第12話 「聖堂攻略戦、開幕」
悠斗とルーナ、そしてバルトロメウスの三人は、聖堂から少し離れた岩陰に身を潜めていた。
「ついたな……」
悠斗は呟いた。
「黒月の聖堂」
「ああ」
バルトロメウスが答えた。
「黒月教の総本山。ゼノンと残りの使徒たちが待ち構えている」
聖堂の周囲には、多数の黒月教の兵士たちが巡回していた。全員が黒いローブを纏い、槍や剣で武装している。
前回来た時より警備が厳重になっていた。
「警備が厳重だな」
悠斗は慎重に状況を観察した。
「正面から突入するのは難しそうだ」
「確かに、正面突破は得策ではない」
バルトロメウスは頷いた。
「だが、私は裏口の場所を知っている。かつて使徒だった時に使っていた、秘密の入口が」
「本当か?」
「ああ。あそこだ」
バルトロメウスは聖堂の東側を指差した。
「あの壁の影に、隠し扉がある。そこから侵入すれば、警備兵に見つからずに聖堂内部に入れる」
「わかった」
悠斗は立ち上がった。
「じゃあ、行こう」
三人は岩陰を出て、慎重に聖堂に近づいていった。
雪が降りしきる中、足音を殺しながら進む。
警備兵の視線を避け、建物の影に身を隠しながら。
やがて、バルトロメウスが示した場所に到着した。
黒い壁。一見すると何の変哲もない壁だが――
「ここだ」
バルトロメウスは壁に手を当てた。
すると、壁の一部が音もなく開いた。
「すごい……」
ルーナが感嘆の声を上げた。
「本当に隠し扉があったのね」
「私が使徒だった頃、この扉をよく使っていた」
バルトロメウスは扉の向こうを覗き込んだ。
「誰もいない。入ろう」
三人は扉をくぐり、聖堂内部に侵入した。
扉が閉まると、周囲は暗闇に包まれた。
「暗いな……」
悠斗は呟いた。
「待って」
ルーナは手のひらに、小さな光の球を浮かべた。
柔らかな月光が、周囲を照らす。
「これで見えるわ」
「ありがとう、ルーナ」
三人は、照らされた通路を進み始めた。
狭い石造りの廊下。壁には黒い月のシンボルが刻まれている。
「この聖堂は、十階層に分かれている」
バルトロメウスが説明した。
「第一階層は実験室や研究施設。第二階層は使徒たちの居住区など。最深部の第十階層に、ゼノンの玉座の間がある」
「結構複雑なんだな」
「ああ。迷わないように、私が案内する」
「頼む」
悠斗は頷いた。
しばらく進むと、広い部屋に出た。
「ここが……第一階層の中心部」
バルトロメウスが言った。
部屋の中には、大量の実験器具や資料が散乱していた。試験管、フラスコ、古びた本、羊皮紙の束。
そして――
「これは……」
ルーナが何かを拾い上げた。
血痕のついた実験記録だった。
「クルエンタの研究資料……」
ルーナは顔をしかめた。
「ひどい……人体実験の記録だわ……」
悠斗も資料を手に取った。
そこには、おぞましい内容が記されていた。
捕らえた人々を使った実験。血液の操作。肉体の改造。魔物化。
「許せない……」
悠斗は拳を握りしめた。
「こんなことを……」
「クルエンタは、第十二使徒の中でも特に狂気的だった」
バルトロメウスが言った。
「彼は研究のためなら、どんな非道なことでも平気でやる男だった」
「でも、もう倒された」
ルーナは資料を置いた。
「彼の狂気は、もう終わったのよ」
「ああ」
悠斗も頷いた。
「俺たちが止めた」
三人はさらに部屋を探索した。
棚には、様々な薬品が並んでいた。ラベルには、難解な文字で名前が書かれている。
「これは……毒か?」
悠斗は慎重に瓶を手に取った。
「おそらく」
バルトロメウスが答えた。
「第二使徒セルペンタが使う毒の原料でしょう。彼女は毒の専門家ですから」
「危険だな」
悠斗は瓶を元に戻した。
「触らない方がいい」
