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模型(1/10)スケールのアポカリプス  作者: 暁の裏


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第4話 「国境の邂逅」

 

 馬車は草原を走り続けていた。


 窓の外には、広大な景色が広がっている。草原、森、小さな丘。


「悠斗、緊張してる?」


 ルーナが心配そうに声をかけてきた。


「まあな。帝国との会談なんて、人生で初めてだし」


 悠斗は苦笑した。


「でも、大丈夫。お前が一緒にいてくれるから」


「私も同じ気持ちよ」


 ルーナは悠斗の手を握った。


 馬車の前方から、レイナルドの声が聞こえてきた。


「お二人とも、あと数時間で国境の町、リベルタに到着します」


「リベルタ……?」


「はい。国境に近い商業都市です。エルディア王国と帝国の交易の要所でもあります」


「交易……ということは、帝国の人もいるのか?」


「ええ。平時には、商人たちが行き来していました。ただ、最近は緊張状態が続いているので、交易量は減っていますが」


 レイナルドは少し寂しそうに言った。


「本来、我々は帝国と敵対する必要などなかったのです。むしろ、協力し合うべき隣国だった」


「じゃあ、なんでこんなことに……」


「それは……」


 レイナルドは言葉を濁した。


「複雑な事情があるのです。それは、会談の場で明らかになるでしょう」


 悠斗は窓の外を見た。


 遠くに、町の輪郭が見えてきた。


「あれが、リベルタか……」


 町は、王都エルディアよりは小さいが、それでも立派な城壁に囲まれていた。


 馬車は町の門に近づいていった。


 門には衛兵が立っており、馬車を確認すると敬礼した。


「宰相レイナルド様、ようこそおいでくださいました」


「うむ。神崎殿とルーナ殿をお連れした」


「はっ。どうぞお通りください」


 門が開かれ、馬車は町の中へと入っていった。




 町の中は、活気に満ちていた。


 市場には様々な商品が並び、商人たちが客を呼び込んでいる。食料、衣類、武器、魔法道具。ありとあらゆるものが売られていた。


「すごい……王都とは違う雰囲気だな」


 悠斗は感嘆した。


「リベルタは商業都市ですからね。ここでは、あらゆるものが手に入ります」


 レイナルドが誇らしげに説明した。


「会談は明日の昼です。今日は、この町でゆっくり休んでください」


「わかりました」


 馬車は町の中心部にある宿屋の前で停まった。


「ここが、この町で最も良い宿です。部屋を予約してありますので、ごゆっくりどうぞ」


「ありがとうございます」


 悠斗とルーナは馬車を降りた。


 宿屋は立派な三階建ての建物で、看板には「月光亭」と書かれていた。


「月光亭……」


 ルーナが看板を見上げた。


「なんだか、運命を感じるわね」


「確かにな」


 悠斗は苦笑した。


 二人は宿屋の中に入った。


 受付には、中年の女性が立っていた。


「いらっしゃいませ。ご予約のレイナルド様のお客様ですね」


「はい」


「お部屋は二階になります。こちらへどうぞ」


