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模型(1/10)スケールのアポカリプス  作者: 暁の裏


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第9話 「溶岩の迷宮」

 雪が降りしきる凍土地帯を、三人は黙々と歩き続けていた。


 悠斗の呼吸は白く凍り、ルーナの銀色の髪には雪の結晶が付着している。バルトロメウスは黒いローブの襟を立てて、寒さに耐えていた。


「あと、どれくらいだ?」


 悠斗がバルトロメウスに尋ねた。


「この雪原を抜ければ、黒月の聖堂が見えてくるはずだ」


 バルトロメウスは前方を指差した。


 遠くに、黒い山脈が聳え立っている。その麓に、黒月教の総本山――黒月の聖堂があるという。


「やっと着くのね……」


 ルーナが安堵のため息をついた。


「ええ。だが、気を抜くな」


 バルトロメウスは警告した。


「聖堂の周辺には、必ず警備がいます。見つかれば、すぐに十二使徒が駆けつけるでしょう」


「わかってる」


「バルトロメウス、黒月教の十二使徒について教えてもらえるか?」


 バルトロメウスは、悠斗の真剣な眼差しを受け止め、静かに語り始めた。


「わかった。お前たちが戦うことになるかもしれない相手だ。知っておくべきだろう」


 バルトロメウスは、馬車の中で姿勢を正した。


「十二使徒は、それぞれが特別な力を持つ。そして、それぞれに二つ名がある」


「二つ名……」


「ああ。まず、第一使徒。彼は『影の司祭』と呼ばれている」


 バルトロメウスの声が、低く響いた。


「最古参の使徒で、ゼノンの最側近だ。結界術と影を操る魔法に長けている。彼が現れた場所は、闇に包まれると言われている」


 悠斗は、フロンティアでの襲撃を思い出した。あの時、村を襲った仮面の男。おそらく彼が第一使徒だったのだろう。


「第二使徒は『毒の巫女』セルペンタ」


 バルトロメウスは続けた。


「女性の使徒だ。毒魔法を操り、暗殺と諜報を担当している。彼女に狙われたら、気づかぬうちに命を奪われる」


「第三使徒は『鋼の守護者』アダマス。超防御力を持つ巨漢だ。彼の体は金属化でき、いかなる攻撃も通さない」


「第四使徒は『炎の狂戦士』イフリート。好戦的で短気な男だ。炎魔法を操り、破壊を好む。彼が通った後には、焼け野原しか残らない」


 バルトロメウスの説明は続く。


「第五使徒は『氷の女王』グラキエス。北方地域を統括している。冷徹で美しい女性だ。彼女の氷魔法は、触れたものすべてを凍らせる」


「第六使徒は『牙の狩人』フェンリル。獣化の力を持つ男だ。超速移動で獲物を追い詰め、牙で喉を食い千切る」


「第七使徒は『幻の魔女』ミラージュ。幻術と精神攻撃を得意とする。彼女の前では、現実と幻が区別できなくなる」


「第八使徒は『雷の神官』フルミナ。東部地域を統括している。雷魔法を操り、一瞬で敵を焼き尽くす」


 バルトロメウスは、一度言葉を区切った。


「そして、第九使徒……かつて私が持っていた席だ。今は『時の観測者』クロノスが就いている」


「クロノス……」


「ああ。時間感覚を操る魔法を使う。彼の前では、時間の流れが歪む。過去を見ることも、未来を予測することもできる」


 悠斗は眉をひそめた。時間を操る能力。それは、極めて厄介な相手だ。


「第十使徒は『風の暗殺者』ゼフィロス。風魔法で気配を消し、音もなく標的に近づく。気づいた時には、もう遅い」


「第十一使徒は『地の巨人』テラ。南部地域を統括している。大地を操り、地震を起こすことができる。彼の前では、足場が常に不安定だ」


「そして、第十二使徒――」


 バルトロメウスの表情が、一段と険しくなった。


「『血の錬金術師』クルエンタ。最も危険な使徒だ」


