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模型(1/10)スケールのアポカリプス  作者: 暁の裏


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第2話 「すごい力と底なしの食欲」

明けましておめでとうございます。


見に来ていただきありがとうございます。


体が小さくなることにより超人的な力を得た悠斗のスペックを書いておきます。


物理による超人的能力


【身体能力系】

1. 相対筋力10倍化


絶対筋力: 元の世界の1/1000(パンチ力約1kgf)

相対筋力: 体重も1/1000のため、体に対する相対的な力は10倍

効果:


18cm住人に対しては1kgfパンチが1トンの衝撃に相当

建物を破壊可能

魔物を一撃で吹き飛ばす

跳び蹴りでは12トン相当の威力




2. 超跳躍力


跳躍高: 約7メートル(元の世界なら70m相当)

体長比: 自身の身長の約40倍

応用:


建物を飛び越える

空中戦闘が可能

高所からの奇襲攻撃

敵の頭上を取る戦術




3. 落下ダメージ無効化


原理: 体重が1/1000のため落下衝撃も1/1000

効果:


7m以上の高さから落ちても無傷

着地の衝撃をほぼ感じない

空中戦闘後の着地が安全




4. 超加速・超機動力


移動速度: 絶対速度は1/3に低下するも、体が軽いため加速性能が極めて高い

効果:


急激な方向転換が可能

瞬間的な加速が可能

同サイズの相手には圧倒的に速く見える

地面を蹴るたびに体が飛び出す感覚





【知覚・反応系】

5. 超反射神経


原理: 体長1/10により神経伝達距離が1/10

効果:


脳から手足への信号が1/10の時間で到達

反応速度が極端に速くなる

情報処理速度の向上




6. スローモーション視覚


効果:


周囲の動きがスローモーションに見える

敵の攻撃を予測しやすい

戦闘中の判断時間が増える

魔物の突進も「遅い」と感じる




7. 強化視覚


効果:


反射神経向上に伴い視覚も強化

薄暗い森の中でも明瞭に見える

動体視力の向上

細部まで認識可能




8. 主観時間の加速


原理: 代謝・心拍・呼吸の加速に伴う

効果:


外界より「速く」時間を感じる

思考速度の向上

戦闘中の冷静な判断



【数値データ】


世界異世界(1/10スケール)

倍率体長 170cm 18cm程 1/10

体重 60kg 60g 1/1000

絶対筋力 1/1000 相対筋力 10倍以上

跳躍高 7m以上(元のサイズ換算で70m以上)

神経伝達 1/10の時間

速食事量 10倍以上

移動速度 ダッシュ時 6-8km/h(元のサイズ換算で速度は60‐80㎞/h)

