第8話 「イカサマを見抜け!運命の勝負」
深夜。
悠斗は冷たい石の床に座り込み、鉄格子の向こうを見つめていた。
廊下には誰もいない。松明の炎だけが、静かに揺れている。
あれから、丸一日が経った。
バルトロメウスから聞いた話は、悠斗の予想を遥かに超えるものだった。
黒月の儀式。大陸各地に配置された二十四の祭壇。そして、儀式が発動すれば、すべての生命が滅びるという恐るべき事実。
「時間がない……」
悠斗は呟いた。
バルトロメウスによれば、儀式の発動まで、そんなに時間がない。
早く、ここから脱出して、ルーナと合流しなければ。
そして、黒月教の計画を阻止しなければ。
「でも、どうやって……」
悠斗は独房の鉄格子を見つめた。
この鉄格子は、普通の鉄ではない。魔法で強化されており、悠斗の力でも簡単には壊せそうにない。
いや、全力を出せば壊せるだろう。しかし、それをすれば監獄中の兵士が集まってくる。
「一人で全員を相手にするのは、さすがに厳しいな……」
悠斗は考え込んだ。
その時――
「おい、兄ちゃん」
隣の独房から、声がした。
悠斗は顔を上げた。
鉄格子の向こう、隣の独房にガレスが座っていた。
彼は、悠斗が捕まって以来、ずっと気にかけてくれている。
「まだ起きてたのか」
「ああ。お前もだろ」
ガレスは苦笑した。
「この監獄じゃ、ゆっくり眠れる奴なんていないさ」
「そうだな……」
悠斗も苦笑した。
確かに、この監獄の環境は最悪だ。寒い、暗い、湿っている。そして、何より食事がひどい。
一日二回の食事は、腐りかけのパンと濁った水だけ。
悠斗の身体能力を維持するには、到底足りない。
「なあ、ガレス」
悠斗は真剣な表情で尋ねた。
「お前、ここから脱獄する気はないか」
ガレスは驚いた表情をした。
「脱獄……お前、本気か?」
「ああ」
悠斗は頷いた。
「俺には、やらなきゃいけないことがある。ここでじっとしてる時間はない」
「でも、脱獄なんて……」
ガレスは戸惑った。
「この監獄から脱獄した奴なんて、これまで一人もいないんだぞ」
「じゃあ、俺が最初になる」
悠斗は力強く言った。
「それに、お前だって冤罪なんだろ? ここにいる理由なんてない」
「それは……そうだけど……」
ガレスは迷っていた。
「もし、脱獄に失敗したら、もっとひどい目に遭わされる。下手したら、死刑だ」
「大丈夫。俺には、力がある」
悠斗は自分の拳を見せた。
「お前も知ってるだろ? 俺が『双月の英雄』だって」
「ああ……」
「なら、信じてくれ。俺が、お前を外に連れ出してやる」
悠斗の目は、真剣だった。
ガレスは、しばらく沈黙していた。
そして――
「……わかった」
ガレスは決意した表情で頷いた。
「お前を信じる。一緒に、ここから出よう」
「ありがとう」
悠斗は微笑んだ。
「それじゃ、作戦を立てよう」
「作戦って、どうするんだ?」
「まず、向かいの独房のバルトロメウスも連れて行く」
悠斗は、向かいの独房を指差した。
そこには、元黒月教の第九使徒、バルトロメウスが座っている。
彼は、黒月の儀式について詳しく知っている。外に出れば、必ず力になってくれるはずだ。
「バルトロメウス……あの、元黒月教の奴か」
「ああ。彼は、黒月教から離反した。今は、俺たちの味方だ」
悠斗は確信を持って言った。
「彼がいれば、黒月教の計画を阻止できる」
「わかった。それで、どうやって脱獄するんだ?」
「まず、鉄格子を壊す」
悠斗は、自分の独房の鉄格子に手を当てた。
「これ、魔法で強化されてるけど……俺の力なら、壊せると思う」
「本当に壊せるのか?」
「試してみる」
悠斗は深呼吸した。
そして――
全力で、鉄格子を引っ張った。
ギギギギギ……
鉄格子が、きしむ音を立てた。
「うおおおお!」
悠斗は歯を食いしばり、さらに力を込めた。
メキメキメキ……
鉄格子が、少しずつ曲がり始めた。
「すげえ……」
ガレスが驚いた表情で見ている。
そして――
バキィン!