「血の錬金術師……」


「ああ。彼は血液を操り、生命力を吸収する。そして、生体実験を行い、魔物を強化する。彼の研究所は、地獄そのものだ」


 バルトロメウスは目を閉じた。


「私は、彼の実験を何度も目にした。それが、私が教団を離れる決意をした理由の一つだ」


 馬車の中に、重い沈黙が流れた。


「これが、十二使徒だ」


 バルトロメウスは目を開き、悠斗とルーナを見た。


「彼らは皆、人間離れした力を持っている。油断すれば、命を落とす」


「わかった」


 悠斗は真剣に頷いた。


「俺たちも、覚悟を決めて戦うよ」


「ルーナ様」


 バルトロメウスはルーナに向き直った。


「あなたは、月の女神。教団は、あなたを最も恐れている」


「私を……?」


「ああ。あなたの力が完全に戻れば、黒月教の計画は崩壊する。だから、教団はあなたを排除しようとするだろう」


「私の力……」


 ルーナは自分の手を見つめた。


 今の彼女には、わずかな月光魔法しか使えない。果たして、本当に力を取り戻せるのだろうか。


「大丈夫」


 悠斗がルーナの手を握った。


「俺が、お前を守る。絶対に」


「悠斗……」


 ルーナは顔を赤らめた。


 バルトロメウスは、二人のやり取りを静かに見つめていた。そして、小さく微笑んだ。


「二人なら、きっと教団を止められる」


「ああ」


 悠斗は力強く頷いた。


 三人は雪原を進み続けた。


 やがて、前方に何かの構造物が見えてきた。


「あれは……」


 悠斗は目を凝らした。


 石造りの門。高さ約3メートル。元のサイズで言えば巨大な門だ。


「黒月の聖堂への入口だ」


 バルトロメウスが説明した。


「あの門を抜けると、聖堂の外郭に入る」


 三人は慎重に門に近づいた。


 門の前には、衛兵らしき人影が二人立っている。黒い鎧を纏い、槍を持っている。


「どうやって通り抜ける?」


 悠斗が囁いた。


「正面突破しかないな」


 バルトロメウスが答えた。


「彼らは一般の信者だ。十二使徒ほどの力はない」


「わかった」


 悠斗は深呼吸した。


 そして――


 地面を蹴り、7メートルの跳躍で門の上を飛び越えた。


「何だ!?」


 衛兵たちが驚いて見上げる。


 悠斗は空中から、二人の衛兵の間に着地した。


「悪いな」


 悠斗は力を抑えて、二人の衛兵の後頭部を軽く叩いた。


 ドンッ、ドンッ。


 二人は気絶して倒れた。


「悠斗、すごい……」


 ルーナとバルトロメウスが門をくぐってきた。


「よし、進もう」


 三人は門を抜け、聖堂の外郭に入った。


 そこは広大な敷地だった。石畳の道が続き、両脇には黒い建物が立ち並んでいる。


「静かだな……」


 悠斗は周囲を警戒した。


「信者たちは、おそらく聖堂の内部にいる」


 バルトロメウスが説明した。


「今は儀式の時間ではないから、外を歩いている者は少ないはず」


「ラッキーだな」


 三人は石畳の道を進んでいった。


 やがて、巨大な建物が見えてきた。


「あれが……」


「黒月の聖堂だ」


 バルトロメウスが答えた。


 聖堂は、黒い石で造られた巨大な建造物だった。高さは約10メートル、元のサイズなら100メートルの大聖堂だ。尖塔が天に向かって伸び、その頂上には黒い月の

 シンボルが掲げられている。


「中に入るぞ」


 悠斗が一歩踏み出そうとした時――


「待て」


 バルトロメウスが悠斗を止めた。


「どうした?」


「何か……おかしい」


 バルトロメウスは眉をひそめた。


「静かすぎる。警備が少なすぎる」


「それは……いいことじゃないのか?」


「いや。黒月教は、常に厳重な警備を敷いている。こんなに簡単に聖堂まで辿り着けるはずがない」


