第16話 「終わりと始まり」
黒月の聖堂、第八階層。
五人――悠斗、ルーナ、バルトロメウス、グラキエス、セレスティア――は、変身したゼノンと再び対峙していた。
白い月の加護を受け、五人の傷は癒えている。しかし、それでもゼノンの圧倒的な力の前に、油断はできなかった。
「さあ……来るがいい」
ゼノンの筋肉はさらに膨張し、その巨体は先ほどとは比べものにならないほど固くなっていそうだ。
砕かれた剣の代わりに、彼の両手には黒い炎が宿っている。
「今度こそ……終わらせる」
「こっちのセリフだ」
悠斗は拳を構えた。
「みんな、行くぞ!」
「ええ!」
五人は一斉にゼノンに向かって突進した。
悠斗が先頭を切り、拳を振るう。
ドガァッ!
悠斗の拳が、ゼノンの腹部に命中した。
しかし――
「効かん」
ゼノンは動じなかった。
悠斗の拳を完全に受け止めている。
「くっ……!」
「月光の矢!」
ルーナが光の矢を放った。
矢はゼノンの胸に命中したが、やはり鱗に弾かれた。
「影の剣!」
バルトロメウスが影の剣で斬りかかった。
しかし、剣は鱗を切り裂くことができない。
「氷結の槍!」
グラキエスが氷の槍を投げた。
槍はゼノンの肩に当たったが、やはり弾かれた。
「聖なる光よ!」
セレスティアが光の魔法を放った。
光はゼノンを包み込んだが、効果がない。
「無駄だ」
ゼノンは冷たく言った。
「今の私の体には、その程度の攻撃は効かぬよ」
ゼノンは両手の炎を振るった。
黒い炎が、五人に向かって襲いかかる。
「みんな、散れ!」
悠斗が叫んだ。
五人は四方に散った。
炎が地面を焼き尽くす。
「やばい……」
悠斗は冷や汗をかいた。
「あの鱗、硬すぎる……」
「どうすれば……」
グラキエスが呟いた。
その時――
バルトロメウスが言った。
「関節とかどうだ」
「関節……」
悠斗はゼノンをよく観察した。
確かに、他の部位に比べ、脆そうに見える。
特に、首の付け根、脇の下、膝の裏側。
「あそこだ!」
悠斗は叫んだ。
「関節部分なら、攻撃が通りそうだ!」
「なるほど……」
バルトロメウスは頷いた。
「では、私が動きを止める。その隙に、悠斗が攻撃する」
「わかった!」
「では、行くぞ。影の鎖!」
バルトロメウスは影の魔法を発動した。
ゼノンの足元から、黒い影が這い上がり、彼の足を捕らえようとする。
「ふん!」
ゼノンは炎を地面に叩きつけた。
炎が影を焼き尽くす。
「効かないか……」
バルトロメウスは歯噛みした。
「なら、私も手伝うわ!」
グラキエスが叫んだ。
「氷結の鎖!」
グラキエスの氷の鎖が、ゼノンの腕に巻きつく。
「私も!」
ルーナが月光の鎖を放った。
「私も!」
セレスティアが聖なる光の鎖を放った。
四つの鎖が、ゼノンの手足に巻きつき、動きを封じようとする。
「くっ……!」
ゼノンは力を込めて、鎖を引きちぎろうとした。
しかし、四人の力が同時に彼を縛っているため、簡単には外せない。
「今よ、悠斗!」
ルーナが叫んだ。
「わかった!」
悠斗は地面を蹴った。
月の加護を受けた跳躍。
10メートルの高さまで飛び上がる。
そして、ゼノンの首の付け根に全力の拳を振り下ろした。
「うおおおお!!」
ドゴォォン!!
悠斗の拳が、継ぎ目に直撃した。
「ぐあっ!」
ゼノンは、苦痛の声を上げた。
血が流れる。
「効いてる!」
悠斗は地面に着地し、再び跳んだ。
今度は、脇の下の継ぎ目を狙う。
ドガッ!
「ぐうっ!」
ゼノンはさらに血を流した。
「くそ……!」
ゼノンは怒りに震えた。
「小賢しい……!」
ゼノンは全身から黒い霧を放出した。
霧が爆発的に広がり、四人の鎖を吹き飛ばした。
「きゃあ!」
四人は吹き飛ばされた。
「みんな!」
悠斗は叫んだ。
「もう……我慢ならん!」
ゼノンは両手を高く掲げた。
すると、彼の周囲に巨大な黒い魔法陣が現れた。
魔法陣は回転し、そこから無数の黒い矢が現れた。
「黒月の矢雨!」
ゼノンが叫んだ。
無数の矢が、五人に向かって降り注ぐ。
「やばい!」
悠斗は咄嗟にルーナを抱きかかえた。
そして、跳躍で矢を避ける。
バルトロメウスは影に身を隠し、矢を避けた。
グラキエスは氷の壁を作り、矢を防いだ。
セレスティアは光の結界を展開し、矢を弾いた。
しかし、矢の数があまりにも多い。
次々と矢が襲いかかり、五人は防戦一方となった。
「くそ……このままじゃ……!」
悠斗は歯噛みした。
その時――
「悠斗、私に考えがあるわ」
ルーナが悠斗の耳元で囁いた。
「何だ?」
「私が、ゼノンの注意を引く。その隙に、あなたが攻撃する」
「でも、危険すぎる!」
「大丈夫」
ルーナは微笑んだ。
「私、あなたを信じてるから」
「ルーナ……」
「行くわよ」
ルーナは悠斗の腕から離れ、地面に降りた。
そして、両手を高く掲げた。
「月よ……私に力を……」
ルーナの体から、銀色の光が放たれた。
光はどんどん強くなり、やがて広間全体を照らし始めた。
「これは……」
ゼノンは驚いた。
「月の女神の力……」
「そうよ」
ルーナは真剣な表情で言った。
「私は、月の女神。あなたが憎む、偽りの神」
「……」
ゼノンの表情が歪んだ。
「……」
「でも、私は偽りの神なんかじゃない」
ルーナは力強く言った。
「私は、この世界を愛してる。人々を愛してる」
ルーナは涙を流した。
「すべての人を救えなかったのは、私の力不足。それは認める」
「だが……」
「でも、だからといって、この世界を滅ぼしていいわけじゃない!」
ルーナは叫んだ。
「あなたの妻も、あなたが愛した人も、この世界を滅ぼしてほしいなんて思ってない!」
「黙れ!」
ゼノンは叫んだ。
「お前に、何がわかる! お前に、私の苦しみが理解できるか!」
ゼノンは両手の炎を振るった。
巨大な炎の渦が、ルーナに向かって襲いかかる。
「ルーナ!」
悠斗は叫んだ。
しかし――
ルーナは動かなかった。
炎が彼女に迫る。
その瞬間――
「月の盾!」
ルーナの周囲に、巨大な銀色の盾が展開された。
炎が盾に当たり、弾かれた。
「なんだと!?」
ゼノンは驚いた。
「今よ、悠斗!」
ルーナが叫んだ。
「わかった!」
悠斗は地面を蹴った。
全速力で、ゼノンに向かって突進する。
「邪魔だ!」
ゼノンは悠斗に向かって炎を放った。
しかし――
「影の盾!」
バルトロメウスが影の壁を作り、炎を防いだ。
「氷の道!」
グラキエスが地面に氷の道を作った。
悠斗は氷の道を滑るように走る。
「聖なる祝福を!」
セレスティアが悠斗に祝福の魔法をかけた。
悠斗の体が、さらに光り輝く。
「みんな……ありがとう!」
悠斗は跳んだ。
月の加護、聖なる祝福、そして仲間たちの支援を受けた跳躍。
悠斗はゼノンの頭上まで飛び上がった。
「うおおおおおお!!」
悠斗は全身の力を込めて、拳を振り下ろした。
月の光を纏った拳。
それは、まるで月そのものが落ちてくるかのような輝きだった。
「くっ……!」
ゼノンは両手を交差させて、拳を受け止めようとした。
しかし――
ドゴォォォォン!!