 夜明け前。


 悠斗は村長の家の客室で目を覚ました。


 体が重い。全身に鈍い痛みが走る。昨夜の戦闘で、思った以上に筋肉を酷使していたらしい。


「うっ……」


 ベッドから起き上がろうとして、悠斗は思わず呻いた。特に腕と脚の筋肉が悲鳴を上げている。


「やっぱり、無茶したか……」


 魔物を殴り飛ばし、7メートルもジャンプし、黒月の欠片を拳で粉砕した。普通の高校生がそんなことをすれば、体が悲鳴を上げるのは当然だった。


 それでも、悠斗はなんとか体を起こした。


 窓の外を見ると、空が白み始めている。二つの月――白い月と黒い月――がまだ空に浮かんでいた。


「あの黒い月が、すべての元凶……」


 悠斗は黒い月を睨みつけた。


 昨夜見たビジョン。世界が崩壊していく光景。あれが現実になる前に、何とかしなければならない。


 コンコン。


 扉がノックされた。


「悠斗、起きてる?」


 ルーナの声だ。


「ああ、入っていいぞ」


 扉が開き、ルーナが部屋に入ってきた。彼女は昨夜と同じ白いナイトドレスを着ており、銀色の髪が朝日を受けて輝いている。


「おはよう。よく眠れた?」


「まあな。お前は?」


「私は……あまり眠れなかったわ」


 ルーナは悠斗の隣に座った。


「昨夜のビジョンのことが、頭から離れなくて」


「……そうか」


 悠斗は黙った。自分も同じだ。あの光景は、簡単に忘れられるものではない。


「でも、あなたが一緒だから、少し安心できる」


 ルーナは微笑んだ。


「悠斗は強いもの。あの魔物たちを一人で倒してしまったし、黒月の欠片も砕いてしまった」


「いや、あれは……」


 悠斗は言葉を濁した。


 確かに、自分には驚異的な力がある。しかし、それは本当に「強さ」なのだろうか。ただ、物理法則の恩恵を受けているだけではないのか。


「悠斗?」


 ルーナが不思議そうに悠斗を見つめる。


「いや、何でもない。それより、今日はどうするんだ?」


「村長さんと話をしましょう。この世界のこと、もっと詳しく知らないと」


「そうだな」


 悠斗は立ち上がった。体の痛みは、動けば徐々に和らいでいく。


 二人は部屋を出て、階下へと向かった。




 村長の家の食堂では、すでに朝食の準備が整っていた。


 テーブルには、パン、チーズ、ハム、野菜のサラダ、そしてスープが並んでいる。村の規模を考えれば、かなり豪華な朝食だった。


「おはようございます、悠斗様、ルーナ様」


 村長の妻が丁寧に頭を下げた。


「様付けはやめてくれ。悠斗でいい」


「で、でも……英雄様ですから……」


「英雄なんかじゃない。ただの高校生だ」


 悠斗は苦笑しながら席に着いた。ルーナも隣に座る。


「それでは、どうぞ召し上がってください」


 村長の妻が勧めてくれたので、悠斗は食事に手をつけた。


 そして――


「うまい!」


 悠斗は驚いた。素朴な料理だが、素材の味がしっかりと活きている。


「気に入っていただけて、嬉しいです」


 村長の妻が微笑んだ。


 悠斗は次々と食事を口に運んだ。昨夜と同じく、満腹感が訪れない。むしろ、食べれば食べるほど空腹感が増していく。


「おかわり!」


「はい!」


 村長の妻が慌てて料理を運んでくる。


 悠斗は三回、四回とおかわりを重ねた。普通の人間の10倍は食べているだろう。


「悠斗……本当にすごい食欲ね」


 ルーナが呆れたように呟いた。


「仕方ないだろ。腹が減るんだ」


「わかってるけど……村の食料、大丈夫かしら」


「あ……」


 悠斗は箸を止めた。


 確かに、この小さな村で、自分のような大食漢を養うのは大変だろう。


「すみません、食べ過ぎました……」


「いえいえ! 英雄様のためですから!」


 村長の妻は笑顔で答えたが、その笑顔には少しだけ不安の色が混じっていた。


 悠斗は申し訳なく思いながらも、結局さらに二回おかわりをした。空腹に耐えられなかったのだ。


 食事を終えた後、村長が現れた。


「おはようございます、悠斗様、ルーナ様」


「おはよう。昨夜はありがとう」


「いえいえ。こちらこそ、村を救っていただき、本当にありがとうございました」


 村長は深々と頭を下げた。


「それで、今日はどうなさるおつもりですか?」


「この世界のこと、もっと詳しく教えてほしい。特に、黒い月のことを」


 悠斗の言葉に、村長の表情が曇った。


「……わかりました。お話しします」


 村長は席に着き、静かに語り始めた。


「黒い月が異常な力を持ち始めたのは、約百年前のことです」


「百年前……」


「それまで、白い月と黒い月は完璧なバランスを保っていました。白い月が満ちるとき、世界には生命と秩序がもたらされる。黒い月が満ちるとき、世界には変

 化と革新がもたらされる。そうやって、世界は調和を保っていたのです」