 バルトロメウスの声に、不安が滲んだ。


「まさか……罠?」


 ルーナが呟いた。


 その瞬間――


 ゴゴゴゴゴ……


 地面が揺れた。


「地震!?」


 悠斗は驚いた。


 しかし、これは地震ではない。


 三人の足元に、赤い光の線が走った。


「これは……魔法陣!」


 バルトロメウスが叫んだ。


「転移魔法だ! 逃げろ!」


 しかし、遅かった。


 魔法陣が発動し、赤い光が三人を包み込んだ。


「くそっ……!」


 悠斗は地面を蹴ろうとしたが、体が動かない。


「悠斗!」


 ルーナの声が聞こえた。


 しかし、視界が赤く染まり、何も見えなくなった。


 強烈な浮遊感。体が引っ張られる感覚。


「転移魔法……ここまで来て……!」


 バルトロメウスの悔しそうな声が、遠くから聞こえた。


 次の瞬間、意識が途切れた。




「……っ!」


 悠斗は目を覚ました。


 頭が重い。体が熱い。


「ここは……」


 ゆっくりと体を起こし、周囲を見回した。


 そこは、見たことのない場所だった。


 暗い洞窟。いや、洞窟というよりは――ダンジョンのような場所だ。


 石造りの壁と床。天井は高く、薄暗い。所々に、赤く輝く結晶が埋め込まれており、わずかな明かりを放っている。


 そして、何より――


「暑い……」


 悠斗は汗を拭った。


 異常な暑さ。まるで、サウナの中にいるような灼熱。息をするだけで喉が焼けるような感覚。


「悠斗!」


 声が聞こえて、悠斗は振り向いた。


 ルーナとバルトロメウスが、すぐ近くに倒れていた。


「ルーナ、大丈夫か!」


 悠斗は慌ててルーナに駆け寄った。


「う、うん……大丈夫……でも、暑い……」


 ルーナはゆっくりと体を起こした。顔は汗で濡れ、息が荒い。


「バルトロメウスさんも!」


 悠斗はバルトロメウスに近づいた。


「うっ……」


 バルトロメウスが目を覚ました。


「ここは……まさか……」


 バルトロメウスは周囲を見回し、顔色を変えた。


「この暑さ……この赤い結晶……ここは、極南の溶岩地帯だ!」


「溶岩地帯!?」


「ああ。大陸の最南端、火山地帯の地下にあるダンジョンだ」


 バルトロメウスは立ち上がり、壁に触れた。壁は熱を帯びていて、触れると熱い。


「間違いない。ここは、クルエンタの研究施設がある場所だ」


「クルエンタ……第十二使徒の血の錬金術師……」


 悠斗は警戒した。


「罠にはめられたのか……」


「ああ。聖堂の前に転移魔法陣が仕込まれていた。おそらく、クルエンタの仕業だろう」


 バルトロメウスは悔しそうに拳を握りしめた。


「私たちは、まんまと罠にかかってしまった……」


「くそ……」


 悠斗も拳を握りしめた。


 ここまで来て、罠に落ちるとは。


「でも、どうやって脱出すれば……」


 ルーナが不安そうに言った。


「転移魔法で飛ばされたってことは、ここから出る転移門もあるはずだ」


 悠斗は周囲を見回した。


「まず、出口を探そう」


「ええ。しかし、この暑さは異常です。長時間ここにいると、熱中症になります」


 バルトロメウスが警告した。


「特に、体が小さい私たちは、熱の影響を受けやすい」


「わかった。急ごう」


 悠斗はルーナの手を取った。


「大丈夫か? 歩ける?」


「ええ……なんとか……」


 ルーナは立ち上がったが、足元がふらついている。


「無理するな。俺が支える」


 悠斗はルーナの腰に手を回し、支えた。


「ありがとう……」


 三人は、ダンジョンの奥へと進み始めた。




 溶岩の迷宮は、その名の通り、迷路のように入り組んでいた。


 石の廊下が、左右に分かれ、上下に繋がっている。壁には赤い結晶が埋め込まれ、不気味な光を放っている。