悠斗の拳が、ゼノンの防御を打ち破った。
拳は、ゼノンの頭部に直撃した。
凄まじい衝撃。
ゼノンの巨体が、地面に叩きつけられた。
ドサァァァ……
広間全体が揺れた。
「ハァ……ハァ……」
悠斗は地面に着地し、荒い息をついた。
「やった……のか……」
静寂。
ゼノンは、動かない。
「本当に……終わったの……?」
ルーナが恐る恐る尋ねた。
その時――
ゼノンの体が、ゆっくりと動いた。
「まだ……だ……」
ゼノンは立ち上がろうとした。
しかし、彼の体は満身創痍だった。
頭から血が流れ、体の各所にヒビが入っている。
「まだ……終わらせない……」
ゼノンは必死に立ち上がった。
「私は……まだ……」
しかし、次の瞬間――
ゼノンの体から、黒い霧が噴き出した。
「ぐあああああ!!」
ゼノンは絶叫した。
「な、何が……」
悠斗は驚いた。
黒い霧は、ゼノンの体を包み込んでいく。
「これは……」
バルトロメウスは目を見開いた。
「黒月の力が……暴走している……」
「暴走……?」
「ああ。ゼノンは、黒月の力を無理やり体に取り込んだ。それが今、限界を超えて暴走し始めている」
バルトロメウスは深刻な表情で言った。
「このままでは……ゼノンの体が、内側から崩壊する……」
「ぐうううう……!」
ゼノンは苦しみながら、地面に膝をついた。
黒い霧は、彼の体を侵食していく。
皮膚が剥がれ落ち、肌が黒く染まっていく。
「痛い……痛い……」
ゼノンは呻いた。
「体が……燃えるように……」
「ゼノン……」
悠斗は複雑な表情で、ゼノンを見つめた。
ゼノンは敵だった。
世界を滅ぼそうとした、恐るべき存在だった。
しかし――
彼もまた、愛する人を失った一人の人間だった。
「ゼノン……」
ルーナが前に出た。
「まだ、間に合うわ。黒月の力を、手放して」
「手放す……?」
ゼノンは苦笑した。
「もう……無理だ……」
ゼノンは咳き込んだ。
口から血が流れる。
「私の体は……もう……」
「でも……」
「いいんだ……」
ゼノンは静かに言った。
「これで……いい……」
ゼノンはゆっくりと横になった。
彼の体は、徐々に元の人間の姿に戻っていく。
翼が消え、角が消えていく。
やがて、そこには一人の老人が横たわっていた。
白髪の、痩せ細った老人。
「私は……」
ゼノンは天井を見上げた。
「私は……百年間……何をしていたのだろう……」
ゼノンの目から、涙が流れた。
「妻を失って……私は……狂ってしまった……」
「……」
五人は黙って、ゼノンを見つめていた。
「世界を……滅ぼそうとした……」
ゼノンは自嘲するように笑った。
「愚かだった……」
「ゼノン……」
ルーナは膝をついて、ゼノンの隣に座った。
「私は……あなたの妻を救えなかった……」
ルーナは涙を流した。
「本当に……ごめんなさい……」
「いや……」
ゼノンは首を横に振った。
「お前のせいじゃない……」
ゼノンは目を閉じた。
「疫病は……天災だ……誰のせいでもない……」
「でも……」
「ただ……私は……受け入れられなかっただけだ……」
ゼノンは静かに語った。
「妻の死を……受け入れられなかった……」
「だから……月の女神を憎んだ……世界を憎んだ……」
ゼノンは再び目を開いた。
「でも……本当は……わかっていた……」
「何を……?」
「妻は……私に……こんなことを望んでいないと……」
ゼノンの目から、また涙が流れた。
「妻は……優しい人だった……誰かを憎むことなんて……できない人だった……」
「……」
「それなのに……私は……」
ゼノンは拳を握りしめた。
「私は……妻の想いを……踏みにじった……」
ゼノンは咳き込んだ。
さらに血が流れる。
「ゼノン、もう喋らないで……」
セレスティアが治癒の魔法をかけようとした。
しかし、ゼノンは首を横に振った。
「無駄だ……もう……長くない……」
ゼノンは微笑んだ。
「でも……いい……」
「これで……やっと……妻に会える……」
その時――
広間に、柔らかな光が差し込んだ。
白い光。
それは、天井の向こうから降り注ぐ、月の光だった。
光は、ゼノンを包み込んでいく。
「これは……」
ゼノンは驚いた。
光の中に、一人の女性の姿が浮かび上がった。
長い髪、優しい笑顔。
白い服を着た、美しい女性。
「あなた……」
ゼノンは呟いた。
「エリナ……」
女性――エリナは、微笑んでいた。
彼女は手を差し伸べた。
「さあ……一緒に行きましょう……」
エリナの声が、優しく響いた。
「もう……苦しまなくていいのよ……」
「エリナ……」
ゼノンは涙を流しながら、手を伸ばした。
「私は……お前を……裏切った……」
「いいえ」
エリナは首を横に振った。
「あなたは……私を愛してくれた……それだけで……十分よ……」
「エリナ……」
「さあ……行きましょう……」
エリナはゼノンの手を握った。
すると、ゼノンの体が、徐々に光に包まれていった。
「みんな……」
ゼノンは五人を見た。
「すまなかった……」
ゼノンは深々と頭を下げた。
「許してくれとは……言わない……」
「でも……世界を……頼む……」
「ゼノン……」
悠斗は頷いた。
「わかった。任せてくれ」
「ありがとう……」
ゼノンは微笑んだ。
そして――
光に包まれたまま、エリナと共に消えていった。
静寂。
広間には、五人だけが残された。
「終わった……」
悠斗は呟いた。
「ようやく……終わった……」
悠斗は地面に座り込んだ。
全身の力が抜けていく。
「悠斗、大丈夫?」
ルーナが駆け寄ってきた。
「ああ……ただ、疲れた……」
「無理もないわ。あなた、ずっと戦いっぱなしだったもの」
ルーナは悠斗の隣に座った。
「でも……よくやったわ」
「みんなのおかげだ」
悠斗は他の三人を見た。
バルトロメウス、グラキエス、セレスティア。
みんな、疲れ切った表情をしている。
「みんな……ありがとう」
悠斗は頭を下げた。
