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模型(1/10)スケールのアポカリプス  作者: 暁の裏


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第10話 「第十二使徒「血の錬金術師」クルエンタ」

 青白い光が消えた時、悠斗たちは見知らぬ場所に立っていた。


「ここが……西の要塞か」


 悠斗は周囲を見渡した。


 石造りの廊下。天井は低く、壁は灰色の石で作られている。松明が壁に取り付けられ、オレンジ色の光が薄暗い空間を照らしている。


「静かだな……」


 ルーナが呟いた。


 彼女の顔色は、まだ完全には回復していないが、先ほどよりはずっと良くなっている。


「ええ。しかし、油断は禁物です」


 バルトロメウスが警告した。


「ここは黒月教の重要拠点の一つ。必ず守備兵がいるはずです」


「わかった。気をつけよう」


 悠斗は拳を握りしめた。


 三人は慎重に廊下を進んでいった。


 石の床に足音が響く。松明の炎が、ゆらゆらと揺れている。


「悠斗」


 ルーナが小声で呼びかけた。


「何か……聞こえないか?」


 悠斗は耳を澄ませた。


 遠くから、何かの音が聞こえる。


 足音。それも、複数の。


「誰かが近づいてくる……!」


 バルトロメウスが警戒した。


「数は……十人以上だ」


「ちっ、もう見つかったのか!」


 悠斗は舌打ちした。


 その時――


 廊下の向こうから、黒い鎧を纏った兵士たちが現れた。


「侵入者だ!」


 先頭の兵士が叫んだ。


「捕らえろ!」


 兵士たちが一斉に襲いかかってきた。


「いきなりかよ!」


 悠斗は構えた。


「お前たち、俺の後ろに!」


 ルーナとバルトロメウスが悠斗の背後に隠れた。


 兵士たちが槍を構えて突進してくる。


 しかし――


 悠斗の目には、彼らの動きがスローモーションに見えた。


「遅い!」


 悠斗は地面を蹴り、兵士たちの頭上を飛び越えた。


「何っ!?」


 兵士たちが驚いて見上げる。


 悠斗は空中で体を捻り、壁を蹴って方向転換した。


 そして、兵士たちの背後に着地した。


「こっちだ!」


 悠斗は最後尾の兵士の背中を軽く叩いた。


 ドンッ!


 兵士は前のめりに倒れ、他の兵士たちを巻き込んで将棋倒しになった。


「うわっ!」


「ぐあっ!」


 兵士たちが次々と倒れていく。


「やった……」


 悠斗は拳を握りしめた。


 しかし――


「まだだ!」


 廊下の奥から、さらに兵士たちが現れた。


 今度は二十人以上。


「マジかよ……」


 悠斗は冷や汗をかいた。


「数が多すぎる……」


「悠斗、無理はしないで!」


 ルーナが叫んだ。


「ああ、わかってる!」


 悠斗は兵士たちに向かって走った。


 最初の兵士が槍を振り下ろしてくる。


 悠斗は横に跳んで避け、兵士の脇腹に拳を叩き込んだ。


 ドスッ!


 兵士は吹き飛び、壁に激突した。


 二人目、三人目の兵士も次々と倒していく。


 しかし、兵士たちは怯まない。


 次々と襲いかかってくる。


「きりがない……!」


 悠斗は息を切らしながら戦い続けた。


 その時――


「悠斗、伏せろ!」


 バルトロメウスの声が聞こえた。


 悠斗は反射的に地面に伏せた。


 次の瞬間――


 バルトロメウスの周囲に黒い霧が発生した。


「影の魔法……シャドウウェーブ!」


 黒い霧が波のように広がり、兵士たちを飲み込んだ。


「うわああ!」


 兵士たちが悲鳴を上げて倒れていく。


 霧が晴れると、兵士たちは全員気絶していた。


「すげえ……」


 悠斗は驚いた表情でバルトロメウスを見た。


「ありがとう、バルトロメウス」


「いや、礼には及ばん」


 バルトロメウスは息を整えた。


「私も、まだ多少の魔法は使える」


「でも、大丈夫か? 疲れてないか?」


「ああ。まだ大丈夫だ」


 バルトロメウスは頷いた。


「しかし、長くは持たない。早く進もう」


「そうだな」


 三人は再び廊下を進み始めた。


 倒れた兵士たちを避けながら、奥へと向かっていく。


 やがて、廊下は広い部屋に繋がっていた。


「ここは……」


 悠斗は部屋を見回した。


 広さは約10メートル四方。元のサイズなら100メートル四方の大広間だ。


 天井は高く、壁には松明が並んでいる。


 そして、部屋の中央には――


 大きな扉があった。


 黒い鉄で作られた、重厚な扉。


「あの扉の向こうが、要塞の中枢だ」


 バルトロメウスが説明した。


「おそらく、指揮官の部屋や、重要な施設がある」


「なら、あそこを突破すれば……」


「ええ。しかし……」


 バルトロメウスは眉をひそめた。


「あの扉、何か仕掛けがあるような気がする」


「仕掛け……?」


 悠斗は扉をじっと見つめた。


 確かに、何か違和感がある。


 扉の周囲には、複雑な紋様が刻まれている。


「魔法陣か……?」


「おそらく。触れると、何かが発動する」


「じゃあ、どうすれば……」


 その時――


 ゴゴゴゴゴ……


 床が揺れた。


「また地震か!?」


 悠斗は驚いた。


 しかし、これは地震ではない。


 床の一部が開き、そこから何かが現れた。


「これは……魔物!」


 バルトロメウスが叫んだ。


 それは、巨大な石像のような生物だった。


 高さは約2メートルの巨人だ。


 全身が灰色の石で覆われ、目は赤く光っている。


「ゴーレムだ!」


 バルトロメウスが説明した。


「石で作られた魔法生物。非常に硬く、普通の攻撃では倒せない」


「普通じゃない攻撃なら、倒せるのか?」


「ああ。核となる魔法石を破壊すれば、動きを止められる」


「魔法石……どこにある?」


「おそらく、胸部か頭部だ」


「わかった」


 悠斗は構えた。


 ゴーレムが重い足音を立てて近づいてくる。


 ドシン、ドシン、ドシン……


 そして、巨大な拳を振り下ろしてきた。


「うおっ!」


 悠斗は横に跳んで避けた。


 ドガァン!


