表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
模型(1/10)スケールのアポカリプス  作者: 暁の裏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/15

第14話 「妹と復讐と」

 五人――悠斗、ルーナ、バルトロメウス、セレスティア、そしてグラキエス――は、第七階層への階段を上り続けていた。


 階段は長く、険しい。石の壁に囲まれ、足音だけが静かに響く。


「疲れたな……」


 悠斗は呟いた。


 戦闘の連続で、さすがに体力を消耗している。


 グゥゥゥ……


 腹が鳴った。


「また腹減った……」


「はい、どうぞ」


 ルーナはパンを取り出した。


「ありがとう」


 悠斗はパンを受け取り、もぐもぐと食べ始めた。


「もうパンも残り少ないわ……」


 ルーナは荷物を確認した。


「あと一つしかない」


「やばいな……最終決戦前に腹ペコになりそう」


「大丈夫よ。終わったら、たくさん食べさせてあげるから」


「それまで持つかな……」


 悠斗は苦笑した。


「悠斗様」


 セレスティアが声をかけた。


「はい」


「あの……大丈夫ですか? 無理してませんか?」


「ああ、大丈夫だ」


 悠斗は微笑んだ。


「お前こそ、疲れてないか?」


「私は……大丈夫です」


 セレスティアは頷いた。


「皆さんと一緒なら、どこまでも戦えます」


「ありがとう」


 その時――


 バルトロメウスが立ち止まった。


「どうした?」


 悠斗が尋ねた。


「……着いた」


 バルトロメウスは階段の先を指差した。


 そこには、第七階層への扉が見えた。


「ついに第七階層か……」


 悠斗は扉を見つめた。


「次は、誰が待ってるんだ?」


「おそらく……」


 バルトロメウスは扉を見つめた。


「第四使徒イフリートと、第三使徒アダマスだろう」


「二人同時か……」


「ええ。残りの使徒は少なくなっています。おそらく、複数で待ち構えているはずです」


「わかった」


 悠斗は拳を握りしめた。


「準備はいいか?」


「ええ」


「はい」


「もちろん」


「ええ」


 四人が頷く。


 悠斗は扉を押し開けた。


 扉の向こうには――


 広大な円形のアリーナが広がっていた。


 床は黒い石で作られており、壁には炎の紋様が描かれている。天井は高く、そこから赤い光が降り注いでいる。


 そして――


 アリーナの中央に、二人の人物が立っていた。


 一人は、巨大な体躯の男。


 鉄の仮面をつけ、全身が金属のような光沢を放っている。身長は約20センチ。この世界ではかなり大柄だ。両腕は太く、まるで鉄の柱のようだ。


「第三使徒アダマス……」


 バルトロメウスが呟いた。


 もう一人は、筋骨隆々の男。


 悪魔の仮面をつけ、全身から熱気が立ち上っている。赤いローブを纏い、その周囲には小さな炎が浮遊している。


「第四使徒イフリート……」


「よく来たな、侵入者ども、そして裏切ったようだなグラキエス」


 イフリートが笑った。


 粗野で、野蛮な笑い声。


「ここが貴様らの墓場だ」


「……」


 アダマスは黙って立っている。


 無表情。感情が読めない。


「二人同時か……」


 悠斗は身構えた。


「面倒だな」


「悠斗、私たちも戦うわ」


 ルーナが月の力を解放した。


「ええ、みんなで協力しましょう」


 セレスティアも杖を構えた。


「私も戦います」


 グラキエスが氷の剣を生成した。


「そして私も」


 バルトロメウスが影の剣を構えた。


「五対二か……」


 イフリートは不敵に笑った。


「面白い。だが、貴様らごときに俺たちは負けん」


 イフリートは両手を広げた。


 炎が、彼の周囲に渦を巻いた。


「炎よ、燃え上がれ!」


 巨大な炎の球が、イフリートの手のひらに浮かび上がった。


 そして――


 イフリートはそれを悠斗たちに向かって投げた。


「危ない!」


 悠斗は横に跳んで避けた。


 炎の球は地面に激突し、爆発した。


 ドォン!