「でも、それが崩れた……」


「はい。百年前、突然黒い月が力を増し始めました。そして、月の女神様が姿を消されたのです」


 ルーナが俯いた。彼女が、その月の女神なのだが。


「それ以来、世界は混乱しています。魔物が凶暴化し、気候が不安定になり、国同士の争いも絶えません」


「国同士の争い?」


「はい。この世界には、いくつかの国があります。しかし、どの国も食料や資源が不足していて、奪い合いが起きているのです」


 村長は深くため息をついた。


「特に、黒月教という宗教団体が力を持ち始めてから、状況は悪化しています」


「黒月教……」


 悠斗は眉をひそめた。


「彼らは、黒い月こそが真の神であり、白い月は偽りの神だと主張しています。そして、世界を『正しい状態』に戻すと言って、各地でテロ行為を行っているの

 です」


「正しい状態……?」


「詳しいことはわかりません。ただ、彼らは月の女神を『偽神』と呼び、敵視しています」


 ルーナの表情がさらに暗くなった。


「村長さん、この近くに大きな街はある?」


 悠斗が尋ねた。


「はい。ここから東に三日ほど歩けば、王都エルディアがあります。この地域を治める王国の首都です」


「王都……」


「もし、本格的に世界を救おうとお考えなら、王都に行くことをお勧めします。そこには、多くの情報が集まっていますし、力を持つ人々もいます」


 悠斗はルーナを見た。ルーナも頷く。


「わかった。俺たち、王都に行く」


「そうですか……」


 村長は寂しそうな顔をした。


「本当は、もっと長くいていただきたいのですが……」


「すまない。でも、この世界を救うためには、もっと情報が必要なんだ」


「わかっております。では、せめて旅の準備をさせてください」


 村長は立ち上がり、村人たちに指示を出し始めた。




 昼過ぎ。


 悠斗とルーナは、村人たちに見送られながら村を出発した。


 村長が用意してくれた荷物には、食料、水、簡単な地図、そして――


「これは……?」


 悠斗は、村長から渡された小さな袋を開けた。中には、銀貨が数枚入っている。


「わずかですが、旅の資金にしてください」


「こんなの受け取れない。村の方が困ってるだろ」


「いいえ。あなた方は村の命の恩人です。これくらいは受け取ってください」


 村長は頑なに悠斗に銀貨を押し付けた。


「……ありがとう」


 悠斗は深々と頭を下げた。


「それでは、お気をつけて」


「ああ。また、戻ってくる」


 悠斗とルーナは、村人たちに手を振りながら歩き出した。


 村を出て、草原を東へ。


 この世界では、悠斗の歩幅は18センチ程度だが、歩くスピードは意外と速かった。体が軽いため、少ない力で速く移動できるのだ。


「悠斗、疲れてない?」


「いや、むしろ調子いい」


 悠斗は軽く跳んでみせた。その跳躍は、軽く2メートルほどの高さに達した。


「この体、慣れてきたかも」


「それは良かった」


 ルーナは微笑んだ。


 二人は草原を歩き続けた。


 道中、いくつかの小さな魔物に遭遇したが、悠斗が軽く拳を振るうだけで倒すことができた。


「やっぱり、この力はすごいな」


 悠斗は自分の拳を見つめた。


「でも、油断しないで。もっと強い魔物もいるはずだから」


「わかってる」


 夕方近く。


 二人は小さな森の入り口に到着した。


「この森を抜ければ、次の村があるはずよ」


 ルーナが地図を確認しながら言った。


「よし、行こう」


 森の中は薄暗く、木々が密集していた。しかし、悠斗の目には、すべてがはっきりと見えた。反射神経が鋭くなったせいで、視覚も強化されているらしい。


「悠斗、ちょっと待って」


 ルーナが悠斗の腕を掴んだ。


「どうした?」


「何か……気配がする」


 ルーナは警戒した表情で周囲を見回した。


 悠斗も立ち止まり、耳を澄ませた。


 確かに、何かがいる。


 ガサッ。


 茂みが揺れた。


 そして――


 巨大な影が飛び出してきた。


「熊!?」


 悠斗は驚いた。


 それは、熊のような魔物だった。体長は約1メートル程だろうか。今のサイズの悠斗にとっては、圧倒的な巨体だ。


 まあ元のサイズに戻っても怖いけど…


「グルルル……」


 熊型魔物は、鋭い牙を剥いて悠斗とルーナを睨みつけた。


「悠斗、気をつけて! この魔物、昨日の狼より強いわ!」


「わかった!」


 悠斗は拳を構えた。


 熊型魔物が突進してくる。その速度は、狼型魔物よりもはるかに速い。


 しかし――


 悠斗の目には、その動きがスローモーションに見えた。


「遅い!」


 悠斗は横に飛び退き、熊の突進を避けた。そして、カウンターで熊の横腹に拳を叩き込む。


 ドガッ!