 女性は二人を二階へと案内した。


 部屋は清潔で、広々としていた。ベッドが二つ、テーブルと椅子が一組。窓からは町の景色が見える。


「素敵な部屋ね」


 ルーナが嬉しそうに言った。


「ああ。それじゃ、荷物を置いたら、町を見て回るか?」


「いいわね!」


 ルーナは目を輝かせた。


 二人は荷物を置いて、すぐに宿を出た。




 リベルタの町は、想像以上に大きかった。


 メインストリートには、様々な店が立ち並んでいる。武器屋、防具屋、雑貨屋、食堂、カフェ。


「ねえ、悠斗。あの店、入ってみない?」


 ルーナが一軒の雑貨屋を指差した。


「いいぞ」


 二人は店の中に入った。


 店内には、様々な小物が並んでいた。アクセサリー、人形、装飾品。


「わあ……可愛い……」


 ルーナは、一つの銀色のペンダントに目を止めた。


 月の形をしたペンダント。繊細な細工が施されていて、光を受けてキラキラと輝いている。


「これ、綺麗……」


「気に入ったのか?」


「ええ……でも、高いかしら……」


 ルーナは値札を見た。銀貨三枚。


「俺が買ってやる」


「え、でも……」


「いいんだ。お前へのプレゼント」


 悠斗は店主に銀貨を渡した。


 村長から貰った銀貨が、ここで役に立った。


「ありがとう、悠斗……」


 ルーナは嬉しそうに微笑んだ。


「つけてあげようか?」


「お願い」


 悠斗はペンダントを受け取り、ルーナの首にかけた。


 銀色のペンダントが、ルーナの胸元で輝いている。


「似合ってるよ」


「本当?」


「ああ。すごく綺麗だ」


 ルーナは顔を赤らめた。


「ありがとう……大切にするわ」


 二人は店を出て、さらに町を歩き続けた。


 市場を通り、広場に出た。


 広場の中央には、大きな噴水があった。水が高く吹き上がり、陽光を浴びてキラキラと輝いている。


「綺麗ね……」


 ルーナが噴水を見つめている。


「ああ」


 悠斗も頷いた。


 広場には、多くの人々が集まっていた。家族連れ、恋人たち、商人たち。みんな、それぞれの時間を楽しんでいる。


「平和だな……」


 悠斗は呟いた。


「ええ。でも、この平和も……」


 ルーナは言葉を濁した。


「大丈夫。俺たちが守る」


 悠斗はルーナの手を握った。


「絶対に、この平和を守る」


「ええ」


 ルーナは微笑んだ。


 そのとき――


「きゃっ!」


 悲鳴が聞こえた。


 悠斗とルーナは振り向いた。


 広場の端で、一人の少女が倒れていた。


 近くには、数人の男たちが立っている。彼らは、少女の荷物を奪おうとしているようだった。


「スリか……!」


 悠斗は走り出した。


「おい、やめろ!」


 男たちが悠斗に気づいた。


「何だ、てめえ!」


「その子から離れろ」


 悠斗は男たちの前に立ちはだかった。


 男たちは三人。いずれも、ならず者のような風貌だった。


「ちっ、余計なことしやがって」


 一人の男が悠斗に襲いかかってきた。


 しかし――


 悠斗の目には、その動きがスローモーションに見えた。


「遅い」


 悠斗は男の攻撃を避け、腹部に軽く拳を叩き込んだ。


 ドンッ!


