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カオアライグマ

 朝日に頬を撫でられて目が醒めた。瞬間、喪失感に襲われた。

(ああそうだ。カオアライグマはもう、私を起こしに来ないんだった)

 あの子はいつも、早朝音もなく扉を開き、するりとベッドに潜りこんできた。そうして小さな体からは想像もできない力で私を寝床から押し出すのだ。床には柔らかいタオルとお湯をはった洗面器が用意されている。「あと五時間だけ寝かせて……」と哀れな声で訴えても、無慈悲な獣は耳を貸さない。かれは毛むくじゃらの腕で私の顔面を固定し、黙々とお得意の洗顔をはじめる。お湯とタオルを器用に使って、たっぷりと時間をかけて。そうするのが至極当然という表情で。

 あの子を家に迎えて以来、九年と五か月続いた習慣。終わるのは突然だった。

「残念ですが、そろそろお別れしなければなりません」

 どこに行くの? と訊くと、カオアライグマは目を伏せてつぶやいた。

「カオアライランドに帰ります。そういう頃合いと思います」

 聞いたことのない場所だったけど、詳しく尋ねてはいけない気がした。茶色の毛並みは出会った頃よりもずいぶん色褪せ、年老いて見えた──

 小さく伸びて体を起こし、私は洗面所へと向かった。自分で自分を洗うために。

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