第15話 「黒月の化身 ~最終決戦の幕開け~」
五人――悠斗、ルーナ、バルトロメウス、セレスティア、そしてグラキエス――は、第八階層の大広間で、アルヴィンと対峙していた。
アルヴィンの周囲には、黒い霧が立ち上り、その瞳には狂気と憎悪が宿っている。
「行くぞ!」
悠斗が叫び、地面を蹴った。
跳躍で、一気にアルヴィンに肉薄する。
「遅い!」
アルヴィンは杖を振るった。
黒い霧が、無数の黒い矢となって悠斗に向かって放たれた。
「くっ!」
悠斗は空中で体をひねり、矢を避けた。
しかし、矢は悠斗を追尾してくる。
「月の盾!」
ルーナが両手を広げた。
悠斗の周囲に、銀色の光の盾が展開される。
黒い矢が盾に当たり、消滅した。
「ありがとう、ルーナ!」
悠斗は着地し、再びアルヴィンに突進した。
「影の檻!」
バルトロメウスが叫んだ。
アルヴィンの足元から、黒い影が這い上がり、彼の体を捕らえようとする。
「ふん!」
アルヴィンは杖を地面に突き刺した。
すると、黒い霧が爆発的に広がり、影を吹き飛ばした。
「私の黒月の力は、お前の影魔法など比べ物にならん!」
「氷結の槍!」
グラキエスが氷の槍を生成し、アルヴィンに向かって放った。
槍は猛烈な速度で飛んでいく。
しかし――
アルヴィンは杖を一振りしただけで、槍を粉々に砕いた。
「無駄だ」
アルヴィンは冷たく言った。
「お前たちの攻撃など、すべて無意味だ」
「月光の矢!」
ルーナが光の矢を放った。
セレスティアも杖を振るい、治癒の光を悠斗たちに浴びせる。
「全員で攻めるぞ!」
悠斗が叫んだ。
五人は一斉にアルヴィンに向かって攻撃を開始した。
悠斗の拳。
ルーナの光の矢。
バルトロメウスの影の剣。
グラキエスの氷の刃。
セレスティアの光の魔法。
しかし――
「黒月の障壁!」
アルヴィンは杖を高く掲げた。
すると、彼の周囲に巨大な黒い球体が形成された。
すべての攻撃が、球体に当たって弾かれる。
「なんだと!?」
悠斗は驚いた。
「言っただろう。無駄だと」
アルヴィンは球体の中から、冷たい声で言った。
「私は、五十年間、黒月の力を研究してきた。お前たちごときに、負けるはずがない」
球体が消え、アルヴィンが姿を現した。
彼の周囲には、さらに濃密な黒い霧が渦巻いている。
「さあ、今度は私の番だ」
アルヴィンは杖を振るった。
その瞬間――
広間全体が、黒い霧に包まれた。
「何だ、これ!」
悠斗は周囲を見回したが、何も見えない。
真っ暗闇。
いや、ただの暗闇ではない。
光を吸収する、絶対的な闇。
「悠斗!」
ルーナの声が聞こえた。
しかし、姿が見えない。
「ルーナ! どこだ!」
「ここよ!」
声の方向に走ろうとしたが――
ドガッ!
何かに激突した。
「うっ!」
悠斗は倒れた。
「これは……黒月の闇」
バルトロメウスの声が響いた。
「光を完全に吸収する、絶対的な闇だ。視界が完全に遮断される」
「どうすればいいんだ!」
悠斗は叫んだ。
その時――
「黒の炎!」
アルヴィンの声が響き、闇の中から黒い炎が襲いかかってきた。
「うわっ!」
悠斗は横に転がって避けた。
炎が地面を焼き尽くす。
「次はどこから来る……!」
悠斗は必死に周囲を警戒した。
しかし、何も見えない。
「月の光よ、闇を照らせ!」
ルーナの声が響いた。
すると、闇の中に小さな光が灯った。
月光のような、柔らかい光。
光は徐々に広がり、闇を押し返していく。
「やった!」
悠斗は光の中にルーナの姿を見つけた。
彼女は両手を高く掲げ、全身から光を放っている。
「でも……これが限界……」
ルーナは苦しそうに言った。
光はわずか数メートルの範囲しか照らせていない。
「ならば、これで終わりだ!」
アルヴィンの声が響き、闇の中から巨大な黒い魔法陣が現れた。
魔法陣は回転し、そこから無数の黒い矢が放たれた。
「みんな、伏せろ!」
悠斗は叫んだ。
五人は地面に伏せた。
黒い矢が、彼らの頭上をかすめていく。
「くそ……このままじゃ……」
悠斗は歯噛みした。
その時――
「待って……私に考えがあるわ」
グラキエスが言った。
「何だ?」
「私の氷の魔法で、闇を凍らせる」
「闇を……凍らせる?」
「ええ。闇も、一種のエネルギー。ならば、凍結させることができるはず」
グラキエスは杖を握りしめた。
「でも、成功するかはわからない。試したことがないから」
「やってみてくれ!」
悠斗は言った。
「わかったわ」
グラキエスは目を閉じ、集中した。
彼女の周囲に、冷気が立ち上る。
気温が急激に下がっていく。
「絶対零度の氷結!」
グラキエスが叫んだ。
すると、彼女の周囲から、青白い氷の波が広がっていった。
波は闇に触れると、闇を凍らせていく。
闇が、まるでガラスのように固まっていく。
「すごい……」
悠斗は驚いた。
凍った闇は、透明になり、向こう側が見えるようになった。
「今よ!」
グラキエスが叫んだ。
「凍った闇を壊して!」
「わかった!」
悠斗は拳を握りしめ、凍った闇に向かって全力で殴った。
ドゴォォン!!
