第11話 「それぞれの決意」
黒月の聖堂。
その最深部、教祖ゼノンの玉座の間。
広大な円形の部屋。天井は高く、壁には黒い月のシンボルが無数に刻まれている。床には複雑な魔法陣が描かれ、赤く光っている。
そして、部屋の中央には――
黒い玉座。
そこに、一人の男が座っていた。
教祖ゼノン。
その存在感は圧倒的だった。まるで、空間そのものが彼の周囲で歪んでいるかのような。
「集まったか」
ゼノンの声が響いた。
低く、重く、すべてを支配するかのような声。
玉座の前には、十二使徒たちが並んでいた。
いや、正確には十一人。
第十二使徒クルエンタの姿は、そこにはなかった。
「はい、教祖様」
第一使徒、影の司祭が答えた。
割れた仮面の隙間から、老人の目が覗いている。
「全員……ではないようだが」
ゼノンの声に、わずかな不快感が滲んだ。
「それについて、報告がございます」
影の司祭は一歩前に出た。
「第十二使徒クルエンタが……西の要塞にて、戦死いたしました」
静寂。
重い、重い静寂が部屋を包んだ。
他の使徒たちは、じっと動かずに立っている。
「……クルエンタが」
ゼノンは呟いた。
「あの男が、死んだと」
「はい。月の女神ルーナ、そして英雄と呼ばれる異世界人、神崎悠斗によって」
「ほう」
ゼノンは興味深そうに言った。
「詳しく聞かせてもらおうか」
「はい」
影の司祭は報告を始めた。
「クルエンタは西の要塞にて、月の巫女セレスティアを捕縛し、囚えておりました。しかし、神崎悠斗一行が要塞に侵入し、セレスティアを救出。その際、クルエンタと交戦になりました」
「それで?」
「クルエンタは血の巨神を発動させましたが……敗北いたしました。月の女神の力と、元第九使徒バルトロメウスの影魔法、異世界人の力により」
「バルトロメウス……あの裏切り者が」
ゼノンの声が、わずかに低くなった。
「そうです。バルトロメウスは現在、神崎悠斗一行に協力しております」
「面白い」
ゼノンは笑った。
不気味な、不快な笑い声。
「我々の元使徒が、敵に回るとは。そして、十二使徒の一人が倒されるとは」
「申し訳ございません」
影の司祭は深々と頭を下げた。
「いや、謝る必要はない」
ゼノンは手を振った。
「クルエンタは、所詮その程度の男だったということだ。月の女神と英雄に敗れたのならば、それは彼の実力不足」
「しかし、教祖様……」
「それよりも」
ゼノンは立ち上がった。
黒いローブが揺れる。
「儀式の準備は、どうなっている」
「はっ」
今度は、第九使徒クロノスが前に出た。
時計の歯車を模した仮面をつけた、性別不明の人物。
「儀式の準備は、順調に進んでおります」
クロノスの声は、中性的で、不思議な響きを持っていた。
「大陸各地に配置した二十四の祭壇のうち、二十三の祭壇が既に起動しております」
「残りは一つか」
「はい。最後の祭壇は、我々がいるこの聖堂の地下深くにございます。こちらも、明日には起動できる見込みです」
「よろしい」
ゼノンは満足そうに頷いた。
「では、儀式の発動は……」
「明後日の夜、黒い月が最も高く昇る時刻です」
クロノスは時計のような魔法道具を取り出した。
針が複雑に動いている。
「その時、すべての祭壇が共鳴し、黒月の儀式が完成いたします」
「ついに……」
ゼノンは呟いた。
「ついに、この世界を元に戻せるのだ」
彼は天井を見上げた。
そこには、黒い月のシンボルが描かれている。
「この歪んだ世界……この世界を、破壊する。そして、新しい秩序を作り出すのだ」
「教祖様の御心のままに」
使徒たちが一斉に頭を下げた。
「さて」
ゼノンは使徒たちを見渡した。
「神崎悠斗一行は、間違いなくここに来る。彼らを迎え撃つ準備はできているか」
「はい」
第六使徒、牙の狩人フェンリルが答えた。
狼の仮面をつけた、野性的な雰囲気の男。
「聖堂の外郭には、守備兵を配置しました。侵入者は、必ず捕らえます」
「よろしい」
「それと」
第五使徒、氷の女王グラキエスが前に出た。
氷の結晶を模した仮面をつけた、優雅な雰囲気の女性。
「私は、北の入口を守ります。凍土地帯を越えてくる者は、すべて氷漬けにしてみせましょう」
「期待している」
ゼノンは頷いた。
「第四使徒イフリートは?」
「ここに」
炎の狂戦士イフリートが一歩前に出た。
悪魔の仮面をつけた、筋骨隆々の男。
「俺は、聖堂の正面を守る。来た奴は全員、焼き払ってやるぜ」
「頼もしいな」
「教祖様」
第八使徒、雷の神官フルミナが挙手した。
雷紋様の仮面をつけた、神経質そうな男。
「私は、東の入口を守ります。雷撃で、侵入者を迎撃いたします」
「うむ」
「第十一使徒テラは、南の入口を担当します」
影の司祭が説明した。
「地の巨人テラならば、大地を操り、敵を足止めできるでしょう」
「よし。では、残りの使徒は?」