 男は吹き飛び、地面に倒れた。


「な、何だこいつ!」


 残りの二人が慌てて逃げ出した。


「待て!」


 悠斗は追いかけようとしたが――


「待って、悠斗」


 ルーナが悠斗を止めた。


「まず、この子を助けてあげて」


「あ、そうだな」


 悠斗は倒れている少女に近づいた。


 少女は、普通の体格だった。年齢は悠斗と同じくらいだろうか。長い黒髪を持ち、整った顔立ちをしている。


 服装は質素だが、どこか品がある。


「大丈夫か?」


 悠斗は手を差し伸べた。


 少女は顔を上げた。


 その瞳は、深い紫色だった。


「あ、ありがとうございます……」


 少女は悠斗の手を取り、立ち上がった。


「怪我はない?」


「はい、大丈夫です……」


 少女は自分の体を確認した。


「荷物は……あ、ここにありました」


 少女は地面に落ちていた小さな袋を拾った。


「よかった……これがないと困るんです」


「何が入ってるんだ?」


「あ、その……旅の資金と、大切なものが……」


 少女は袋を抱きしめた。


「助けてくださって、本当にありがとうございます」


「いや、当然のことをしただけだ」


 悠斗は照れくさそうに頭を掻いた。


「あの……お名前を教えていただけますか?」


「俺は神崎悠斗。こっちはルーナ」


「ルーナです。よろしく」


 ルーナが微笑んだ。


「私は……」


 少女は少し躊躇してから、答えた。


「エリシアと言います」


「エリシア……綺麗な名前だな」


「ありがとうございます」


 エリシアは少し頬を赤らめた。


「あの、お二人は旅の方ですか?」


「まあ、そんなところだ」


「私もです。一人で旅をしていて……」


「一人で? 危なくないか?」


 悠斗は心配そうに尋ねた。


「大丈夫です。いつもは気をつけているんですが、今日はぼんやりしていて……」


 エリシアは申し訳なさそうに俯いた。


「どこに向かってるんだ?」


「帝国の方へ……」


「帝国!?」


 悠斗とルーナは驚いた。


「実は、俺たちも明日、帝国との国境で会談があるんだ」


「そうなんですか……」


 エリシアは興味深そうに悠斗を見た。


「それは、重要な会談ですね」


「ああ。戦争を避けるための話し合いだ」


「戦争を……」


 エリシアの表情が曇った。


「そうですか……」


「どうした?」


「いえ……私も、戦争は望んでいません。多くの人が傷つくだけですから」


 エリシアは真剣な表情で言った。


「だから、あなた方の会談が成功することを願っています」


「ありがとう」


 悠斗は微笑んだ。


「俺たちも、全力を尽くす」


「ねえ、エリシア」


 ルーナが口を開いた。


「もしよかったら、一緒に夕食でもどう? お礼をさせてほしいわ」


「お礼……ですか? でも、助けてくださったのはあなた方なのに……」


「いいのよ。せっかく知り合ったんだもの」


 ルーナは優しく微笑んだ。


 エリシアは少し考えてから、頷いた。


「それでは……お言葉に甘えさせていただきます」




 三人は、広場近くの食堂に入った。


「グランドテーブル」という名前の、中規模な食堂だった。


 店内は清潔で、木製のテーブルと椅子が並んでいる。客は数組いたが、まだ空席は多かった。


「いらっしゃいませ。三名様ですか?」


 店員が尋ねた。


「はい」


 三人は窓際の席に案内された。


 メニューを見ると、様々な料理が載っていた。肉料理、魚料理、スープ、パン。


「悠斗、何を頼む?」


「そうだな……とりあえず、全部」


「全部!?」


 エリシアが驚いた。


「ああ。俺、すごく食べるんだ」


「それは……相当な食欲ですね……」


 エリシアは苦笑した。


 店員が注文を取りに来た。


「ご注文をどうぞ」


「肉料理三つ、魚料理二つ、スープ二つ、パン五つ」


 悠斗が次々と注文した。


「あ、あの……それは一人分ですか?」


 店員が確認した。


「ああ、俺の分だけな。二人はどうする?」


「私は、サラダとスープで」


 ルーナが答えた。


「私も同じで」


 エリシアも続いた。


「かしこまりました」


 店員は少し驚いた表情で厨房に向かった。


「悠斗って、本当によく食べるのね……」


 エリシアが感心したように言った。


「まあな。この体だと、エネルギー消費が激しいんだ」


「この体……?」


 エリシアが首を傾げた。


「あ、いや、気にしないでくれ」


 悠斗は誤魔化した。


 自分の体の特殊性を、初対面の相手に詳しく説明するのは避けた方がいい。


 料理が運ばれてきた。


 悠斗の前には、大量の料理が並べられた。


「それでは、いただきます」


 三人は食事を始めた。


 悠斗は、凄まじい速度で料理を平らげていく。


「はやい……」


 エリシアが呆然と見ている。


「悠斗は、いつもこうなのよ」


 ルーナが苦笑しながら説明した。


「この世界に来てから、ずっとこんな調子」