 しかし、熊は倒れなかった。


「硬い!」


 悠斗は驚いた。狼型魔物なら一撃で倒せたのに、熊型魔物にはダメージはあるがあまり効いてないようだ。


「グルオオオ!」


 熊が振り向き、巨大な前足を振り下ろしてきた。


 悠斗は後ろに跳んで避けたが、熊の攻撃が地面を叩き、土が舞い上がった。


「やばい、こいつマジで強い!」


「悠斗、正面から戦わないで! 機動力を使って!」


 ルーナが叫んだ。


「機動力……そうか!」


 悠斗は地面を蹴り、7メートルの跳躍で熊の頭上を飛び越えた。そして、空中から熊の背中に着地する。


「よし、ここから――」


 悠斗は全力で熊の背中を殴った。


 ドゴォン!


 衝撃が走り、熊が悲鳴を上げた。


「効いてる!」


 悠斗はさらに連続で拳を叩き込んだ。一発、二発、三発。


 熊が暴れ、悠斗を振り落とそうとする。しかし、悠斗は軽い体重を活かして、器用に熊の背中にしがみついた。


「まだだ!」


 四発目、五発目。


 ついに、熊が力尽きて倒れた。


 ドサッ。


 悠斗は熊の背中から飛び降り、荒い息をついた。


「やった……」


「悠斗、すごい!」


 ルーナが駆け寄ってきた。


「お前のアドバイスのおかげだ」


「でも、やっぱりあなたの力がすごいのよ」


 ルーナは嬉しそうに笑った。


 しかし、次の瞬間――


 グゥゥゥ……


 悠斗の腹が盛大な音を立てた。


「あ……」


「また、お腹空いたの?」


「ああ……さっきあんなに食べたのに……」


 悠斗は頭を抱えた。


 戦闘で大量のエネルギーを消費したのだ。この世界では、戦えば戦うほど腹が減る。


「仕方ないわね。休憩しましょう」


 ルーナは荷物から食料を取り出した。




 森の中の小さな空き地で、悠斗とルーナは休憩を取った。


 悠斗は村長が用意してくれたパンとチーズを貪るように食べた。しかし、それでも満腹にはならない。


「この食欲、どうにかならないのか……」


「難しいわね。あなたの体は、常にエネルギーを必要としているから」


 ルーナは申し訳なさそうに悠斗を見つめた。


「まあ、仕方ないか」


 悠斗は諦めたように笑った。


「それより、ルーナ。お前、戦えないのか?」


「今の私には、ほとんど力がないの」


 ルーナは手のひらに小さな光の球を浮かべた。


「これくらいしか使えないわ」


「これ、何に使えるんだ?」


「光を灯したり、簡単な治癒をしたり……でも、戦闘には向いてないわ」


「そうか……」


 悠斗は少し残念そうな顔をした。


「ごめんなさい。私がもっと力を持っていれば……」


「いや、謝ることじゃない。俺が守るから」


 悠斗は力強く言った。


 ルーナは顔を赤らめた。


「ありがとう、悠斗」


 二人はしばらく黙って座っていた。


 森の中は静かで、鳥のさえずりだけが聞こえる。


「なあ、ルーナ」


「何?」


「お前、本当に月の女神なのか?」


「……そうよ」


 ルーナは少し寂しそうに微笑んだ。


「でも、今の私は女神としての力をほとんど失っている。だから、普通の少女とあまり変わらないわ」


「なんで力を失ったんだ?」


「それは……」


 ルーナは言葉を濁した。


「まだ、全部思い出せていないの。記憶の一部が欠けているから」


「記憶が……」


「ええ。百年前に何かが起きて、私は力を失い、記憶も失った。そして、気づいたらゲームの世界に閉じ込められていたの」


「ゲームの世界……『星辰のアルカディア』か」


「そう。あのゲームは、この世界を模倣して作られたものなの。正確には、私がこの世界の記憶を元に、ゲームの世界を作り出したのかもしれない」