 凄まじい衝撃。


 床が焦げ、煙が立ち上る。


「うわっ!」


 セレスティアは慌てて後退した。


「熱い……!」


「セレスティア、下がって!」


 ルーナが叫んだ。


 その時――


 アダマスが動いた。


 無言のまま、悠斗に向かって突進してくる。


「くそっ!」


 悠斗はアダマスの拳を避けようとしたが――


 避けきれなかった。


 ドゴォン!


 アダマスの拳が、悠斗の腹部に叩き込まれた。


「ぐあっ!」


 悠斗は吹き飛ばされ、壁に激突した。


「悠斗!」


 ルーナが叫んだ。


「くっ……硬い……!」


 悠斗は立ち上がった。


 腹部が痛い。アダマスの拳は、まるで鉄の塊のようだった。


「アダマスは鋼の守護者……」


 バルトロメウスが説明した。


「肉体を金属化させる能力を持っています。防御力は使徒の中でも最強です」


「やばいな……」


 悠斗は拳を握りしめた。


「でも、倒すしかない!」


 悠斗は地面を蹴り、アダマスに向かって突進した。


 そして、全力の拳を叩き込む。


 ドガァン!


 しかし――


 アダマスは微動だにしなかった。


「!?」


 悠斗は驚いた。


 自分の全力の拳が、まったく効いていない。


「無駄だ」


 アダマスが初めて口を開いた。


 低く、機械的な声。


「お前の拳では、私の鋼の肉体は砕けない」


 アダマスは拳を振り上げた。


「くっ!」


 悠斗は後ろに跳んで避けた。


 アダマスの拳が、地面を叩く。


 ドゴォン!


 床が割れた。


「やばい……このままじゃ……」


 その時――


 グラキエスが氷の槍を放った。


「氷槍!」


 氷の槍が、アダマスに向かって飛んだ。


 しかし――


 アダマスは槍を手で掴み、砕いた。


 バキッ!


「無駄だ。氷ごときでは、私は倒せない」


「くっ……」


 グラキエスは舌打ちした。


「なら、これならどうだ!」


 バルトロメウスが影の触手を放った。


 触手が、アダマスの体に絡みつく。


「……」


 アダマスは、触手を力ずくで引きちぎった。


 ブチブチッ!


「馬鹿な……」


 バルトロメウスは驚いた。


「影すらも……」


「悠斗様!」


 セレスティアが叫んだ。


「アダマスの弱点は、関節です! 金属化していても、関節部分は動かさなければならないので、そこが弱点です!」


「関節……!」


 悠斗は目を凝らした。


 確かに、アダマスの肘、膝、首などの関節部分は、わずかに隙間がある。


「よし!」


 悠斗は地面を蹴り、跳躍しアダマスの頭上に回り込んだ。


 そして――


 空中から、アダマスの首の後ろに蹴りを叩き込んだ。


 ドゴッ!


「ぐっ……!」


 アダマスは膝をついた。


「効いた!」


 悠斗は着地し、すぐに次の攻撃を繰り出した。


 アダマスの膝の裏に、全力の蹴りを叩き込む。


 バキッ!


「ぐああっ!」


 アダマスは倒れた。


「今だ!」


 悠斗はアダマスの首に、連続で拳を叩き込んだ。


 一発、二発、三発。


 ドンドンドン!


「ぐっ……がっ……!」


 アダマスは抵抗しようとしたが、関節を狙われているため、うまく動けない。


「終わりだ!」


 悠斗は最後の一撃を、アダマスの仮面に叩き込んだ。


 ドガァァン!


 仮面が砕け散った。


 アダマスの素顔が露わになる。


 中年の男性。無表情だが、その目には諦めの色が浮かんでいた。


「……やられた、か」


 アダマスは倒れた。


「やった……」


 悠斗は荒い息をついた。


 しかし――


「悠斗! 後ろ!」


 ルーナの叫び声。


 悠斗は振り向いた。


 イフリートの炎の拳が、すぐ目の前に迫っていた。


「しまっ――」


 ドゴォン!


