやってきたエラは、杖の試し撃ちだと言って魔法を放ったはずだ。机には総務課から取り寄せた魔力検査証もある。


「洞窟でのクエスト中に壊れたのかな?」

「クエスト中は魔法を一切使わなかったと、エラは言っていますが」

「魔導士なら杖の不具合くらい気づきそうなものだが」


 話は平行線の一途をたどる。

 疑問は残るが、それはエラ本人に問いただすとして、結局はジャスミンが証言しなければ進展は見込めないと結論づけられた。


 ピッチが「ロブ君たちが会いに行ったんじゃ?」と問う。

 サディーレイは「門前払いよ」と首を振る。


「ここまで来れば、幹部の訪問も視野に入れましょう」


 マティアスがそう提案した。


 ニューセントラルのギルド連合が定める安全規程には、被害者であっても、証言拒否によってギルド側が不利益を被る場合、個人の権利よりも事案の解決を優先できる規定が存在する。つまり合法的に、家に押し入ってジャスミンを引っ張り出すことは可能である。

 ただし、とマティアスは一呼吸置く。


「これらは憲兵の事情聴取とは異なりますので、彼女の証言が嘘か本当かまで、我々に追求する権限はない事をご承知おきください」


 それにやり方を誤れば、今後の彼女の処遇にも影響する。連合という権威の盾に隠れた、限りなく犯罪に近い強権の行使だ。

 マティアスは「エルバ君たちが、あくまで”友人間の付き合いとして”彼女を連れ出せれば良かったのですが……」と言葉を濁した。


「マティアス書記、俺の権限で執行できますか?」

「規定上問題ありません」

「……チーフ、よろしいですね」


 ジャスミンはサディーレイ班のメンバーだ。気を遣って尋ねたドラウトに、サディーレイは即座に頷いた。


「少し前からあの子は気になっていたんです。訪問には賛成です」

「では、やりましょう」


 マティアスは「判のご用意を」と答え、数ある書類から一枚を抜き取り淡々と筆を動かし始める。


 実行メンバーには、本件の調停員であるピッチが名乗りを上げた。また、魔法を使えるジャスミンを相手にピッチ一人では危険だとして、ジュハンセは部下のラビアとペイルブルーを推薦した。「こういう経験も積ませておきたい」と、これが訓練か研修の一環であるかのように言った。



 会議後すぐ、マティアスは中央ギルド連合へと書類を届けに向かった。

 二時間後、戻った彼の「無事に受理されました」の一言にジュハンセは頷いて、呼び出しておいた二人の部下に伝えた。


「突然だがお前たち、ピッチ主任に同行してジャスミンの家まで行ってこい」

「私とペイルブルーが、ですか?」


 ラビアはきょとんとする。

 自分も彼も、ジャスミンとはまともに話したことすらない。エルバたちですらお手上げだったのに出てきてくれるだろうかと案ずるが、一通り事情を聞き終えた彼女の表情は、悪だくみをひらめいた悪党そのものに変わった。


「いいですね! 私、行きます」


 ラビアは拳を握り、「あの泣き虫女に活を入れてやるわよ」と息巻く。

 ペイルブルーも「手っ取り早くていいですね」と乗り気だ。


「やってやろうじゃん」


 ラビアはペイルブルーを指さして「あなたが突入」、続けて「私が援護」と親指を自分に向ける。すかさずピッチが「私が突入、君たちが援護!」と割って入った。




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