「お前たちがいなかったら、俺一人じゃ絶対に勝てなかった」
「いえ、こちらこそ」
バルトロメウスは微笑んだ。
「あなたのおかげで、私は救われた」
「私も」
グラキエスも頷いた。
「黒月教から抜け出せて、本当に良かった」
「私もです」
セレスティアも微笑んだ。
「これで……世界は救われたのですね」
「ああ」
悠斗は天井を見上げた。
天井の向こうに、白い月が見えた。
黒い月は……消えていた。
「黒い月が……」
「少し小さくなった」
ルーナも空を見上げた。
「ゼノンが死んで、黒月の儀式は失敗に終わった。だから、黒い月の力も弱まったのよ」
「そうか……」
悠斗は安堵のため息をついた。
「これで……本当に終わったんだな」
「ええ」
ルーナは微笑んだ。
「長い戦いだった……」
その時――
グゥゥゥ……
悠斗の腹が、盛大な音を立てた。
「あ……」
悠斗は照れくさそうに腹を押さえた。
「その……腹が……」
「ふふふ」
ルーナは笑った。
「相変わらずね」
「いや、だって戦ってたから……」
「わかってるわ」
ルーナは荷物を漁った。
しかし――
「あれ……」
ルーナは困った顔をした。
「食べ物が……もうない……」
「マジか……」
悠斗は頭を抱えた。
「どうしよう……」
「とりあえず、聖堂から出ましょう」
バルトロメウスが提案した。
「外に出れば、何か食べ物があるはずだ」
「そうだな」
五人は立ち上がり、広間を出た。
聖堂の中を逆戻りしていく。
やがて、聖堂の入口に到着した。
外は、明るい朝日が差し込んでいた。
「朝か……」
悠斗は空を見上げた。
「戦いは……一晩中続いてたのか……」
「そうね」
ルーナも空を見上げた。
「でも……終わったわ」
「ああ」
五人は聖堂の外に出た。
そこには――
「悠斗様! ルーナ様!」
レイナルド宰相が、兵士たちと共に駆け寄ってきた。
「宰相!」
悠斗は驚いた。
「どうして、ここに……」
「あなた方が聖堂に向かったと聞いて、援軍を連れて駆けつけたのです」
レイナルド宰相は深々と頭を下げた。
「遅れてしまい、申し訳ありません」
「いや、大丈夫です。もう終わりました」
「終わった……?」
「はい。ゼノンを倒しました」
悠斗の言葉に、宰相は目を見開いた。
「本当ですか!」
「ええ」
ルーナが頷いた。
「黒月教の計画は、阻止されました」
「そうですか……」
宰相は涙を流した。
「よかった……本当に、よかった……」
宰相は感極まって、地面に膝をついた。
「あなた方は……世界を救ってくださった……」
「いえ、そんな大げさな……」
悠斗は照れくさそうに頭を掻いた。
「俺たちは、ただ……」
「あの、宰相」
ルーナが言った。
「実は、悠斗が空腹で……何か食べ物を……」
「もちろんです!」
宰相は立ち上がった。
「すぐに用意します!」
こうして、五人は宰相が用意した馬車に乗り、王都エルディアへと向かった。
馬車の中で、悠斗は宰相が用意してくれた食事を貪り食った。
パン、肉、チーズ、果物。
悠斗は次々と口に運んでいく。
「おかわり!」
「はい!」
兵士が慌てて食料を運んでくる。
「悠斗……本当にすごい食欲ね……」
ルーナは苦笑した。
「仕方ないだろ。戦ってたんだから」
「わかってるわ」
ルーナは優しく微笑んだ。
馬車は草原を走り続けた。
やがて、王都エルディアの城壁が見えてきた。
「着いた……」
悠斗は窓の外を見た。
王都は、以前と変わらず美しかった。
人々が行き交い、活気に満ちている。
「平和だな……」
「ええ」
ルーナも窓の外を見た。
「この平和を、守れてよかった」
「ああ」
馬車は王城に到着した。
五人は馬車から降り、王城の中へと案内された。
そして――
謁見の間。
エルディア王国の国王が、玉座に座っていた。
「よく来てくださった、悠斗殿、ルーナ殿」
国王は温かい笑顔で五人を迎えた。
「そして、バルトロメウス殿、グラキエス殿、セレスティア」
「お久しぶりです、陛下」
悠斗は頭を下げた。
「黒月教の計画は、阻止されました」
「聞いた」
国王は立ち上がった。
「そなた方は、世界を救ってくれた」
国王は玉座から降り、五人の前に立った。
そして――
深々と頭を下げた。
「心から、感謝する」
「陛下……」
悠斗は驚いた。
「頭を上げてください」
「いや、これは当然のこと」
国王は頭を上げた。
「そなた方は、英雄だ。世界を救った、真の英雄」
国王は宣言した。
「そなた方の功績を、全世界に伝えよう」
こうして、悠斗たちの功績は、大陸中に広まった。
エルディア王国だけでなく、ノルディア帝国、ヴェスタリア公国、アストラル連邦。
すべての国が、悠斗たちを英雄として讃えた。
そして――
王都エルディアでは、盛大な祝賀会が開かれた。
王城の大広間に、各国の代表が集まった。
エルディア王国の国王。
ノルディア帝国の皇帝アレクサンデル三世と、第一皇女イザベラ、第二皇女エリシア。
ヴェスタリア公国の公爵。
アストラル連邦の代表。
そして、悠斗たち五人。
「では、乾杯!」
国王が杯を掲げた。
「世界を救った英雄たちに!」
「乾杯!」
全員が杯を掲げた。
祝賀会は、夜遅くまで続いた。
音楽が奏でられ、料理が振る舞われ、人々が踊った。
悠斗は、大量の料理を平らげながら、祝賀会を楽しんだ。
「悠斗様」
その時、背後から声がした。
振り向くと、エリシアが立っていた。
「エリシア」
「お久しぶりです」
エリシアは微笑んだ。
彼女は美しいドレスを着ており、金髪が月光のように輝いている。
「無事でよかった……」
エリシアの目には、涙が浮かんでいた。
「あなたが……無事で……」
「エリシア……」
「ごめんなさい」
エリシアは涙を拭いた。
「私、心配で……」
「大丈夫だ。もう終わったから」
悠斗は優しく微笑んだ。
「それに、エリシアのおかげで帝国との戦争も回避できた」
「そんな……私は何も……」