 拳が床を叩き、石が砕け散った。


「やばい……まともに食らったら、終わりだ……」


 悠斗は冷や汗をかいた。


 ゴーレムが再び拳を振り下ろしてくる。


 悠斗は跳躍で避け、ゴーレムの腕に飛び乗った。


「胸の魔法石を狙う!」


 悠斗はゴーレムの腕を駆け上がり、胸部に到達した。


 胸の中央には、赤く光る石が埋め込まれている。


「これだ!」


 悠斗は全力で拳を叩き込んだ。


 ガキィン!


 しかし、魔法石はびくともしない。


「硬っ!」


 悠斗の手が痺れた。


「くそ、こんなに硬いのか……」


 ゴーレムが体を揺すり、悠斗を振り落とそうとする。


「うわっ!」


 悠斗は慌ててゴーレムの肩に飛び移った。


「頭の魔法石を狙うしかない!」


 悠斗はゴーレムの頭に飛び乗った。


 頭部にも、赤く光る石が埋め込まれている。


「今度こそ!」


 悠斗は両手で拳を握りしめ、全力で叩きつけた。


 ドガァン!


 魔法石に亀裂が走った。


「効いてる!」


 悠斗はさらに拳を叩き込んだ。


 ドガッ! ドガッ! ドガッ!


 魔法石が砕け始めた。


 そして――


 バキィン!


 魔法石が粉々に砕け散った。


「グオオオ……」


 ゴーレムが動きを止め、崩れ落ちた。


 ドガァァン!