「この世界……?」


 エリシアが反応した。


「あ、その……」


 ルーナは言葉を濁した。


 しまった、と思ったが、既に遅かった。


「もしかして、あなた方は……異世界から来た方々ですか?」


 エリシアが真剣な表情で尋ねた。


 悠斗とルーナは顔を見合わせた。


「どうして、それを……」


「噂で聞いたことがあります。黒竜を倒した謎の戦士」


 エリシアは悠斗を見つめた。


「もしかして、あなたが……」


「ああ。俺が、その戦士だ」


 悠斗は正直に答えた。


 隠しても仕方がない。どうせ、噂は広まっているのだから。


「やはり……」


 エリシアは感嘆の表情を浮かべた。


「お会いできて、光栄です」


「いや、そんな大げさな……」


「あなたは英雄です。多くの人々を救った」


 エリシアは真剣な目で悠斗を見つめた。


「だから、明日の会談も、きっとうまくいきます」


「そう願いたいな」


 悠斗は苦笑した。




 食事を終えた後、三人はしばらく話をした。


 エリシアは、旅の話をした。様々な町を訪れ、色々な人々と出会ったこと。


 悠斗とルーナも、自分たちの冒険を話した。村での戦い、黒竜との戦闘、王都での出来事。


「すごい……そんなに色々あったんですね……」


 エリシアは目を輝かせていた。


「まあ、大変だったけどな」


 悠斗は照れくさそうに頭を掻いた。


「でも、ルーナがいてくれたから、乗り越えられた」


「悠斗……」


 ルーナは嬉しそうに微笑んだ。


 エリシアは、二人を優しく見つめていた。


「お二人、とても仲がいいんですね」


「え、まあ……」


 悠斗は顔を赤らめた。


「私たち、恋人同士なの」


 ルーナがさらりと言った。


「え……」


 エリシアは少し驚いた表情をした。


 そして、少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべた。


「そうですか……お幸せに」


「ありがとう」


 ルーナは微笑んだ。


 しばらくして、三人は食堂を出た。


「それでは、私はこれで……」


 エリシアが別れを告げようとした。


「待って、エリシア」


 悠斗が声をかけた。


「どこに泊まるんだ?」


「あ、その……まだ決めていなくて……」


「だったら、俺たちの宿に来いよ。部屋は別だけど、同じ宿なら安心だろ」


「で、でも……」


「いいのよ。女性一人で旅をするのは危険だわ」


 ルーナも賛成した。


「それに、せっかく知り合ったんだもの。もう少し一緒にいましょう」


 エリシアは少し躊躇してから、頷いた。


「それでは……お言葉に甘えさせていただきます」




 三人は月光亭に戻った。


 受付で、エリシアの部屋を一つ追加で予約した。


「それでは、エリシア様は三階のお部屋になります」


「ありがとうございます」


 エリシアは部屋の鍵を受け取った。


「それじゃ、明日の朝、また会おう」


「はい。おやすみなさい」


 エリシアは三階へと上がっていった。


 悠斗とルーナは、自分たちの部屋に戻った。


「いい子だったわね」


 ルーナが言った。


「ああ。でも、なんか不思議な子だったな」


「不思議……?」


「うん。なんていうか……普通の旅人じゃない気がした」


 悠斗は窓の外を見た。


 夜空には、二つの月が浮かんでいる。


「まあ、考えすぎかもしれないけど」


「そうね」


 ルーナも窓の外を見た。


「明日は、いよいよ会談ね」


「ああ」


 悠斗は緊張した表情をした。


「大丈夫。私たちなら、きっとうまくいくわ」


「そうだな」


 悠斗は頷いた。


 そして、二人はベッドに入った。


 今夜は、それぞれ別のベッドで眠ることにした。


 明日に備えて、しっかり休まなければならない。


「おやすみ、ルーナ」


「おやすみ、悠斗」


 二人は目を閉じた。


 しかし、悠斗はなかなか眠れなかった。


 明日の会談のこと。帝国のこと。そして、エリシアのこと。


 様々な思いが頭をよぎる。


 そして、いつの間にか眠りについた。




 朝。


 悠斗は、ノックの音で目を覚ました。


「悠斗、起きて」


 ルーナの声。


「ん……もう朝か……」


 悠斗は体を起こした。


「ええ。そろそろ出発の時間よ」


「わかった」


 悠斗は身支度を整えた。


 部屋を出ると、ルーナが待っていた。


「おはよう」


「おはよう」


 二人は階下へと降りていった。


 食堂では、エリシアが待っていた。


「おはようございます」


「おはよう、エリシア」


 三人は朝食を取った。


 悠斗は、またしても大量に食べた。


「今日も食欲旺盛ね」


 ルーナが苦笑した。


「腹が減ってるんだ。仕方ないだろ」


 朝食を終えた後、レイナルドが宿にやってきた。


「おはようございます。準備はよろしいですか?」


「はい」


「それでは、出発しましょう。会談の場まで、あと二時間ほどです」