「よくわからないな……」


「私もよくわからないの。ただ、あなたが私のフィギュアを大切にしてくれていたから、私はあなたとつながることができた。そして、この世界に呼び戻すこと

 ができた」


 ルーナは悠斗の手を握った。


「だから、感謝してるわ」


「俺こそ、感謝してる」


 悠斗は照れくさそうに笑った。


「こんな冒険、普通じゃ経験できないからな」


 二人は見つめ合った。


 そのとき――


 ルーナの体が、悠斗の方に傾いた。


「あ……」


 バランスを崩したルーナが、悠斗の胸に倒れ込んできた。


「だ、大丈夫か!?」


 悠斗は慌ててルーナを支えた。


 しかし、その瞬間、悠斗は気づいた。


 ルーナの体が、異常に柔らかいことに。


 そして、ルーナの顔が、自分の顔のすぐ近くにあることに。


「え、あ……」


 二人の顔が、数センチの距離まで近づいた。


 ルーナの銀色の瞳が、悠斗を見つめている。


 悠斗の心臓が、激しく鼓動した。


「ゆ、悠斗……」


 ルーナの頬が赤く染まった。


「す、すまん!」


 悠斗は慌ててルーナを離した。


「い、いや、大丈夫……」


 ルーナも顔を赤らめたまま、視線を逸らした。


 気まずい沈黙が流れる。


「そ、そろそろ出発するか」


「そ、そうね」


 二人は立ち上がり、荷物をまとめた。


 顔を見合わせることなく。




 森を抜けると、小さな村が見えてきた。


 しかし、その村は――


「燃えてる……!」


 悠斗は驚いた。


 村のいくつかの建物が炎に包まれ、黒煙が上がっている。


「急いで!」


 悠斗とルーナは村に向かって走った。


 村に到着すると、惨状が目に入った。


 建物が壊され、村人たちが逃げ惑っている。


 そして、村の中心には――


 黒い服を着た集団がいた。


「黒月教……!」


 ルーナが叫んだ。


 黒月教の信者たちは、約十人。彼らは村人たちを脅し、何かを要求しているようだった。


「月の女神の信者はどこだ! 白き月を崇める異端者を差し出せ!」


 黒月教の一人が叫んでいる。


「い、いません! この村にそんな人は!」


 村長らしき老人が必死に訴えている。


「嘘をつくな! ならば、この村全てを黒き月の炎で清めてやる!」


 黒月教の信者が手をかざすと、黒い炎が発生した。


「魔法……!」


 悠斗は驚いた。


 黒い炎が建物に燃え移り、さらに火災が広がっていく。


「やめろ!」


 悠斗は叫びながら、黒月教の集団に向かって走った。


「何者だ!」


 黒月教の信者たちが悠斗に気づいた。


「お前ら、村人に何してる!」


「我々は黒月教の使徒。黒き月の意志を実行しているだけだ」


「黒き月の意志だと? ふざけるな!」


 悠斗は最前列の信者に向かって拳を振るった。


「悠斗、力を抜いて!!」


 ルーナが大きな声を出す。


 俺は瞬時に力を抜く。


 ドガッ!


 信者が吹き飛び、地面に叩きつけられた。


「あれ、力抜いたんだけどな」


「ふう、間に合った。悠斗の力がすごいので全力ならおそらく顔が吹き飛んでたわよ」


「まじかよ」


 危なかった、殺人を犯すところだった。


「な、何だこいつ!」


「まとめてかかれ!」


 黒月教の信者たちが一斉に悠斗に向かってきた。


 しかし――


 悠斗の目には、彼らの動きがスローモーションに見えた。


「遅い!」


 悠斗は最初の信者の攻撃を避け、カウンターで腹部に拳を叩き込んだ、もちろん力は抜いている。


 ドンッ!


 二人目の信者が迫ってくる。悠斗は地面を蹴り、7メートルの跳躍で頭上を飛び越えた。そして、空中から蹴りを叩き込む。


 ガッ!