さらに奥に進むと、大きな机があった。
その上には、一冊の分厚い本が開かれていた。
「これは……」
ルーナは本を覗き込んだ。
「黒月教の教義書……」
本には、黒月教の信念が記されていた。
『白い月は偽りの月。黒い月こそが真実』
『この世界は歪んでいる。破壊せねばならない』
『すべての住民は犠牲となるが、それは必要な代償』
『新しい世界が生まれる。黒い月の下、真の秩序が築かれる』
「狂ってる……」
悠斗は呟いた。
「世界破壊か……この世界の住民は全員……」
「死ぬな」
バルトロメウスが冷静に言った。
「世界を壊せば、今の住民は全員、死ぬだろう。ゼノンも含めて、それをわかっていてやろうとしている」
「なんてことを……」
ルーナの表情が曇った。
「そんなの、間違ってるわ」
「ええ。だから、私は脱退したのです」
バルトロメウスは本を閉じた。
「この教義は、狂気でしかない」
悠斗は深く息を吸った。
「よし。もう見た。次の階層に行こう」
「はい」
三人は第一階層を後にした。
階段を上り、第二階層へ。
第二階層は、第一階層とは雰囲気が違った。
廊下は広く、壁には豪華な装飾が施されている。絨毯が敷かれ、燭台が並んでいる。
「ここが、使徒たちの居住区か」
悠斗は周囲を見回した。
「静かだな……」
「おそらく使徒たちは、各階層で待ち構えているだろうな」
バルトロメウスが言った。
「我々が来るとわかっているはず」
「なら、慎重に進むか」
悠斗は慎重に進み始めた。
廊下を進んでいくと、いくつかの扉が見えた。
「これらの扉の向こうは、各使徒の部屋だ」
バルトロメウスが説明した。
「覗いてみるか?」
「いや、時間の無駄だ。先を急ごう」
「そうだな」
三人はさらに進んだ。
しばらく進むと、大きな広間に出た。
円形の部屋。天井は高く、シャンデリアが吊るされている。
そして――
部屋の中央に、一人の男が立っていた。
「……来たか」
男は低い声で言った。
「やはり、裏口から侵入したか。バルトロメウス」
「テラ……」
バルトロメウスは身構えた。
「お前が待ち構えていたのか」
「ああ」
男――第十一使徒テラは、ゆっくりと振り向いた。
岩のような無骨な仮面をつけた、巨体の男。身長は他の使徒たちより高く、筋骨隆々としている。
「俺は、お前たちがここを通るとわかっていた」
テラの声は、地響きのように重かった。
「バルトロメウス、お前は元使徒だ。裏口の場所を知っている。ならば、当然そこから侵入すると考えた」
「さすがだな」
バルトロメウスは苦笑した。
「お前の読み通りだ」
「ふん」
テラは腕を組んだ。
「で、どうする? 戦うか? それとも、逃げるか?」
「逃げるわけないだろ」
悠斗が前に出た。
「俺たちは、ゼノンを倒しに来たんだ。お前が邪魔するなら――」
「倒す、と?」
テラは笑った。
「面白い。小僧、お前が双月の英雄か」
「そうだ」
「噂は聞いている。人間離れした力を持つ、異世界の戦士だとか」
テラは拳を打ち鳴らした。
ゴンッ!
鈍い音が広間に響いた。
「だが、俺も力自慢だ。お前と、どちらが強いか試してやろう」
「望むところだ」
悠斗も拳を握りしめた。
「ルーナ、バルトロメウス。下がってくれ」
「悠斗……」
「大丈夫。こいつは、俺が相手する」
悠斗はテラと向き合った。
「お前、怪力自慢なんだろ?」
「ああ」
テラは頷いた。
「俺の力は、使徒の中でも最強だ。巨岩を砕き、大地を割る」
「へえ。じゃあ、試してみようか」
悠斗は地面を蹴った。
瞬時にテラとの距離を詰める。
「速い!」
テラは驚いたが、すぐに反応した。
巨大な拳を、悠斗に向かって振り下ろす。
ドガァッ!
悠斗は横に跳んで回避した。
テラの拳が、地面を直撃する。
ズガァァン!!