凍った闇が、粉々に砕け散った。
すると、広間全体が再び見えるようになった。
「やった!」
「まだよ!」
ルーナが叫んだ。
「アルヴィンを倒さないと!」
五人は、広間の中央にいるアルヴィンを見つめた。
アルヴィンは、驚いた表情をしていた。
「まさか……私の黒月の闇を破るとは……」
「お前の魔法は、確かに強い」
悠斗は言った。
「でも、俺たちは五人だ。一人じゃない」
「その通りよ」
ルーナが悠斗の隣に並んだ。
「私たちは、仲間。一緒なら、どんな敵にも勝てる」
「……フン」
アルヴィンは鼻で笑った。
「仲間……か。そんなものに、何の価値がある」
アルヴィンは杖を握りしめた。
「私は、かつて仲間を信じていた。王国を信じていた。月の女神を信じていた」
アルヴィンの目に、深い悲しみが浮かんだ。
「しかし、すべてが裏切った。私の妻も、娘も、すべて奪われた」
「それは……」
ルーナが言葉を詰まらせた。
「だから、私は信じない。仲間など、幻想だ」
アルヴィンは杖を高く掲げた。
「私が信じるのは、ただ一つ。黒月の力だけだ!」
アルヴィンの体から、黒い霧が爆発的に噴き出した。
霧は渦を巻き、巨大な竜巻となって広間を包み込む。
「なんだ、これ!」
悠斗は風に煽られ、体が浮きそうになった。
「黒月の嵐!」
アルヴィンが叫んだ。
竜巻の中から、無数の黒い刃が現れた。
刃は高速で回転し、五人に向かって襲いかかってくる。
「みんな、集まって!」
ルーナが叫んだ。
五人は円陣を組んだ。
「月の結界!」
ルーナは両手を広げた。
五人の周囲に、銀色の光の結界が展開される。
黒い刃が結界に当たり、弾かれた。
しかし、刃の数があまりにも多い。
結界にヒビが入り始めた。
「持たない……!」
ルーナは苦しそうに呻いた。
「私も手伝うわ!」
セレスティアが杖を掲げた。
「聖なる光の結界!」
セレスティアの光の結界が、ルーナの結界に重なった。
結界が強化され、ヒビが修復されていく。
「ありがとう、セレスティア!」
「でも、これも長くは持ちません!」
セレスティアは必死に魔力を注ぎ込んでいた。
「くそ……このままじゃジリ貧だ……」
悠斗は歯噛みした。
その時――
バルトロメウスが言った。
「悠斗、一つ提案がある」
「何だ?」
「私の影の魔法で、アルヴィンの影を捕らえる。その隙に、お前が攻撃する」
「でも、あの嵐の中に入るのは……」
「大丈夫だ。グラキエスと協力する」
バルトロメウスはグラキエスを見た。
「グラキエス、私の影の道を、お前の氷で固めてくれ」
「わかったわ」
グラキエスは頷いた。
「でも、タイミングが重要よ。私の氷が固まる前に、影の道を通らないと」
「任せろ」
バルトロメウスは影の剣を構えた。
「では、行くぞ。影の道!」
バルトロメウスは影の剣を地面に突き刺した。
すると、彼の足元から黒い影が伸びていった。
影は蛇のように地面を這い、嵐の中へと突入していく。
「氷結の道!」
グラキエスが杖を振るった。
バルトロメウスの影の上に、氷が形成されていく。
影が氷に覆われ、固い道となった。
「悠斗、今だ!」
「わかった!」
悠斗は氷の道に飛び乗った。
そして、全速力で走り出した。
嵐の中。
黒い刃が四方八方から襲いかかってくる。
しかし、悠斗の目には、その動きがスローモーションに見えた。
「遅い!」
悠斗は刃を避けながら、走り続けた。
氷の道は真っ直ぐアルヴィンに向かって伸びている。
「もうすぐだ……!」
悠斗はアルヴィンまで、あと数メートルに迫った。
しかし――
「甘い!」
アルヴィンは杖を振るった。
すると、悠斗の目の前に巨大な黒い壁が現れた。
「うわっ!」
悠斗は咄嗟に拳を振るった。
ドガァッ!
壁にヒビが入るが、壊れない。
「くそ、硬い!」
「黒月の壁は、絶対に破れない」
アルヴィンは冷笑した。
「お前の力では無理だ」
「そうかな!」
悠斗は再び拳を振るった。
一発、二発、三発。
連続で壁を殴り続ける。
ヒビが徐々に広がっていく。
「諦めが悪い!」
アルヴィンは杖を振るい、黒い刃を悠斗に向かって放った。
「うっ!」
悠斗は刃を避けようとしたが――
一つの刃が、悠斗の肩をかすめた。
「ぐあっ!」
悠斗は痛みに顔を歪めた。
血が流れる。
「悠斗!」
ルーナが叫んだ。
「大丈夫だ!」
悠斗は歯を食いしばった。
「これくらい……!」
悠斗は再び壁を殴った。
四発、五発、六発。
ついに――
バリィィン!