 巨大な石の塊が床に倒れ、砂埃が舞い上がった。


「やった……」


 悠斗は荒い息をついた。


「悠斗、大丈夫!?」


 ルーナが駆け寄ってきた。


「ああ、なんとか……」


 悠斗は手を見た。拳が少し赤くなっている。


「でも、硬かったな……普通に殴っても効かない」


「ゴーレムは、元々対人用の兵器ではない」


 バルトロメウスが説明した。


「城壁を破壊したり、大軍を蹴散らしたりするために作られたものだ。それを倒せるお前は、やはり化け物だな」


「化け物って……」


 悠斗は苦笑した。


「それより、先に進もう。あの扉を開けないと」


 三人は、部屋の中央の扉に向かった。


 悠斗が扉に手を伸ばそうとした時――


「待て!」


 バルトロメウスが悠斗を止めた。


「触るな。魔法陣が発動する」


「じゃあ、どうやって開けるんだ?」


「魔法陣を解除する必要がある」


 バルトロメウスは扉の周囲の紋様を調べ始めた。


「この紋様は……古代魔法の文字だ」


「読めるのか?」


「ああ。少し時間をくれ」


 バルトロメウスは紋様を一つずつ確認していった。


 しばらくして――


「わかった。この魔法陣を解除するには、特定の順番で紋様に触れる必要がある」


 バルトロメウスは紋様に手を当て始めた。


 一つ目、二つ目、三つ目……


 紋様が次々と光っていく。


 そして、最後の紋様に触れた瞬間――


 カチャン。


 扉の錠が外れる音がした。


「よし、開いた」


 バルトロメウスが扉を押した。


 ギィィィ……


 重い扉が、ゆっくりと開いていった。


 その向こうには――


 長い階段が続いていた。


 下へ、下へと続く階段。


「地下に続いているのか……」


 悠斗は呟いた。


「ええ。要塞の重要施設は、地下にあることが多い」


 バルトロメウスが説明した。


「おそらく、ここの指揮官も地下にいるはずだ」


「なら、行くしかないな」


 三人は階段を下り始めた。


 石の階段は冷たく、湿っている。壁には松明が等間隔で並んでいる。


 下へ、下へ。


 やがて、階段は広い部屋に繋がっていた。


「ここは……」


 悠斗は部屋を見回した。


 広さは約15メートル四方。天井は高く、壁には不気味な紋様が描かれている。


 そして、部屋の中央には――


 大きな魔法陣が描かれていた。


 赤く光る、複雑な魔法陣。


「これは……転移魔法陣ではない」


 バルトロメウスが眉をひそめた。


「何かの儀式に使う魔法陣だ」


「儀式……?」


 その時――


「よく来たな、侵入者たち」


 低い声が響いた。


 三人は振り向いた。


 部屋の奥、魔法陣の向こう側に――


 一人の男が立っていた。


 血痕のような赤い紋様の仮面をつけた男。


 黒いローブを纏い、手には赤い液体が入った試験管のようなものを持っている。


「お前は……」


 バルトロメウスの顔が強張った。


「クルエンタ……!」


「おや、バルトロメウス。久しぶりだな」


 クルエンタは不気味に笑った。


「裏切り者が、よくもここまで来たものだ」


「クルエンタ……貴様、ここで何をしている」


「決まっているだろう? 実験だよ」


 クルエンタは試験管を掲げた。


「新しい生物兵器の開発だ。お前たちには、良い実験材料になってもらう」


「生物兵器……!」


 悠斗は警戒した。


「何をするつもりだ!」


「見せてあげよう」


 クルエンタは試験管の中身を床に注いだ。


 赤い液体が床に広がり――


 ジュウウウ……


 液体が蒸発し、赤い煙が立ち上った。


「これは……血だ」


 バルトロメウスが呟いた。


「人間の血を魔法で強化したものだ」


「正解」


 クルエンタは笑った。


「私の能力は、血液操作。血を自在に操り、武器にも、生物にも変えられる」


 赤い煙が形を成し始めた。


 獣のような形。四つ足で、牙を持つ。


「グルルルル……」


 赤い獣が唸り声を上げた。


「これは……血の獣……」


 バルトロメウスは戦慄した。


「クルエンタの作り出す魔物だ」


「一匹だけじゃないぞ」


 クルエンタは次々と試験管を取り出し、床に注いでいった。


 赤い煙が立ち上り、次々と獣が現れる。


 二匹、三匹、四匹……


 あっという間に、十匹以上の血の獣が現れた。


「さあ、楽しもうじゃないか」


 クルエンタが指を鳴らした。


「行け、私の子供たち」


 血の獣たちが一斉に襲いかかってきた。


「くそっ!」


 悠斗は構えた。


 最初の獣が飛びかかってくる。


 悠斗は拳を叩き込んだ。


 ドスッ!


 しかし――


 獣の体は液体のように変形し、悠斗の拳を避けた。


「何っ!?」


 獣が悠斗の腕に噛みついてきた。


 ガブッ!


「痛っ!」


 悠斗は腕を振って獣を振り払った。


 腕には、噛み跡がついている。血が滲んでいる。


「やばい……触れると怪我する……」


 二匹目、三匹目の獣も襲いかかってくる。


 悠斗は跳躍で避けた。


 しかし、獣たちは執拗に追いかけてくる。


「バルトロメウス、何か方法は!」


「血の獣は、物理攻撃では倒せない!」


 バルトロメウスが叫んだ。


「魔法で攻撃するしかない!」


「魔法……俺は使えないぞ!」


「なら、私が!」


 バルトロメウスは両手を広げた。


「影の魔法……シャドウニードル!」


 バルトロメウスの周囲に黒い針が現れた。


「行け!」


 黒い針が血の獣たちに向かって飛んでいった。


 シュッ、シュッ、シュッ!


 針が獣たちを貫いた。


「グルルル……」


 獣たちが苦しそうに唸った。


 しかし、傷はすぐに塞がり、再び襲いかかってくる。


「効かない……!」


 バルトロメウスは驚いた。


「再生能力があるのか……」


「ふふふ……私の血の獣は、不死身だ」


 クルエンタは笑った。


「魔法でも倒せない。物理攻撃でも倒せない。どうするつもりだ?」


「くそ……」


 悠斗は獣たちに囲まれながら、必死に考えた。


 物理攻撃が効かない。魔法も効かない。


 じゃあ、どうすれば……


 その時、悠斗は気づいた。


 血の獣は、液体から生まれた。


 つまり――


「液体なら、蒸発させればいい!」


 悠斗は叫んだ。


「バルトロメウス、火を使えるか!」


「火……? いや、私は影の魔法しか……」


「じゃあ、松明を使う!」


 悠斗は壁に取り付けられた松明を引き抜いた。


 そして、血の獣に向かって振った。


「うおおお!」


 松明の炎が獣に触れた。


 ジュウウウ!


 獣の体が蒸発し始めた。


「ギャアアア!」


 獣が悲鳴を上げて消えていった。


「効いた!」


 悠斗は次々と松明を振り回した。


 獣たちが次々と消えていく。


「くそ……!」


 クルエンタは舌打ちした。


「ならば、これではどうだ!」


 クルエンタは自分の手のひらを切り裂いた。


 血が流れ出る。


 しかし、その血は床に落ちず――


 空中で形を成し始めた。


 剣の形。槍の形。斧の形。


 赤い血液で作られた武器が、次々と現れた。


「血液操作による武器生成……!」


 バルトロメウスが驚いた。


「あれに触れれば、大怪我をする!」


「行け!」


 クルエンタが指を指した。


 血の武器たちが一斉に飛んできた。


「うわっ!」


 悠斗は跳躍で避けた。


 血の剣が悠斗の足元を掠めた。


「危ない……!」


 次々と武器が飛んでくる。


 悠斗は必死に避け続けた。


 しかし――


「ぐっ!」


 血の槍が悠斗の肩を掠めた。


「悠斗!」


 ルーナが悲鳴を上げた。


 悠斗の肩から血が流れ出る。


「くそ……避けきれない……」


 悠斗は歯を食いしばった。


 その時――


「もう、終わりにしよう」


 バルトロメウスが前に出た。


「バルトロメウス……?」


「悠斗、ルーナ様。二人は下がっていろ」


 バルトロメウスの声が、いつもと違っていた。


 低く、重く、力強い。


「私が……本気を出します」


「本気……?」


「ええ。私はかつて、黒月教の第九使徒だった」


 その顔には、古代の紋様が浮かび上がっていた。


「私の真の力を、見せてやる」


 バルトロメウスは両手を広げた。


 すると――


 彼の周囲に、巨大な黒い影が現れた。


 影は人の形をしており、約3メートルはあるだろうか。


「これは……影の化身……」


 クルエンタは驚いた表情をした。


「まさか、お前がまだその力を……」


「久しぶりに使うから、少し疲れるがな」


 バルトロメウスは静かに言った。


「さあ、クルエンタ。お前の罪を、ここで清算してもらおう」


 影の化身が動き出した。


 巨大な拳が、クルエンタに向かって振り下ろされた。


「くっ……!」


 クルエンタは血の壁を作り出した。


 ドガァン!