 三人目、四人目と次々に倒していく。


 黒月教の信者たちは、悠斗の圧倒的な速度と力に翻弄されていた。


「こ、こいつ、人間じゃない!」


「撤退だ! 撤退!」


 残った信者たちは慌てて逃げ出した。


 悠斗は追いかけようとしたが――


「悠斗、待って! 村の火を消さないと!」


 ルーナが叫んだ。


「くっ……」


 悠斗は歯噛みしながら、村の方に戻った。


 ルーナは両手を広げ、力を使って水を生み出した。しかし、その量はわずかで、炎を完全に消すことはできない。


「俺も手伝う!」


 悠斗は村人たちと協力して、水を運び、炎を消していった。


 悠斗の異常な力と速度のおかげで、火災は比較的早く鎮火した。


「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……」


 村長が涙を流しながら悠斗に頭を下げた。


「いや、間に合ってよかった」


 悠斗は荒い息をついた。


 そして――


 グゥゥゥ……


 またしても、悠斗の腹が鳴った。


「また……?」


 ルーナが苦笑した。


「ああ……もう限界だ……」


 悠斗は膝をついた。空腹で立っていられない。


「村長さん、食べ物を分けていただけますか?」


 ルーナが村長に尋ねた。


「もちろんです! 命の恩人ですから!」


 こうして、悠斗は再び大量の食事を摂ることになった。




 夜。


 村長の家で、悠斗とルーナは部屋を与えられた。


 今回は、一つの部屋に二つのベッドが用意されていた。


「今日も、色々あったな……」


 悠斗はベッドに横たわりながら呟いた。


「ええ。でも、あなたのおかげで、村は救われたわ」


 ルーナも隣のベッドに座っていた。


「黒月教……あいつら、本気で危険だな」


「そうね。彼らは私を『偽神』と呼んでいる。私が力を取り戻せば、彼らはもっと本格的に襲ってくるかもしれない」


「なら、早く力を取り戻さないとな」


「でも、どうやって……」


 ルーナは困ったように首を傾げた。


「王都に行けば、何かわかるかもしれない」


「そうね」


 二人は沈黙した。


 しばらくして、ルーナが立ち上がった。


「悠斗、ちょっといい?」


「ん?」


 ルーナは悠斗のベッドに近づいてきた。


「今日、森で……その、倒れ込んでしまって、ごめんなさい」


「あ、ああ……いや、気にしてない」


 悠斗は顔を赤らめた。


「でも、私……ちょっと嬉しかったの」


「え?」


「あなたと、近くにいられて」


 ルーナは恥ずかしそうに視線を逸らした。


「ルーナ……」


「あなたは、私を大切にしてくれた。ずっと前から」


 ルーナは悠斗の手を握った。


「だから、私もあなたを大切にしたい」


「俺も……お前を大切に思ってる」


 悠斗も握り返した。


 二人の顔が、また近づいていく。


 ルーナの銀色の瞳が、月光を反射して輝いている。


「悠斗……」


「ルーナ……」


 そのとき――


 ドンドンドン!


 扉が激しくノックされた。


「悠斗様! ルーナ様! 大変です!」


 村長の切羽詰まった声。


「何だ!?」


 悠斗は慌てて扉を開けた。


「村の外に、大量の魔物が集まっています!」


「何!?」


 悠斗とルーナは窓の外を見た。


 村を囲むように、数十匹の魔物が集まっていた。狼型、熊型、そして見たことのない巨大な魔物も。


「黒月教が、魔物を操っているのかもしれません!」


 村長が叫んだ。


「くそ……報復か!」


 悠斗は拳を握りしめた。


「ルーナ、村人を避難させてくれ!」


「でも、悠斗一人じゃ……!」


「大丈夫。俺には、この力がある」


 悠斗は窓から外に飛び出した。


 跳躍で、村の外壁を飛び越える。


 そして、魔物の群れの前に着地した。


「来い。まとめて相手してやる」


 悠斗は拳を構えた。


 魔物たちが一斉に襲いかかってきた。


 悠斗の、最大の戦闘が始まった――




 魔物の群れ。


 その数は、ざっと五十匹以上。


 狼型魔物が二十匹、熊型魔物が十匹、そして――


「あれは……」


 悠斗は目を見開いた。


 群れの後方に、巨大な魔物がいた。


 体長1メートルはあろうかという、トカゲのような魔物。全身が黒い鱗で覆われ、口からは黒い炎が漏れている。


「ドラゴン……?」


「悠斗! それは『黒竜』よ! 黒月教が操る最強の魔物!」


 ルーナが村の壁の上から叫んだ。


「最強……上等だ!」


 悠斗は地面を蹴った。


 最初の狼型魔物に接近し、拳を叩き込む。


 ドガッ!


 狼が吹き飛ぶ。


 二匹目、三匹目と連続で倒していく。


 しかし、魔物の数が多すぎる。


 四方から魔物が襲いかかってきた。


「くっ……!」


 悠斗は跳躍で回避し、空中から蹴りを叩き込む。


 ガッ!


 着地と同時に、別の魔物に拳を振るう。


 ドンッ!