「どっちに行けばいいんだ……」


 悠斗は迷った。


「とりあえず、下に進みましょう」


 バルトロメウスが提案した。


「転移門は、通常ダンジョンの最深部にあるはず。つまり、一番下だ」


「わかった」


 三人は、階段を下りていった。


 下に進むほど、暑さが増していく。


「うっ……暑い……」


 ルーナが額の汗を拭った。


「大丈夫か?」


「ええ……なんとか……」


 しかし、ルーナの顔色は明らかに悪くなっている。頬が赤く、呼吸が浅い。


「少し休もう」


 悠斗は、近くの壁に寄りかかった。


「水を飲んで」


 悠斗は、腰の袋から水筒を取り出した。幸い、転移される時に身につけていた荷物は、一緒に転移されたようだ。


 ルーナは水を飲み、少し元気を取り戻した。


「ありがとう……」


「いいんだ。無理するな」


 バルトロメウスも水を飲み、深呼吸した。


「この暑さは、私も辛い……普通の人間なら、とっくに倒れているだろう」


「でも、俺たちは普通じゃないからな」


 悠斗は苦笑した。


「だといいんだけど……」


 その時――


 ゴゴゴゴ……


 遠くから、何かが近づいてくる音が聞こえた。


「誰かいる……!」


 悠斗は警戒し、音のする方向を見た。


 廊下の奥から、赤い光が近づいてくる。


 そして――


 炎を纏った人影が、姿を現した。


「ようこそ、溶岩の迷宮へ」


 低い、しゃがれた声が響いた。


 人影は、全身を赤黒い鎧で覆った戦士だった。鎧の隙間からは、溶岩のようなドロドロとした赤い光が漏れている。手には、巨大な両手剣を持っている。剣身も

 赤く輝き、刃からは熱波が立ち上っている。


「お前は……」


「俺はマグマナイト。この迷宮を守る番人だ」


 番人は剣を構えた。


「お前たちを、ここから生きて出すわけにはいかない」


「なら、力ずくで通らせてもらう!」


 悠斗は拳を構えた。


 マグマナイトが突進してくる。その動きは重いが、力強い。


「悠斗、気をつけて! あいつ、溶岩を纏ってるわ!」


 ルーナが叫んだ。


 悠斗は横に跳んで避けた。マグマナイトの剣が、悠斗がいた場所を叩き、石の床に亀裂が走った。


「やばい……」


 悠斗は冷や汗をかいた。


 あの剣に当たったら、ただでは済まない。


「悠斗、直接触れるな!」


 バルトロメウスが叫んだ。


「あの鎧は溶岩で覆われている。触れれば、ただじゃ済まないぞ!」


「わかった!」


 悠斗はマグマナイトの周りを高速で移動した。


 マグマナイトが剣を振り回すが、悠斗の動きには追いつけない。


「遅い!」


 悠斗は地面を蹴り、7メートルの跳躍でマグマナイトの頭上を飛び越えた。そして、空中から――


「でも、触れないと攻撃できない……!」


 悠斗は困った。


 拳で殴れば火傷する。蹴りも同じだ。


「どうすれば……」


 その時、バルトロメウスが前に出た。


「悠斗、私に任せろ」


「バルトロメウス!?」


「私にも、使える魔法がある」


 バルトロメウスは両手を広げた。


 すると、彼の周囲に黒い霧が発生した。


「影の魔法……シャドウバインド!」


 黒い霧が、マグマナイトの足元に絡みついた。


「ぐっ……!」


 マグマナイトの動きが止まった。


「今だ、悠斗! 周囲の岩を使え!」


「岩を……?」


 悠斗は周囲を見回した。


 床には、拳大の岩が転がっている。


「なるほど!」


 悠斗は岩を持ち上げ、全力で投げた。


 ビュン!


 岩は弾丸のような速度でマグマナイトに直撃した。


 ガキィン!


 鎧に亀裂が走った。


「もう一発!」


 悠斗は次々と岩を投げた。


 ガキィン! ガキィン! ガキィン!