 炎の拳が、悠斗の顔面に命中した。


「ぐあああっ!」


 悠斗は吹き飛ばされた。


 顔が熱い。火傷している。


「くっ……!」


 悠斗は立ち上がろうとしたが、イフリートの連続攻撃が襲いかかった。


 炎の拳、炎の蹴り、炎の肘打ち。


 ドンドンドンドン!


「ぐっ、がっ、ああっ!」


 悠斗は防御するので精一杯だった。


 イフリートの攻撃は速く、そして熱い。


「悠斗様!」


 セレスティアが治癒魔法を発動しようとした。


 しかし――


「邪魔だ!」


 イフリートは炎の球を、セレスティアに向かって投げた。


「きゃあっ!」


 セレスティアは避けきれなかった。


 炎の球が、セレスティアの右腕に命中した。


 ジュッ!


「あああああっ!」


 セレスティアは悲鳴を上げた。


 右腕が、火傷している。


 皮膚が赤く腫れ上がり、水ぶくれができている。


「セレスティア!」


 ルーナが駆け寄った。


「大丈夫!?」


「い、痛い……痛いです……!」


 セレスティアは涙を流しながら、右腕を押さえた。


「くそっ!」


 バルトロメウスがイフリートに向かって影の剣を振るった。


 しかし、イフリートは炎の壁を展開し、剣を防いだ。


「無駄だ! 炎は影を焼き尽くす!」


 イフリートは笑った。


「ハハハハ! 苦しめ! もがけ! そして死ね!」


 イフリートは両手を広げた。


 炎が、アリーナ全体に広がっていく。


「くっ……このままでは……」


 グラキエスが氷の壁を展開したが、炎の熱で溶け始めている。


「やばい……」


 悠斗は立ち上がった。


 体中が火傷している。痛い。


 しかし――


「まだだ……まだ終わらない……!」


 悠斗は拳を握りしめた。


 その時――


 イフリートが笑いながら言った。


「おい、小娘」


 イフリートは火傷したセレスティアを見た。


「お前、その火傷の痛み、気に入ったか?」


「……っ」


 セレスティアは涙を流しながら、イフリートを睨んだ。


「俺はな、村を焼くのが好きなんだ」


 イフリートは楽しそうに語り始めた。


「炎に包まれる家屋。逃げ惑う村人たち。焼け焦げる肉の匂い。最高だぜ」


「……!」


 悠斗は怒りに震えた。


「貴様……!」


「特にな、三年前に焼いた村が最高だった」


 イフリートは笑った。


「南部の小さな村でな。住民は百人くらいだったか。全員焼き殺してやったぜ」


「!?」


 セレスティアが叫んだ。


「なぜそんなことを!」


「ん? 何だ、怒っているのか?」


 イフリートは興味深そうにセレスティアを見た。


「まあいい。あの村は楽しかったな。特に、最後まで逃げ回ってた姉妹がいてな」


 イフリートは思い出すように目を細めた。


「姉の方は、妹を庇って炎の中に飛び込んだ。で、妹の方は――」


 その時――


「黙れ……」


 低い声が響いた。


「貴様がやったんだな、イフリート」


 アリーナの隅、影の中から――


 一人の人物が姿を現した。


 蛇の仮面をつけた女性。


 第二使徒、セルペンタ。


「セルペンタ……?」


 イフリートは驚いた。


「お前、何でここに……」


「貴様を殺すためだ」


 セルペンタの声は、静かだが、怒りに満ちていた。


「え……?」


 イフリートは戸惑った。


「何言ってんだ、お前。俺たち仲間だろ」


「仲間……?」


 セルペンタは笑った。


 冷たく、憎悪に満ちた笑い。


「貴様と仲間などと、片腹痛い」


 セルペンタは両手を広げた。


 紫色の霧が、彼女の周囲に立ち上った。


「待て、セルペンタ! 何をする気だ!」


 イフリートは後退した。


「決まっている」


 セルペンタは仮面を外した。