「いや、お前の勇気があったからこそだ」
悠斗は真剣な表情で言った。
「お前は、立派な皇女だよ」
「悠斗様……」
エリシアは顔を赤らめた。
その時――
「エリシア」
イザベラ第一皇女が近づいてきた。
「あまり、悠斗殿を独占してはいけませんよ」
「姉様……」
「他の方々も、悠斗殿とお話したいでしょうから」
イザベラは微笑んだ。
「そうですね……」
エリシアは名残惜しそうに頷いた。
「では、また後で……」
エリシアは去っていった。
「悠斗殿」
イザベラは悠斗を見つめた。
「妹を、よろしくお願いします」
「え?」
「妹は、あなたに恋をしています」
イザベラは率直に言った。
「そんな……」
「隠す必要はありません。見ればわかります」
イザベラは微笑んだ。
「ただ……妹を、傷つけないでください」
「はい……」
悠斗は頷いた。
その後、悠斗は多くの人々と話をした。
各国の代表、王国の貴族、そして一般の市民たち。
みんな、悠斗に感謝の言葉を述べた。
「ありがとうございます」
「世界を救ってくれて」
「あなたは英雄です」
悠斗は、照れくさそうに笑いながら、それらの言葉を受け止めた。
祝賀会が終わったのは、深夜だった。
悠斗は、王城の客室に案内された。
部屋に入ると、ルーナがすでにベッドに座っていた。
「お疲れ様」
ルーナは微笑んだ。
「ああ、疲れた……」
悠斗はベッドに倒れ込んだ。
「すごい人だったな……」
「そうね。でも、みんな本当に感謝してたわ」
「まあな……」
悠斗は天井を見上げた。
「でも、俺は英雄なんかじゃない」
「え?」
「ただ、目の前で困ってる人を助けただけだ」
悠斗は静かに言った。
「それだけだよ」
「悠斗……」
ルーナは悠斗の隣に横になった。
「でも、あなたは英雄よ。私にとっても、世界にとっても」
「ルーナ……」
「だから……」
ルーナは悠斗の手を握った。
「胸を張って」
「……ああ」
悠斗は微笑んだ。
二人は、しばらく黙って横になっていた。
静かな夜。
窓の外には、白い月が輝いている。
「なあ、ルーナ」
「何?」
「これから、どうする?」
「どうするって?」
「俺、元の世界に帰れるのかな」
悠斗の問いに、ルーナは少し悲しそうな顔をした。
「わからない……」
ルーナは正直に答えた。
「でも……」
「でも?」
「帰れるとしても……」
ルーナは悠斗を見つめた。
「私と、一緒にいてくれる?」
「え?」
「この世界に、残ってくれる?」
ルーナの目には、不安の色が浮かんでいた。
「私……あなたと離れたくない……」
「ルーナ……」
悠斗は少し考えてから、微笑んだ。
「大丈夫。俺も、お前と離れたくない」
「本当?」
「ああ」
悠斗はルーナの手を握り返した。
「元の世界に戻る方法があっても、俺はここに残る」
「どうして……?」
「だって、お前がいるから」
悠斗は照れくさそうに言った。
「お前と一緒にいたいから」
「悠斗……」
ルーナは涙を流しながら、悠斗に抱きついた。
「ありがとう……」
「いや、こっちがありがとうだ」
悠斗はルーナの背中を優しく撫でた。
「お前が、俺をこの世界に呼んでくれたから、俺は色々な経験ができた」
「悠斗……」
「だから、感謝してる」
二人は抱き合ったまま、しばらく動かなかった。
温かい体温。
優しい香り。
心地よい沈黙。
やがて――
二人は眠りについた。
翌日。
悠斗は、王城の中庭でバルトロメウスとグラキエスに会った。
二人は旅装を整えており、今にも出発しそうな雰囲気だった。
「バルトロメウス、グラキエス」
悠斗は二人に近づいた。
「どこかに行くのか?」
「ああ」
バルトロメウスは頷いた。
「私たちは、旅に出る」
「旅?」
「ああ。世界を見て回ろうと思う」
バルトロメウスは空を見上げた。
「私は長い間、黒月教に囚われていた。外の世界を、ほとんど知らない」
「だから、これから色々な場所を見て回りたいんだ」
「そうか……」
悠斗は寂しそうに微笑んだ。
「寂しくなるな」
「すまない」
バルトロメウスも微笑んだ。
「でも、私はもう自由だ。自分の意志で、行きたい場所に行ける」
「あなたのおかげで」
「俺は何も……」
「いや、あなたが私を救ってくれた」
バルトロメウスは真剣な表情で言った。
「あなたがいなければ、私は今でも黒月教の使徒だっただろう」
「だから、感謝してる」
「バルトロメウス……」
「それに」
グラキエスが言った。
「私も、バルトロメウスと一緒に旅をしたいの」
「グラキエス……」
「私たち、お互いに惹かれ合ってるの」
グラキエスは顔を赤らめた。
「だから……一緒に旅をして、もっとお互いを知りたい」
「そうか……」
悠斗は微笑んだ。
「なら、仕方ないな」
「すまない」
バルトロメウスは頭を下げた。
「でも、いつかまた会おう」
「ああ、絶対にな」
悠斗は手を差し出した。
バルトロメウスは、その手を握った。
「ありがとう、悠斗」
「こっちこそ。気をつけてな」
「ああ」
バルトロメウスとグラキエスは、王城を後にした。
二人の背中を、悠斗は見送った。
「行っちゃったわね」
背後から、ルーナの声がした。
「ああ」
「寂しい?」
「まあな。でも、仕方ない」
悠斗は振り返った。
「二人には、二人の人生がある」
「そうね」
ルーナは悠斗の隣に並んだ。
「でも、私たちにも、私たちの人生があるわ」
「ああ」
二人は王城の中に戻った。
その後、数日間は平和な日々が続いた。
悠斗とルーナは、王城で客人として過ごした。
毎日、豪華な食事が振る舞われ、悠斗は大量に食べた。
戦闘がないため、悠斗の食欲は少し落ち着いていたが、それでも通常の5倍は食べていた。
「悠斗、本当にすごい食欲ね……」
ルーナは毎回、呆れたように悠斗を見ていた。
「仕方ないだろ。腹が減るんだ」
「わかってるわ」
ある日の午後。
悠斗とルーナは、王城の庭園を散歩していた。
庭園は美しく整備されており、色とりどりの花が咲いている。