「第二使徒セルペンタは、諜報活動を継続しております」
「第七使徒ミラージュは、幻術で聖堂周辺に罠を張っております」
「第十使徒ゼフィロスは、暗殺任務のため待機中です」
「そして、第三使徒アダマスは、この玉座の間を守ります」
「完璧だな」
ゼノンは満足そうに言った。
「クルエンタを失ったのは痛いが、まだ十一人の使徒が残っている。月の女神と双月の英雄ごときに、我々が負けることはない」
「はい!」
使徒たちが声を揃えた。
「それでは、各自配置につけ」
ゼノンは手を振った。
「明後日の夜まで、侵入者を一人たりとも聖堂に入れるな」
「御意!」
使徒たちは一礼し、次々と部屋を出ていった。
やがて、玉座の間には、ゼノンと影の司祭だけが残った。
「教祖様」
影の司祭が口を開いた。
「神崎悠斗という男……侮れません」
「ほう。そう思うか」
「はい。彼は、この世界の物理法則を超越した力を持っています。そして、月の女神と共に戦う。我々にとって、最大の脅威です」
「確かに」
ゼノンは頷いた。
「だが、所詮は人間。そして、月の女神もまだ力を完全には取り戻していない」
「しかし……」
「案ずるな」
ゼノンは玉座に座り直した。
「万が一、彼らが聖堂内部に侵入したとしても……私がいる」
ゼノンの周囲に、黒い霧が立ち上った。
「この世界を滅ぼし、再生させる者だ。月の女神ごとき、私の敵ではない」
「御意」
影の司祭は深く頭を下げた。
「それでは、私は守備の指揮を執ってまいります」
「うむ。頼んだぞ」
影の司祭は玉座の間を後にした。
一人残されたゼノンは、じっと黙って座っていた。
「神崎悠斗……月の女神ルーナ……」
彼は呟いた。
「お前たちが、この聖堂に辿り着けるか。そして……私を倒せるか」
「楽しみにしているぞ」
黒い笑いが、玉座の間に響き渡った。
エルディア王国、王城。
白い壁、清潔なベッド、窓から差し込む柔らかな朝日。
セレスティアは、ベッドの上で静かに目を覚ました。
「ん……」
体を起こすと、わずかな痛みが走った。
「まだ……痛いわ……」
彼女は自分の体を確認した。
昨夜、医師に治療してもらった傷は、ほとんど癒えていた。しかし、まだ完全ではない。
「でも……生きてる……」
セレスティアは深く息を吸った。
空気が美味しい。
黒月教の地下牢に囚われていた時は、空気も澱んでいて、息をするのも辛かった。
でも、今は違う。
「助かったんだ……」
彼女の目に、涙が浮かんだ。
悠斗とルーナが、自分を救ってくれた。
黒月教の要塞に乗り込み、第十二使徒クルエンタと戦い、そして勝利した。
「悠斗様……ルーナ様……」
セレスティアは胸に手を当てた。
感謝の気持ちでいっぱいだった。
その時――
コンコン。
扉をノックする音がした。
「セレスティア様、起きていらっしゃいますか?」
聞き覚えのある声。
「マリア?」
「はい」
扉が開き、一人の少女が入ってきた。
セレスティアの侍女、マリア。
年齢はセレスティアより少し若く、明るい茶色の髪を持つ、快活な印象の少女だった。
「マリア!」
セレスティアは嬉しそうに叫んだ。
「会いたかったわ!」
「私もです、セレスティア様!」
マリアは駆け寄り、セレスティアの手を握った。
「本当に……本当に、心配しました……」
マリアの目に、涙が浮かんでいた。
「あなたが黒月教に捕らえられたと聞いて……私、どうしていいかわからなくて……」
「ごめんなさい、マリア。心配かけて」
セレスティアはマリアの手を握り返した。
「でも、もう大丈夫。私は、戻ってきたわ」
「はい……!」
マリアは涙を拭った。
「それで、体の調子はいかがですか?」
「ええ。だいぶ良くなったわ。医師の方が、とても良く治療してくださって」
「それは良かった……」
マリアは安堵のため息をついた。
「それでは、朝食をお持ちしますね」
「ありがとう、マリア」
マリアは一度部屋を出て、しばらくして食事を乗せたトレイを持って戻ってきた。
パン、スープ、フルーツ、温かいお茶。
「わあ……」
セレスティアは目を輝かせた。
「美味しそう……」
「さあ、召し上がってください」
マリアはトレイをセレスティアの前に置いた。
セレスティアは、ゆっくりとスープを飲み始めた。
温かいスープが喉を通り、胃に染み渡っていく。
「美味しい……」
セレスティアの目に、また涙が浮かんだ。
黒月教の牢獄では、こんな美味しいものは食べられなかった。
冷たい水と、固いパンだけ。
それが、何日も続いた。
「セレスティア様……」
マリアは心配そうにセレスティアを見つめた。
「無理しなくていいんですよ。ゆっくり食べてください」
「ええ……ありがとう……」
セレスティアは涙を拭いながら、食事を続けた。
しばらくして、セレスティアは食事を終えた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