壁が砕け散った。
「よし!」
悠斗は壁を突破し、アルヴィンに肉薄した。
「くっ……!」
アルヴィンは後退しようとしたが――
「影の鎖!」
バルトロメウスの影が、アルヴィンの足を捕らえた。
「な……!」
「今だ、悠斗!」
「ああ!」
悠斗は拳を引き絞った。
全身の力を込めて――
「うおおおおおお!!」
悠斗の拳が、アルヴィンの腹部に直撃した。
ドゴォォォン!!
凄まじい衝撃音が響いた。
アルヴィンの体が、吹き飛んだ。
彼は広間の壁に激突し、そのまま崩れ落ちた。
黒い嵐が消え、静寂が訪れた。
「やった……のか?」
悠斗は荒い息をついた。
「まだよ!」
ルーナが叫んだ。
「まだ魔力の反応がある!」
「なんだと!」
悠斗は驚いて、アルヴィンを見た。
アルヴィンは、ゆっくりと立ち上がった。
口から血を流しながら。
「ハハ……ハハハ……」
アルヴィンは笑った。
「素晴らしい……本当に、素晴らしい……」
「まだ戦うつもりか!」
「当然だ」
アルヴィンは杖を握りしめた。
「私は、すべてを賭けてここまで来た。今さら諦めるわけにはいかない」
アルヴィンの体から、さらに強い黒い霧が立ち上った。
霧は彼の体を包み込み、形を変えていく。
「これは……変身……?」
悠斗は驚いた。
「黒月の真の力を、見せてやる」
アルヴィンが叫んだ。
すると――
彼の体が、急激に膨れ上がった。
身長が伸びていく。
腕が太くなり、筋肉が隆起する。
顔が歪み、目が黒く染まる。
「うわっ……何だあれ……」
悠斗は思わず後ずさった。
やがて、変身が完了した。
そこには、巨大な黒い怪物が立っていた。
身長約5メートル。全身が黒い鱗で覆われ、背中には黒い翼が生えている。手には長い爪があり、口からは黒い炎が漏れている。
「これが……私の真の姿だ」
怪物化したアルヴィンが、低い声で言った。
「黒月の力を完全に取り込んだ、究極の存在」
「やばい……」
悠斗は冷や汗をかいた。
怪物化したアルヴィンから放たれる圧倒的な魔力。
それは、今までの比ではなかった。
「さあ、来るがいい」
アルヴィンは両手を広げた。
「お前たち全員で来ても、私には勝てない」
「それはどうかな!」
悠斗は叫んだ。
「みんな、行くぞ!」
「ええ!」
五人は一斉にアルヴィンに向かって突進した。
悠斗が先頭を切り、拳を振るう。
しかし――
アルヴィンは軽く手を振っただけで、悠斗を吹き飛ばした。
「うわっ!」
悠斗は壁に激突した。
「悠斗!」
ルーナが光の矢を放った。
バルトロメウスが影の剣で斬りかかった。
グラキエスが氷の槍を投げた。
セレスティアが光の魔法を放った。
しかし――
すべての攻撃が、アルヴィンに当たる前に黒い霧に吸収された。
「無駄だ」
アルヴィンは冷たく言った。
「お前たちの攻撃など、もはや届かない」
アルヴィンは口を開き、黒い炎を吐き出した。
巨大な炎の奔流が、五人に向かって襲いかかる。
「月の盾!」
ルーナは急いで結界を展開した。
しかし、炎の威力があまりにも強く、結界が砕け散った。
「きゃあ!」
ルーナは吹き飛ばされた。
「ルーナ!」
悠斗は立ち上がり、ルーナに駆け寄った。
「大丈夫か!」
「え、ええ……でも……」
ルーナは苦しそうに顔を歪めた。
「魔力が……もうほとんど残ってない……」
「くそ……」
悠斗は歯噛みした。
他の三人も、疲労の色が濃い。
バルトロメウスは膝をついている。
グラキエスは杖を支えにして立っている。
セレスティアは荒い息をついている。
「このままじゃ……全滅する……」
悠斗は絶望しかけた。
その時――
「ハハハハハ!」
アルヴィンの哄笑が響いた。
「どうした、もう終わりか? たったこれだけか?」
アルヴィンは五人を見下ろした。
「失望したぞ。お前たちには、もっと期待していたのだが」
「くそ……」
悠斗は拳を握りしめた。
まだだ。
まだ諦めるわけにはいかない。
「みんな……立てるか?」
悠斗は仲間たちを見た。
「ええ……なんとか……」
ルーナが立ち上がった。
バルトロメウス、グラキエス、セレスティアも、なんとか立ち上がる。
「もう一度……行くぞ」
「でも、どうやって……」
グラキエスが言った。
「あいつ、強すぎるわ。まともに攻撃が通らない」
「なら……」
悠斗は考えた。
どうすれば、あの怪物を倒せるのか。
その時――
セレスティアが言った。
「あの……一つ、思いついたことがあります」
「何だ?」
「あの怪物、確かに強いです。でも……魔力の流れを見ると、一箇所だけ……」
セレスティアは怪物化したアルヴィンを見つめた。
「胸の中央に、黒い核のようなものが見えます」
「核……?」
「ええ。おそらく、あれが黒月の力の源です。あれを破壊すれば……」