鉄格子が、根元から折れた。
「やった!」
悠斗は鉄格子を引き抜き、床に置いた。
「よし、次はお前の番だ」
悠斗は、ガレスの独房に向かった。
同じように、鉄格子を引っ張る。
ギギギ……メキメキ……バキィン!
ガレスの独房も開いた。
「信じられない……」
ガレスは呆然としていた。
「本当に、壊しちまったのか……」
「さあ、バルトロメウスも助け出すぞ」
悠斗は、向かいの独房に向かった。
バルトロメウスは、静かに座っていた。
「……やはり、お前は只者ではないな」
バルトロメウスが呟いた。
「鉄格子を素手で壊すとは」
「こんなの、序の口だ」
悠斗は、バルトロメウスの独房の鉄格子も壊した。
バキィン!
「さあ、行こう」
悠斗は二人を促した。
三人は、廊下を走り出した。
しかし――
「囚人が脱獄している!」
衛兵の叫び声が響いた。
廊下の向こうから、複数の衛兵が走ってきた。
「くそ、バレた!」
悠斗は舌打ちした。
「お前たち、俺の後ろに隠れてろ!」
悠斗は、衛兵たちの前に立ちはだかった。
「止まれ! 大人しく独房に戻れ!」
衛兵の一人が槍を構えた。
「悪いけど、それはできない」
悠斗は構えた。
「俺には、やらなきゃいけないことがあるんだ」
「なら、力ずくで止める!」
衛兵たちが一斉に襲いかかってきた。
しかし――
悠斗の目には、衛兵たちの動きがスローモーションに見えた。
「遅い!」
悠斗は最初の衛兵の攻撃を避け、腹部に軽く拳を叩き込んだ。
ドンッ!
衛兵は吹き飛び、壁に激突した。
二人目、三人目の衛兵も、次々と倒していく。
「化け物か、こいつ……!」
残った衛兵たちが、恐怖の表情で後退した。
「逃げろ! こいつには勝てない!」
衛兵たちは慌てて逃げ出した。
「よし、今のうちに」
悠斗は、ガレスとバルトロメウスを促した。
三人は、階段を駆け上がっていった。
地下三階から、地下二階へ。
そして、地下一階へ。
やがて、地上階に到着した。
「あと少しで、外だ」
悠斗は言った。
しかし――
正面の廊下が、突然封鎖された。
鉄の扉が降りてきて、出口を塞いだ。
「くっ……」
悠斗は舌打ちした。
そして、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「よく来たな、英雄様」
オズワルドの声だ。
「お前、待ち構えていたのか!」
「当たり前だ」
オズワルドは冷笑した。
「お前が脱獄を試みることくらい、予想していた」
鉄の扉が、ゆっくりと開いた。
その向こうには、オズワルドが立っていた。
彼の周囲には、数十人の衛兵が整列している。
「さあ、大人しく戻るんだな」
オズワルドが命令した。
「でなければ、力ずくで連れ戻す」
「やってみろよ」
悠斗は構えた。
「俺は、ここから出る。絶対に」
「ふふふ……強気だな」
オズワルドは不気味に笑った。
「では、こうしよう」
オズワルドは、懐から何かを取り出した。
それは――
トランプのカードだった。
「ギャンブルだ」
オズワルドが宣言した。
「お前と俺で、勝負をする。お前が勝てば、自由に出て行っていい」
「ギャンブル……?」
悠斗は戸惑った。
「そうだ。俺は、ギャンブルが大好きでね」
オズワルドは、カードをシャッフルし始めた。
「お前も、賭け事は嫌いじゃないだろ?」
「俺は、ギャンブルなんて……」
「では、力ずくで戦うか?」
オズワルドは、周囲の衛兵を指差した。
「この数の兵士を相手にするのは、さすがのお前でも大変だろう」
「……」
悠斗は沈黙した。
確かに、数十人の兵士を相手にするのは厳しい。
それに、ガレスとバルトロメウスも守らなければならない。
「わかった。ギャンブルに乗る」
悠斗は決意した。
「でも、条件がある」
「何だ?」
「俺が勝ったら、ガレスとバルトロメウスも一緒に出る」
「構わん」
オズワルドは即答した。
「では、ゲームを始めよう」
オズワルドは、テーブルと椅子を用意させた。