マリアはトレイを片付けた。
「それで、セレスティア様」
マリアは少し真剣な表情になった。
「双月の英雄様と、月の女神様のこと……教えていただけますか?」
「ええ、もちろん」
セレスティアは微笑んだ。
「悠斗様とルーナ様は……本当に素晴らしい方たちよ」
「どんな方なんですか?」
マリアは目を輝かせた。
「まず、悠斗様は……とても強くて、優しい方」
セレスティアは思い出すように語り始めた。
「私が黒月教の地下牢に囚われていた時、悠斗様が助けてくれたの」
「すごい……」
「悠斗様は、黒月教の要塞に乗り込んで、たくさんの兵士たちを倒して……そして、第十二使徒クルエンタとも戦ったのよ」
「第十二使徒と……!」
マリアは驚いた表情をした。
「あの恐ろしい黒月教の幹部を……」
「ええ。そして、勝ったの」
セレスティアの声には、尊敬の念が込められていた。
「悠斗様は……この世界では考えられないような力を持っているの……まるで、英雄譚に出てくる伝説の戦士みたい」
「すごい……本当に、英雄なんですね……」
「ええ。でも、それだけじゃないの」
セレスティアは続けた。
「悠斗様は、とても優しい方なの。私が怖がっていた時、優しく声をかけてくれて……安心させてくれたわ」
セレスティアは胸に手を当てた。
「私、黒月教に捕らえられてから、ずっと怖かった。いつ殺されるかわからない。いつ拷問されるかわからない」
「セレスティア様……」
「でも、悠斗様が来てくれた時、すべてが変わったの。もう大丈夫だって、心から思えた」
セレスティアの目が、優しく輝いた。
「悠斗様は……私のヒーローよ」
「素敵……」
マリアは憧れの眼差しでセレスティアを見た。
「それで、月の女神様は?」
「ルーナ様も、素晴らしい方よ」
セレスティアは微笑んだ。
「ルーナ様は……とても美しくて、神々しい方。銀色の髪と瞳を持っていて、まるで月そのものみたい」
「わあ……」
「でも、堅苦しい感じじゃないの。すごく優しくて、話しやすくて……」
セレスティアは思い出した。
救出された後、ルーナが自分に優しく声をかけてくれたこと。
「大丈夫? もう安全よ」
あの柔らかな声。
「ルーナ様は、月の女神としての力を失っているって聞いたけど……それでも、とても強いの」
「どんな魔法を使うんですか?」
「月光の魔法」
セレスティアは説明した。
「月の力を借りて、光の矢を放ったり、敵を照らしたり……そして、悠斗様を支えたり」
「悠斗様を支える……」
「ええ。二人は、完璧なコンビなの」
セレスティアの声が、少し羨ましそうになった。
「悠斗様が戦う時、ルーナ様がサポートする。ルーナ様が疲れた時、悠斗様が守る。二人は、お互いを完全に信頼しているの」
「素敵な関係ですね……」
「ええ。そして……」
セレスティアは少し恥ずかしそうに言った。
「二人は、恋人同士なのよ」
「えっ!」
マリアは驚いた。
「月の女神様が、恋人を……!」
「ええ。二人は、とても仲が良いの。悠斗様がルーナ様を見る目は、とても優しくて……ルーナ様も、悠斗様を見る時、とても幸せそうで……」
セレスティアは頬を赤らめた。
「私、二人を見ていると……胸が温かくなるの」
「わかります!」
マリアも頬を赤らめた。
「そういう関係、憧れますよね!」
「ええ……」
二人は顔を見合わせて、笑った。
セレスティアは窓の外を見た。
青い空。白い雲。
「マリア」
「はい?」
「私ね……悠斗様を見ていて思ったの」
セレスティアは続けた。
「悠斗様は、この世界の人じゃない。異世界から来た方。でも、この世界のために必死に戦ってくれている」
「はい」
「なぜだと思う?」
「それは……」
マリアは少し考えた。
「ルーナ様を愛しているから……ですか?」
「それもあると思うわ」
セレスティアは微笑んだ。
「でも、それだけじゃないと思うの」
「と言いますと?」
「悠斗様は……きっと、正義感が強い方なんだと思う」
セレスティアは真剣な表情で言った。
「困っている人を見たら、放っておけない。たとえ自分に関係なくても、助けたいと思う。そういう方なんだと思うの」
「素晴らしい……」
マリアは感動した表情をした。
「だから、私も悠斗様みたいになりたい」
セレスティアは拳を握りしめた。
「困っている人を助けられる、強い人になりたい」
「セレスティア様……」
「黒月教に捕らえられていた時、私は本当に怖かった」
セレスティアの声が震えた。
「毎日、悲鳴が聞こえてきて……いつか自分も、あんな風になるんじゃないかって……」
「セレスティア様……」
マリアはセレスティアの手を握った。
「でも、悠斗様が助けてくれた。だから、今度は私が誰かを助ける番なの」
セレスティアは涙を拭った。