 マグマナイトの鎧が砕け、溶岩が飛び散った。


「グオオオ!」


 マグマナイトが悲鳴を上げた。


「トドメだ!」


 悠斗は最後に、大きな岩を両手で持ち上げた。


 そして、全力で投げつけた。


 ドガァン!


 岩がマグマナイトの胸部に直撃し、鎧が完全に砕け散った。


 マグマナイトは倒れ、溶岩が床に流れ出た。そして、ゆっくりと冷えて固まっていった。


「やった……」


 悠斗は荒い息をついた。


「悠斗、大丈夫か?」


 バルトロメウスが駆け寄ってきた。


「ああ、なんとか。バルトロメウス、助かった」


「いや、私こそ。お前の投擲力には驚いた」


 バルトロメウスは微笑んだ。


 悠斗は自分の手を見つめた。


 この体の特性を、もっと活かせば、直接触れずに戦える。


「でも、まだ先は長いわ」


 ルーナが言った。


「ああ。急ごう」


 三人は再び歩き出した。




 さらに階段を下り、ダンジョンの深層へと進んでいく。


 暑さはますます増し、三人とも汗だくになっていた。


「もう……限界……」


 ルーナが膝をついた。


「ルーナ!」


 悠斗は慌ててルーナを支えた。


「大丈夫か!」


「ごめんなさい……ちょっと……休ませて……」


 ルーナの息は浅く、顔は真っ赤だ。


「まずい……熱中症だ」


 バルトロメウスが言った。


「すぐに冷やさないと……」


「でも、この暑さじゃ……」


 その時、悠斗はあることに気づいた。


「待てよ……俺の体、異常に代謝が速いんだよな」


「ええ。それがどうかしましたか?」


「つまり、俺の体温も高いはずだ。でも、俺はそこまで暑く感じてない」


 悠斗は考えた。


「もしかして、体から熱を逃がすシステムが、この暑さで効率良く働いてるんじゃないか?」


「なるほど……体表面積が大きい分、熱の放散も速い。この暑い環境では、それが逆に有利に働いている?……」


 バルトロメウスは感心した。


「悠斗、お前は本当に、この世界に適応しているのだな」


「でも、ルーナは普通の体だから……」


 悠斗はルーナを抱き上げた。


「俺が運ぶ。早く出口を見つけよう」


「ごめんなさい……」


「謝るな。お前は、何も悪くない」


 悠斗はルーナを抱えたまま、歩き出した。


 ルーナの体は軽い。1/10サイズの世界では、人の体重も極めて軽いのだ。


「バルトロメウス、あとどれくらいだ?」


「もうすぐ。この階層を抜ければ、最深部に到達する」


 三人は、最後の階段を下りた。


 そして――


 広大な空間に出た。


「ここは……」


 悠斗は驚いた。


 そこは巨大な円形の部屋だった。直径は約20メートル。元のサイズなら200メートルの大広間だ。


 天井は高く、中央には巨大な溶岩の池がある。溶岩はゆっくりと流れ、赤い光を放っている。


 そして、部屋の奥には――


「転移門だ!」


 バルトロメウスが指差した。


 奥の壁に、青白く光る魔法陣が描かれている。あれが転移門だ。


「よし、あそこに行けば……」


 悠斗が一歩踏み出そうとした時――


 ゴゴゴゴゴ……


 溶岩の池が激しく揺れた。


「何だ!?」


 そして――


 溶岩の中から、巨大な影が現れた。


「グオオオオオ!」


 咆哮が響き渡った。


 それは、巨大なトカゲのような生物だった。体長は約5メートル。元のサイズなら50メートルの巨大生物だ。全身が真っ赤な鱗で覆われ、背中からは炎が噴き出し

 ている。口からは溶岩が滴り落ちている。


「あれは……グレートサラマンダー!」