凄まじい威力で空気が振動し、床が砕け、クレーターができた。
「すげえ破壊力……!」
悠斗は驚いた。
「だが、遅い!」
悠斗はテラの懐に飛び込み、腹部に拳を叩き込んだ。
ドンッ!
しかし――
「……固い!」
悠斗の拳が、テラの腹筋に阻まれた。
まるで岩を殴ったかのような感触。
「ははは!」
テラは笑った。
「俺の体は、鋼鉄より硬い! お前の拳では、傷一つつけられんぞ!」
テラは悠斗を掴もうとした。
悠斗は素早く後退。
「厄介だな……」
「どうした? もう諦めるか?」
テラは挑発的に言った。
だがその程度の挑発に乗る程キレやすくない。
「いや」
悠斗は拳を握り直した。
「まだまだこれからだ」
悠斗は再び突進した。
今度は、連続攻撃。
右拳、左拳、蹴り、肘打ち。
ドンドンドンドン!
しかし、テラの体は硬く、ダメージを与えられない。
「無駄だ!」
テラは悠斗の攻撃を受け流し、カウンターの拳を放った。
悠斗は横に跳んで回避。
「くそ……どうすれば……」
悠斗は考えた。
テラの体は硬い。普通の攻撃では効かない。
ならば――
「もっと強く、殴るしかないか」
悠斗は深く息を吸った。
全身の力を、右拳に集中させる。
「行くぞ!」
悠斗は地面を蹴り、テラに向かって跳んだ。
そして――
全力の拳を、テラの顔面に叩き込んだ。
ドガァァァン!!
凄まじい衝撃で聖堂が震えた。
テラの巨体が、後ろに吹き飛んだ。
「ぐあっ!」
テラは壁に激突し、そのまま地面に倒れた。
仮面に、亀裂が入っている。
「はあ、はあ……」
悠斗は荒い息をついた。
「やった……か?」
しかし――
「……まだだ」
テラはゆっくりと立ち上がった。
仮面の亀裂が広がり、その下の顔が見える。
傷だらけの、厳つい顔。
「いい拳だった……」
テラは仮面を外した。
「だが、まだ俺は倒れん」
「マジか……」
悠斗は驚いた。
「あれだけの攻撃を受けて、まだ立てるのか」
「ああ」
テラは拳を握りしめた。
「俺の使徒名は『地の巨人』。大地のように不動、山のように堅固。そう簡単には倒れん」
テラは右手を地面につけた。
「そして、俺には地魔法がある」
次の瞬間――
地面が揺れた。
「!?」
悠斗は足元を見た。
地面から、巨大な石の柱が生えてきた。
「うわっ!」
悠斗は横に跳んで回避。
しかし、次々と石の柱が生えてくる。
「これが、俺の魔法だ!」
テラは叫んだ。
「大地よ、敵を貫け!」
石の柱が、悠斗を追いかけてくる。
悠斗は跳躍し、回避し続ける。
「くそ、キリがない!」
「ルーナ様、援護を!」
バルトロメウスが叫んだ。
「わかったわ!」
ルーナは両手を広げた。
月の力を解放する。
「月光の矢!」
銀色の光の矢が、テラに向かって放たれた。
ドンドンドン!
しかし、テラは地面から岩の壁を生やし、その壁に矢が刺さる。
ルーナの攻撃はいとも簡単に防がれてしまう。
「効かん!」
「なら、これは!」
バルトロメウスは影魔法を発動した。
影がテラの足元に伸び、絡みつく。
「!?」
テラは足を取られた。
「今だ、悠斗!」
「ああ!」
悠斗は地面を蹴り、テラに向かって跳んだ。
全力で跳躍する。天井が高いおかげでぶつからずに済んだ。
空中から、全力の踵落としを放つ。
「うおおおお!」
ドガァァァァン!!
悠斗の踵が、テラの頭部に直撃した。
テラの巨体が、地面に叩きつけられる。
ズドォォン!