 その下には、美しいが冷たい表情の女性の顔があった。


 長い黒髪。深い緑色の瞳。そして、その瞳には――


 深い憎しみが宿っていた。


「貴様を殺す。妹の仇を討つ」


「妹……?」


 イフリートは混乱した。


「お前に妹なんて――」


「三年前」


 セルペンタは静かに語り始めた。


「貴様が焼いた南部の村。あれは、私の故郷だ」


「!?」


 イフリートは目を見開いた。


「まさか……」


「そうだ」


 セルペンタは拳を握りしめた。


「私には、妹がいた。名前はリリア。優しくて、明るくて、誰からも愛される子だった」


 セルペンタの声が、震えた。


「リリアは、月の女神を信仰していた。毎日、月に祈りを捧げていた」


 セルペンタは涙を流した。


「そんなリリアを……貴様は……貴様は……!」


「待て! 俺は命令で――」


「黙れ!」


 セルペンタは叫んだ。


「貴様は楽しんでいた! 村を焼くのを楽しんでいた! 人が死ぬのを楽しんでいた!」


 セルペンタは両手を掲げた。


 紫色の霧が、濃くなっていく。


「毒霧……マイアズマ!」


 霧が、イフリートに向かって襲いかかった。


「くっ!」


 イフリートは炎の壁を展開した。


 しかし――


 毒霧は、炎を通り抜けた。


「な、何!?」


「私の毒は、炎では防げない」


 セルペンタは冷たく言った。


「そして――毒は、体を腐食させる」


 毒霧がイフリートの体を包んだ。


「ぐっ……ぐああああっ!」


 イフリートは悲鳴を上げた。


 体が、毒に侵されていく。


 皮膚が爛れ、筋肉が溶けていく。


「が、ぐ、ぐああああ!」


「苦しめ」


 セルペンタは冷たく言った。


「リリアが苦しんだように、貴様も苦しめ」


「た、助けて……助けてくれ……!」


 イフリートは懇願した。


 しかし、セルペンタは容赦しなかった。


「助けてだと? リリアも、同じことを言っていただろう」


 セルペンタは毒霧を強化した。


「リリアは、最後まで生きたいと願っていた。助けてと叫んでいた」


 セルペンタの涙が、床に落ちた。


「でも、貴様は助けなかった。むしろ、笑っていた」


「ぐ、ぐああああああ!」


 イフリートの悲鳴が、アリーナに響いた。


 やがて――


 イフリートは動かなくなった。


 毒に侵され、体が完全に崩壊していた。


「……終わった」


 セルペンタは毒霧を消した。


 そして、ゆっくりと悠斗たちの方を向いた。


「……」


 悠斗たちは、警戒した表情でセルペンタを見つめた。


「安心しろ」


 セルペンタは静かに言った。


「お前たちを攻撃するつもりはない」


「本当か?」


 悠斗が尋ねた。


「ああ」


 セルペンタは頷いた。


「私の目的は、こいつだった。それが達成された今、お前たちと戦う理由はない」


「では、なぜ黒月教にいたんだ?」


 バルトロメウスが尋ねた。


「復讐のためだ」


 セルペンタは答えた。


「村を焼いたのは、黒月教の使徒だった。だから、私も使徒になった。そして、機会を待っていた」


 セルペンタは仮面を拾い上げた。


「今日、事実を知り、その機会が訪れた」


「……そうか」


 悠斗は複雑な表情をした。


「それで、これからどうするんだ?」


「消える」


 セルペンタは答えた。


「復讐を果たした今、私には行く場所がない。どこか遠くで、静かに暮らす」


 セルペンタは悠斗たちを見た。


「お前たち、ゼノンを倒すつもりなんだろう」


「ああ」


「ならば、頑張れ」


 セルペンタは小さく微笑んだ。


「リリアは、月の女神を信じていた。お前たちが勝てば、リリアも喜ぶだろう」


「……ありがとう」


 ルーナが言った。


