おハカちゃんは生きている
夜の公園で自分のお墓をつくったら、わたしの幽霊が現れた。
「ひゅ〜どろどろ! うらめしやー! って、べつになにもうらめしくないわね」
驚いて尻もちをついたわたしに、幽霊は優しく手を差し伸べてくれた。
「やだなあ、そんなに驚かなくたっていいじゃん。お墓をつくったのはあなたでしょ?」
「そうだけど……」
わたしと同じ顔をした幽霊は、いたずらっぽい笑みを浮かべて、砂場の真ん中を指差した。自分で言うのもなんだけど、それは美しいお墓だった。一層ずつ水で固めて積み上げた三十センチほどの四角柱。完成までに四時間かかった。
「わたしはまだ生きてるのに、なんで幽霊が出てくるの?」
「だってお墓があったんだもの。それに、あなたの顔! もう死んじゃってるみたいに青いよ!」
わたしの顔が青いのは五年生になってからずっとだ。本当はオハラだけど、みんなはおハカちゃんと呼ぶ。保健室から出てくるたびに、廊下の向こうで、ひゅ〜どろどろ! とだれかが囃す声が聞こえる。
「そういうあなたは、幽霊のくせに元気そうよね」
「そうかな? たぶん、あなたがまだ死んでないからだね!」
なにがそんなに愉快なのか、彼女はけらけらと笑う。
「ねえ、今ひま? 踊りましょう!」
月明かりの下、だれもいない公園でわたしはわたしとダンスした。
(クラスのみんなも、今頃こうして踊っているのかな)
学級対抗ダンス大会はちょうどこの時間だったはず。
今朝、林間学校行きのバスが発車する直前に、わたしは重い仮病に冒された。バスから保健室のベッドに乗り換え、しばらく「く」の字で架空の腹痛がおさまるのを待った。
ひとりで帰れます、と言って保健室を出たけれど、夜になっても家に帰らずひとりのまんま。
「最初からさぼろうと思ってたわけじゃないんだよ。早起きしたし、お弁当づくりだって手伝ったし……。でも、バスに乗ったら急にぜんぶムリになったの。いつもそう。わたしの心は、
どうしてこんなにゆらゆらしているのかな」
「それはねえ、この世がゆらゆらだからじゃない?」
気がつけば、くらげみたいに半透明なわたしの顔が、鼻先に触れそうなほど近くにあった。
「あなたたちって、毎日変わっていくでしょう。気分もカラダも、月が満ち欠けするみたいにくるくると。そうして夜が明けるように、やがて消えてなくなるじゃない? そう考えると、生きてるほうが幽霊みたい。ね、これってなんだかおもしろいね!」
ステップを踏むわたしたちの隣で、どこからともなく集まった人魂の群れがジャングルジムを焼いていた。熱のない火柱がこうこうと月夜を照らす。まるでキャンプファイヤーみたいだった。
踊り疲れたわたしたちは、月がすっかり沈むまで、ブランコに座っておしゃべりをした。でも、お互いに知っていることしか話せないので、話題はやがて尽きてしまった。
「帰ろうかな、そろそろ」
観念して腰を浮かすと、幽霊はわたしの両手をぎゅっと握ってささやいた。
「お願いがあるの。ときどきお墓参りをしてほしいな。お墓はここになくてもいいけど。あなたの中にお墓を建てて、今日のあなたをおとむらいして」
指切りをしたら幽霊は消えた。
わたしは四角い砂の塊を運動靴で踏みつぶした。すべての粒がちゃんと砂場に還るまで、何度も何度も念入りに踏んだ。指で彫った〈おハカの墓〉という文字は、もうだれにも読めなくなった。
お母さんを起こさないよう、なるべく静かに鍵を開けて家に入った。
冷凍庫のごはんをチンして、レトルトカレーをコンロにかける。お母さんはいつ目を覚ますだろうか。わたしはなんて言うのだろうか。
カレー、涙が出るくらいおいしい。