「もう、二度と……あんな思いをする人を作りたくない」
「セレスティア様……」
マリアの目にも涙が浮かんだ。
「私、あなた様を尊敬します」
「ありがとう、マリア」
セレスティアは微笑んだ。
「あなたがいてくれて、本当に心強いわ」
二人は抱き合った。
温かい時間が流れる。
しばらくして、マリアは言った。
「そういえば、セレスティア様」
「何?」
「クルエンタとの戦いを、実際にご覧になったんですか?」
「いえ……でも音は聞こえていたわ」
セレスティアは少し震えた。
「あれは……本当に恐ろしかった」
セレスティアは思い出すように語り始めた。
「爆音が鳴り響き、地鳴りがしたわ」
マリアは震えた。
「想像するだけで怖いです……」
「ええ。でも、悠斗様たちは勝った」
セレスティアは力強く言った。
「だから、きっと今度も勝てる」
「そうですね」
マリアも頷いた。
「悠斗様とルーナ様なら、きっと……」
二人は窓の外を見た。
遠くに、北の山脈が見える。
あの向こうに、黒月の聖堂がある。
「悠斗様……ルーナ様……」
セレスティアは祈るように呟いた。
「どうか、無事で……」
しばらくして、マリアは真剣な表情に戻った。
「それで、セレスティア様」
「何?」
「黒月教……どうでしたか?」
セレスティアの表情が曇った。
「……怖かったわ」
彼女は小さく呟いた。
「地下牢は、暗くて、冷たくて……毎日、誰かの悲鳴が聞こえてきたの」
「悲鳴……」
「ええ。黒月教は、捕らえた人々を実験に使っていたの。特に、クルエンタという使徒が……」
セレスティアは震えた。
「彼は……血を使った恐ろしい魔法を使う男だった。人の血を操って、怪物を作り出したり、武器にしたり……」
「恐ろしい……」
「私も、いつか実験に使われるんじゃないかって……毎日怖かったわ」
セレスティアの目に、涙が浮かんだ。
「でも……悠斗様たちが、クルエンタを倒してくれた」
「はい」
「これで、もう……あんな恐ろしいことは起きないわ」
セレスティアは涙を拭った。
「マリア、私ね……これから、悠斗様たちの力になりたいの」
「力に……?」
「ええ。私は月の巫女。月の力を少しだけ使えるの」
セレスティアは手のひらに、小さな光の球を浮かべた。
淡い、銀色の光。
「この力で、悠斗様たちを助けたい。黒月教を止めるために、私も戦いたいの」
「セレスティア様……」
マリアは感動した表情をした。
「素晴らしいです。私も、何かお手伝いできることがあれば……」
「ありがとう、マリア」
セレスティアは微笑んだ。
「あなたがいてくれるだけで、私は心強いわ」
「セレスティア様……」
二人は抱き合った。
温かい、優しい時間。
しばらくして、マリアは言った。
「それでは、セレスティア様。そろそろ、国王陛下にご挨拶に行きませんか?」
「そうね。でも、この格好じゃ……」
セレスティアは自分の服を見た。
簡素な患者服。
「大丈夫です。私が、綺麗な服をご用意します」
マリアは立ち上がった。
「少しお待ちください」
マリアは部屋を出て、しばらくして綺麗なドレスを持って戻ってきた。
白を基調とした、清楚なドレス。月の巫女にふさわしい。
「わあ……綺麗……」
「さあ、着替えましょう」
マリアはセレスティアの着替えを手伝った。
ドレスを着たセレスティアは、鏡に映る自分の姿を見た。
「久しぶりね……こんな格好」
「とてもお似合いですよ」
マリアは微笑んだ。
「それでは、参りましょうか」
「ええ」
二人は医務室を出て、王城の廊下を歩き始めた。
廊下には、多くの衛兵や侍女たちがいた。
彼らは、セレスティアの姿を見ると、一斉に頭を下げた。
「月の巫女様、お戻りになられて、本当に良かったです!」
「ありがとう、みんな」
セレスティアは優しく微笑んだ。
「私も、戻ってこれて嬉しいわ」
やがて、二人は王の謁見の間に到着した。
大きな扉。
衛兵が扉を開けた。
「月の巫女セレスティア様、お入りです」
セレスティアとマリアは、謁見の間に入った。
広い部屋。天井は高く、壁には王国の紋章が飾られている。
そして、部屋の奥には――
玉座。
そこに、国王アルフレッドが座っていた。
「セレスティア」
アルフレッドは立ち上がり、セレスティアに向かって歩いてきた。
「陛下」
セレスティアは膝をついて頭を下げた。
「頭を上げてくれ」
アルフレッドは優しく言った。
「そなたは、我が国の大切な月の巫女。そして、この度は……大変な目に遭ったと聞いた」
「はい……」
セレスティアは顔を上げた。
「黒月教に捕らえられ、囚われていました。しかし、悠斗様とルーナ様が助けてくださいました」
「うむ。悠斗殿とルーナ殿には、本当に感謝している」
アルフレッドは深くため息をついた。
「そなたを失った時、私は……どうしていいかわからなかった」
「陛下……」