 拳が壁に激突し、血が飛び散った。


 しかし、影の拳は止まらない。


 壁を突き破り、クルエンタに迫った。


「ぐあっ!」


 クルエンタは吹き飛ばされ、壁に激突した。


「やった……!」


 悠斗は拳を握りしめた。


 しかし――


「まだだ……」


 クルエンタは立ち上がった。


 彼の体からは、大量の血が流れ出ている。


「まだ……終わらない……」


 クルエンタは自分の血を集め始めた。


 血が彼の周囲に集まり、巨大な球体を形成した。


「これは……血の繭……」


 バルトロメウスは眉をひそめた。


「最後の手段か……」


 血の繭が脈動し始めた。


 ドクン、ドクン、ドクン……


 まるで心臓のように。


 そして――


 バリバリバリ!


 繭が割れた。


 中から現れたのは――


 巨大な血の怪物だった。


 約4メートル、影の巨人を超えていた。


 全身が赤い血液で覆われ、無数の腕を持っている。


 顔は仮面のように無表情で、目だけが赤く光っている。


「これが……私の最終形態だ」


 クルエンタの声が、怪物の口から聞こえた。


「血の巨神……すべてを飲み込む、絶望の化身だ」


「なんて……力だ……」


 悠斗は戦慄した。


 血の巨神が腕を伸ばしてきた。


 無数の腕が、悠斗たちに向かって伸びてくる。


「バルトロメウス!」


「わかっている!」


 バルトロメウスの影の化身が前に出た。


 巨大な影が、血の腕を受け止めた。


 ドガァン!


 衝撃が部屋中に響いた。


「くっ……重い……」


 バルトロメウスは歯を食いしばった。


「この力……以前よりも強くなっている……」


「当然だ」


 クルエンタが笑った。


「私は、捕らえた人間たちの血を吸収してきた。その力を、すべてこの体に蓄えている」


「人間の血を……!」


 悠斗は怒りに震えた。


「お前……どれだけの人を殺した……!」


「数えてないな」


 クルエンタは平然と答えた。


「十人か、百人か、千人か……どうでもいい。すべては、私の研究のためだ」


「ふざけるな……!」


 悠斗は地面を蹴った。


 血の巨神に向かって突進する。


「悠斗、待て!」


 バルトロメウスが叫んだ。


「触れるな! あの血には、毒がある!」


 しかし、遅かった。


 悠斗は血の巨神に拳を叩き込んだ。


 ドガァン!