 バルトロメウスが叫んだ。


「この迷宮の主だ!」


「まじかよ……」


 悠斗は冷や汗をかいた。


 グレートサラマンダーは、悠斗たちを睨みつけた。その目は、炎のように赤く輝いている。


「グオオオ!」


 サラマンダーが口を開き――


 炎を吐き出した。


「うわっ!」


 悠斗は横に跳んで避けた。炎が床を焼き、石が溶けていく。


「やばい……あの炎、当たったら終わりだ!」


「悠斗、ルーナ様を私に!」


 バルトロメウスが叫んだ。


「えっ……」


「お前は、あのサラマンダーと戦え。私はルーナ様を守る」


「でも……」


「信じろ。私は、元第九使徒だ。防御魔法くらいは使える」


 バルトロメウスの目は、真剣だった。


「……わかった。ルーナを頼む」


 悠斗はルーナをバルトロメウスに渡した。


「悠斗……気をつけて……」


 ルーナが弱々しく言った。


「ああ。すぐに終わらせる」


 悠斗は拳を握りしめ、サラマンダーに向き直った。


「来い、大トカゲ!」


 悠斗は地面を蹴り、サラマンダーに向かって走った。


 サラマンダーが巨大な前足を振り下ろしてくる。


 悠斗は跳躍で避け、サラマンダーの背中に着地した。


「よし、ここから……」


 悠斗はサラマンダーの背中を殴ろうとした。


 しかし――


「熱っ!」


 サラマンダーの鱗は、灼熱に熱せられていた。


「くっ……触れない!」


 悠斗は慌てて飛び降りた。


 サラマンダーが尻尾を振り回してくる。


 悠斗は転がって避けた。尻尾が床を叩き、亀裂が走った。


「どうすれば……」


 悠斗は考えた。


 直接触れることはできない。投石も、さっきのマグマナイトと違って、この巨体には効かないだろう。


「そうだ……」


 悠斗は周囲を見回した。


 部屋の壁には、大きな岩が突き出ている。


「あれを使えば……」


 悠斗は壁に向かって走った。


 サラマンダーが炎を吐いてくる。


 悠斗は跳躍で避け、壁に到達した。


 そして、突き出ている岩を両手で掴んだ。


「うおおお!」


 悠斗は全力で引っ張った。


 ミシミシミシ……


 岩が壁から剥がれ始めた。


「もう少し!」


 悠斗は歯を食いしばり、さらに力を込めた。


 バキッ!


 岩が壁から外れた。


 その岩は、約1メートルの大きさ。元のサイズなら10メートルの巨岩だ。


「これを……」


 悠斗は岩を持ち上げた。


 重い。しかし、この体の筋力なら、持ち上げられる。


「いけるか……?」


 悠斗は岩を構えた。


 サラマンダーが悠斗に向かって突進してくる。


「今だ!」


 悠斗は全力で岩を投げつけた。


 ビュオオオン!


 岩は凄まじい速度でサラマンダーに向かって飛んでいった。


 ドガァァァン!


 岩がサラマンダーの頭部に直撃した。


「グギャアアア!」


 サラマンダーが悲鳴を上げた。


 頭部の鱗が砕け、血が流れ出た。


「効いてる!」


 悠斗は再び壁の岩を引き剥がした。


 そして、投げつけた。


 ドガァン!


 また直撃。


「もう一発!」


 三発目。


 ドガァン!


 サラマンダーがよろめいた。


「トドメだ!」


 悠斗は最後に、さらに大きな岩を引き剥がした。


 約2メートルの巨岩。これを持ち上げるのは、さすがに辛い。


「うおおおお!」


 悠斗は全身の力を振り絞り、岩を持ち上げた。


 そして――


 サラマンダーに向かって、投げつけた。


 ドゴオオオオン!!