悠斗とオズワルドは、テーブルを挟んで向かい合った。
「ルールは簡単だ」
オズワルドがカードを見せた。
「このトランプを使って、『ハイ&ロー』をする」
「ハイ&ロー……?」
「ああ。まず、俺がカードを一枚引く。そして、お前が次のカードが『それより高いか、低いか』を予想する」
オズワルドは説明した。
「当たれば、お前の勝ち。外れれば、俺の勝ちだ」
「それだけ?」
「それだけだ。シンプルだろ?」
オズワルドは不気味に笑った。
「では、始めよう」
オズワルドは、カードをシャッフルした。
そして、一枚引いた。
「これが、最初のカードだ」
オズワルドがカードを見せた。
それは――
「5のダイヤ」
「5か……」
悠斗は考えた。
次のカードが、5より高いか、低いか。
確率は……ほぼ五分五分だ。
「どうする? ハイか、ローか」
オズワルドが尋ねた。
悠斗は、深呼吸した。
「……ハイ」
「ハイだな。では、次のカードを引こう」
オズワルドは、山札から次のカードを引いた。
そして――
「10のスペード」
「10……!」
悠斗は拳を握った。
「やった、当たった!」
「ふむ……幸運だな」
オズワルドは、表情を変えずに言った。
「では、次だ」
オズワルドは、カードをシャッフルした。
そして、再び一枚引いた。
「9のハート」
「9……」
悠斗は考えた。
9は、かなり高い。次のカードが、これより高い確率は低い。
「ロー」
「ローだな。では」
オズワルドは、次のカードを引いた。
「7のクラブ」
「7……当たった!」
「ふふふ……」
オズワルドは、静かに笑った。
「お前、運がいいな」
「運だけじゃない」
悠斗は真剣な表情で言った。
「確率を考えてるんだ」
「なるほど。では、次はどうかな」
オズワルドは、再びカードをシャッフルした。
しかし――
悠斗は、違和感を覚えた。
オズワルドの手の動きが、微妙に不自然だ。
まるで、何かを隠しているような……
「まさか……」
悠斗は、オズワルドの手をじっと見つめた。
そして、気づいた。
オズワルドは、カードをシャッフルするふりをして、特定のカードを山札の特定の位置に仕込んでいる。
「イカサマか……」
悠斗は小さく呟いた。
「何か言ったか?」
「いや、何でも」
悠斗は、平静を装った。
「次のカードを引いてくれ」
「わかった」
オズワルドは、カードを一枚引いた。
「2のスペード」
「2……」
悠斗は考えた。
2は、最も低いカード。普通に考えれば、次のカードは確実に高い。
しかし――
オズワルドがイカサマをしているなら、次のカードも低い可能性がある。
「どうする?」
オズワルドが催促した。
悠斗は、オズワルドの目を見た。
その目には、狡猾な光が宿っている。
「……ロー」
悠斗は、あえて逆を選んだ。
「ローだと?」
オズワルドは驚いた表情をした。
「2より低いカードなんて、Aしかないんだぞ」
「わかってる。それでも、ローだ」
「ふふふ……愚かな選択だな」
オズワルドは、次のカードを引いた。
そして――
「A のクラブ」
「Aだと!?」
オズワルドは、信じられないという表情をした。
「まさか……本当にAが出るとは……」
「やっぱりな」
悠斗は冷静に言った。
「お前、イカサマしてただろ」
「何を言っている」
オズワルドは否定した。
「証拠でもあるのか」
「ある」
悠斗は立ち上がった。
「お前の手の動きを、ずっと見てた。カードをシャッフルするとき、特定のカードを仕込んでる」
「馬鹿な……」
「それに、さっきの2のカードの後、お前は次に低いカードを引かせるつもりだった。俺がハイを選ぶと予想して」
悠斗は、オズワルドを睨みつけた。
「でも、俺はローを選んだ。だから、お前のイカサマは失敗した」
「くっ……」
オズワルドは、顔を歪めた。
「証明してみせろ! お前の言うことが本当だと!」
「いいだろう」
悠斗は、テーブルに手を伸ばした。
そして――
全力で、テーブルを叩いた。
ドガァン!