 しかし――


 拳が血の体に触れた瞬間、激しい痛みが走った。


「ぐあああ!」


 悠斗の拳が、ジュウジュウと音を立てて溶け始めた。


「悠斗!」


 ルーナが悲鳴を上げた。


 悠斗は慌てて拳を引っ込めた。


 拳は真っ赤に腫れ上がり、皮膚が剥がれている。


「くそ……毒だと……」


 悠斗は痛みに耐えながら、後退した。


「ふふふ……私の血には、強力な腐食性の毒が含まれている」


 クルエンタが笑った。


「触れるだけで、肉が溶ける。骨も溶ける。すべてを溶かしてしまう」


「くそ……どうすれば……」


 悠斗は必死に考えた。


 直接触れることはできない。


 松明の火も、この巨体には効かないだろう。


 じゃあ、どうすれば……


 その時――


「悠斗」


 ルーナが声をかけた。


「私に、任せて」


「ルーナ……?」


 ルーナは前に出た。


「私は、月の女神。力はまだ完全には戻っていないけど……」


 ルーナは両手を広げた。


「月光には、浄化の力がある」


 ルーナの手のひらに、銀色の光が集まり始めた。


「月光の軌跡!」


 銀色の光が、部屋中に広がった。


 光が血の巨神に触れると――


 ジュウウウ……


 血が蒸発し始めた。


「ぐっ……!」


 クルエンタが苦しそうに唸った。


「月の光が……血を浄化している……!」


「ええ」


 ルーナは静かに言った。


「あなたの汚れた血は、聖なる月の光には耐えられない」


 銀色の光がさらに強くなった。


 血の巨神が、みるみる縮んでいく。


「くそ……くそおおお!」


 クルエンタは必死に抵抗した。


 しかし、月の光は容赦なく血を浄化していく。


 やがて――


 血の巨神は完全に消え去り、床には一人の男が倒れていた。


 クルエンタだ。


 彼の体は痩せ細り、顔は蒼白だ。


「ぐっ……負けた……のか……」


 クルエンタは力なく呟いた。


「ルーナ、すごい……」


 悠斗は驚いた表情でルーナを見た。


「でも……」


 ルーナは膝をついた。


「やっぱり……まだ力が足りない……」


「ルーナ!」


 悠斗は慌ててルーナを支えた。


「大丈夫か!」


「ええ……ちょっと疲れただけ……」


 ルーナは微笑んだ。


「でも、勝てたわね」


「ああ」


 悠斗もルーナを抱きしめた。


「ありがとう。お前がいなかったら、俺たちは負けてた」


「いいえ。私たちは、チームだから」


 ルーナは悠斗の肩に頭を預けた。


「一緒なら、どんな敵にも勝てるわ」


 バルトロメウスは、倒れているクルエンタに近づいた。


「クルエンタ。お前は、多くの罪を犯した」


「ふふ……そうだな……」


 クルエンタは苦笑した。


「私は……多くの人を殺した……実験のために……」


「なぜ、そこまでした」


「研究のためだ……」


 クルエンタは目を閉じた。


「私は……知りたかった……生命の秘密を……血の力を……」


「そのために、人を殺したのか」


「ああ……私は……狂っていた……」


 クルエンタの声が、弱々しくなっていく。


「だが……一つだけ……教えてやろう……」


「何だ?」


「黒月の儀式……もうすぐ始まる……準備期間を圧縮した…」


 クルエンタは咳き込んだ。


 口から血が流れ出る。


「教祖ゼノン……北の聖堂で……準備を進めている……」


「北の聖堂……」


「ああ……二十四の祭壇……すべてが……起動する……」


「いつだ! いつ儀式が始まる!」


 バルトロメウスが尋ねた。


「わからん……だが……近い……」


 クルエンタは震える手を上げた。


「それと……もう一つ……」


「何だ」


「この要塞の地下……牢獄がある……」


「牢獄……?」


「ああ……そこに……捕らえられた者たちがいる……」


 クルエンタの声が、さらに弱くなった。


「エルディア王国の……月の巫女……も……」


「月の巫女!?」


 ルーナが驚いた表情をした。


「本当なの!?」


「ああ……最下層の……牢獄に……」


 クルエンタは最後の力を振り絞って言った。


「助けて……やってくれ……彼女は……何も悪くない……私が……勝手に……捕らえた……」


「クルエンタ……」


 バルトロメウスはクルエンタの手を握った。


「わかった。必ず助ける」


「ありがとう……」


 クルエンタは微笑んだ。


「これで……少しは……償いに……」


 そして――


 クルエンタの手が、力なく落ちた。


 彼の目は閉じられ、呼吸は止まっていた。


「クルエンタ……」


 バルトロメウスは静かに祈りを捧げた。


「安らかに眠れ」


 悠斗とルーナも、黙祷を捧げた。


 しばらくして――


「行こう」


 バルトロメウスが立ち上がった。


「月の巫女を助けなければ」


「ああ」


 悠斗も立ち上がった。


「地下の牢獄に行こう」


 三人は、部屋の奥にある階段を見つけた。


 さらに下へと続く階段。


「ここを降りれば、牢獄だ」


 バルトロメウスが説明した。


 三人は階段を下りていった。


 冷たく湿った空気。暗闇。


 やがて、階段は狭い廊下に繋がっていた。


 廊下の両脇には、鉄格子の部屋が並んでいる。


 牢獄だ。


「誰かいるか?」


 悠斗は声をかけた。


 しかし、返事はない。


 三人は廊下を進んでいった。


 ほとんどの牢獄は空っぽだ。


 しかし――


 廊下の最奥、最後の牢獄に――


 一人の女性が倒れていた。


「あれは……」


 ルーナが駆け寄った。


 鉄格子の向こうで、女性がうずくまっている。


 白いローブを着ているが、ボロボロに破れている。


 髪は長く、金色だが、汚れて絡まっている。


「巫女……?」


 ルーナは呟いた。


「悠斗、この鉄格子を……」


「わかった」


 悠斗は鉄格子を掴んだ。


 そして、全力で引っ張った。


 ギギギギ……


 鉄格子が曲がり始めた。


「うおおお!」


 悠斗は歯を食いしばり、さらに力を込めた。


 バキィン!