 悠斗とルーナは荷物を持って、宿を出た。


 その時――


「あの、私も一緒に行ってもいいですか?」


 エリシアが声をかけてきた。


「え?」


「私も、帝国の方へ行くので……もしよろしければ、一緒に……」


 エリシアは遠慮がちに尋ねた。


 悠斗は少し考えてから、頷いた。


「いいぞ。馬車に乗せてもらえるか、レイナルドさん」


「構いませんが……彼女は?」


「エリシアだ。昨日知り合った旅人」


「そうですか。では、どうぞ」


 レイナルドは馬車の扉を開けた。


 四人は馬車に乗り込んだ。


 馬車は、国境へと向かって走り出した。




 馬車の中で、エリシアは窓の外を見つめていた。


 その表情は、どこか緊張しているように見えた。


「エリシア、大丈夫か?」


 悠斗が声をかけた。


「え、ええ……大丈夫です」


「なんか、緊張してるみたいだけど」


「その……実は、帝国に行くのは初めてで……」


 エリシアは少し俯いた。


「少し、怖いんです」


「怖い……?」


「ええ。帝国は、厳格な軍事国家だと聞いています。もし、何か問題があったら……」


「大丈夫だ。俺たちが一緒にいる」


 悠斗は力強く言った。


「何かあったら、守ってやる」


「ありがとうございます……」


 エリシアは少し安心したように微笑んだ。


 馬車は、草原を走り続けた。


 やがて、遠くに大きな建物が見えてきた。


「あれが、会談の場所ですか?」


 ルーナが尋ねた。


「いえ、あれは国境の町、フロンティアです」


 レイナルドが説明した。


「エルディア王国と帝国の中間地点にある、中立都市です」


「中立都市……」


「ええ。どちらの国にも属さない、独立した町です。交易の中心地でもあります」


 馬車は、フロンティアの町に近づいていった。


 町は、リベルタよりもさらに大きかった。城壁の高さは約4メートル。元のサイズなら40メートルだ。


「すごい……」


 悠斗は感嘆した。


 馬車は町の門をくぐり、中に入っていった。




 町の中は、さらに活気に満ちていた。


 様々な国の商人たちが行き交い、異なる言語が飛び交っている。


「ここは、本当に国際的な町なんだな」


 悠斗は驚いた。


「ええ。エルディア王国、ノルディア帝国、ヴェスタリア公国、アストラル連邦。すべての国の人々が集まります」


 レイナルドが説明した。


 馬車は町の中心部にある大きな建物の前で停まった。


「ここが、会談の場です」


 建物は、立派な石造りだった。三階建てで、正面には大きな扉がある。


「中立会館」という看板が掲げられていた。


「会談は、午後二時からです。それまで、町を見て回ってもいいですよ」


「わかりました」


 悠斗とルーナ、そしてエリシアは馬車を降りた。


「それでは、私は帝国側との最終調整に行きます。何かあったら、この建物にいますので」


 レイナルドは建物の中に入っていった。


「さて、どうする?」


 悠斗はルーナとエリシアを見た。


「町を見て回りましょう」


 ルーナが提案した。


「そうだな」


 三人は、町の中を歩き始めた。


 メインストリートには、様々な店が並んでいた。


 武器屋では、見たこともないような武器が売られている。魔法道具の店では、光る石や不思議な杖が並んでいる。


「すごい……こんなもの、王都でも見たことないわ」


 ルーナが目を輝かせている。


「本当だな」


 悠斗も興味深そうに店を覗いている。


 エリシアは、少し離れたところから二人を見ていた。


 その表情は、複雑だった。


「エリシア、どうした?」


 悠斗が声をかけた。


「あ、いえ……何でもありません」


 エリシアは慌てて笑顔を作った。


 三人はさらに歩き続けた。


 やがて、大きな広場に出た。


 広場の中央には、巨大な彫像が立っていた。


「あれは……」


 ルーナが彫像を見上げた。


 彫像は、一人の女性の姿をしていた。両手を広げ、天を仰いでいる。


「月の女神……」


 ルーナは呟いた。


「あれが、お前なのか?」


「ええ……百年前の私」


 ルーナは複雑な表情をした。


 彫像の台座には、碑文が刻まれていた。


「月の女神ルーナ。世界に光をもたらし、我らを守りたまいし御方。その御姿を、ここに刻む」


「みんな、お前のことを覚えてるんだな」


「ええ……でも、私は彼らの期待に応えられなかった」


 ルーナは悲しそうに俯いた。


「力を失い、姿を消してしまった」


「それは、お前のせいじゃない」


 悠斗はルーナの肩を抱いた。


「お前は、世界を守ろうとした。それだけで、十分だ」


「悠斗……」


 ルーナは悠斗を見上げた。


 その瞳に、涙が浮かんでいた。


「ありがとう……」


 二人は抱き合った。


 エリシアは、少し離れたところから二人を見ていた。


 その表情は、複雑だった。羨望と、寂しさと、そして――決意のようなものが混じっていた。


 その時――


 ドォォォン!