床が砕け、クレーターが広がった。
「……終わった」
悠斗は着地した。
テラは、もう動かなかった。
「やったわ、悠斗!」
ルーナが駆け寄ってきた。
「ああ。でも、疲れた……」
悠斗は膝をついた。
グゥゥゥ……
腹が鳴った。
「ああ、また腹が減ってきた……」
「はい、悠斗」
ルーナは荷物から、パンと干し肉を取り出した。
「食べて」
「ありがとう」
悠斗はパンを口に詰め込んだ。
もぐもぐと咀嚼しながら、干し肉も食べる。
「ふう……」
少し腹が満たされてエネルギーが回復した。
「さて、先を急ごうか」
バルトロメウスが言った。
「この階層は、もう安全だろう」
「ああ」
悠斗は立ち上がった。
「次は第三階層だな」
三人は広間を出て、階段を上り始めた。
第三階層への階段は、螺旋状になっていた。
上へ、上へと続く石段。
「長いな……」
悠斗は呟いた。
「第三階層は、聖堂の中でも最も広い場所だ」
「はい。おそらく、次の使徒も待ち構えている」
「わかった。警戒しながら進もう」
三人は慎重に階段を上った。
やがて、第三階層に到着した。
扉を開けると――
広大な空間が広がっていた。
円形のホール。天井は高く、ステンドグラスの窓から光が差し込んでいる。
しかし、そのステンドグラスに描かれているのは、黒い月の図柄。
不気味な光が、ホールを照らしている。
「ここが……第三階層か」
悠斗は周囲を見回した。
「誰もいないな」
「油断しないで」
ルーナが警告した。
「何か、嫌な予感がするわ」
「ええ」
バルトロメウスも頷いた。
「私も感じる。何か、視線を……」
その瞬間――
シュッ!
バルトロメウスの背後から、何かが迫った。
「!?」
バルトロメウスは振り返ろうとしたが――
間に合わなかった。
ドスッ!
何かが、バルトロメウスの首筋に当たった。
「ぐっ……」
バルトロメウスは、その場に崩れ落ちた。
「バルトロメウス!」
悠斗とルーナは叫んだ。
そして――
ホールの隅から、一人の男が姿を現した。
鳥の仮面をつけた、細身の男。
「よく来たな、侵入者たちよ」
男の声は、風のように軽かった。
「第十使徒、風の暗殺者ゼフィロス……」
ルーナが呟いた。
「ああ」
ゼフィロスは頷いた。
「俺の任務は、侵入者の排除。そして――」
ゼフィロスは、気絶したバルトロメウスを見下ろした。
「裏切り者の処刑だ」
「バルトロメウスを……!」
悠斗は拳を握りしめた。
「させるか!」
悠斗はゼフィロスに向かって走り出した。
しかし――
「ふっ」
ゼフィロスの姿が、消えた。
「!?」
悠斗は驚いて立ち止まった。
「どこだ……!」
周囲を見回すが、ゼフィロスの姿はどこにもない。
「ここだ」
声が、悠斗の真後ろから聞こえた。
悠斗は振り向いたが――
またゼフィロスの姿は消えていた。
「くそ……どうなってる……」
「彼は風魔法で、気配を完全に消しているのね」
ルーナが説明した。
「音も、匂いも、すべてを風で拡散させて……まるで透明人間のように」
「厄介だな……」
悠斗は身構えた。
「どこから来るかわからない……」
その時――
シュッ!
風を切る音。
悠斗は反射的に横に跳んだ。
ゼフィロスの刃が、悠斗のいた場所を通過した。
「危ない……!」
「なかなか反応がいいな」
ゼフィロスの声が、遠くから聞こえた。
「だが、いつまで避け続けられるかな」
再び、ゼフィロスの姿が消えた。
悠斗は周囲を警戒した。
しかし、ゼフィロスの気配はまったく感じられない。
「悠斗、後ろ!」
ルーナが叫んだ。
悠斗は振り向き、拳を振るった。
ガキィン!