「倒せる、かもしれない」
悠斗は頷いた。
「わかった。じゃあ、あの核を狙う」
「でも、どうやって近づくの?」
グラキエスが尋ねた。
「あいつ、近づくだけで攻撃してくるわ」
「なら……」
バルトロメウスが言った。
「私たち四人で、動きを止める」
「動きを止める……?」
「ああ。ルーナとグラキエスとセレスティアと私で、あいつの動きを封じる。その隙に、悠斗が核を破壊する」
「でも、それって……」
ルーナが心配そうに言った。
「私たち、かなり危険じゃない?」
「ああ。下手をすれば、全員やられる」
バルトロメウスは真剣な表情で言った。
「でも、他に方法はない。これが、最後のチャンスだ」
悠斗は少し考えてから、頷いた。
「わかった。お前たちに任せる」
「ええ」
四人は頷いた。
「では、行くぞ」
バルトロメウスは影の剣を構えた。
「ルーナ、グラキエス、セレスティア、準備はいいか?」
「ええ」
三人は魔法を準備した。
「では……今だ!」
バルトロメウスが叫んだ。
四人は一斉に魔法を放った。
バルトロメウスの影の鎖。
ルーナの月の光の鎖。
グラキエスの氷の鎖。
セレスティアの聖なる光の鎖。
四つの鎖が、アルヴィンに向かって伸びていった。
「何!?」
アルヴィンは驚いた。
鎖は彼の手足に巻きつき、動きを封じようとする。
「くっ……!」
アルヴィンは力を込めて、鎖を引きちぎろうとした。
しかし、四人の魔法が同時に彼を縛っているため、簡単には外せない。
「今よ、悠斗!」
ルーナが叫んだ。
「わかった!」
悠斗は地面を蹴った。
跳躍で、アルヴィンの胸の高さまで飛び上がる。
そして――
拳を引き絞った。
全身の力を、すべて拳に込める。
「うおおおおおおお!!」
悠斗の拳が、アルヴィンの胸の中央――黒い核に向かって突き進んだ。
「させるか!」
アルヴィンは叫び、黒い霧を放出した。
霧が悠斗に襲いかかる。
しかし――
「月の加護!」
ルーナが叫んだ。
悠斗の体が、月の光に包まれた。
光が霧を押し返す。
「行け、悠斗!」
「ああ!」
悠斗の拳が、ついに核に到達した。
そして――
ドゴォォォォン!!
核が砕け散った。
「ぐあああああああ!!」
アルヴィンは絶叫した。
彼の体から、黒い霧が噴き出す。
霧は消えていき、アルヴィンの巨体が縮小していく。
やがて、彼は元の人間の姿に戻った。
そして――
地面に倒れた。
「ハァ……ハァ……」
悠斗は荒い息をついた。
「やった……のか?」
四人も、鎖を解いて悠斗の元に駆け寄った。
「悠斗、大丈夫?」
「ああ……なんとか……」
悠斗は地面に降り立った。
五人は、倒れたアルヴィンを見つめた。
アルヴィンは、もう動かない。
「終わった……のか……」
悠斗は呟いた。
しかし――
その時だった。
広間の天井が、突然開いた。
「何!?」
五人は驚いて上を見た。
天井の向こうから、一人の人影が降りてきた。
黒いローブを纏った。
そして、狂気に満ちた瞳。
「ゼノン……!」
バルトロメウスが叫んだ。
「教祖……!」
ゼノンは、ゆっくりと地面に降り立った。
そして、倒れたアルヴィンを見下ろした。
「アルヴィン……お前は、よくやった」
ゼノンは静かに言った。
「お前の五十年間の研究は、無駄ではなかった」
ゼノンはアルヴィンの体に手を当てた。
すると――
アルヴィンの体から、黒い霧が再び立ち上った。
「何をする気だ!」
悠斗は叫んだ。
「簡単なことだ」
ゼノンは冷たく微笑んだ。
「アルヴィンに、さらなる力を与える」
ゼノンの手から、黒い光が放たれた。
光はアルヴィンの体に注ぎ込まれていく。
「やめろ!」
悠斗はゼノンに向かって走った。
しかし――
「遅い」
ゼノンは手を振った。
すると、悠斗の前に黒い壁が現れ、悠斗を弾き飛ばした。
「うわっ!」
悠斗は地面に叩きつけられた。
「悠斗!」
ルーナたちが駆け寄ろうとしたが――
ゼノンは再び手を振り、四人を壁で阻んだ。
「誰も、邪魔はさせない」
ゼノンは静かに言った。
そして、アルヴィンへの魔力注入を続けた。
アルヴィンの体が、徐々に変化していく。
皮膚が黒く染まり、体が膨れ上がる。
さらに、背中から黒い触手のようなものが生えてきた。
顔が歪み、口が裂けて、鋭い牙が現れた。
「うわ……何だあれ……」
悠斗は恐怖を感じた。
アルヴィンは、もはや人間の姿をしていなかった。
異形の怪物。
まるで、悪夢から這い出てきたような存在。
「これが……黒月の真の力」
ゼノンは満足そうに微笑んだ。
「アルヴィンは、今や純粋な黒月の化身だ」
異形化したアルヴィンが、ゆっくりと立ち上がった。
「グオオオオオ……」