 岩がサラマンダーの胴体に直撃した。


「グギャアアアアアア!」


 サラマンダーが絶叫し、溶岩の池に倒れ込んだ。


 ザバァァァ……


 溶岩が大きく波打ち、サラマンダーの姿が沈んでいった。


 静寂。


 悠斗は荒い息をついた。


「やった……のか?」


 しばらく待ったが、サラマンダーは二度と現れなかった。


「悠斗、やったな!」


 バルトロメウスが駆け寄ってきた。


「ああ……なんとか……」


 悠斗は膝をついた。


 全身が疲労で満たされている。そして――


 グゥゥゥ……


 悠斗の腹が、盛大な音を立てた。


「ああ……また腹が……」


「当然だ。これだけ激しい戦闘をすれば」


 バルトロメウスは苦笑した。


「でも、今は我慢しろ。まず、ここから脱出するんだ」


「そうだな」


 悠斗は立ち上がった。


 三人は、部屋の奥の転移門に向かった。


 青白く光る魔法陣。これに触れれば、外に出られるはずだ。


「行くぞ」


 悠斗が魔法陣に触れようとした時――


「待って」


 ルーナが弱々しく言った。


「どうした?」


「この魔法陣……どこに繋がってるか、わからないわ」


「え……」


「転移門は、通常二つの地点を結んでいます」


 バルトロメウスが説明した。


「ここから出られるのは確かですが、どこに出るかは……わかりません」


「まじかよ……」


 悠斗は困った。


「でも、他に選択肢はないだろ?」


「ええ」


「なら、行くしかない」


 悠斗は決意した。


「バルトロメウスさん、ルーナを頼みます」


「わかりました」


 バルトロメウスはルーナを抱えた。


 三人は、同時に魔法陣に触れた。


 すると――


 青白い光が三人を包み込んだ。


 視界が光で満たされる。


 浮遊感。


 そして――


 すべてが、白く染まった。




 次に目を開けた時、三人は外にいた。


「ここは……」


 悠斗は周囲を見回した。


 そこは、荒涼とした大地だった。


 岩だらけの地面。遠くには、煙を上げる火山が見える。


「極南の火山地帯……」


 バルトロメウスが呟いた。


「溶岩の迷宮から、地上に出たようだ」


「よかった……助かった……」


 悠斗はその場に座り込んだ。


「ルーナ、大丈夫か?」


「ええ……外に出たら、少し楽になったわ……」


 ルーナは弱々しく微笑んだ。


「でも、まだ暑いわね……」


 確かに、ここも暑い。しかし、ダンジョンの中ほどではない。


「まず、日陰を探そう」


 バルトロメウスが提案した。


「ルーナ様を休ませないと」


「そうだな」


 三人は、近くの岩陰に移動した。


 岩の影に入ると、少し涼しくなった。


「ここで休もう」


 悠斗はルーナを岩に寄りかからせた。


「水を飲んで」


 悠斗は水筒を渡した。


 ルーナは水を飲み、深呼吸した。


「ありがとう……だいぶ、楽になったわ……」


「無理するな。しばらく休め」


「ええ……」


 ルーナは目を閉じた。


 悠斗とバルトロメウスは、周囲を警戒しながら、ルーナを見守った。


 しばらくして、ルーナが目を開けた。


「もう大丈夫。動けるわ」


「本当か?」


「ええ。もう平気」


 ルーナは立ち上がった。顔色も、少し良くなっている。


「それで、これからどうする?」


 悠斗が尋ねた。


「まず、ここがどこなのか確認しよう」


 バルトロメウスが言った。


「転移門がどこに繋がっていたのか、把握する必要がある」


 三人は、高い岩に登った。


 そこから周囲を見渡すと――


「あれは……」


 遠くに、何かの建造物が見えた。


 石造りの遺跡のような建物。


「祭壇だ」


 バルトロメウスが言った。


「黒月教の祭壇」


「祭壇……?」


「ええ。黒月教は、各地に祭壇を建てている。そこで儀式を行い、黒い月の力を集めている」


「つまり、あそこに行けば……」


「儀式の邪魔ができるかもしれない。それに、祭壇には転移門が設置されていることが多い」


「なら、行くしかないな」


 悠斗は決意した。


「あそこに行って、聖堂に戻る方法を探そう」


「ええ」


 三人は、祭壇に向かって歩き出した。