「月の巫女は、この国にとって、かけがえのない存在。そして、そなたは……私にとっても、大切な……」
アルフレッドは言葉を濁した。
セレスティアは、アルフレッドの目を見つめた。
そこには、深い感情が込められていた。
「陛下……私も、戻ってこれて嬉しいです」
「うむ……」
アルフレッドは表情を引き締めた。
「さて、セレスティア。体の調子はどうだ?」
「はい。もう、ほとんど回復しました」
「それは良かった」
「陛下」
セレスティアは一歩前に出た。
「私、これから悠斗様たちと共に戦いたいのです」
「何?」
アルフレッドは驚いた表情をした。
「戦うと言うのか?」
「はい。私は月の巫女。月の力を使えます。この力で、悠斗様たちを支援したいのです」
「しかし……」
アルフレッドは躊躇した。
「そなたは、まだ体が完全ではないだろう」
「大丈夫です」
セレスティアは強い意志を込めて言った。
「私は、もう逃げません。黒月教に捕らえられた時、私は何もできませんでした。ただ、怖がっているだけでした」
「セレスティア……」
「でも、もう違います。私には、守りたいものがある。この国、この世界、そして……悠斗様たちを」
セレスティアの目が、強く輝いた。
「だから、戦わせてください」
アルフレッドは、しばらくセレスティアを見つめていた。
そして――
「……わかった」
アルフレッドは頷いた。
「そなたの覚悟、確かに受け取った」
「陛下……!」
「ただし、無理はするな。体を大切にしろ」
「はい!」
セレスティアは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます、陛下」
「うむ」
アルフレッドも微笑んだ。
彼女の心には、新しい決意が芽生えていた。
もう、弱い自分ではいられない。
悠斗とルーナに救われた自分には、恩返しをする義務がある。
そして――
この世界を、守らなければならない。
「私、頑張ります」
セレスティアは心の中で誓った。
「悠斗様、ルーナ様……私も、一緒に戦います」
ノルディア帝国
エリシアの私室。
広い部屋。豪華な調度品が並び、窓からは美しい庭園が見える。
エリシアは、窓際の椅子に座り、外を眺めていた。
「綺麗……」
庭園には、色とりどりの花が咲いている。赤、青、黄色、紫。
鳥たちが飛び交い、噴水の音が心地よく響いている。
「平和ね……」
エリシアは呟いた。
しかし、その平和も、今は危機に瀕している。
黒月教の脅威。
世界を滅ぼそうとする、恐ろしい組織。
「でも……」
エリシアは微笑んだ。
「悠斗様とルーナ様がいれば、きっと大丈夫」
彼女は、悠斗とルーナのことを思い出した。
初めて会った時のこと。
悠斗の強さ。
ルーナの優しさ。
「素敵な方たち……」
エリシアの頬が、わずかに赤らんだ。
その時――
コンコン。
扉をノックする音がした。
「エリシア様、失礼いたします」
聞き覚えのある声。
侍女の一人、ソフィアだった。
「どうぞ」
扉が開き、ソフィアが入ってきた。
ソフィアは、エリシアより少し年上の、落ち着いた雰囲気の女性だった。長い黒髪を後ろでまとめ、清楚なメイド服を着ている。
「エリシア様、お茶をお持ちしました」
「ありがとう、ソフィア」
ソフィアは銀のトレイに乗せた紅茶とお菓子を、テーブルに置いた。
「どうぞ、召し上がってください」
「ええ」
エリシアは席を立ち、テーブルに向かった。
紅茶の香りが、部屋に広がる。
「いい香り……」
エリシアは紅茶を一口飲んだ。
温かい紅茶が、喉を通っていく。
「美味しい」
「ありがとうございます」
ソフィアは微笑んだ。
「エリシア様、最近お顔の色が良くなりましたね」
「そう?」
「はい。以前は、少しお疲れのご様子でしたが……今は、とても明るく見えます」
「それは……」
エリシアは紅茶のカップを見つめた。
「悠斗様たちのおかげかもしれないわ」
「双月の英雄様と、月の女神様ですね」
「ええ」
エリシアは微笑んだ。
「あの方たちが来てくれてから、私……変われた気がするの」
「と言いますと?」
「以前の私は……臆病で、引っ込み思案で……何もできない皇女だったわ」
エリシアは少し寂しそうに言った。
「父が他国との戦争を始めようとした時も、私は何も言えなかった。ただ、黙って見ているだけ」
「エリシア様……」
「でも、悠斗様たちが来てくれて……私は、勇気をもらったの」
エリシアの目が輝いた。
「悠斗様は、とても強くて、優しくて……そして、正しいことのために戦う方」
「はい」
「ルーナ様も、とても素敵な方。神々しいのに、親しみやすくて……」
エリシアは頬を赤らめた。
「二人を見ていると……私も、もっと強くならなきゃって思うの」
「エリシア様……」
ソフィアは感動した表情をした。
「素晴らしいです。あなた様は、本当に成長されました」