テーブルが粉々に砕けた。
カードが、宙に舞った。
そして――
オズワルドの袖から、何枚かのカードが落ちてきた。
「これが、証拠だ」
悠斗は、落ちてきたカードを拾った。
それは、すべて低いカード。2、3、4、5。
「袖の中に、低いカードを隠してたんだな」
「ぐ……」
オズワルドは、言葉を失った。
周囲の衛兵たちも、驚いた表情でオズワルドを見ている。
「監獄長……イカサマを……」
「信じられない……」
「黙れ!」
オズワルドは激怒した。
「こいつは、でっち上げだ! そうに決まってる!」
「でっち上げじゃない」
悠斗は冷静に言った。
「お前は、イカサマをした。だから、このギャンブルは無効だ」
「無効だと!?」
「ああ。それとも、もう一度やるか? 今度は、俺がカードをシャッフルする」
悠斗の目は、真剣だった。
オズワルドは、しばらく沈黙していた。
そして――
「……わかった」
オズワルドは、諦めたように言った。
「お前の勝ちだ」
「本当か?」
「ああ。約束は守る」
オズワルドは、衛兵たちに指示を出した。
「道を開けろ。英雄様のお通りだ」
衛兵たちは、渋々ながら道を開けた。
「行け。二度と、ここに戻ってくるな」
「ああ、そのつもりだ」
悠斗は、ガレスとバルトロメウスを連れて、正門へと向かった。
廊下を進み、階段を登り、ついに正門に到着した。
「開けろ」
悠斗が命令すると、門番が重い扉を開けた。
外は、真っ白な雪景色だった。
「やった……外だ……」
ガレスが感動した表情で呟いた。
「本当に……出られたんだ……」
「ああ」
悠斗は微笑んだ。
「約束通り、お前を外に連れ出したぞ」
「ありがとう、悠斗……」
ガレスの目に、涙が浮かんだ。
「お前がいなかったら、俺は一生あの監獄にいたかもしれない」
「礼なんていいって」
悠斗は照れくさそうに頭を掻いた。
「それより、早くルーナと合流しないと」
三人は、監獄を後にした。
雪の中を歩きながら、悠斗は周囲を見回した。
「ルーナ……どこにいるんだ……」
その時――
「悠斗!」
前方から、声が聞こえた。
悠斗は顔を上げた。
雪の中を、一人の少女が走ってきた。
銀色の髪。銀色の瞳。白と銀のドレス。
「ルーナ!」
悠斗は駆け出した。
二人は、雪の中で抱き合った。
「無事だったのね……」
ルーナの目に、涙が浮かんでいた。
「心配したわ……」
「ごめん。でも、大丈夫だった」
悠斗は、ルーナを優しく抱きしめた。
「お前は……ずっと、ここで待っててくれたのか」
「ええ。あなたが必ず戻ってくると信じてたから」
ルーナは微笑んだ。
「そして、あなたは戻ってきてくれた」
「ああ」
悠斗は、ルーナの額に軽くキスをした。
「ありがとう、待っててくれて」
「あら、あら……」
ルーナは顔を赤らめた。
「人前で、そんなことして……」
「あ、ごめん」
悠斗も顔を赤らめた。
ガレスとバルトロメウスが、少し離れたところで二人を見ていた。
「いいコンビだな」
ガレスが微笑んだ。
「ああ」
バルトロメウスも頷いた。
「彼らなら、きっと世界を救えるだろう」
ルーナは、ガレスとバルトロメウスに気づいた。
「あら、この方たちは……」
「ああ、紹介する」
悠斗は二人を指差した。
「こっちは、ガレス。監獄で知り合った。冤罪で捕まってたんだ」
「初めまして」
ガレスが丁寧に頭を下げた。
「噂は聞いてます。月の女神様」
「よろしく、ガレス」
ルーナは微笑んだ。
「そして、こっちは……」
悠斗は、バルトロメウスを指差した。
「元黒月教の第九使徒、バルトロメウスだ」
「元黒月教……」
ルーナの表情が、一瞬硬くなった。
「大丈夫」
悠斗は、ルーナの肩に手を置いた。