 悠斗の動きは速い。魔物たちの攻撃は、すべてスローモーションに見える。


 しかし――


「数が多い……!」


 いくら倒しても、次々と魔物が襲いかかってくる。


 そして、悠斗の体力が徐々に削られていく。


 グルルル……


 後方から、熊型魔物が突進してきた。


「後ろ!?」


 悠斗は振り向いたが、間に合わない。


 その瞬間――


 パァン!


 光の矢が、熊型魔物に命中した。


「ルーナ!」


 ルーナが村の壁の上から、月の力で光の矢を放っていた。


「悠斗、一人で戦わないで! 私も戦うわ!」


「でも、お前は力が……!」


「月が出ているから少しは使えるわ! だから、一緒に戦うわ!」


 ルーナは両手を広げ、さらに光の矢を放った。


 パァン! パァン!


 光の矢が次々と魔物に命中し、動きを止めていく。


「ありがとう、ルーナ!」


 悠斗は再び魔物の群れに突っ込んだ。


 ルーナの援護を受けながら、次々と魔物を倒していく。


 十匹、二十匹、三十匹。


 悠斗の拳と蹴りが、魔物を次々と打ち倒していった。


 しかし――


 グォォォォ!


 黒竜が咆哮した。


 そして、黒竜が口を開き――


 黒い炎を吐き出した。


「悠斗、逃げて!」


 ルーナが叫んだ。


 悠斗は横に跳んで避けたが、黒い炎が地面を焼き尽くしていく。


「あの炎、やばい……!」


 悠斗は冷や汗をかいた。


 もし、あれに当たったら――


「悠斗、黒竜は火に弱いはずがないわ! でも、あなたの体は小さくなっているから、いつもより熱に弱いの! 絶対に炎に触れないで!」


「わかった!」


 悠斗は黒竜に向かって走った。


 黒竜が再び炎を吐き出す。


 悠斗は跳躍で回避し、黒竜の頭上を飛び越えた。


 そして、黒竜の背中に着地する。


「よし、ここから――」


 悠斗は全力で黒竜の背中を殴った。


 ドゴォン!


 しかし、黒竜の鱗は硬く、ダメージを与えられない。


「硬い……!」


 黒竜が暴れ、悠斗を振り落とそうとする。


「くそ、このままじゃ――」


 その時、悠斗は気づいた。


 黒竜の首の付け根に、鱗のない部分がある。


「あそこだ!」


 悠斗は黒竜の背中を駆け上がり、首の付け根に到達した。


 そして――


 全力で、拳を叩き込んだ。


 ドガァァン!!