 町の外から、爆発音が聞こえた。


「何だ!?」


 悠斗は音のする方向を見た。


 町の門の方から、黒煙が上がっている。


「魔物だ! 魔物の群れが町を襲ってきた!」


 誰かが叫んだ。


 人々が慌てて逃げ始めた。


「くそ……!」


 悠斗は走り出した。


「悠斗、待って!」


 ルーナとエリシアも後を追った。


 町の門に到着すると、惨状が目に入った。


 巨大な魔物の群れが、町に押し寄せてきていた。


 狼型、熊型、そして――巨大なトカゲのような魔物も混じっている。


「黒竜……いや、違う。あれは……」


「ドラゴンゾンビです!」


 エリシアが叫んだ。


「黒月教が操る、死者の竜!」


「黒月教……!」


 悠斗は拳を握りしめた。


「またあいつらか!」


 町の兵士たちが、必死に魔物と戦っていた。


 しかし、数が多すぎる。徐々に押されている。


「悠斗、どうするの!?」


「決まってる。戦うんだ!」


 悠斗は魔物の群れに向かって走った。


「ルーナ、エリシア、下がってろ!」


「でも……!」


「いいから!」


 悠斗は最初の狼型魔物に接近し、拳を叩き込んだ。


 ドガッ!


 魔物が吹き飛ぶ。


 二体目、三体目と次々に倒していく。


 しかし、魔物の数が多すぎる。


「くそ、キリがない……!」


 その時――


「悠斗、後ろ!」


 ルーナの叫び声。


 悠斗は振り向いた。


 巨大な熊型魔物が、悠斗に襲いかかってきていた。


 間に合わない――


 その瞬間――


 パァン!


 光の矢が、熊型魔物に命中した。


「ルーナ!」


 ルーナが両手を広げ、月の力を解放していた。


「一人で戦わないで! 私も戦うわ!」


「でも、お前の力は……!」


「大丈夫。月が出ているから、少しは使えるわ」


 ルーナは次々と光の矢を放った。


 パァン! パァン! パァン!


 魔物たちが、光の矢に撃ち抜かれていく。


「すごい……」


 悠斗は驚いた。


 ルーナの力が、以前よりも強くなっている。


「ルーナ、お前……」


「わからない。でも、力が戻ってきてる気がする」


 ルーナは微笑んだ。


「あなたと一緒にいるから、かもしれないわ」


「俺と……」


 その時、エリシアが叫んだ。


「ドラゴンゾンビが来ます!」


 巨大なドラゴンゾンビが、町の中に入ってきた。


 全身が腐敗しており、骨が露出している部分もある。目は赤く光り、口からは黒い炎が漏れている。


「あれを倒さないと……!」


 悠斗は走り出した。


「悠斗、気をつけて! ドラゴンゾンビは普通の魔物より強いわ!」


 ルーナが警告した。


「わかってる!」


 悠斗はドラゴンゾンビに接近した。


 ドラゴンゾンビが、黒い炎を吐き出した。


「くっ!」


 悠斗は横に跳んで避けた。


 炎が地面を焼き尽くす。


「やばい……あの炎に当たったら……」


 悠斗は冷や汗をかいた。


 この体は、熱に弱い。あの炎に包まれたら、一瞬で致命傷だ。


「どうする……」


 悠斗は考えた。


 正面から戦うのは危険だ。機動力を活かして、背後に回るしかない。


「行くぞ!」


 悠斗は地面を蹴り、7メートルの跳躍でドラゴンゾンビの頭上を飛び越えた。


 そして、背中に着地する。


「よし、ここから――」


 悠斗は全力で、ドラゴンゾンビの背中を殴った。


 ドゴォン!


 しかし、ドラゴンゾンビの骨は硬く、ダメージを与えられない。


「硬い……!」


 ドラゴンゾンビが暴れ、悠斗を振り落とそうとする。


「くそ、このままじゃ――」


 その時――


「悠斗!」


 ルーナの声。


 悠斗は顔を上げた。


 ルーナが、両手を天に掲げていた。


 その周囲に、強い光が集まっていく。


「これは……」


「月よ、力を貸して!」


 ルーナが叫んだ。


 その瞬間――


 空から、巨大な光の柱が降り注いだ。


 光の柱は、ドラゴンゾンビを直撃した。


「グオオオオオ!」


 ドラゴンゾンビが悲鳴を上げた。


 その体が、光に包まれていく。


「今よ、悠斗! 弱点を突いて!」


「わかった!」


 悠斗はドラゴンゾンビの首の付け根――骨が露出している部分に全力の拳を叩き込んだ。


 ドガァァン!!