「ありがとう、ソフィア」
エリシアは微笑んだ。
「あなたが、いつも支えてくれたおかげよ」
「いえ、そんな……」
ソフィアは照れくさそうに言った。
二人はしばらく、お茶を飲みながら話していた。
「そういえば、ソフィア」
エリシアが話題を変えた。
「悠斗様たちは、今どこにいるの?」
「ああ、それが……」
ソフィアは少し心配そうな表情をした。
「今朝、エルディア王国から連絡がありました。悠斗様とルーナ様は、北の黒月の聖堂に向かわれたそうです」
「黒月の聖堂……」
エリシアの表情が曇った。
「あの、黒月教の総本山……」
「はい。とても危険な場所です」
「悠斗様たちは……大丈夫なのかしら……」
エリシアは不安そうに呟いた。
「大丈夫ですよ」
ソフィアは優しく言った。
「悠斗様とルーナ様なら、きっと勝てます」
「そうね……」
エリシアは頷いた。
「悠斗様たちなら、きっと……」
でも、心の中の不安は消えなかった。
黒月の聖堂は、黒月教の最後の砦。
そこには、教祖ゼノンと、残りの十二使徒たちがいる。
「私も……何かできることは……」
エリシアは考えた。
自分は戦えない。魔法も使えない。
でも――
「そうだ」
エリシアは立ち上がった。
「ソフィア、父上はどこにいるの?」
「国王陛下は、執務室にいらっしゃるかと」
「わかったわ。行ってくる」
「エリシア様?」
「私、父上に話があるの」
エリシアは決意を込めて言った。
「悠斗様たちを支援する方法を、父上と相談したいの」
「エリシア様……」
ソフィアは驚いた表情をした。
「素晴らしいです。ぜひ、行ってらっしゃい」
「ええ」
エリシアは部屋を出て、廊下を歩き始めた。
心臓が高鳴っている。
以前の自分なら、こんなこと考えもしなかっただろう。
でも、今は違う。
「私も、この世界を守りたい」
エリシアは心の中で誓った。
「悠斗様、ルーナ様……私も、精一杯頑張ります」
彼女は、父の執務室へと向かった。
廊下を歩きながら、エリシアは緊張していた。
父との会話は、いつも緊張する。
父は厳格で、王としての威厳がある。
以前の自分なら、こんな大胆なことを言い出す勇気はなかっただろう。
でも、今は違う。
「私、変わったんだ」
エリシアは自分に言い聞かせた。
「もう、臆病な王女じゃない」
やがて、執務室の扉が見えてきた。
衛兵が扉の前に立っている。
「エリシア様」
衛兵が敬礼した。
「皇帝陛下にお会いしたいのですが」
「はい。少々お待ちください」
衛兵は扉をノックした。
「皇帝陛下、エリシア様がお見えです」
「入れ」
父の声が聞こえた。
扉が開かれた。
「どうぞ」
エリシアは深呼吸して、執務室に入った。
広い部屋。窓からは庭園が見える。
机には、たくさんの書類が積まれている。
そして、机の向こうには――
父、ノルディア帝国の皇帝が座っていた。
立派な髭を蓄えた、威厳のある男性。
「エリシア」
父は優しい表情で言った。
「どうした? 何か用か?」
「はい、父上」
エリシアは一歩前に出た。
「お話があります」
「ほう。では、座ってくれ」
父は椅子を指差した。
エリシアは椅子に座った。
「それで、何の話だ?」
「悠斗様とルーナ様のことです」
エリシアは真剣な表情で言った。
「二人は今、黒月の聖堂に向かっています」
「うむ。エルディア王国から連絡があった」
父は頷いた。
「二人は、世界を救うために戦っている」
「それで?」
「私……二人を支援したいのです」
エリシアは力強く言った。
父は驚いた表情をした。
「支援……とは?」
「我が国の軍を、北に向かわせてください」
エリシアは続けた。
「悠斗様たちが戦っている間、周辺の村や町を守るために」
「なるほど……」
父は考え込んだ。
「しかし、他国の戦いに介入するのは……」
「これは、他国との戦いではありません」
エリシアは父の言葉を遮った。
「これは、世界全体の戦いです」
「エリシア……」
「黒月教は、世界を滅ぼそうとしています。もし悠斗様たちが負けたら、我が国も滅びます」
エリシアの声が強くなった。
「だから、今こそ行動すべきです。黙って見ている場合ではありません」
父は、じっとエリシアを見つめた。
「お前……いつの間に、そんなに強くなったんだ」
「父上……」
「以前のお前なら、こんなことを言い出すとは思わなかった」
父は微笑んだ。
「成長したな、エリシア」
「父上……」
エリシアの目に涙が浮かんだ。
「私……悠斗様たちに出会って、変わったんです」
「そうか……」
父は立ち上がり、窓の外を見た。
「悠斗殿とルーナ殿か……」
「はい。二人は、本当に素晴らしい方たちです」
エリシアも立ち上がった。
「二人は、私に勇気をくれました。だから、今度は私が二人を支える番なんです」
「わかった」
父は振り向いた。