「綺麗ね」
ルーナは花を見つめた。
「ああ」
悠斗も花を見た。
この世界に来てから、ずっと戦いばかりだった。
こうして、のんびりと花を眺める時間は、久しぶりだった。
「平和だな……」
「ええ」
ルーナは微笑んだ。
「でも、この平和は、私たちが勝ち取ったものよ」
「そうだな」
二人は庭園のベンチに座った。
しばらく、黙って景色を眺めていた。
「なあ、ルーナ」
「何?」
「お前、これからどうするんだ?」
悠斗は尋ねた。
「どうするって?」
「月の女神としての力、まだ完全には戻ってないだろ?」
「ええ……」
ルーナは頷いた。
「今の私は、まだ力の一部しか使えない」
「なら、力を取り戻す方法を探さないとな」
「そうね……」
ルーナは少し考えた。
「でも、どうすればいいのか……」
「記憶を取り戻せば、何かわかるんじゃないか?」
「記憶……」
ルーナは俯いた。
「私の記憶は、まだ断片的なの」
「断片的?」
「ええ。思い出せることもあるけど、思い出せないこともある」
ルーナは頭を押さえた。
「特に、百年前のこと。私がどうやって力を失ったのか、なぜゲームの世界に閉じ込められたのか……」
「それが思い出せない……」
「そうか……」
悠斗は少し考えた。
「なら、記憶を取り戻す方法を探そう」
「でも、どうやって……」
「古代遺跡とか、神殿とか、そういう場所に行けば何かわかるんじゃないか?」
「古代遺跡……」
ルーナは目を輝かせた。
「そうね! 以前、遺跡で記憶の一部を取り戻したわ」
「だろ?」
「なら、他の遺跡にも行ってみれば……」
「もっと記憶を取り戻せるかもしれない」
「ああ」
悠斗は立ち上がった。
「じゃあ、決まりだな。世界中の遺跡を巡ろう」
「ええ!」
ルーナも立ち上がった。
その夜。
悠斗とルーナは、王城の図書館に向かった。
図書館には、膨大な量の本が収められている。
「ここに、遺跡の情報があるはずだ」
悠斗は本棚を眺めた。
「どこから探せばいいかな……」
「あの、お手伝いしましょうか?」
背後から声がした。
振り向くと、セレスティアが立っていた。
「セレスティア」
「お二人とも、何かお探しですか?」
「ああ、古代遺跡の情報を」
「古代遺跡……」
セレスティアは少し考えた。
「それなら、この棚にあるはずです」
セレスティアは図書館の奥に進み、一つの本棚の前で立ち止まった。
「ここに、世界中の遺跡に関する本が集められています」
「ありがとう」
悠斗はセレスティアに礼を言い、本棚から本を取り出し始めた。
『大陸の古代遺跡』
『月の女神の神殿』
『失われた文明の痕跡』
様々な本を読みながら、悠斗とルーナは遺跡の情報を集めた。
「これは……」
ルーナが一冊の本を指差した。
『北方の月の神殿』
「北方……」
悠斗は地図を確認した。
「ノルディア帝国のさらに北か……」
「ええ。この本によれば、そこには月の女神を祀る古代の神殿があるそうよ」
「月の女神の……」
「そこに行けば、もしかしたら私の記憶が……」
ルーナは期待に目を輝かせた。
「よし、じゃあそこに行こう」
「でも……」
セレスティアが心配そうに言った。
「北方は、とても寒い場所です。それに、魔物も多いと聞きます」
「大丈夫」
悠斗は微笑んだ。
「俺たち、黒月教も倒したんだ。魔物くらい、何とかなる」
「そうですね……」
セレスティアは微笑んだ。
「では、私も一緒に行きます」
「え?」
「私は月の巫女です。月の女神に仕える者として、ルーナ様をお守りしたいのです」
「セレスティア……」
ルーナは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう」
「いえ」
セレスティアも微笑んだ。
こうして、三人は北方への旅の準備を始めた。
翌日。
悠斗とルーナ、セレスティアは、国王に旅の許可を求めた。
「北方の神殿に……」
国王は少し考えた。
「確かに、そこは古い神殿があると聞いています」
「はい。そこに行けば、ルーナの記憶が戻るかもしれません」
「わかりました」
国王は頷いた。
「では、馬車と護衛をつけましょう」
「いえ、大丈夫です」
悠斗は首を横に振った。
「俺たち、自分たちで行きます」
「しかし……」
「大丈夫です。俺たちなら、何とかなります」
悠斗の自信に満ちた表情を見て、国王は頷いた。
「わかりました。では、せめて装備と食料を用意させてください」
「ありがとうございます」
こうして、三人は王都を出発することになった。
出発の日。
王城の門の前に、多くの人々が集まっていた。
国王、レイナルド宰相、そして市民たち。
「悠斗殿、ルーナ殿、セレスティア」
国王は三人の前に立った。
「あなた方の旅の無事を祈っています」
「ありがとうございます」
悠斗は頭を下げた。
「では、行ってきます」
三人は王都の門を出た。
門の外には、エリシアとイザベラが待っていた。
「悠斗様」
エリシアは涙を浮かべていた。
「また、会えますよね?」
「ああ、もちろん」
悠斗は微笑んだ。
「必ず、戻ってくる」
「約束……ですよ……」
「ああ、約束だ」
エリシアは安心したように微笑んだ。
「では……気をつけて……」
「ああ」
三人は歩き出した。
王都が、徐々に遠ざかっていく。
「さあ、行きましょう」
ルーナが言った。
「北方の神殿へ」
「ああ」
悠斗は頷いた。
三人の新しい旅が、今始まった――
しかし、その前に。
三人は一度、王城に戻ることにした。
なぜなら――
「あの……」
セレスティアが恥ずかしそうに言った。
「私、旅の準備をまだしていなくて……」
「え?」
悠斗とルーナは驚いた。
「お前、準備してなかったのか?」
「はい……急に決まったので……」
セレスティアは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい……」