 骨が砕ける音が響いた。


 ドラゴンゾンビは力尽き、地面に倒れた。


 ドサァァァ……


「やった……!」


 悠斗はドラゴンゾンビの背中から飛び降りた。


 残っていた魔物たちは、ドラゴンゾンビが倒されたのを見て、慌てて逃げ出した。


「勝った……!」


 町の兵士たちが歓声を上げた。


 悠斗は荒い息をつきながら、ルーナの方を見た。


 ルーナは、地面に膝をついていた。


「ルーナ!」


 悠斗は駆け寄った。


「大丈夫か!?」


「ええ……大丈夫……ただ、力を使いすぎたみたい……」


 ルーナは疲れた表情をしていた。


「さっきの力……すごかったな」


「あれは……月の力の一部が戻ったの」


 ルーナは悠斗を見上げた。


「あなたと一緒にいることで、私の力が戻ってきてる」


「俺と……?」


「ええ。あなたが、私を信じてくれているから。あなたが、私を愛してくれているから」


 ルーナは微笑んだ。


「愛が、私の力を取り戻させてくれているの」


「愛……」


 悠斗は顔を赤らめた。


「そうだ。俺は、お前を愛してる」


 悠斗はルーナを抱きしめた。


「だから、もっと力を取り戻してくれ。俺たちで、この世界を救うんだ」


「ええ……」


 ルーナは悠斗の胸に顔を埋めた。


 二人は、しばらくそのままでいた。


 エリシアは、少し離れたところから二人を見ていた。


 その表情は、複雑だった。


 そして、小さく呟いた。


「やはり……あなた方は、この世界の希望なのですね……」


 帝国軍の登場


 その時――


 町の反対側の門から、別の軍勢が現れた。


「あれは……!」


 整然と並んだ兵士たち。その数は約五百。


 全員が黒と銀の鎧を着ており、槍を持っている。


「帝国軍……!」


 エリシアが呟いた。


 帝国軍は、魔物が逃げていった方向へと進軍していった。


 そして、軍の先頭には――


 一人の女性が馬に乗っていた。


 長い黒髪を持ち、深い紫色の瞳。凛とした表情で、兵士たちを指揮している。


「まさか……」


 悠斗は驚いた。


 その女性は――


 エリシアと、瓜二つだった。


 いや、同一人物だ。


「エリシア……?」


 悠斗はエリシアを見た。


 エリシアは、複雑な表情で軍を見つめていた。


「あれは……私の姉です」


「姉……?」


「ええ。ノルディア帝国第一皇女、イザベラ・フォン・ノルディア」


 エリシアは静かに言った。


「そして、私は……」


 エリシアは深呼吸した。


「私は、ノルディア帝国第二皇女、エリシア・フォン・ノルディアです」


「皇女……!?」


 悠斗とルーナは驚いた。


「ごめんなさい。嘘をついていて」


 エリシアは申し訳なさそうに俯いた。


「でも、私は……民間人として、この世界を見たかった。皇女としてではなく、一人の人間として」


「どうして……」


「それは……」


 エリシアは言葉を濁した。


 その時、イザベラが馬を降り、こちらに歩いてきた。


「エリシア。そこにいるのでしょう」


 イザベラの声は、冷たく厳格だった。


「姉様……」


 エリシアは、イザベラの前に歩み出た。


「やはり、あなたでしたか」


 イザベラは溜息をついた。


「城を抜け出して、一体何をしているのです」


「私は……」


「まあ、いいでしょう。今は、魔物の討伐が先です」


 イザベラは部下に指示を出した。


「残存魔物を一掃せよ。生かして返すな」


「はっ!」


 兵士たちが散っていった。


 イザベラは、悠斗とルーナを見た。


「あなた方が、神崎悠斗殿とルーナ殿ですね」


「ああ」


「先ほどの戦い、見事でした。ドラゴンゾンビを倒すとは、流石です」


 イザベラは冷静に言った。


「午後の会談、楽しみにしています」


「ああ……」


 悠斗は戸惑っていた。


 エリシアが皇女だったこと。そして、その姉が帝国軍を率いていること。


 状況が、急速に複雑になっていく。


「それでは、エリシア。帰りますよ」


「は、はい……」


 エリシアは悠斗とルーナを見た。


「ごめんなさい……嘘をついて……」


「いや、気にしてない」


 悠斗は微笑んだ。


「お前が皇女だろうと、俺たちの友達だ」


「悠斗……」


 エリシアは涙ぐんだ。


「ありがとう……」


「エリシア、早く」


 イザベラが促した。


「はい」


 エリシアは、イザベラと共に帝国軍の方へと歩いていった。


 悠斗とルーナは、その背中を見送った。


