7. 絶対に、君を守る
新條誠は全力疾走していた。
生徒達の隙間を縫うように廊下を走り、階段を二段飛ばしで飛ぶように駆け抜ける誠を、周囲は呆気にとられた表情で見送る。
オド子が記憶を失ってから、自分は走ってばかりだ――。
昼休み、購買でパンを買おうとしていた誠は、オド子が体育館裏で瑠璃花に吊し上げを食っている、と噂する声が耳に入った途端、走り出していた。
大人気ですぐに売り切れてしまうやきそばパンが目の前にあったというのに。
瑠璃花はオド子が記憶を失うことになった張本人だ。
誠は、瑠璃花がオド子を突き落としたのではないかと疑っていた。
誠の目には、瑠璃花は大企業の社長という父親の威光を笠に着て、父親の会社の従業員の子ども達を従えて好き放題している、悪役令嬢のような卑怯者に映っていた。
これ以上、彼女を傷つけさせるもんか――。
これまで争いを避け、人間関係に角を立てないことを良しとしてきた誠は今、オド子、ただ一人のために疾走していた。
彼女のためなら、拳を振るうことも辞さない、と誠の心は燃えていた。
誠は四歳から合気道を習っていたが、臆病な誠は、試合ですら闘うことが怖かった。
けれども、今なら、自分は闘える。そんな確信があった。
誠の知らない誠が、そこにいた。
そのことに驚きながらも、誠は本当の自分に出会えたような感動を覚えていた。
オド子、絶対に、君を守る!
高揚と陶酔に酔いながら、誠が体育館裏に到着すると、そこには誰もいなかった。
購買で聞いた噂はガセだったのか、と一瞬、誠は落胆したが、背後から聞こえたオド子の声に、ハッした。
オド子と、何人かの声が、体育館脇の体育準備室から聞こえる。
そこか、と誠が体育準備室に駆け込むと、予想外の光景がそこに広がっていた。
跳び箱を背にして追い詰められたような表情の瑠璃花と、取り巻きの柊とくるみがいた。
柊は尻もちをつき、くるみは壁際で逃げ腰になっている。
その三人の前に、まるで剣のようにデッキブラシを構えたオド子が、凛として立っていた。
誠が予想していた、瑠璃花達に囲まれ、虐げられるオド子の姿は、そこにはなかった。