 鉄格子が折れた。


「よし」


 悠斗は牢獄の中に入った。


 ルーナとバルトロメウスも続いた。


「大丈夫?」


 ルーナが女性に近づいた。


 女性は顔を上げた。


 その顔は、痩せ細り、頬がこけている。


 しかし、その目は、まだ生きる意志を失っていなかった。


「あなたたちは……」


 女性は弱々しく尋ねた。


「私たちは、あなたを助けに来ました」


 ルーナは優しく言った。


「もう大丈夫。ここから出ましょう」


「ありがとう……ございます……」


 女性の目に、涙が浮かんだ。


「私は……エルディア王国の月の巫女……セレスティア……」


「セレスティア……」


 ルーナは女性の手を握った。


「私はルーナ。月の女神です」


「月の女神……様……」


 セレスティアは驚いた表情をした。


「本当に……あなたが……」


「ええ。そして、こちらは悠斗。私の大切な人です」


 ルーナは悠斗を指差した。


「そして、バルトロメウス。元黒月教の第九使徒ですが、今は私たちの仲間です」


「よろしく」


 悠斗は微笑んだ。


「今から、ここから出よう。歩けるか?」


「はい……なんとか……」


 セレスティアは立ち上がろうとした。


 しかし、足がふらつき、倒れそうになった。


「危ない!」


 悠斗はセレスティアを支えた。


「無理するな。俺が運ぶ」


 悠斗はセレスティアを抱き上げた。


「ありがとう……ございます……」


 セレスティアは悠斗の胸に頭を預けた。


「それじゃ、行こう」


 三人は牢獄を出て、階段を登り始めた。


 上へ、上へ。


 やがて、要塞の一階に戻ってきた。


「ここから、どうやって脱出する?」


 悠斗は尋ねた。


「転移門を使いましょう」


 バルトロメウスが提案した。


「祭壇にあった転移門は、他の拠点にも繋がっているはずです」


「でも、どこに繋がってるかわからないんじゃ……」


「いや、エルディア王国の王都に繋がる転移門があるはずです」


 バルトロメウスは説明した。


「黒月教は、各国の王都にも密かに転移門を設置しています。諜報活動のためにね」


「なら、それを使えば王都に帰れるのか」


「ええ。ただし、転移門の場所を探さなければなりません」


「わかった。探そう」


 三人は要塞の中を探索し始めた。


 しばらくして――


「ここだ」


 バルトロメウスが部屋の一つを指差した。


「この部屋に、転移門がある」


 部屋の中には、青白く光る魔法陣が描かれていた。


「これで、王都に帰れるのか」


「ええ。しかし……」


 バルトロメウスは魔法陣を調べた。


「この転移門、少し複雑です。正しく操作しないと、別の場所に飛ばされてしまう」


「じゃあ、お前に任せる」


「わかった」


 バルトロメウスは魔法陣に手をかざし、古代文字を唱え始めた。


 魔法陣の光が強くなっていく。


「準備ができました。エルディア王国の王都に繋がっています」


「よし、行こう」


 四人は、同時に魔法陣に触れた。


 青白い光が四人を包み込んだ。


 視界が光で満たされる。


 浮遊感。


 そして――


 次の瞬間、四人は別の場所に立っていた。


「ここは……」


 悠斗は周囲を見回した。


 そこは、石造りの部屋だった。


 窓からは、街の景色が見える。


「エルディア王国の王都だ」


 バルトロメウスが確認した。


「成功したようですね」


「やった……」


 悠斗は安堵のため息をついた。


「やっと、戻ってこれた」


「ええ」


 ルーナも微笑んだ。


「さあ、セレスティアを治療しなければ」


「そうだな」


 悠斗はセレスティアを優しく降ろした。


「大丈夫か?」


「はい……ありがとうございます……」


 セレスティアは弱々しく微笑んだ。


「あなた方のおかげで……助かりました……」


「礼なんていいって」


 悠斗は照れくさそうに頭を掻いた。


「それより、早く医者に診てもらおう」


 四人は、部屋を出て、王城の廊下を歩き始めた。


 衛兵たちが驚いた表情で見ている。


「あれは……双月の英雄……」


「そして、月の女神様……」


「月の巫女様も! 巫女様が戻ってきた!」


 衛兵たちが慌てて走り出した。


「すぐに、国王陛下にお知らせしろ!」


 しばらくして――


 国王アルフレッドが駆けつけてきた。


「悠斗殿! ルーナ様!」


 アルフレッドは息を切らしながら言った。


「無事だったのですね! そして……セレスティア!」


「陛下……」


 セレスティアは涙を流した。


「私……帰ってきました……」


「よく戻ってきてくれた!」


 アルフレッドはセレスティアを抱きしめた。


「心配したぞ。お前が黒月教に捕らえられたと聞いて……」


「申し訳ございません……」


「謝る必要はない」


 アルフレッドはセレスティアの肩を優しく叩いた。


「お前を助けてくれた悠斗殿とルーナ様に、感謝しなければ」


 アルフレッドは悠斗とルーナに向き直った。


「悠斗殿、ルーナ様。本当にありがとうございます」


「いえ、当然のことをしただけです」


 悠斗は微笑んだ。


「それより、セレスティアを早く治療してあげてください」


「ああ、もちろんだ」


 アルフレッドは衛兵たちに指示を出した。


「すぐに医師を呼べ! そして、最高の部屋を用意しろ!」


 衛兵たちが慌てて走り出した。


「セレスティア、もう大丈夫だ」


 アルフレッドは優しく言った。


「ゆっくり休んでくれ」


「はい……ありがとうございます……」


 セレスティアは衛兵たちに支えられて、部屋へと向かった。


 アルフレッドは、悠斗たちに向き直った。


「さて、悠斗殿。詳しい話を聞かせてもらえるか」


「ええ」


 悠斗は頷いた。


「黒月教のこと、西の要塞のこと、そして……クルエンタのこと」


「クルエンタ……第十二使徒の……」


「ええ。彼と戦いました。そして……勝ちました」


「なんと……」


 アルフレッドは驚いた表情をした。


「十二使徒の一人を倒したのですか」


「ええ。でも、簡単じゃありませんでした」


 悠斗は自分の手を見た。


 拳はまだ腫れている。


「それに……クルエンタから聞いたんです。黒月の儀式が、もうすぐ始まるって」


「何ですと!?」


 アルフレッドの顔が蒼白になった。


「本当ですか!」


「ええ。詳しい日時はわかりませんが……近いうちに」


「それは……まずい……」


 アルフレッドは考え込んだ。


「すぐに、対策を立てなければ」


「陛下」


 バルトロメウスが前に出た。


「私は、元黒月教の第九使徒です。黒月の儀式について、詳しい情報を持っています」


「そなたが……」


 アルフレッドはバルトロメウスを見た。