「いや、いいけど……」
悠斗は苦笑した。
「じゃあ、一度戻って準備しよう」
「はい!」
三人は王城に戻り、旅の準備を整えた。
そして、翌日。
今度こそ、三人は王都を出発した。
北へ。
ノルディア帝国を越えて、さらに北へ。
長い旅が始まる。
しかし、それはまた別の話――
今は、王都での平和な日々の続きを語ろう。
三人が旅の準備をしていた数日間。
悠斗とルーナは、王城で様々な時間を過ごした。
ある夜。
悠斗は王城の客室で、ベッドに横になっていた。
今日も、一日中旅の準備をしていて疲れていた。
コンコン。
扉がノックされた。
「悠斗、起きてる?」
ルーナの声だ。
「ああ、入っていいぞ」
扉が開き、ルーナが部屋に入ってきた。
彼女は白いナイトドレスを着ており、銀色の髪が月光に照らされて輝いている。
「どうした?」
「その……一緒に、お風呂に入らない?」
「え?」
悠斗は驚いた。
「お、お風呂?」
「ええ。王城には、大きなお風呂があるの」
ルーナは少し恥ずかしそうに言った。
「一緒に入りたいな、って……」
「いや、でも……」
悠斗は戸惑った。
「一緒に入るって……その……」
「だめ……?」
ルーナは上目遣いで悠斗を見つめた。
その表情に、悠斗は抵抗できなかった。
「わ、わかった……」
「本当!?」
ルーナは嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、行きましょう」
二人は王城の浴場に向かった。
浴場は広く、大理石で作られた豪華な造りだった。
中央には大きな浴槽があり、湯気が立ち上っている。
「すごい……」
悠斗は驚いた。
「こんな立派な風呂、初めて見た……」
「ふふふ、王城の風呂だもの」
ルーナは微笑んだ。
「さあ、入りましょう」
ルーナはナイトドレスを脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと待って!」
悠斗は慌てて目を背けた。
「何?」
「その……俺、向こう向いてるから……」
「ふふふ、恥ずかしがり屋ね」
ルーナは笑った。
「でも、もう恋人なんだから、いいじゃない」
「いや、それはそうだけど……」
悠斗は顔を真っ赤にしながら、向こうを向いていた。
やがて、水音が聞こえた。
ルーナが浴槽に入ったようだ。
「悠斗、入っていいわよ」
「あ、ああ……」
悠斗は服を脱ぎ、浴槽に入った。
温かい湯が、疲れた体を癒していく。
「気持ちいい……」
「でしょ?」
ルーナは悠斗の隣に座っていた。
彼女の肌は、湯気に包まれて白く輝いている。
悠斗は、思わず見とれてしまった。
「どうしたの?」
ルーナが不思議そうに悠斗を見た。
「い、いや……その……」
悠斗は慌てて目を逸らした。
「お前、綺麗だなって……」
「え……」
ルーナは顔を赤らめた。
「そんなこと……急に言われたら……恥ずかしいじゃない……」
「ご、ごめん……」
「ううん、嬉しい」
ルーナは微笑んだ。
そして――
ルーナは悠斗に近づいてきた。
「ねえ、悠斗……」
「な、何?」
「背中……流してあげる」
「え?」
「だから、背中を流してあげるって」
ルーナは悠斗の背後に回った。
そして、柔らかい布で悠斗の背中を洗い始めた。
「あ……」
悠斗は思わず声を漏らした。
ルーナの手が、優しく背中を撫でていく。
心地よい感覚。
「どう? 気持ちいい?」
「あ、ああ……」
「ふふふ、よかった」
ルーナは楽しそうに悠斗の背中を洗い続けた。
やがて、背中を洗い終わると、ルーナは再び悠斗の隣に座った。
「ねえ、悠斗」
「何?」
「今度は、私の背中を洗って」
「え?」
「お願い」
ルーナは背中を向けた。
白い背中。
悠斗は、ドキドキしながら布を手に取った。
そして、ルーナの背中を洗い始めた。
「ん……」
ルーナは気持ちよさそうに声を漏らした。
「悠斗の手……優しいわね……」
「そ、そうか?」
「ええ……」
しばらく、二人は黙って背中を洗い合った。
やがて、洗い終わると、二人は浴槽に浸かった。
「気持ちいいわね……」
ルーナは目を閉じた。
「ああ……」
悠斗も目を閉じた。
静かな時間。
湯の音だけが響いている。
「ねえ、悠斗」
「ん?」
「私……幸せ」
ルーナは目を開いて、悠斗を見つめた。
「あなたと一緒にいられて……本当に幸せ」
「ルーナ……」
「これからも……ずっと一緒にいてね」
「ああ、もちろん」
悠斗はルーナの手を握った。
「ずっと一緒だ」
「悠斗……」
ルーナは悠斗に抱きついた。
温かい体温。
優しい香り。
「好き……」
ルーナは小さく呟いた。
「俺も……」
悠斗もルーナを抱きしめた。
二人は、しばらく抱き合ったまま動かなかった。
やがて、二人は風呂から上がり、部屋に戻った。
その夜、二人は同じベッドで眠った。
ルーナは悠斗の腕の中で、安らかな寝顔をしていた。
悠斗は、そんなルーナを見つめながら、思った。
「俺は……本当に幸せだな……」
この世界に来て、色々なことがあった。
戦いもあったし、辛いこともあった。
でも――
ルーナと出会えて、本当によかった。
悠斗は、そっとルーナの髪を撫でた。
そして、目を閉じた。
また別の日。
悠斗は、王城の庭園でセレスティアと二人きりになった。
「あの、悠斗様」
セレスティアは恥ずかしそうに言った。
「少し、お話してもいいですか?」
「ああ、もちろん」
二人は庭園のベンチに座った。
「何か、話があるのか?」
「はい……その……」
セレスティアは顔を赤らめた。
「私……悠斗様のこと……」
「俺のこと?」
「は、はい……」
セレスティアは小さな声で言った。
「尊敬してます……」
「尊敬?」
「はい。悠斗様は、とても強くて、優しくて……」
セレスティアは悠斗を見つめた。
「私を救ってくださいました」
「いや、あれは……」
「それに、世界も救ってくださいました」