「お前の言う通りだ。我が国も、行動すべき時が来た」
「父上……!」
「すぐに、軍を動かす」
父は机に向かい、羽根ペンを取った。
「北方の村や町を守るために、部隊を派遣する。そして、悠斗殿たちへの補給路も確保する」
「ありがとうございます、父上!」
エリシアは嬉しそうに言った。
「礼には及ばん」
父は書類に何かを書き始めた。
「これは、我が国のためでもある。そして……」
父はエリシアを見た。
「お前の成長を見られて、私は嬉しい」
「父上……」
エリシアは涙を拭った。
「ありがとうございます」
「さあ、行け」
父は優しく言った。
「お前も、できることをやれ」
「はい!」
エリシアは一礼して、執務室を出た。
廊下を歩きながら、彼女は心の中で叫んだ。
「やった……!」
父が、自分の提案を受け入れてくれた。
これで、悠斗とルーナを支援できる。
「悠斗様、ルーナ様……」
エリシアは拳を握りしめた。
「私も、精一杯頑張ります」
彼女は自分の部屋に戻り、ソフィアに報告した。
「ソフィア、父上が軍を動かしてくれることになったわ!」
「本当ですか!」
ソフィアは驚いた表情をした。
「素晴らしいです、エリシア様!」
「ええ。これで、少しでも悠斗様たちの力になれるわ」
エリシアは微笑んだ。
「私も、この戦いに参加できるのね」
「はい」
ソフィアも微笑んだ。
「エリシア様は、本当に立派な王女様になられました」
「ありがとう、ソフィア」
二人は抱き合った。
窓の外では、太陽が西に傾き始めていた。
長い一日が、終わろうとしている。
しかし、戦いはまだ終わっていない。
北の地では、今も悠斗とルーナが戦っている。
「無事で……」
エリシアは祈った。
「どうか、二人とも無事で……」
夕日が、王城を赤く染めていった。
その頃。
悠斗とルーナは、馬車の中にいた。
馬車は、ガタガタと揺れながら北へ向かって進んでいる。
窓の外には、雪景色が広がっていた。
「寒くなってきたな……」
悠斗は呟いた。
「ええ。北に行くほど、気温が下がるわね」
ルーナは窓の外を見た。
雪が降りしきっている。白い雪が、地面を覆い尽くしている。
「この先だな、黒月の聖堂があるのは……」
「ええ」
バルトロメウスが答えた。
彼も馬車の中にいた。
「あと半日ほどで、聖堂の近くに到着します」
「そうか……」
悠斗は深く息を吸った。
緊張している。
いよいよ、最終決戦だ。
黒月教の総本山。
教祖ゼノンと、残りの十二使徒たち。
「大丈夫か、悠斗?」
ルーナが心配そうに声をかけてきた。
「ああ、大丈夫」
悠斗は微笑んだ。
「お前がいてくれるから」
「私も同じ気持ちよ」
ルーナは悠斗の手を握った。
「あなたがいれば、怖くない」
二人は、しばらく手を繋いだまま、黙っていた。
馬車は、雪の中を進み続ける。
「それにしても」
悠斗は話題を変えた。
「セレスティアさんは、大丈夫かな」
「ああ、月の巫女様だな」
バルトロメウスが答えた。
「彼女なら大丈夫でしょう。王城で、しっかり休んでいるはずだ」
「そうだといいんだけど……」
悠斗は少し心配そうに言った。
「彼女、黒月教に捕らえられて、辛い目に遭ったんだろうな」
「ええ」
ルーナも頷いた。
「でも、強い子よ。きっと、立ち直れるわ」
「そうだな」
悠斗は窓の外を見た。
雪が、どんどん激しくなっている。
「ところで、ルーナ」
「何?」
「お前の力、だいぶ戻ってきたよな」
「ええ」
ルーナは手のひらに、小さな光の球を浮かべた。
「少しずつだけど、月の力を取り戻している」
「クルエンタ戦では、すごい力を使ったよな」
「あれは……あなたとバルトロメウスのおかげよ」
ルーナは微笑んだ。
「二人がいてくれたから、私も力を出せた」
「俺たちは、チームだからな」
悠斗も微笑んだ。
「これからも、一緒に戦おう」
「ええ」
ルーナは頷いた。
「ずっと、一緒よ」
二人は見つめ合った。
その時――
「おや、お二人とも」
バルトロメウスが茶化すように言った。
「馬車の中で、そんなに見つめ合って……私がいることをお忘れかな?」
「あ、ごめん」
悠斗は照れくさそうに頭を掻いた。
「いや、気にするな」
バルトロメウスは笑った。
「若いお二人を見ていると、私も嬉しくなる」
「バルトロメウス……」
ルーナは微笑んだ。
「ありがとうございます」
「いえ」
バルトロメウスは真剣な表情になった。
「私は、二人に感謝している。私を信じてくれて、一緒に戦ってくれて」
「当然だよ」
悠斗は言った。
「俺たちは、仲間だろ」
「仲間……」
バルトロメウスは少し感動した表情をした。
「そうだな。私たちは、仲間だ」
三人は、しばらく黙って座っていた。
馬車は、雪の中を進み続けていた――
皆さん、こんにちは。ルーナです。
第11話「それぞれの決意」、いかがでしたでしょうか?