「では、協力してもらえるか」


「もちろんです。私は、黒月教を止めるために、ここにいます」


「感謝する」


 アルフレッドは深々と頭を下げた。


「それでは、作戦会議を開こう。すぐに、各国の代表を集める」


「わかりました」


 悠斗は頷いた。


「でも、その前に……少し休んでもいいですか?」


 悠斗の顔は疲労で満たされていた。


 そして――


 グゥゥゥ……


 悠斗の腹が、盛大な音を立てた。


「あと……何か食べたい……」


「ははは!」


 アルフレッドは笑った。


「もちろん! すぐに、宴を開こう!」


 アルフレッドは衛兵たちに指示を出した。


「悠斗殿とルーナ様のために、最高の料理を用意しろ!」


「はい!」


 衛兵たちが慌てて走り出した。


 しばらくして――


 王城の大広間に、豪華な料理が並べられた。


 肉料理、魚料理、パン、果物、ワイン。


「うわあ……すごい……」


 悠斗は目を輝かせた。


「いただきます!」


 悠斗は次々と料理を口に運び始めた。


 肉を食べ、パンを食べ、果物を食べ。


「美味い……!」


 悠斗は幸せそうな表情をしていた。


 ルーナは、そんな悠斗を微笑んで見ていた。


「悠斗、食べ過ぎないようにね」


「大丈夫、大丈夫」


 悠斗は笑った。


「俺の胃は、無限大だから」


「ふふ、相変わらずね」


 ルーナも料理を食べ始めた。


 バルトロメウスとアルフレッドも、同じテーブルについた。


「それにしても」


 アルフレッドは感心した表情で悠斗を見た。


「悠斗殿の食欲は、本当にすごい」


「ははは……」


 悠斗は照れくさそうに笑った。


「この体の代謝が異常に速いせいで、すぐに腹が減るんです」


「なるほど。それも、あなたの力の源なのだな」


「まあ、そうですね」


 悠斗は肉を頬張りながら答えた。


 しばらく食事を楽しんだ後――


「さて」


 アルフレッドは真剣な表情になった。


「そろそろ、作戦会議を始めようか」


「ええ」


 悠斗は頷いた。


「黒月教を止めるために、何をすべきか話し合いましょう」


「ああ」


 アルフレッドは衛兵に指示を出した。


「会議室を準備しろ。そして、重臣たちを集めろ」


「はい!」


 衛兵が走り出した。


「悠斗殿、ルーナ様、バルトロメウス殿」


 アルフレッドは三人を見た。


「これから、世界を救うための戦いが始まる」


「ええ」


 悠斗は決意を込めて言った。


「俺たちは、必ず黒月教を倒す。そして、この世界を救う」


「頼む」


 アルフレッドは深々と頭を下げた。


「そなたたちがいてくれて、本当に心強い」


「当然です」


 ルーナも微笑んだ。


「私たちは、この世界を愛しています。だから、守りたい」


「ええ」


 バルトロメウスも頷いた。


「私も、微力ながら協力させていただきます」


 四人は、会議室へと向かった。


 そこで、これからの戦いについて、詳しく話し合うことになる。


 黒月教との最終決戦に向けて――


 悠斗たちの戦いは、まだ続いていく。




 しかし、今日のところは、ひとまず休息の時間だ。


 長い戦いの後、悠斗とルーナは王城の客室に案内された。


「ここが、お二人の部屋です」


 衛兵が扉を開けた。


 部屋は広く、豪華な調度品が並んでいる。


 大きなベッド、柔らかそうな椅子、暖炉。


「すごい部屋だな……」


 悠斗は感心した。


「ゆっくり休んでください」


 衛兵は一礼して、部屋を出ていった。


 悠斗とルーナは、部屋の中に入った。


「やっと……二人きりになれたわね」


 ルーナが微笑んだ。


「ああ」


 悠斗もルーナを見つめた。


「今日は、本当に大変だったな」


「ええ。でも、無事に帰ってこれた」


 ルーナは悠斗の手を握った。


「あなたのおかげよ」


「いや、ルーナのおかげだよ」


 悠斗もルーナの手を握り返した。


「クルエンタを倒せたのは、お前の力のおかげだ」


「二人で、力を合わせたからよ」


 ルーナは悠斗の胸に頭を預けた。


「私たちは、チーム」


「ああ」


 悠斗はルーナを抱きしめた。


「これからも、一緒に戦おう」


「ええ」


 二人は、しばらく抱き合っていた。


 窓の外には、満月が輝いている。


 美しい、銀色の光。


「月が……綺麗ね」


 ルーナが呟いた。


「ああ」


 悠斗も窓の外を見た。


「でも、お前の方が綺麗だよ、月そのものみたいだ」


「もう……」


 ルーナは顔を赤らめた。


「そういうこと、恥ずかしげもなく言うんだから」


「本当のことだもん」


 悠斗は微笑んだ。


「お前は、この世界で一番美しい」


「悠斗……」


 ルーナは悠斗の唇にキスをした。


 短いキス。


 しかし、そこには深い愛情が込められていた。


「ありがとう」


 ルーナは微笑んだ。


「あなたがいてくれて、私は幸せよ」


「俺もだ」


 悠斗もルーナにキスを返した。


 二人は、ベッドに横になった。


 柔らかいベッド。温かい毛布。


「気持ちいい……」


 悠斗は呟いた。


「久しぶりに、ちゃんとしたベッドで寝られる」


「ええ」


 ルーナも悠斗の隣に横になった。


「今日は、ゆっくり休みましょう」


「ああ」


 悠斗はルーナを抱きしめた。


「おやすみ、ルーナ」


「おやすみ、悠斗」


 二人は、目を閉じた。


 そして、深い眠りについた。


 長い戦いの後の、束の間の平和。


 しかし、明日からは、また新しい戦いが始まる。


 黒月教との最終決戦に向けて――


 悠斗とルーナの旅は、まだ続いていく。



 そして――



 王城の医務室では、セレスティアが治療を受けていた。


「大丈夫ですよ」


 医師が優しく言った。


「傷は浅い。すぐに治ります」


「ありがとうございます……」


 セレスティアは微笑んだ。


「私……助かったんですね……」


「ええ。双月の英雄が、あなたを救ってくれました」


「悠斗様とルーナ様……」


 セレスティアは感謝の涙を流した。


「本当に……ありがとうございます……」


 医師は、セレスティアに薬を飲ませた。


「これで、明日には元気になるでしょう」


「はい……」


 セレスティアは横になった。


 そして、静かに目を閉じた。


 彼女の心には、希望が芽生えていた。


 悠斗とルーナがいれば、きっとこの世界は救われる。


 黒月教を倒し、平和が戻る。


 そう信じて――


 セレスティアは、深い眠りについた。



 一方――



 王城の会議室では、アルフレッドとバルトロメウスが話し込んでいた。


「バルトロメウス殿」


 アルフレッドが尋ねた。


