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9. 瑠璃花の告白

 江川くるみは、完璧なテーブルマナーでランチを食べながら新條誠や桜崎柊と談笑する、元オド子こと影沼忍を見つめていた。

 ここは百峰学院の誇るカフェテラス。中庭に面した側は全面ガラス張りで、明るい陽光が差し込んでいる。

 真っ白な長テーブルが並び、購買を利用しない生徒達はそこで、日替わりのランチプレートに舌鼓を打っている。


 今、その一角で、昼休みのランチを、忍、誠、柊、そしてくるみという奇妙なメンバーで食べているのだ。

 もはや、忍をオド子と呼ぶ生徒は一人もいなくなっていた。

 忍に蔑称ともいうべきあだ名を付けた張本人の姫屋敷瑠璃花は、あれからずっと学校を休んでいる。

 

 私の気持ちはあなたになんかわからない。愛されたあなたになんか――。

 開き直ったのか、それとも、心に溜めに溜めていたものが噴き出したのか、瑠璃花は、何でも話してみろと言った忍に、心情を吐露した。


 財閥系企業の姫屋敷グループは、すべて金勘定で回っているのだという。跡継ぎは長兄に決定していて、次兄のポストも決まっていた。

 一族の中で、女に生まれた瑠璃花の扱いは軽く、政略結婚の道具としての価値しか認められていないのだという。


 両親に一度もやさしい言葉をかけられたことはない、と瑠璃花は言った。瑠璃花の知らないうちに、婚約者もいつの間にか決まっていたのだという。


「忍、あなたみたいな人が一番目障りだった。何もしなくても何も持たなくても、ただ愛されるような人がね」

 忍の父親は作曲家で、母親はバイオリニストだった。時折、家族三人で睦まじそうに過ごす様子が、メディアに取り上げられていたのを、くるみも知っていた。

 瑠璃花はそんな忍に、嫉妬していたのだという。


 胸に溜めていたものを一気に吐き出すように話すだけ話すと、瑠璃花は謝罪しないまま、体育準備室を出て行った。

 瑠璃花の話にじっと耳を傾けていた忍が、瑠璃花が去った後も、しばらく何事か考え込んでいた様子が、くるみの印象に残っていた。

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