「彼は、黒月教から離反した。今は、俺たちの味方だ」
「そうですか……」
ルーナは、バルトロメウスを見つめた。
バルトロメウスは、深々と頭を下げた。
「月の女神様。お初にお目にかかります」
「……よろしく」
ルーナは、少し警戒しながらも、挨拶を返した。
「あなたから、黒月教の計画について聞かせていただけますか」
「もちろんです」
バルトロメウスは頷いた。
「すべて、お話しします」
「ありがとう」
ルーナは微笑んだ。
「では、場所を変えましょう。ここは寒すぎるわ」
四人は、監獄から離れた場所へと移動した。
雪原の中に、小さな洞窟があった。
「ここなら、風を凌げるわ」
ルーナが洞窟の中に入った。
そして、手のひらに光の球を浮かべた。
温かい光が、洞窟の中を照らした。
「すごい……」
ガレスが感嘆した。
「これが、月の女神の力……」
「まだまだ、力は戻ってないけどね」
ルーナは苦笑した。
四人は、洞窟の中に座った。
「それでは、バルトロメウス」
ルーナが口を開いた。
「黒月教の計画について、詳しく教えてください」
「わかりました」
バルトロメウスは、ゆっくりと語り始めた。
「黒月教の最終目標は、『黒月の儀式』を発動させることです」
「黒月の儀式……」
「ええ。この儀式は、世界を破壊するための儀式です」
バルトロメウスは続けた。
「大陸各地に、二十四の祭壇が配置されています。これらすべてを同時に起動させることで、儀式は完成します」
「二十四の祭壇……」
ルーナは眉をひそめた。
「それは、かなりの規模ね」
「ええ。そして、儀式が発動すれば……」
バルトロメウスは一呼吸置いた。
「すべての生命が、滅びます」
「すべての……」
ルーナの顔が、蒼白になった。
「そんな……」
「本当です」
バルトロメウスは真剣な表情で言った。
「教祖ゼノンは、狂っています。彼は、この世界を『間違った世界』だと信じている。だから、すべてを破壊して、新しい世界を作ろうとしているのです」
「そんなこと、許されない……」
ルーナは拳を握りしめた。
「絶対に、阻止しないと」
「でも、どうやって?」
ガレスが尋ねた。
「二十四の祭壇を、全部破壊するのか?」
「それは、難しいでしょう」
バルトロメウスが答えた。
「祭壇は、大陸全土に散らばっています。すべてを破壊するには、時間がかかりすぎる」
「じゃあ、どうすれば……」
「一つ、方法があります」
バルトロメウスは、真剣な表情で言った。
「黒月教の本拠地を襲撃し、教祖ゼノンを倒すのです」
「本拠地……」
「ええ。大陸の最北端、凍土地帯の奥深くに、『黒月の聖堂』があります」
バルトロメウスは続けた。
「そこが、黒月教の本拠地です。ゼノンを倒せば、儀式の指揮系統が崩壊します」
「なるほど……」
悠斗は頷いた。
「トップを倒せば、組織全体が崩れる、ってことか」
「その通りです」
「でも、危険じゃないか?」
ガレスが心配そうに言った。
「本拠地には、黒月教の精鋭が集まってるんだろ?」
「ええ。十二使徒と呼ばれる幹部たちがいます」
バルトロメウスは答えた。
「彼らは、非常に強力です。特に、影の司祭、牙の狩人フェンリル、毒の巫女セルペンタは、私よりもはるかに強い」
「そんな奴らと戦うのか……」
ガレスは不安そうな表情をした。
「でも、やるしかない」
悠斗は決意を込めて言った。
「このまま放っておけば、世界が滅ぶんだろ? だったら、戦うしかない」
「悠斗……」
ルーナは、悠斗を見つめた。
「ありがとう。あなたがいてくれて、本当に心強いわ」
「当たり前だろ」
悠斗は微笑んだ。
「お前と一緒なら、どんな敵だって倒せる」
「ええ」
ルーナも微笑んだ。
「私たちなら、きっとできるわ」