低い唸り声が、広間に響いた。
その声には、もはや人間の理性は感じられなかった。
「さあ、アルヴィン」
ゼノンは命令した。
「彼らを殺せ」
「グオオオオオ!!」
アルヴィンは咆哮し、五人に向かって突進した。
「やばい!」
悠斗は立ち上がった。
「みんな、散れ!」
五人は左右に散った。
アルヴィンの突進が、地面を抉る。
「くそ、速い……!」
悠斗は驚いた。
異形化したアルヴィンは、以前よりもさらに速く、強くなっていた。
「月光の矢!」
ルーナが矢を放った。
しかし、矢はアルヴィンの体に当たっても、まったくダメージを与えられない。
「効かない……!」
「氷結の槍!」
グラキエスが槍を投げた。
しかし、これも効果がない。
「影の剣!」
バルトロメウスが斬りかかった。
剣はアルヴィンの体に当たったが、弾かれた。
「硬い……!」
「聖なる光!」
セレスティアが光の魔法を放った。
光がアルヴィンを包む。
しかし――
「グルルル……」
アルヴィンは光を吸収してしまった。
「そんな……」
セレスティアは絶望した。
「どうすれば……」
「くそ……」
悠斗は歯噛みした。
この怪物、どうやって倒せばいいんだ……
その時――
ゼノンが言った。
「無駄だ。お前たちに、アルヴィンは倒せない」
ゼノンは腕を組んだ。
「彼は、もはや不死身だ。どんな攻撃も効かない」
「不死身……」
悠斗は絶望しかけた。
しかし――
その時、ルーナが言った。
「待って……不死身なんて、ありえない」
ルーナはアルヴィンを見つめた。
「どんな存在にも、必ず弱点がある」
「でも、どこに……」
「わからない。でも……」
ルーナは悠斗を見た。
「私たち、諦めないわよね?」
「ああ」
悠斗は頷いた。
「諦めるわけにはいかない。ここで負けたら、世界が終わる」
悠斗は拳を握りしめた。
「もう一度……攻撃するぞ」
「ええ」
五人は再び、アルヴィンに向かって攻撃を開始した。
しかし――
やはり、すべての攻撃が効かない。
アルヴィンは五人を次々と吹き飛ばしていく。
「ぐあっ!」
「きゃあ!」
「うっ!」
五人は地面に叩きつけられた。
「もう……だめなのか……」
悠斗は意識が朦朧としてきた。
体が動かない。
魔力も、体力も、限界だ。
「このまま……終わるのか……」
その時――
ルーナが、悠斗の手を握った。
「悠斗……まだよ」
ルーナは血を流しながらも、微笑んでいた。
「まだ、諦めないで」
「ルーナ……」
「私たち、ここまで来たのよ。今さら諦められない」
ルーナは立ち上がった。
「みんな、立って」
ルーナの言葉に、バルトロメウス、グラキエス、セレスティアも立ち上がった。
「もう一度……協力しましょう」
ルーナは三人を見た。
「バルトロメウス、グラキエス、セレスティア。私たちの魔法を、一つに合わせるの」
「一つに……?」
「ええ。四人の魔法を同時に発動して、あの怪物の動きを止める」
ルーナは決意を込めて言った。
「そして、悠斗が止めを刺す」
「でも、前にもそれをやって……」
「今度は違うわ」
ルーナは悠斗を見た。
「前は、核を狙った。でも今回は……」
ルーナはアルヴィンを見つめた。
「セレスティア、もう一度魔力の流れを見て」
「はい」
セレスティアは目を凝らして、アルヴィンを見つめた。
「……あ」
セレスティアは何かに気づいた。
「あの……頭の中央に、小さな光が見えます」
「光……?」
「ええ。それは……おそらく、アルヴィンの本来の魂です」
セレスティアは真剣な表情で言った。
「あの光を守るために、体全体が黒月の力で覆われているんです」
「なら……」
悠斗は理解した。
「あの光を解放すれば……」
「ええ。アルヴィンは、元に戻るかもしれません」
「わかった」
悠斗は立ち上がった。
「じゃあ、行くぞ」
「ええ」
四人は円陣を組んだ。
「では、魔法を合わせます」
ルーナが宣言した。
「月の力!」
「影の力!」
「氷の力!」
「聖なる光の力!」
四人は同時に魔法を発動した。
四つの魔法が、一つに融合していく。
銀色の月光、黒い影、青白い氷、そして聖なる白い光。
それらが混ざり合い、美しい虹色の光となった。
「これが……私たちの力」
ルーナは微笑んだ。
「行くわよ!」
四人は、虹色の光をアルヴィンに向かって放った。
光は彼を包み込み、動きを止めた。
「グオオオ!」
アルヴィンは抵抗しようとしたが、四人の力に押さえつけられて動けない。
「今よ、悠斗!」
「ああ!」
悠斗は地面を蹴った。
最後の力を振り絞り、全力の跳躍。
そして――
アルヴィンの頭部に向かって、拳を振り下ろした。
「うおおおおお!!」
悠斗の拳が、アルヴィンの頭部に直撃した。
ドゴォォォン!!