 荒涼とした大地を、黙々と進んでいく。


 やがて、祭壇が近づいてきた。


 それは、黒い石で作られた古代の建造物だった。中央には、黒い月のシンボルが刻まれている。


「ここが、黒月の祭壇か……」


 悠斗は呟いた。


「ええ。中に入りましょう」


 三人は、祭壇の入口に向かった。


 入口には扉はなく、開けっ放しになっている。


「警備はいないのか?」


「この場所は、秘密の拠点。普段は誰もいない」


 バルトロメウスが説明した。


「なら、好都合だ」


 三人は祭壇の中に入った。


 内部は薄暗く、ひんやりとしていた。


 中央には、祭壇がある。そして、その奥には――


「転移門だ」


 青白く光る魔法陣が、壁に描かれていた。


「これで、聖堂に戻れるのか?」


「おそらく。しかし……」


 バルトロメウスは祭壇を調べた。


「この転移門、複数の場所に繋がっている」


「複数?」


「ああ。黒月教の拠点は、すべて転移門で繋がっている。この祭壇からは、聖堂だけでなく、他の拠点にも行けるはずだ」


「じゃあ、どこに繋がってるか、わからないのか……」


「いや、祭壇に記録があるはず」


 バルトロメウスは祭壇の横にある石板を調べた。


「これは……転移先のリストだ」


 石板には、古代文字で何かが書かれていた。


「読めるのか?」


「ああ。これは黒月教の古代文字。私は読める」


 バルトロメウスは石板を読み始めた。


「えっと……ここから行ける場所は……聖堂、東の遺跡、西の要塞……」


「聖堂に行けるんだな?」


「ああ。しかし……」


 バルトロメウスは眉をひそめた。


「聖堂への転移は、制限がかかっているようだ」


「制限?」


「ああ。おそらく、私たちが罠に落ちた後、セキュリティが強化されたのだろう。聖堂への直接転移は、今は使えない」


「じゃあ、どうすれば……」


「他の拠点を経由すれば、聖堂に辿り着けるはず」


 バルトロメウスは説明した。


「例えば、西の要塞に行き、そこから聖堂に向かう、とか」


「遠回りか……」


 悠斗は考えた。


「でも、他に方法はないんだろ?」


「そうだ」


「なら、行くしかない」


 悠斗は決意した。


「西の要塞に行こう」


「わかった」


 バルトロメウスは転移門を操作し始めた。


 祭壇に手をかざし、古代文字を唱える。


 すると、転移門の光が強くなった。


「準備ができた。西の要塞に繋がっている」


「よし、行くぞ」


 三人は、転移門に向かった。


「ルーナ、大丈夫か?」


「ええ。もう平気よ」


 ルーナは微笑んだ。


「あなたが一緒だから、怖くないわ」


「俺もだ」


 悠斗はルーナの手を握った。


「一緒に、戻ろう」


「ええ」


 三人は、同時に転移門に触れた。


 青白い光が、三人を包み込んだ。


 そして――


 視界が光で満たされた。


 次の瞬間、三人の姿は祭壇から消えた。


 極南の火山地帯に、再び静寂が訪れた。


 しかし、悠斗たちの戦いは、まだ終わっていない。


 西の要塞で、新たな試練が待っている。


 そして、その先には――



第九話、いかがでしたか?


今回は本当に大変でした……。悠斗が「暑い暑い」って言ってる横で、私は本気で倒れそうでしたもの。

女神なのに、情けないですよね。


でも、悠斗が抱きかかえて運んでくれた時は……その、ちょっと嬉しかったです。顔が赤くなったのは、暑さのせいだけじゃないんですよ?(小声)


バルトロメウスさんは、元敵とは思えないくらい頼りになりますね。影の魔法、格好良かったです。悠斗の豪快な岩投げとは対照的で……ふふっ。


それにしても、悠斗の食欲は相変わらずです。グレートサラマンダーを倒した直後にお腹を鳴らすなんて……。でも、そんなところも悠斗らしくて、私は好きですけど。


次回は西の要塞。今度は敵が多そうですね……。でも悠斗が一緒なら大丈夫。


きっと、また守ってくれますから。


それでは、次回もお楽しみに。


私たち、絶対に黒月教を止めてみせます。


この世界の未来のために――


月の女神 ルーナ

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