ゼフィロスの刃と、悠斗の拳が激突した。
「ぐっ……!」
悠斗は後退した。
「速い……!」
「ふん」
ゼフィロスは再び姿を消した。
「どうする、英雄? 俺を捕まえられるか?」
「くそ……」
悠斗は焦った。
このままでは、ジリ貧だ。
ゼフィロスの攻撃を避け続けることはできても、反撃できない。
「どうすれば……」
その時――
ホールの入口が開いた。
「悠斗様!」
聞き覚えのある声。
悠斗は振り向いた。
「セレスティア!?」
そこには、月の巫女セレスティアが立っていた。
白い巫女装束に身を包み、手には杖を持っている。
「セレスティア、どうしてここに……」
「私も、戦いたいと思って……」
セレスティアは息を切らしながら言った。
「悠斗様たちを追いかけて、ここまで来ました」
「無茶するな! まだ体が……」
「大丈夫です」
セレスティアは強い意志を込めて言った。
「私、もう弱い自分じゃいられません。悠斗様たちと一緒に戦います」
「セレスティア……」
「それに」
セレスティアは杖を構えた。
「私の力が、役に立つかもしれません」
「どういうことだ?」
「月の巫女は、魔力を感じ取れます」
セレスティアは目を閉じた。
「たとえ姿が見えなくても……魔力の流れを感じられます」
「本当か!?」
「はい」
「魔力を直接見れるなんてすごいわ」
ルーナが驚いている。
反応的に珍しいことなんだろう。
セレスティアは目を開けた。
「ゼフィロスの位置、わかります」
「なら、教えてくれ!」
「はい! ……今、右から来ます!」
セレスティアが叫んだ瞬間――
悠斗は右に拳を振るった。
ドガッ!
拳が、何かに当たった。
「ぐあっ!」
ゼフィロスの姿が現れた。
拳を受けて、後退している。
「やった!」
「まだです! 今度は左から!」
「了解!」
悠斗は左に蹴りを放った。
バキッ!
またゼフィロスに当たった。
「くそっ……なぜわかる……」
ゼフィロスは苦しそうに言った。
「私の力です」
セレスティアが答えた。
「あなたがどれだけ気配を消しても、魔力の流れまでは消せません」
「ちっ……」
ゼフィロスは舌打ちした。
「厄介な巫女だ……」
「悠斗様、ルーナ様」
セレスティアは二人を見た。
「私が、ゼフィロスの位置を教えます。二人で、攻撃してください」
「わかった!」
悠斗とルーナは頷いた。
「行くぞ、ルーナ!」
「ええ!」
ルーナは両手を広げた。
月の力を解放する。
「セレスティア、お願い!」
「はい! ……ゼフィロスは、今、ホールの北側にいます!」
「よし!」
悠斗は北側に向かって跳んだ。跳躍で、一気に距離を詰める。
「月光の矢!」
ルーナが月の光の矢を放った。
矢は、セレスティアの指示した方向に飛んでいく。
「!?」
ゼフィロスの姿が現れた。
矢を避けようとして、透明化を解除してしまったのだ。
「今だ!」
悠斗はゼフィロスの頭上に回り込み、踵落としを放った。
「ぐっ……!」
ゼフィロスは咄嗟に腕で防いだが――
ドガァン!
悠斗の蹴りの威力は凄まじく、ゼフィロスの腕の骨が砕ける。
「うわあああ!」
そのままゼフィロスは地面に叩きつけられた。
しかし――
「まだだ……!」
ゼフィロスは立ち上がろうとした。
「させません!」
セレスティアは杖を掲げた。
「月の光よ、敵を縛れ!」
杖の先端から、銀色の光の鎖が伸びた。
鎖はゼフィロスの体に絡みつき、動きを封じた。
「なっ……!?」
「悠斗様、今です!」
「ああ!」
悠斗は地面を蹴り、全力でゼフィロスに向かって突進した。
そして――
渾身の拳を、ゼフィロスの顔面に叩き込んだ。
ドガァァァン!!