凄まじい衝撃。
アルヴィンの体から、黒い霧が一気に噴き出した。
霧は消えていき――
やがて、アルヴィンは元の人間の姿に戻った。
「ハァ……ハァ……」
アルヴィンは地面に倒れた。
しかし、今度は死んではいなかった。
「……私は……」
アルヴィンは呟いた。
「私は……何を……」
アルヴィンの目から、涙が流れた。
「妻よ……娘よ……許してくれ……」
アルヴィンは静かに目を閉じた。
そして――
動かなくなった。
「終わった……」
悠斗は地面に膝をついた。
「ようやく……終わった……」
五人は、疲労困憊していた。
しかし――
その時だった。
「ブラボー」
ゼノンの拍手が響いた。
「素晴らしい。本当に、素晴らしい」
ゼノンは五人を見下ろした。
「お前たち、よくぞアルヴィンを倒した」
「ゼノン……」
悠斗は睨みつけた。
「お前が、すべての元凶か」
「元凶……か」
ゼノンは微笑んだ。
「そうかもしれないな。確かに、私がこの計画を始めた」
ゼノンは両手を広げた。
「黒月の儀式。世界を滅ぼす計画」
「なぜだ……」
悠斗は立ち上がった。
「なぜ、世界を滅ぼそうとする?」
「それは……」
ゼノンは遠くを見つめた。
「話せば長くなるが……聞きたいか?」
「ああ」
「では、話そう」
ゼノンは語り始めた。
「私は、かつて月の女神を信仰していた」
ゼノンの目に、遠い記憶が浮かんだ。
「百年以上前。私はまだ若く、ある村の神官だった」
「神官……」
「ああ。月の女神に仕える、敬虔な神官だった」
ゼノンは静かに語った。
「私には、愛する妻がいた。美しく、優しい女性だった」
ゼノンの声が、わずかに震えた。
「私たちは幸せだった。村人たちと共に、月の女神を信仰し、平和に暮らしていた」
「それが……なぜ……」
「ある日、村に疫病が流行った」
ゼノンの表情が曇った。
「恐ろしい病だった。感染した者は、数日で死んでしまう」
「……」
「私は、月の女神に祈った。毎日、毎晩、祈り続けた」
ゼノンは拳を握りしめた。
「『どうか、妻を助けてください』と」
「でも……」
「月の女神は、何もしてくれなかった」
ゼノンの声が、怒りに震えた。
「私は、あれほど信仰していたのに。あれほど祈ったのに」
「妻は……死んだ」
ゼノンは目を閉じた。
「私の腕の中で、苦しみながら死んでいった」
「……」
悠斗たちは、黙って聞いていた。
「その時、私は悟った」
ゼノンは目を開いた。
「月の女神は、偽りの神だと」
「違う!」
ルーナが叫んだ。
「私は、偽りの神なんかじゃない!」
「黙れ」
ゼノンは冷たく言った。
「お前は、人々を救わなかった。お前は、私の妻を見殺しにした」
「それは……」
ルーナは言葉を詰まらせた。
「私だって……すべての人を救えるわけじゃ……」
「言い訳するな」
ゼノンは叫んだ。
「神ならば、すべての人を救うべきだ。それができないなら、神など不要だ」
ゼノンは両手を広げた。
「だから、私は決めた。この世界を滅ぼすと、私とにた境遇の仲間もできた」
「世界を滅ぼして……どうする」
悠斗が尋ねた。
「新しい世界を作る」
ゼノンは宣言した。
「月の女神のいない、新しい世界を」
「そんなこと……できるわけない……」
「できる」
ゼノンは確信を込めて言った。
「私は、百年間研究してきた。月と、黒月について」
ゼノンは天井を見上げた。
「そして、知った。黒月が、破壊の力を持っていることを」
「黒月……」
「そうだ。白い月が生命と秩序を司るなら、黒い月は破壊と混沌を司る」
ゼノンは微笑んだ。
「ならば、黒月の力を利用すれば、この世界を破壊できる」
「そして……」
「破壊の後に、新しい世界が生まれる」
ゼノンは力強く言った。
「月の女神のいない、完璧な世界が」
「そんな……狂ってる……」
悠斗は呟いた。
「狂ってる?」
ゼノンは笑った。
「ハハハ、そうかもしれないな。だが、私は本気だ」
ゼノンは黒いローブを脱ぎ捨てた。
その下には、筋肉質な体が現れた。
そして――
胸の中央に、黒い紋章が刻まれていた。
「これは……」
「クルエンタの実験によるものだ」
ゼノンは胸の紋章に手を当てた。
「クルエンタは、血の錬金術師として優秀だった。彼は、黒月の力を人体に取り込む方法を研究していた」
「まさか……」
「そうだ」
ゼノンは微笑んだ。
「私は、クルエンタの実験体となった。そして、黒月の力を完全に取り込んだ」
ゼノンの体から、黒い霧が立ち上った。
霧は彼を包み込み、形を変えていく。
「ゼノン自身には、もともと戦闘力はなかった」
ゼノンは語った。
「私は神官だ。戦士ではない」
「でも、黒月の力を取り込んだことで……」
ゼノンの体が、膨れ上がった。
筋肉が隆起し、腕が太くなる。
背中から、巨大な黒い翼が生えた。
頭には、黒い角が生えた。
「私は、神をも超える存在になった」
変身を終えたゼノンが、低い声で言った。
彼は、もはや人間の姿をしていなかった。
巨大な悪魔のような姿。
全身が黒い鎧のような鱗で覆われ、手には巨大な黒い剣が握られている。
「これが……黒月の真の力」
ゼノンは剣を振るった。
ズバッ!
剣が空気を切り裂き、衝撃波が五人に向かって飛んできた。
「うわっ!」
五人は咄嗟に避けた。
衝撃波は壁に当たり、壁を粉々に砕いた。
「やばい……」
悠斗は冷や汗をかいた。
「あの一撃……直撃したら死ぬ……」
「さあ、来るがいい」
ゼノンは剣を構えた。
「お前たちの力、見せてもらおう」
「くそ……」
悠斗は拳を握りしめた。
まだだ。
まだ戦える。
アルヴィンを倒した。
なら、ゼノンだって倒せるはずだ。
「みんな、行くぞ!」
「ええ!」
五人は、ゼノンに向かって突進した。
悠斗が先頭を切り、拳を振るう。
しかし――
ゼノンは剣で悠斗の拳を受け止めた。
ガキィン!