「あなたの妹さん、リリアさんのこと……忘れないわ」


「……ありがとう」


 セルペンタは涙を拭った。


 そして――


 影の中に消えていった。


「……行ったな」


 悠斗は呟いた。


「ええ」


 ルーナが頷いた。


「彼女も、被害者だったのね……」


「ああ」


 悠斗は拳を握りしめた。


「黒月教のせいで、どれだけの人が苦しんだんだ……」


「だからこそ」


 バルトロメウスが言った。


「ゼノンを倒さなければならない」


「そうだな」


 悠斗は頷いた。


「セレスティア、大丈夫か?」


「は、はい……」


 セレスティアは右腕を押さえていた。


 火傷は痛々しい。


「ルーナ、治療を」


「ええ」


 ルーナはセレスティアの右腕に治癒魔法をかけた。


 淡い光が、火傷を包む。


 徐々に、火傷が癒えていく。


「ありがとうございます……」


 セレスティアは涙を拭った。


「でも、イフリートの話を聞いて……辛くなりました……」


「わかる」


 ルーナは優しくセレスティアを抱きしめた。


「あんな残酷な話、辛いわよね」


「はい……」


 セレスティアはルーナの胸に顔を埋めた。


「リリアさん……可哀想です……」


「ええ……」


 しばらく休憩した後、五人は再び歩き始めた。


 アリーナを抜け、次の階段へ。


「次で、最後の使徒だな」


 悠斗は呟いた。


「ああ」


 バルトロメウスが頷いた。


「第一使徒、影の司祭。教団で最も古参の使徒だ」


「どんな奴なんだ?」


「詳しくは知らない。ただ、ゼノンの最側近であり、最も信頼されている使徒だということだけは知っている」


「厄介そうだな……」


「ええ」


 階段を上ること数分。


 ついに、第八階層への扉が見えてきた。


「着いたな」


 悠斗は扉の前で立ち止まった。


「準備はいいか?」


「ええ」


「はい」


「もちろん」


「ええ」


 四人が頷く。


 悠斗は扉を押し開けた。


 扉の向こうには――


 暗闇が広がっていた。


 真っ暗で、何も見えない。


「……暗いな」


 悠斗は警戒しながら一歩踏み出した。


 すると――


 パッ。


 無数の蝋燭が、一斉に灯った。


 部屋全体が、淡い光に包まれる。


 円形のホール。


 壁には、無数の本棚が並んでいる。古い本が、びっしりと詰まっている。


 床には、複雑な魔法陣が描かれている。


 そして――


 ホールの中央に、一人の老人が立っていた。


 割れた仮面をつけた、痩せた老人。


 黒いローブを纏い、杖を持っている。


「ようこそ」


 使徒は静かに言った。


「よくここまで辿り着いたな、侵入者たちよ」


「お前が……影の司祭か」


 悠斗は身構えた。


「そうだ」


 使徒は頷いた。


「私は、第一使徒。影の司祭……」


 使徒は仮面を外した。


 その下には、深い皺に覆われた顔があった。


 白髪と白髭。しかし、その目は鋭く、知性に満ちていた。


「私の名は、アルヴィン・ノクターン」


「アルヴィン・ノクターン……」


「聞いたことがあるか?」


 アルヴィンは微笑んだ。


「いや……」


 悠斗は首を振った。


「そうか。まあ、当然だろう」


 アルヴィンは杖を床についた。


「私は、五十年前にこの世界から消えた男だからな」


「五十年前……」


 ルーナが呟いた。


「もしかして……あなたは……」


「気づいたか、月の女神よ」


 アルヴィンはルーナを見た。


「そうだ。私は、かつてエルディア王国の首席宮廷魔術師だった男だ」


「!?」


 悠斗たちは驚いた。


「王国の……魔術師……?」


「そうだ」


 アルヴィンは頷いた。