凄まじい衝撃。
ゼフィロスの仮面が砕け散り、体が吹き飛んだ。
壁に激突し――
そのまま、動かなくなった。
「……終わった」
悠斗は荒い息をついた。
「やったわ、悠斗!」
ルーナが駆け寄ってきた。
「ああ……セレスティアのおかげだ」
悠斗はセレスティアを見た。
「ありがとう。お前がいなかったら、勝てなかった」
「いえ……」
セレスティアは照れくさそうに言った。
「私、役に立てて嬉しいです」
「十分役に立ったよ」
悠斗は微笑んだ。
「それより、バルトロメウスは……」
「ああ、そうだった!」
悠斗は気絶したバルトロメウスに駆け寄った。
「バルトロメウス、大丈夫か?」
バルトロメウスは目を閉じたまま、動かない。
「セレスティア、治療できるか?」
「はい」
セレスティアはバルトロメウスの傍らに跪いた。
杖を掲げ、治癒の魔法を発動する。
「月の光よ、傷を癒せ」
柔らかな光が、バルトロメウスの体を包んだ。
しばらくして――
「……うっ」
バルトロメウスが目を開けた。
「バルトロメウス!」
「悠斗……? ルーナ様……?」
バルトロメウスは混乱した表情をした。
「何が……」
「お前、ゼフィロスに不意打ちされて気絶したんだ」
「ああ……そうだった……」
バルトロメウスは頭を押さえた。
「すまない。油断していた」
「いや、あの攻撃は避けられなかったよ」
悠斗は言った。
「ゼフィロスは、気配を完全に消せる。俺たちも危なかった」
「そうか……」
バルトロメウスは立ち上がった。
「それで、ゼフィロスは?」
「倒した」
「そうか……よくやった」
「セレスティアのおかげだよ」
悠斗はセレスティアを見た。
「彼女が、ゼフィロスの位置を教えてくれたんだ」
「セレスティア……」
バルトロメウスはセレスティアを見た。
「ありがとう。君がいなければ、我々は負けていただろう」
「いえ……」
セレスティアは謙遜した。
「私、ただ……できることをしただけです」
「それでも、感謝する」
バルトロメウスは微笑んだ。
「さて」
悠斗は周囲を見回した。
「次の階層に行くか」
「待ってください」
セレスティアが言った。
「その前に、少し休憩した方が……」
「そうだな」
悠斗も頷いた。
「俺も、ちょっと疲れた」
グゥゥゥ……
腹が鳴った。
「それに、腹も減ってるし」
「はい、どうぞ」
ルーナは荷物から、パンと干し肉を取り出した。
「たくさん用意してきたわ」
「ありがとう」
悠斗はパンを受け取り、口に詰め込んだ。
もぐもぐと咀嚼しながら、干し肉も食べる。
「ふう……」
「セレスティアも食べる?」
「あ、はい」
セレスティアもパンを受け取った。
「ありがとうございます」
四人は、しばらくホールで休憩した。
悠斗は床に座り、パンを食べ続けた。
一つ、また一つ。
ルーナが用意したパンは、あっという間になくなっていった。
「悠斗様……すごい食欲ですね……」
セレスティアは驚いた表情をした。
「ああ、これがこの世界での俺の宿命なんだ」
悠斗は苦笑した。
「戦うと、すぐ腹が減る」
「そうなんですか……」
「ええ」
ルーナが説明した。
「悠斗は、この世界では代謝が非常に速いの。だから、常にエネルギーを補給しないといけないのよ」
「大変ですね……」
「まあ、慣れたけどな」
悠斗は最後のパンを食べ終えた。
「よし、回復した」
「では、行きましょう」
バルトロメウスが立ち上がった。
俺たちは次の階層に向かい足を進めた…
セレスティアです。
今回、私は……自分の意志で戦場に立ちました。
正直に言うと、とても怖かったです。でも、悠斗様たちが危険な場所へ向かうのを、ただ見送ることはできませんでした。
ゼフィロスとの戦いで、私の魔力感知の力が役に立てたこと、本当に嬉しかったです。悠斗様に「お前がいなかったら勝てなかった」と言っていただけて……これまで守られるばかりだった私が、初めて誰かを守れた気がしました。
でも、これからもっと強い敵が待っています。私、まだまだ弱いけれど……もう逃げません。
悠斗様、ルーナ様、バルトロメウス様。どうか、最後まで一緒に戦わせてください。
次の階層で、何が待っているのか……不安ですが、みんなとなら乗り越えられると信じています。