今回は、私たちが馬車で北へ向かう場面だけでなく、セレスティアやエリシアの視点も描かれていて……正直、少し照れくさいですね。私たちがいない場所で、こんなにも色々な人が想いを寄せてくれているなんて。
◆◆◆ セレスティアのこと ◆◆◆
セレスティア。彼女を救出できて、本当に良かったと思っています。
あの要塞で、クルエンタの血の魔法に囚われていた彼女を見た時……私、とても悔しかったんです。同じ月の眷属として、もっと早く気づいてあげられなかったのかと。
でも、悠斗とバルトロメウスと協力して、彼女を助け出せた。
今回の後書きを書くにあたって、セレスティアが王城でマリアと話していた場面を読み返したのですが……彼女、本当に強い子ですね。
あんなに怖い思いをしたのに、「もう逃げません」「誰かを助けたい」と言ってくれて。
私も、月の女神として……いえ、一人の女性として、彼女の勇気を尊敬します。
セレスティアには、これから先も月の巫女として、そして一人の強い女性として、輝いていってほしいと願っています。
◆◆◆ エリシアのこと ◆◆◆
エリシア。
最初に会った時は、あんなに臆病で、おどおどしていた彼女が……今では、父である皇帝を説得して、軍を動かすまでになって。
本当に、成長したわね。
私ね、エリシアのことが大好きなんです。
彼女は優しくて、心が綺麗で……そして、とても一生懸命。
悠斗のことを慕ってくれているのも知っています。ええ、気づいていますよ? あの頬を赤らめる様子、とても可愛らしいですもの。
でもね、私……嫉妬とかはしないんです。
だって、エリシアは私たちに勇気をくれた大切な友達だから。
彼女が悠斗を慕ってくれること、それは悠斗が素晴らしい人だという証明でもあるから。
それに……悠斗は、私だけを見ていてくれるって、信じていますから。
ふふ、ちょっと自信過剰かしら?
でも、あの人は……本当に一途なんです。
だから、私も一途に、あの人を愛し続けます。
◆◆◆ 黒月教のこと ◆◆◆
今回、黒月の聖堂での会議の様子が描かれていましたね。
ゼノン。
あの男の声は……聞いているだけで、背筋が凍りつくようでした。
まだ実際に会ったことはありませんが、あの圧倒的な存在感。あの冷酷さ。
クルエンタが倒されたことを、「所詮その程度の男だった」と切り捨てる非情さ。
正直に言います。
私、怖いです。
ゼノンと戦うことが、とても怖い。
でも……逃げるわけにはいきません。
あの男を止めなければ、この世界は滅びてしまう。
悠斗が、バルトロメウスが、セレスティアが、エリシアが、そして多くの人々が……みんな、死んでしまう。
だから、私は戦います。
月の女神として。
そして、悠斗の恋人として。
◆◆◆ 悠斗のこと ◆◆◆
あのね、悠斗。
今回の最後、馬車の中で……あなたと手を繋いでいる時、私、すごく幸せだったんです。
「お前がいてくれるから」って言ってくれて。
「ずっと、一緒よ」って、私も答えて。
あの瞬間、私……この世界に来て、本当に良かったって思いました。
もし、あなたに出会えなかったら。
もし、あなたが私を異世界に呼んでくれなかったら。
私は、きっとずっと一人で、孤独で、怖くて……何もできないまま、終わっていたと思います。
でも、あなたが手を差し伸べてくれた。
私を見つけてくれた。
私を愛してくれた。
だから、私も……あなたを守りたい。
あなたと一緒に、この世界を救いたい。
明日――いえ、もうすぐ、私たちは黒月の聖堂に到着します。
そこで、黒月教との戦いが始まります。
怖いです。
とても、怖いです。
でも、あなたがいるから。
あなたと一緒なら、私は戦えます。
どんな敵が来ても。
どんな困難が待っていても。
あなたと二人なら、乗り越えられる。
そう、信じています。
◆◆◆ 皆さんへ ◆◆◆
ここまで読んでくださった皆さん。
本当に、ありがとうございます。
次回、第12話では……いよいよ、黒月の聖堂に突入します。
十一人の使徒たちとの戦い。
そして、教祖ゼノンとの対決。
儀式を止めるために、私たちは全力で戦います。
どうか、応援していてください。
私と悠斗、そしてバルトロメウスとセレスティアを。
そして、エリシア、イザベラ、国王陛下、レイナルド様……多くの人々の想いを背負って。
私たちは、必ず勝ちます。
この世界を、守ってみせます。
◆◆◆ 最後に ◆◆◆
あ、そうそう。
馬車の中で、バルトロメウスに「私がいることをお忘れかな?」って茶化されたシーン。
あれ、実は……本当に忘れてました。ごめんなさい、バルトロメウス。
悠斗と見つめ合っていると、周りが見えなくなっちゃって……
ふふ、恋する乙女の特権、ということで許してください。
それと、悠斗。
あなた、最近また食べる量が増えてますよね?
馬車の休憩の時、街で買ったパンを十個も食べて……
確かに、体が小さくなって代謝が速いから、たくさん食べないといけないのは分かります。
でも、十個は……ちょっと食べ過ぎじゃないかしら?
まあ、それも含めて……あなたらしいですけれど。
私、あなたのそういうところも、好きですよ。
では、第12話でまたお会いしましょう。
月の光とともに。
ルーナ
――――――――――――――――――――――――――――――
P.S.
悠斗へ。
これを読んでいるかわからないけれど……
私ね、本当はすごく怖いんです。
でも、あなたの前では強がっちゃうの。
だって、あなたに心配かけたくないから。
でもね、もし……もし、本当に怖くなったら。
その時は、ぎゅっと抱きしめてくれますか?
そうすれば、私……また頑張れる気がするから。
ずっと、そばにいてね。
愛してる、悠斗。
――ルーナ