 黒竜が悲鳴を上げた。


 悠斗はさらに連続で拳を叩き込む。


 一発、二発、三発、四発――


 ついに、黒竜が力尽きて倒れた。


 ドサァァァ……


 悠斗は黒竜の背中から飛び降り、荒い息をついた。


「やった……」


 残っていた魔物たちは、黒竜が倒されたのを見て、慌てて逃げ出した。


「勝った……!」


 村人たちが歓声を上げた。


 悠斗は膝をついた。全身が疲労で満たされている。


「悠斗!」


 ルーナが駆け寄ってきた。


「大丈夫?」


「ああ……なんとか……」


 そのとき――


 グゥゥゥゥゥ……


 悠斗の腹が、これまでで最大の音を立てた。


「あ……限界……」


 悠斗はその場に倒れ込んだ。


「悠斗! しっかりして!」


 ルーナが悠斗を抱きかかえた。


「腹……減った……」


「わかったわ! 今すぐ食べ物を用意するから!」


 ルーナは村人たちに指示を出した。




 翌朝。


 悠斗は村長の家のベッドで目を覚ました。


 体が重い。昨夜の戦闘で、さらに体を酷使してしまった。


「ん……」


 悠斗はゆっくりと体を起こした。


 隣のベッドを見ると、ルーナが眠っていた。


「ルーナ……」


 悠斗は静かにベッドから降り、ルーナに近づいた。


 彼女は安らかな寝顔をしていた。銀色の髪が枕に広がり、月光のように美しい。


「お前も、疲れたんだな……」


 悠斗はそっとルーナの頬に触れた。


 その瞬間――


 ルーナの目が開いた。


「悠斗……?」


「あ、起こしちゃったか。ごめん」


「ううん、大丈夫」


 ルーナは体を起こした。


「昨夜は、すごかったわね」


「ああ。でも、お前の援護がなかったら、俺一人じゃ無理だった」


「私も、もっと力があれば……」


 ルーナは悔しそうに俯いた。


「いや、十分だった。ありがとう」


 悠斗はルーナの手を握った。


「一緒に戦ってくれて」


「悠斗……」


 ルーナは顔を赤らめた。


 二人は見つめ合った。


 そして――


 ルーナが、悠斗の胸に顔を埋めた。


「え……ルーナ?」


「少しだけ、こうさせて……」


 ルーナの声が震えていた。


「昨夜、あなたが戦っているのを見て、怖かったの。もし、あなたが傷ついたら……もし、あなたが……」


「大丈夫だ。俺は死なない」


 悠斗はルーナの背中を優しく抱いた。


「お前を守るって決めたんだ。だから、絶対に死なない」


「悠斗……」


 ルーナは顔を上げた。


 その瞳には、涙が浮かんでいた。


「私、あなたのことが……」


 その言葉を最後まで言う前に――


 扉がノックされた。


「悠斗様、ルーナ様、朝食の準備ができました」


 村長の妻の声。


「あ、ああ! 今行く!」


 悠斗は慌ててルーナから離れた。


「……後で、話しましょう」


 ルーナは微笑んだ。


「ああ」


 二人は部屋を出た。




 朝食後、村長が悠斗とルーナに告げた。


「実は、王都から使者が来ます」


「使者?」


「はい。昨夜の戦闘の噂を聞きつけて、王国が興味を持ったようです」


「そうか……」


 悠斗は複雑な表情をした。


「もしかしたら、あなた方を王都に招待するかもしれません」


「それは好都合だな」


 悠斗はルーナを見た。ルーナも頷く。


「ちょうど、王都に行こうと思っていたところだ」


「それは良かった」


 その日の午後、王都からの使者が到着した。


 立派な馬車に乗った、貴族らしき男性。


「私は、エルディア王国の宰相、レイナルドと申します」


 宰相は丁寧に頭を下げた。


「神崎悠斗様、ルーナ様。あなた方の武勇は、すでに王都まで届いております」


「そんな大したことは……」


「いえいえ。黒竜を単独で倒した戦士など、百年ぶりです。ぜひ、王都にお越しいただきたい」


「わかった。ちょうど、王都に行こうと思っていたところだ」


「それは好都合です。では、この馬車でご案内します」


 こうして、悠斗とルーナは王都へと向かうことになった。


 馬車の中で、悠斗はルーナに囁いた。


「これから、どうなるんだろうな」


「わからないわ。でも、きっと大変なことになる」


「だろうな」


 二人は窓の外を見た。


 空には、二つの月が浮かんでいる。


 白い月と、黒い月。


 そして、黒い月は、さらに大きくなっているように見えた。


「時間がない……」


 ルーナが呟いた。


「ああ。急がないと」


 悠斗は拳を握りしめた。


 馬車は、王都エルディアへと向かって走り続けた。


 そして、悠斗とルーナの本当の冒険が、今、始まろうとしていた――

ルーナより

───

悠斗、昨夜は本当にお疲れ様。

五十匹以上の魔物を相手に、しかも黒竜まで倒すなんて……

あなたの強さには、本当に驚かされるわ。

でも、見ていて怖かったの。

あなたが傷つくんじゃないかって。

あなたがいなくなってしまうんじゃないかって。

それに……あなたの食欲も心配。

戦えば戦うほど、お腹が空いてしまう。

この小さな体は、とてつもない力を与えてくれるけれど、

同時に大きな代償も求めてくる。

熱にも弱いし、黒竜の炎が当たっていたら……

考えたくないわ。

でも、私にはまだ力がない。

あなたを守るだけの力が。

森で倒れ込んでしまったとき、

あなたの胸はとても温かくて……

ああ、何を書いているのかしら。恥ずかしい。

とにかく、これから王都に向かうわ。

そこで、私の失った力を取り戻す手がかりが見つかるかもしれない。

そうすれば、私ももっとあなたの役に立てる。

一緒に戦える。

悠斗、あなたに伝えたいことがあるの。

でも、今はまだ言えない。

もう少し、時間をちょうだい。

次回、第3話「王都エルディア」

いよいよ、この世界の中心へ──

───

ルーナ

P.S. 悠斗、さっき寝顔を見られていたこと、気づいていたわよ?

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