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ようこそアンプリファイドへー②


「『輸送部』とは面白い関係でねぇ」


 長い廊下に、レニータインのヒールの音が響く。

 まず案内されたのは、巨大なレンガ造りの建物だった。


「ここは『素材課』の倉庫。エラにょんたちが集めた素材はここで保管してるのね」


 レニータインは倉庫の横を通り過ぎる。目的地はさらに奥、ギルドの建物群から隠れるように平坦な芝生が広がっていた。


「でもって、その素材を運ぶのが『輸送部』ね」


 そう言った瞬間、牛小屋のような建物から獣の咆哮が響いた。独特な鳴き声に、エラは「ドラゴンだ」と呟く。


「そう、輸送部はドラゴンを操る専門部隊! うちは他のギルドとか商会からも依頼を受けてるから、大荷物はドラゴンで運ばないといけないのよ」


 レニータインは目に留まった人物に声をかける。「ヴォルクさーん!」と声を上げれば、服をはたいていた男が「おお」と振り向いた。

 彼は”ドラグーン”のヴォルク。

 輸送部の人間は全員がドラグーン資格保持者で、毎日決まった時間にアンプリファイドから素材を受け取り目的地まで運ぶ。


 気になったエラが「アンプリファイド、から?」と指摘すると、ヴォルクが右手を差し出して言った。


「どうも、『スカイジャック』のヴォルクです」


 握手を返すと、また遠くでドラゴンが鳴く。ヴォルクが「ちょっと見てくる」と去ったので、続きはレニータインが説明した。


「スカイジャックはドラゴン輸送専門のギルドね。うちも大手とはいえ、ドラゴンとドラグーンを自前で用意はできないから、こうして来てもらってんの」

「つまりアンプリファイドの方ではないと」

「そゆこと! ちなみにこの街で、運び屋と提携してる素材屋ギルドはうちだけ! 収集した素材は即配達、ニューセントラルじゃうち以外でこんなことできるギルドないから」


 鼻高々なレニータインの横で、エラはじっと考える。

 ヴォルクの顔をどこかで見た気がする。エーデルニアの人だろうか。レニータインに「あの人は外国人?」と尋ねると、「そだよー」と間延びした声が返ってきた。


「ジエルベルーテって国から来た人」

「そうなんだ」

「エーデルニア語が上手だよねぇ」


 ここビンセント公国は、過去エーデルニア王国の属領だったこともあり、公用語はエーデルニア語である。エラは「確かに上手だね」とだけ返し、やはり思い出せないので、エーデルニア人でなければ気のせいだと片づけることにした。


 そろそろお開きにしようと、二人はギルドロビーに戻る。

 レニータインは思い出したように、「ちなみにエラにょんの所属は『作戦課』ね」とウインクした。


「作戦課はうちの大黒柱! 作戦課なくしてアンプリファイドは回んないよ」

「支えてる人たちもたくさんいるんだね」

「小難しいこと色々やってるけど、結局素材が集まんなきゃ意味ないから!」


 レニータインはエラの背中を叩き、じゃねーと手を振りながら持ち場に戻る。

 ますます辞めづらくなったが、ギルド見学は想像以上に楽しかった。背中の”新たな相棒”に触れ、先ほど訓練場で試し撃ちしたときの感覚を思い出す。


 エラにとって杖は飾りだった。杖や剣のような触媒を介さず魔力を生成できる体質だが、そんなことはどうでもよい。他人が自分のために杖を用意してくれた温かい気持ちを、素直に受け取っておきたかった。




 *




 クエスト帰りのイニェンはコーヒー片手に、「ギルド見学どうだった?」とエラに歩み寄った。


「杖貰ったよ」

「ほんとだ! よかったじゃない」


 近くにいたロブが「それ新人用の支給品じゃね?」と割って入る。


「”炎のオズワート”がそんな杖でいいのか?」

「何よそのあだ名」

「ワルキューレを炎の魔法で一撃必殺、だろ? 皆そう呼んでるぜ」

「こいつはもっと面白いあだ名がいいわ」

「爆炎姉貴、とか?」

「いいわね。どうよ、エラ?」


 エラは「炎のオズワートがいいな」と呆れたように笑う。


「というか、俺ちゃんと名乗ってなかったよな。改めまして作戦課のロブです。冒険者(クエスター)歴一年、イニェンの子分です」


 何よそれ、と笑うイニェンの前で、ロブは改まってエラと握手を交わした。


「それと、ずっと黙ってるこいつはエルバ」


 エルバはロブの背後から、「ども」とうやうやしく顔を覗かせる。


「すみません、いきなり話しかけたら馴れ馴れしいかと思って黙ってました。よろしくお願いします」

「イケメンだから自分から女の子に話しかけない主義です、って素直に言えよ」


 エルバは眉を寄せ、「適当言うな」とロブを肘で小突く。


「でも腹立つくらいイケメンだろ? アンプリファイドのイケメン担当だよな?」

「自称してると思われるだろ」

「飲んだとき自分で言ってたじゃん」

「絶対言ってねえ」

「っていう、すかした男ですがどうぞよろしく」


 イニェンが「いつものヤツだから笑ってあげて」と耳打ちし、エラは「二人は仲が良いってことだね」と微笑んだ。


「てか、すでに乙級二回もクリアしてんのに、ギルド見学とか自己紹介とか今さらだな」

「本当よ。ハイドレンジアは非公式だから、戦績に残らないのが惜しいわね」

「これからいっぱい狩りまくってくれるだろ」

「なんか凄い奴と出会った感じがするわ」


 エラが「周りの手助けがあってこそだ」と言うと、イニェンは「おー」と目を見開く。


「あんたそういうこと言うキャラだったの」

「色んな仕事を見てきたから、ね」


 エルバが「ギルドに入るの初めてなんですか?」と尋ねる。


「そうよ。この前まで学校行ってた」

「は、学校?」

「こいつ十七歳」

「ハァ!?」


 エルバは「年下かよ!」と敬語を崩してエラを見上げる。いつも通りの反応を面白がるイニェンは、この風来の旅人が少しでも長くこの街にいてくれますようにと、願うような表情でエラの横顔を見つめた。






『ようこそアンプリファイドへ』 fin


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