金属音が響いた。
「ぐっ……硬い……!」
悠斗は驚いた。
ゼノンの剣は、悠斗の拳を完全に受け止めている。
「その程度か」
ゼノンは冷笑し、剣を振るった。
悠斗は吹き飛ばされた。
「うわっ!」
「悠斗!」
ルーナが光の矢を放った。
バルトロメウスが影の剣で斬りかかった。
グラキエスが氷の槍を投げた。
セレスティアが光の魔法を放った。
しかし――
ゼノンは剣を一振りしただけで、すべての攻撃を弾き飛ばした。
「無駄だ」
ゼノンは宣言した。
「お前たちの攻撃など、私には届かない」
「くそ……」
五人は歯噛みした。
「どうすれば……」
その時――
ゼノンが動いた。
彼は信じられない速度で五人に接近し、剣を振り下ろした。
「やばい!」
五人は散った。
剣が地面を叩き、巨大な亀裂が走った。
「速い……!」
悠斗は驚いた。
あの速度……
「次だ」
ゼノンは再び剣を振るった。
今度は横薙ぎ。
剣が空気を切り裂き、衝撃波が五人に向かって襲いかかる。
「月の盾!」
ルーナは急いで結界を展開した。
しかし、衝撃波の威力があまりにも強く、結界が砕け散った。
「きゃあ!」
五人は吹き飛ばされた。
「ぐあっ!」
悠斗は壁に激突した。
体が痛い。
骨が軋む。
「これは……やばい……」
悠斗は立ち上がろうとしたが、体が言うことを聞かない。
「悠斗、大丈夫!?」
ルーナが駆け寄ってきた。
「ああ……なんとか……」
悠斗はルーナに支えられながら立ち上がった。
他の三人も、満身創痍だった。
バルトロメウスは肩を押さえている。
グラキエスは膝をついている。
セレスティアは杖を支えにして立っている。
「このままじゃ……全滅する……」
悠斗は呟いた。
グゥゥゥ……
その時、悠斗の腹が鳴った。
「え……今……?」
ルーナが驚いた。
「いや……その……」
悠斗は照れくさそうに言った。
「腹減ってて……」
「今、そんな場合じゃ……」
ルーナは呆れたが、すぐに笑った。
「でも、らしいわね」
ルーナは荷物から、最後のパンを取り出した。
「これ、食べて」
「でも、これ最後の……」
「いいの。あなたが食べないと、戦えないでしょ」
「……ありがとう」
悠斗はパンを受け取り、一口で食べた。
すると――
体に力が戻ってきた。
「よし……まだ戦える……」
悠斗は拳を握りしめた。
「ゼノン、まだ終わってないぞ!」
「ほう」
ゼノンは興味深そうに悠斗を見た。
「まだ戦う気か。その体で」
「ああ」
悠斗は前に出た。
「俺は、諦めない。絶対に」
「愚かだな」
ゼノンは剣を構えた。
「では、とどめを刺してやろう」
ゼノンは剣を高く掲げた。
剣から、黒い光が放たれる。
光は空中で集まり、巨大な黒い球体となった。
「これが……黒月の力の結晶」
ゼノンは宣言した。
「この一撃で、お前たちは塵となる」
球体は、さらに大きくなっていく。
直径5メートル、10メートル、15メートル。
広間全体を覆うほどの巨大さ。
「まずい……」
バルトロメウスが呟いた。
「あれを受けたら……間違いなく死ぬ」
「どうする……」
グラキエスも焦った。
「逃げるにも……もう遅い……」
その時――
悠斗が前に出た。
「みんな、俺の後ろに隠れろ」
「え……」
「早く!」
悠斗の真剣な表情に、四人は従った。
悠斗の後ろに隠れる。
「悠斗……何をする気……」
ルーナが尋ねた。
「わからない。でも……」
悠斗は拳を構えた。
「あの球体を……殴る」
「えっ!?」
四人は驚いた。
「無理よ! あんな巨大な……」
「でも、やるしかない」
悠斗は決意を込めて言った。
「俺が、みんなを守る」
「悠斗……」
ルーナは涙ぐんだ。
「無茶しないで……」
「大丈夫」
悠斗は微笑んだ。
「お前が一緒にいるから、俺は負けない」
「悠斗……」
その時――
ゼノンが叫んだ。
「行け、黒月の滅球!」
巨大な黒い球体が、五人に向かって落ちてきた。
「来る……!」
悠斗は拳を引き絞った。
全身の力を、すべて拳に込める。
そして――
「うおおおおおおおお!!」
悠斗は、球体に向かって拳を突き出した。
ドゴォォォォン!!
拳が、球体に命中した。
凄まじい衝撃。
悠斗の体が、圧倒的な力に押しつぶされそうになる。
「ぐあああああ!!」
悠斗は叫んだ。
骨が軋む。
筋肉が引き裂かれそうになる。
「まだだ……まだ……!」
悠斗は必死に耐えた。
後ろには、仲間がいる。
ルーナがいる。
彼らを守らなければならない。
「うおおおおお!!」
悠斗はさらに力を込めた。
すると――
拳から、銀色の光が放たれた。
「これは……」
悠斗は驚いた。
光は、悠斗の体を包み込んでいく。
「月の加護……」
ルーナが呟いた。
「私の力が……悠斗に……」
光は、さらに強くなっていった。
そして――
ついに、球体が砕け散った。
バリィィィン!!