「まさか、皇女だったとはな……」


「ええ……でも、いい子よ」


 ルーナは微笑んだ。


「きっと、会談でまた会えるわ」


「そうだな」


 悠斗は頷いた。


 そして、二人は中立会館へと向かった。




 午後一時。


 悠斗とルーナは、中立会館の待合室にいた。


 レイナルドも同席している。


「先ほどの戦い、お疲れ様でした」


「ああ」


「しかし、驚きました。まさか、帝国の皇女があのような形で現れるとは」


 レイナルドは複雑な表情をした。


「エリシア殿が皇女だったとは……」


「彼女、なんで民間人のふりをしてたんだろうな」


「おそらく……帝国内部の政治的な理由でしょう」


 レイナルドは慎重に言葉を選んだ。


「帝国は、皇帝と第一皇女イザベラが実権を握っています。第二皇女エリシアは、政治的な力を持っていないと聞いています」


「だから、自由に動けないのか……」


「そうかもしれません」


 その時、扉がノックされた。


「失礼します。会談の時間です」


 使用人が告げた。


「わかりました」


 レイナルドは立ち上がった。


「それでは、参りましょう」


 悠斗とルーナも立ち上がった。


「緊張してる?」


「ああ……ちょっとな」


「大丈夫。私たちなら、きっとうまくいくわ」


 ルーナは悠斗の手を握った。


「一緒に頑張りましょう」


「ああ」


 三人は、会談室へと向かった。


 廊下を歩きながら、悠斗は深呼吸した。


 これから、帝国との会談が始まる。


 戦争を避けるための、重要な話し合い。


 絶対に、成功させなければならない。


 悠斗は拳を握りしめた。


 会談室の扉が、目の前にあった。


 扉が開かれた。


 室内には、大きなテーブルが設置されていた。


 テーブルの片側には、エルディア王国の国王と数人の重臣が座っている。


 反対側には――


 帝国の代表団が座っていた。


 中央には、威厳に満ちた老人が座っている。おそらく、帝国皇帝だ。


 その隣には、イザベラが座っている。


 そして、その隣には――


 エリシアが座っていた。


 エリシアは、悠斗とルーナを見て、小さく微笑んだ。


 悠斗とルーナは、テーブルの中央――中立的な位置に座った。


 レイナルドも隣に座る。


「それでは、会談を始めます」


 司会役の人物が宣言した。


「本日の議題は、エルディア王国とノルディア帝国の緊張緩和、および協力関係の構築についてです」


 室内の空気が、緊張に包まれた。


 悠斗は、深呼吸した。


 いよいよ、会談が始まる――



4話を読んでくださって、ありがとうございます。


エリシア様との出会い


まさか、あの優しい女の子が帝国の皇女様だったなんて……

最初は全く気づきませんでした。彼女はとても自然で、普通の旅人のように見えたから。

悠斗があの時スリから守ってくれて、本当によかった。

そして、悠斗が買ってくれた月のペンダント。今も大切につけています。悠斗の優しさを、いつも感じていたいから。


私の力の回復


ドラゴンゾンビとの戦いで、突然力が戻ってきました。

あれは百年前の私が持っていた、月の女神としての本来の力。

なぜ力が戻ったのか――その答えは、悠斗です。

月の女神の力は、信仰と愛から生まれるんです。

悠斗が私を愛してくれている。その愛が、私の力を呼び覚ましてくれています。

百年前、私は多くの人々から信仰されていました。でも姿を消してから、人々は月への信仰を失っていった。

でも悠斗は違った。ずっと私を見ていてくれた。フィギュアとしてではなく、一人の存在として。

だから、もっと悠斗を愛したい。もっと一緒にいたい。そうすれば私の力はもっと戻ってくる。


あの戦いについて


ドラゴンゾンビとの戦い、本当に怖かったです。

悠斗の体は熱に弱いから、黒い炎に包まれたら……考えたくもありません。

だから必死でした。悠斗を守りたくて。

戦いの後、悠斗が「俺は、お前を愛してる」って言ってくれた時……

嬉しくて、幸せで。涙が出そうになりました。


これから


会談が始まります。正直、不安です。

でも、悠斗が一緒にいてくれる。だから大丈夫。

次回は会談の内容、帝国の真意、エリシア様の立場、黒月教の陰謀……すべてが絡み合って大きな展開が待っています。

そして……私と悠斗の関係も、さらに深まるかもしれません(顔が熱い)。

月の光が、皆様を優しく照らしますように。


月の女神(力回復中)ルーナより

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