「黒月の儀式について、もっと詳しく教えていただけるか」


「わかりました」


 バルトロメウスは地図を広げた。


「黒月教は、大陸各地に二十四の祭壇を建てています」


 バルトロメウスは地図上に印をつけていった。


「これらすべてを同時に起動させることで、儀式は完成します」


「二十四の祭壇……」


 アルフレッドは眉をひそめた。


「すべてを破壊するのは、不可能だろう」


「ええ。時間がかかりすぎます」


 バルトロメウスは頷いた。


「だから、私たちは教祖ゼノンを直接倒す必要があります」


「ゼノンを倒せば、儀式は止まるのか」


「おそらく。ゼノンは、儀式の中心です。彼がいなければ、儀式は発動しません」


「なるほど……」


 アルフレッドは考え込んだ。


「では、北の聖堂に攻め込むしかないか」


「ええ。しかし、聖堂には十二使徒が守りを固めています」


「十二使徒……」


 アルフレッドは深刻な表情をした。


「悠斗殿とルーナ様だけでは、厳しいか」


「いえ、彼らなら大丈夫でしょう」


 バルトロメウスは確信を持って言った。


「悠斗とルーナ様は、特別です。彼らなら、きっと十二使徒を倒せます」


「そうですか……」


 アルフレッドは安堵のため息をついた。


「それならば、私たちも全力で支援しよう」


「ありがとうございます」


 バルトロメウスは頭を下げた。


「それでは、明日から作戦を練ろう」


「ええ」


 アルフレッドは立ち上がった。


「世界を救うために、できることをやるとしようか」


 二人は、会議室を後にした。


 長い夜が、静かに更けていく。


 そして――


 明日、新しい戦いが始まる。



 翌朝。



 悠斗は、鳥のさえずりで目を覚ました。


「ん……朝か……」


 悠斗はゆっくりと目を開けた。


 隣には、ルーナが静かに眠っている。


 銀色の髪が、朝日に照らされてキラキラと輝いている。


「綺麗だな……」


 悠斗は、ルーナの顔をじっと見つめた。


 彼女は、本当に美しい。


 悠斗の心の中に、温かい感情が広がっていく。


 愛おしさ。守りたいという気持ち。


「俺、この子を絶対に守る」


 悠斗は心の中で誓った。


「どんな敵が来ても、絶対に」


 その時――


 ルーナが目を覚ました。


「ん……おはよう、悠斗」


「おはよう、ルーナ」


 二人は微笑み合った。


「よく眠れた?」


「ええ。あなたの隣だったから」


 ルーナは悠斗の胸に頭を預けた。


「安心して眠れたわ」


「俺もだよ」


 悠斗はルーナの髪を優しく撫でた。


「お前がいてくれて、幸せだ」


「私も」


 二人は、しばらくベッドの中で抱き合っていた。


 しかし――


 ドンドンドン!


 扉を叩く音が聞こえた。


「悠斗殿! ルーナ様!」


 アルフレッドの声だ。


「起きていますか!」


「はい、起きてます!」


 悠斗は慌ててベッドから降りた。


「すぐに行きます!」


 悠斗とルーナは急いで身支度を整えた。


 そして、扉を開けた。


「おはようございます、陛下」


「おはよう」


 アルフレッドは真剣な表情をしていた。


「すまない、朝早くから。しかし、緊急の知らせが入った」


「緊急の知らせ……?」


「ああ。偵察隊からの報告だ」


 アルフレッドは二人を会議室へと案内した。


 会議室には、すでにバルトロメウスと重臣たちが集まっていた。


「悠斗、ルーナ様」


 バルトロメウスが立ち上がった。


「大変なことになった」


「何があったんだ?」


「北の聖堂で、異常な魔力の反応が観測された」


 バルトロメウスは地図を指差した。


「おそらく、黒月の儀式の準備が始まっている」


「もう始まってるのか!」


 悠斗は驚いた。


「ああ。時間がない」


 アルフレッドが言った。


「すぐに、北の聖堂に向かう必要がある」


「わかりました」


 悠斗は決意を込めて言った。


「今すぐ出発しよう」


「ええ」


 ルーナも頷いた。


「世界を救うために、私たちは戦います」


「ありがとう、頼む」


 アルフレッドは深々と頭を下げた。


「そなたたちこそが、この世界の希望」


 悠斗とルーナは、会議室を後にした。


 そして、王城の外へと向かった。


 外には、馬車が用意されていた。


「この馬車で、北へ向かってくれ」


 衛兵が説明した。


「途中まで、私たちが護衛します」


「ありがとう」


 悠斗は馬車に乗り込んだ。


 ルーナとバルトロメウスも続いた。


 馬車が動き出した。


 ガタガタと揺れながら、北へ向かって進んでいく。


 窓の外には、美しい景色が広がっている。


 緑の森。青い空。


 しかし、悠斗の心は、戦いのことでいっぱいだった。


「いよいよだな……」


 悠斗は呟いた。


「ええ」


 ルーナは悠斗の手を握った。


「でも、私たちなら大丈夫」


「ああ」


 悠斗も握り返した。


「一緒なら、どんな敵にも勝てる」


 バルトロメウスは、二人を静かに見つめていた。


「二人なら、きっと世界を救える」


 バルトロメウスは心の中で呟いた。


「私も、全力で支えよう」


 馬車は、北へ向かって進み続けた。


 黒月の聖堂へ。





皆様、第10話をお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、本当に大変な戦いでした。


西の要塞での戦闘、そしてクルエンタとの死闘……特にクルエンタの血液魔法は、私たちにとって最も恐ろしい敵の一つでした。


悠斗の拳が溶けていくのを見た時、私の心臓は凍りつきました。彼を失うかもしれないという恐怖……それは、想像以上に辛いものでした。


でも、私たちは勝ちました。バルトロメウスの「影の化身」には驚きましたけれど、それ以上に、私自身の力が戻りつつあることを実感できました。月の浄化の力……これが、私の本来の力の一端なのですね。


そして、セレスティアを救出できたこと。彼女は月の巫女として、これから私たちの大きな力になってくれるはずです。


悠斗との絆も、また一つ深まった気がします。戦いの後、彼の腕の中で眠る時間は、私にとって何よりも幸せな瞬間でした。


でも……戦いは、まだ終わっていません。


黒月の儀式が始まろうとしています。北の聖堂では、教祖ゼノンが待ち構えています。


次回からは、いよいよ黒月教との決戦に向けて物語が動き出します。


悠斗と私、そしてバルトロメウス。私たちは、必ずこの世界を救ってみせます。


どうか、これからも私たちを見守っていてください。


次回、第11話でお会いしましょう。


――月の女神 ルーナ


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