「それで、俺たちはどうすればいい?」
ガレスが尋ねた。
「俺も、手伝いたい」
「ガレス……」
「だって、お前らに命を救われたんだ。恩返しさせてくれ」
ガレスは真剣な表情で言った。
「俺、商人だったから、戦闘はできないけど……情報収集とか、物資の調達とか、そういうことなら役に立てる」
「ありがとう、ガレス」
悠斗は感謝した。
「じゃあ、お前には、エルディア王国に戻って、国王に報告してほしい」
「報告?」
「ああ。黒月教の計画について、すべて伝えてくれ。そして、協力を要請してほしい」
悠斗は続けた。
「俺たちだけじゃ、黒月教に勝てないかもしれない。王国と帝国の軍隊が必要だ」
「わかった。任せてくれ」
ガレスは頷いた。
「必ず、国王に伝える」
「それと、バルトロメウス」
悠斗は、バルトロメウスを見た。
「お前は、どうする?」
「私は……」
バルトロメウスは少し考えてから、答えた。
「あなた方と一緒に、黒月の聖堂に向かいます」
「本当か?」
「ええ。私は、黒月教の元幹部です。聖堂の内部構造を知っています。それに……」
バルトロメウスは拳を握りしめた。
「ゼノンを倒したい。彼が、この世界を破壊するのを、止めたい」
「ありがとう」
悠斗は微笑んだ。
「一緒に、戦おう」
「ええ」
バルトロメウスも微笑んだ。
四人は、それぞれの役割を確認した。
ガレスは、エルディア王国へ。
悠斗、ルーナ、バルトロメウスは、黒月の聖堂へ。
「それじゃ、ここで別れよう」
悠斗は、ガレスと握手した。
「気をつけてな」
「お前もな」
ガレスは微笑んだ。
「また、会おう」
「ああ」
ガレスは、南へと歩き出した。
悠斗、ルーナ、バルトロメウスは、北へ。
雪原を歩きながら、悠斗はルーナの手を握った。
「いよいよ、だな」
「ええ」
ルーナは頷いた。
「でも、怖くないわ。あなたが一緒だから」
「俺も同じだ」
悠斗は微笑んだ。
「お前がいれば、どんな敵だって倒せる」
二人は、手を繋いだまま、北へと進んでいった。
その背中を、バルトロメウスが静かに見つめていた。
「彼らなら……きっと、世界を救える」
バルトロメウスは呟いた。
「私も、全力で支えよう」
三人は、凍土地帯の奥深くへと進んでいった。
遠くに、黒い山脈が見えてきた。
その向こうに、黒月の聖堂がある。
「行くぞ」
悠斗は決意を込めて言った。
「黒月教を、倒す」
「ええ」
ルーナも頷いた。
「この世界を、救うために」
三人は、雪の中を進み続けた。
そして――
悠斗とルーナの戦いが、今、始まろうとしていた――
お読みいただき、ありがとうございます。ルーナです。
今回は、悠斗が監獄に潜入して……正直、とても心配でした。外で待っている間、何度も監獄の門を見つめて、彼が無事に戻ってくることを祈っていました。
でも、彼は約束通り戻ってきてくれました。それも、二人の仲間を連れて。
悠斗は本当に優しい人です。自分のことよりも、他人のことを優先してしまう。そんなところが、私は大好きです。(……あら、また恥ずかしいことを書いてしまいましたね)
ガレスさんは誠実な商人で、バルトロメウスさんは過去を悔いている真面目な方です。彼らとの出会いが、これからの戦いにきっと役立つはずです。
次はいよいよ、黒月教の本拠地へ向かいます。
正直、怖いです。でも……悠斗が隣にいてくれるから、私は戦えます。
皆様も、どうか私たちを見守っていてくださいね。
それでは、次回もお楽しみに。
――月の女神ルーナ
P.S. 悠斗が監獄で食べていたパンとお水……本当にひどかったそうです。帰ってきたら、美味しいものをたくさん食べさせてあげないと。彼、本当にすぐお腹が空くんですから……(苦笑)