「私は、かつて王国に仕えていた。魔法の研究に没頭し、国王の信頼を得ていた」


 アルヴィンは窓の外を見た。


「しかし、五十年前……私は、ある研究に手を出した」


「研究……?」


「黒い月の力の研究だ」


 アルヴィンの声が、暗くなった。


「私は、黒い月の力を解明しようとした。白い月と黒い月のバランスが崩れた原因を知りたかった」


「それで……?」


「実験中に、事故が起きた」


 アルヴィンは拳を握りしめた。


「黒い月の力が暴走し、私の研究室が爆発した」


「……」


「その時、私の妻と娘が……研究室にいた」


 アルヴィンの声が、震えた。


「二人は、爆発に巻き込まれて……死んだ」


「……」


 悠斗たちは、黙って聞いていた。


「私は、王国から追放された」


 アルヴィンは続けた。


「危険な研究をした罪で。そして、家族を失った罪で」


「それで……黒月教に……」


「そうだ」


 アルヴィンは頷いた。


「全てに絶望していた私を、ゼノン様が拾ってくださった」


 アルヴィンの目が、狂気に輝いた。


「ゼノン様は、私に教えてくださった。この世界が間違っていると。月の女神が、この世界を歪めたのだと」


「違う!」


 ルーナが叫んだ。


「私は、世界を歪めてなんかいない!」


「黙れ、偽りの女神よ」


 アルヴィンは冷たく言った。


「お前が、この世界を創造した。お前が、バランスを崩した。すべて、お前のせいだ」


「そんな……」


「私の妻と娘が死んだのも、お前のせいだ」


 アルヴィンは杖を掲げた。


「だから、私はお前を許さない。お前を倒し、この世界を破壊する」


 アルヴィンの周囲に、黒い霧が立ち上った。


「さあ、来るがいい」


 アルヴィンは宣言した。


「私が、お前たちの最後の壁だ。ここで、すべて終わらせる」


 悠斗は拳を握りしめた。


 ルーナは月の力を解放した。


 バルトロメウスは影の剣を構えた。


 グラキエスは氷の剣を生成した。


 セレスティアは杖を握りしめた。


「行くぞ!」


 悠斗が叫んだ。


 五人は、アルヴィンに向かって突進した。


 そして――


 最後の使徒との戦いが、始まろうとしていた。



私、セルペンタ――本名はエリアナ・ヴァイパーは、ついに復讐を果たした。


三年間。長かった。


黒月教に潜入し、使徒の座を得て、あの男イフリートの隣で笑顔を作り続けた日々。

毒の研究に没頭するふりをしながら、ただ一つの目的のために生きてきた。


リリア。


私の大切な妹。


あの日、炎に包まれた村で、私はリリアの手を握っていた。「お姉ちゃん、怖いよ」と泣く妹を、必死で守ろうとした。


でも、私は無力だった。

イフリートの炎が、リリアを焼いた。

妹の悲鳴が、今でも耳に残っている。

あの日から、私は復讐だけを生きがいにしてきた。

毒の研究。暗殺の技術。すべては、イフリートを殺すため。


そして今日、ついにその時が来た。


イフリートが苦しみながら死んでいく姿を見て、私は何も感じなかった。

喜びも、悲しみも、何も。

ただ、空虚だった。

復讐を果たしても、リリアは戻ってこない。

私の心の穴は、埋まらない。


月の女神と、あの英雄たちを見た。


彼らは、希望を持っている。

リリアが信じていた、月の女神。


もし、彼らがゼノンを倒せば――


もしかしたら、この世界は少しだけ、良くなるのかもしれない。

リリアが生きた世界が、少しだけ、救われるのかもしれない。


私にできることは、もうない。


ただ、どこか遠くで、静かに暮らそう。


そして、リリアのことを、忘れずにいよう。



――セルペンタ(エリアナ・ヴァイパー)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