6. 溢れた涙
ここは何と平和な国なのだろう。
そして、この国の凄まじい科学技術!
病院から自宅へ向かったマーガレッタは、滑らかに走る自動車に乗せられた。
道には同じような自動車が走り、馬車は見当たらない。
車窓から眺める街は目を見張るほどの発展ぶりで、通り過ぎる誰も彼もが豊かに見えた。
マーガレッタは驚愕しながら、異世界を見つめていた。
自宅に戻った後も、マーガレッタの驚愕は続いた。
ボタン一つ、レバー一つで、炎や水が使えるのだ。
豊かで、平和な国――。
幼い頃、マーガレッタが夢見た世界がそこにあった。
(この体の持ち主は、幸福な少女だったのだな)
体の持ち主の両親に温かく迎えられ、抱きしめられたマーガレッタは切なく思った。
涙を流しながらマーガレッタを抱きしめる母親、声を詰まらせて母親ごとマーガレッタを抱きしめる父親。その胸は温かかった。
生まれてすぐに乳母に委ねられたマーガレッタは、両親に抱きしめられたことがなかった。
両親に敬意を抱いてはいたが、親しく言葉を交わすような間柄ではなかった。
けれど、貴族社会ではそれが当然のことだったので、今感じているこの胸の切なさに、マーガレッタはとまどっていた。
斬首されて転がった両親の首が、目に浮かんだ。
もしも、違う国、違う世界に生まれていたなら、あの両親とも、こんなふうに抱き合えたのだろうか。
そう思った瞬間、マーガレッタの瞳に涙が溢れた。
涙を流すマーガレッタに、この世界の両親は優しく声をかけ、さらに強く抱きしめてくれるのだった。