セレスティアは涙を浮かべた。
「だから……私……悠斗様のこと……」
「セレスティア……」
「で、でも!」
セレスティアは慌てて言った。
「悠斗様には、ルーナ様がいらっしゃいますから……」
「私は……ただ……尊敬してるだけです……」
セレスティアは俯いた。
「……ごめんなさい……変なこと言って……」
「いや、気にしてない」
悠斗は優しく微笑んだ。
「セレスティアの気持ち、嬉しいよ」
「悠斗様……」
「でも、お前の言う通り、俺にはルーナがいる」
「はい……」
「だから……」
悠斗は少し考えた。
「俺たち、友達でいよう」
「友達……」
「ああ。大切な友達だ」
悠斗はセレスティアの肩を優しく叩いた。
「これからも、よろしくな」
「はい……」
セレスティアは涙を拭いて、微笑んだ。
「こちらこそ……よろしくお願いします……」
その後、セレスティアは立ち上がった。
「では、私はこれで……」
「ああ」
セレスティアは去っていった。
悠斗は、その背中を見送りながら、少し複雑な気持ちになった。
「セレスティアか……」
彼女の気持ちは、わかる。
でも、悠斗にはルーナがいる。
「難しいな……」
悠斗は空を見上げた。
白い月が、静かに輝いていた。
そして、数日が過ぎた。
三人の旅の準備は、ほぼ完了していた。
ある夜。
悠斗、ルーナ、セレスティアは、王城の会議室に集まっていた。
テーブルには、大陸の地図が広げられている。
「では、改めて確認しましょう」
ルーナが地図を指差した。
「私たちは、まず北方の月の神殿を目指します」
「ここだな」
悠斗は地図上の一点を指差した。
「ノルディア帝国のさらに北。氷雪地帯の奥」
「はい」
ルーナは頷いた。
「そこには、古代の月の神殿があるはずです」
「そして、そこで私の記憶を取り戻す」
「ああ」
悠斗は頷いた。
「でも、その前に……」
セレスティアが地図上の別の場所を指差した。
「ここに、月の女神の小さな祠があるそうです」
「祠?」
「はい。ノルディア帝国の国境近くです」
セレスティアは説明した。
「そこは、旅人が立ち寄る場所として知られています」
「なるほど」
悠斗は頷いた。
「じゃあ、まずそこに寄ってから、北方の神殿に向かおう」
「はい」
こうして、三人の旅程が決まった。
翌日。
ついに、三人は王都を出発した。
今度こそ、本当に。
王城の門の前には、また多くの人々が集まっていた。
「悠斗殿、ルーナ殿、セレスティア」
国王は三人の前に立った。
「あなた方の旅の無事を、心より祈っています」
「ありがとうございます」
悠斗は深々と頭を下げた。
「必ず、無事に戻ってきます」
「ええ、信じています」
国王は微笑んだ。
エリシアとイザベラも、門の前に立っていた。
「悠斗様……」
エリシアは涙を堪えていた。
「また、必ず会いに来てくださいね……」
「ああ、約束する」
悠斗は微笑んだ。
「必ず、戻ってくる」
「はい……」
エリシアは涙を拭いた。
「では……気をつけて……」
「ああ」
三人は王都の門を出た。
門の外には、朝日が差し込んでいた。
「さあ、行きましょう」
ルーナが言った。
「新しい旅の始まりよ」
「ああ」
悠斗は頷いた。
三人は歩き出した。
王都が、徐々に遠ざかっていく。
「北方か……」
悠斗は空を見上げた。
「どんな場所なんだろうな」
「寒いでしょうね」
セレスティアが言った。
「でも、きっと美しい場所ですよ」
「そうだといいけど」
ルーナは微笑んだ。
三人は草原を歩き続けた。
風が心地よく吹いている。
鳥のさえずりが聞こえる。
平和な朝だった。
「なあ、ルーナ」
「何?」
「お前、記憶を取り戻したら……どうする?」
悠斗は尋ねた。
「どうするって?」
「女神としての力が戻るんだろ?」
「そうね……」
ルーナは少し考えた。
「でも、力が戻っても、私は変わらないわ」
「え?」
「あなたの隣にいたい」
ルーナは悠斗を見つめた。
「それだけは、変わらない」
「ルーナ……」
「だから……心配しないで」
ルーナは微笑んだ。
「私は、ずっとあなたと一緒よ」
「……ああ」
悠斗も微笑んだ。
三人は歩き続けた。
北へ。
ノルディア帝国へ。
そして、月の神殿へ。
長い旅が、今始まった。
しかし、三人はまだ知らなかった。
この旅が、どれほど困難なものになるかを。
そして――
ルーナの過去に、どんな秘密が隠されているのかを。
それは、これから明らかになる。
数日後。
三人は、ノルディア帝国の国境近くに到着した。
「ここが……国境か」
悠斗は目の前の風景を見つめた。
草原は徐々に終わり、岩山が連なっている。
「ええ」
ルーナは地図を確認した。
「この先が、ノルディア帝国よ」
「寒くなってきたな……」
悠斗は体を震わせた。
確かに、気温が下がってきている。
「もうすぐ、祠があるはずです」
セレスティアが前方を指差した。
「あそこに見えるのが……」
前方に、小さな建物が見えた。
石造りの、質素な建物。
「あれが、月の女神の祠か」
「ええ」
三人は祠に近づいた。
祠の前には、小さな石の像が立っていた。
月の女神の像。
それは、ルーナに似ていた。
「私の……像……」
ルーナは像を見つめた。
「懐かしい……気がする……」
ルーナは像に手を触れた。
すると――
像が、淡く光り始めた。
「え……」
光はどんどん強くなり、やがてルーナの体を包み込んだ。
「ルーナ!」
悠斗は驚いて、ルーナに駆け寄った。
しかし――
光はすぐに消えた。
「大丈夫……」
ルーナは微笑んだ。
「何か……感じた……」
「感じた?」
「ええ。この祠には……私の力の一部が宿ってる……」
ルーナは像を見つめた。
「そして……それが、私に流れ込んできた……」
「力が……戻ったのか?」
「少しだけね」
ルーナは手のひらに光の球を浮かべた。
光の球は、以前よりも大きく、明るくなっていた。
「すごい……」