黒い球体が、無数の破片となって消えていった。
「ハァ……ハァ……」
悠斗は荒い息をついた。
「やった……」
しかし、次の瞬間――
悠斗の体が、前に倒れた。
「悠斗!」
ルーナが駆け寄った。
「大丈夫!?」
「ああ……ちょっと……疲れた……」
悠斗は苦笑した。
「でも……みんな無事か?」
「ええ、無事よ」
ルーナは涙を流しながら微笑んだ。
「あなたのおかげで」
「よかった……」
悠斗は安堵した。
その時――
ゼノンの声が響いた。
「驚いたぞ……」
ゼノンは、わずかに笑みを浮かべていた。
「まさか、私の黒月の滅球を防ぐとは」
「ゼノン……」
悠斗は立ち上がろうとしたが、体が動かない。
「もう……限界か……」
「ああ、そのようだな」
ゼノンは剣を構えた。
「では、今度こそ終わりだ」
ゼノンは、五人に向かって歩き始めた。
「くそ……」
悠斗は歯噛みした。
体が動かない。
もう戦えない。
「このまま……終われるか!……」
その時――
広間の天井が、再び開いた。
「何!?」
全員が驚いて上を見た。
天井の向こうから、無数の光が降り注いできた。
銀色の光。
月の光。
「これは……」
ルーナは驚いた。
「月の力……」
光は五人を包み込んだ。
すると――
五人の傷が、徐々に癒えていった。
疲労も、消えていく。
「すごい……」
悠斗は驚いた。
「体が……軽くなる……」
「これは……」
ルーナは空を見上げた。
「月が……私たちの想いに共鳴しているのね……」
確かに、天井の向こうに白い月が見えた。
月は、いつもより大きく、明るく輝いている。
「月が……」
悠斗は立ち上がった。
「俺たちに、力を……」
「ええ」
ルーナも立ち上がった。
バルトロメウス、グラキエス、セレスティアも立ち上がった。
「これで……もう一度戦える……」
悠斗は拳を握りしめた。
「ゼノン、まだ終わってないぞ!」
「……フン」
ゼノンは鼻で笑った。
「白い月が力を貸したか。だが、それでも無駄だ」
ゼノンは剣を高く掲げた。
「私の力は、白い月をも超える」
「それは……どうかな」
悠斗は前に出た。
「俺たち、白い月の力を借りた。そして、仲間がいる」
悠斗は振り返った。
ルーナ、バルトロメウス、グラキエス、セレスティア。
みんな、悠斗を見つめている。
「一緒なら、お前にも勝てる」
「愚かな」
ゼノンは冷笑した。
「では、見せてやろう。真の絶望を」
ゼノンは剣を振り下ろした。
巨大な黒い斬撃が、五人に向かって飛んできた。
「みんな、魔法を合わせろ!」
悠斗が叫んだ。
「ええ!」
四人は同時に魔法を発動した。
月の光、影の力、氷の力、聖なる光。
四つの魔法が融合し、虹色の光となった。
光は、黒い斬撃を受け止めた。
ドガァァン!!
衝撃が走る。
しかし、虹色の光は消えない。
「押し返せ!」
悠斗が叫んだ。
「うおおおお!!」
四人は力を込めた。
虹色の光が、黒い斬撃を押し返していく。
そして――
ついに、斬撃を完全に消し去った。
「なんだと!?」
ゼノンは驚いた。
「今だ!」
悠斗は地面を蹴った。
月の力を借りて、さらに高く跳ぶ。
10メートル、15メートル。
「うおおおお!!」
悠斗は拳を振り下ろした。
月の光を纏った拳。
それは、まるで流星のように輝いていた。
「させるか!」
ゼノンは剣で受け止めようとした。
しかし――
悠斗の拳は、剣を砕いた。
ガシャァァン!!
剣が粉々になる。
「なんだと!?」
ゼノンは驚愕した。
そして――
悠斗の拳が、ゼノンの顔面に直撃した。
ドゴォォォン!!
ゼノンの巨体が、吹き飛んだ。
彼は広間の壁に激突し、そのまま埋まった。
「ハァ……ハァ……」
悠斗は着地した。
「やった……のか……」
しかし――
壁から、ゼノンが這い出してきた。
「グッ……まだだ……」
ゼノンは血を流しながらも、立ち上がった。
「まだ……終わらない……」
「しつこいな……」
悠斗は歯噛みした。
「みんな、もう一度……」
「ええ!」
五人は再び、ゼノンに向かって攻撃を開始した。
そして――
黒月教との最終決戦が、本格的に開幕した――
みなさん、ルーナです。
第15話、いかがでしたか?
アルヴィンとの戦い……本当に苦しかったわ。でも、みんなで力を合わせて、なんとか乗り越えることができました。
そして、ついにゼノンとの直接対決が始まりました。
彼の過去を聞いて……正直、胸が痛みました。私が、彼の妻を救えなかったこと。神として、すべての人を救えなかったこと。それが、こんな悲劇を生んでしまったなんて……
でも、だからといって世界を滅ぼしていいわけがないわ。
悠斗は、最後まで諦めなかった。ボロボロになっても、仲間を守るために戦い続けた。
私も、彼と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる気がするの。
次回、いよいよゼノンとの最終決戦が本格化します。
果たして、私たちは世界を救うことができるのか……
どうか、最後まで見守っていてください。
月の光が、みなさんを照らしますように――
ルーナ