セレスティアは驚いた。
「ルーナ様の力が、強くなってます……」
「ええ」
ルーナは微笑んだ。
「これで、もっと役に立てるわ」
「よかったな」
悠斗も微笑んだ。
三人は祠を後にし、北へと進み続けた。
ノルディア帝国の領内に入ると、景色は一変した。
雪が降り始め、気温がさらに下がった。
「寒い……」
悠斗は体を震わせた。
「大丈夫?」
ルーナが心配そうに悠斗を見た。
「ああ、なんとか……」
悠斗は厚手のコートを着込んでいたが、それでも寒い。
この世界では、悠斗の体は18センチほど。
小さい体は、熱が逃げやすい。
「悠斗様、これを」
セレスティアが毛布を差し出した。
「ありがとう」
悠斗は毛布を体に巻きつけた。
少し暖かくなった。
「それにしても……」
悠斗は周囲を見回した。
「ノルディア帝国って、こんなに寒いのか……」
「ええ」
ルーナは頷いた。
「帝国は、大陸の北部に位置してるから」
「なるほど……」
三人は雪の中を歩き続けた。
やがて、遠くに街が見えてきた。
「あれは……」
「帝国の街ですね」
セレスティアが地図を確認した。
「ここで、一度休憩しましょう」
「そうだな」
三人は街に入った。
街は雪に覆われていたが、人々は活気に満ちていた。
「ようこそ、旅の方々」
宿屋の主人が、三人を温かく迎えてくれた。
「どうぞ、中へ」
三人は宿屋に入り、部屋を借りた。
部屋には暖炉があり、暖かかった。
「やっと暖かい場所に……」
悠斗は暖炉の前に座った。
「本当に寒かった……」
「お疲れ様」
ルーナは悠斗の隣に座った。
「でも、これからもっと寒くなるわ」
「マジか……」
悠斗は頭を抱えた。
「でも、大丈夫」
ルーナは悠斗の手を握った。
「私が、あなたを守るから」
「ルーナ……」
「だから、安心して」
「……ああ」
悠斗は微笑んだ。
その夜、三人は宿屋で休息を取った。
翌日、三人は街を出発し、さらに北へと進んだ。
雪はどんどん深くなり、気温もさらに下がった。
「寒い……」
悠斗は歯を鳴らしながら歩いた。
「もう少しです」
セレスティアが地図を確認しながら言った。
「あと数日で、月の神殿に着くはずです」
「よし……頑張ろう……」
三人は雪の中を歩き続けた。
途中、いくつかの魔物に遭遇したが、悠斗が軽く倒した。
寒さで体は冷えているが、悠斗の力は健在だった。
そして――
数日後。
三人は、ついに目的地に到着した。
「あれが……」
悠斗は目の前の光景を見つめた。
雪に覆われた山の中腹に、巨大な神殿が立っていた。
白い石で作られた、美しい神殿。
月の光を受けて、神秘的に輝いている。
「月の神殿……」
ルーナは感動したように呟いた。
「私の……神殿……」
「行こう」
悠斗は前に進んだ。
三人は神殿の入口に到着した。
入口には、巨大な扉があった。
扉には、月の女神の紋章が刻まれている。
「開けるぞ」
悠斗は扉を押した。
しかし、扉は動かない。
「硬い……」
「待って」
ルーナが前に出た。
「私がやってみる」
ルーナは扉に手を触れた。
すると――
扉が、淡く光り始めた。
そして――
ゆっくりと、扉が開いた。
「開いた……」
三人は神殿の中に入った。
神殿の内部は、広く美しかった。
壁には、月の女神の壁画が描かれている。
床には、月の光を反射する白い石が敷き詰められている。
「綺麗……」
セレスティアは感嘆の声を上げた。
「本当に……美しいです……」
「ええ……」
ルーナも感動していた。
「ここは……私の神殿……」
ルーナは涙を流した。
「懐かしい……」
「ルーナ……」
悠斗はルーナの肩を優しく抱いた。
「大丈夫か?」
「ええ……ただ……」
ルーナは涙を拭いた。
「嬉しいの……ここに来られて……」
三人は神殿の奥へと進んだ。
奥には、祭壇があった。
祭壇の上には、月の形をした石が置かれている。
「あれは……」
「月の石……」
ルーナは呟いた。
「私の力の源……」
ルーナは祭壇に近づいた。
そして、月の石に手を触れた。
すると――
石が、激しく光り始めた。
光はルーナの体を包み込み、神殿全体に広がった。
「うわっ!」
悠斗とセレスティアは、まぶしくて目を閉じた。
やがて、光は収まった。
「ルーナ!」
悠斗は目を開けた。
ルーナは祭壇の前に立っていた。
彼女の体は、以前よりも強く輝いている。
「ルーナ……お前……」
「私……思い出したわ……」
ルーナは振り返った。
その目には、涙が浮かんでいた。
「……思い出した……」
悠斗は、ルーナに駆け寄った。
「話してくれ。お前の過去を」
「ええ……」
ルーナは頷いた。
「話すわ」
こうして、ルーナは自分の過去を語り始めた――
しかし、その話は長くなりそうだ。
今は、ここで区切ろう。
三人の旅は、まだ始まったばかり。
ルーナの過去。
そして、これから訪れる新たな試練。
すべては、次の物語で語られる。
今は――
三人が無事に神殿に到着したことを喜ぼう。
そして、これからの冒険に期待しよう。
月の光が、三人を照らしている。
その光は、希望の光。
未来への光――
こんにちは、ルーナです。
この話では、ついにゼノンとの長い戦いが終わりました。彼の苦しみと、エリナへの想いを目の当たりにして、私の胸は今でも痛みます。愛する人を失う悲しみが、百年もの憎しみに変わってしまったこと……もっと早く、何かできていたら。
でも、最後にエリナと再会できて、ゼノンが安らかに旅立てたことは、せめてもの救いでした。
王都での休息は短いものでしたが、悠斗と過ごした時間は本当に幸せでした。セレスティアの気持ちにも気づいていましたが、彼女は本当に素直で優しい子ですね。
そして――私たちは新たな旅へ。北方の月の神殿で、私はついに失っていた記憶を取り戻しました。でも、それは新たな物語の始まりに過ぎないのです。
どうか、最後まで見守っていてください。
月の光と共に――ルーナ




