2. マーガレッタ、処刑台の露と消える
由緒正しき大貴族、オブライエン家の令嬢、マーガレッタ・バーデット・オブライエンは今まさに、処刑されようとしていた。
マーガレッタの立つ処刑台には、すでに斬首されたマーガレッタの父や母の骸から流れ出た鮮血の、むせ返るようなにおいが満ち、マーガレッタの脇には、刃こぼれのした血まみれの斧をかまえる処刑人が控えていた。
処刑台広場に集まった群衆の姿は、マーガレッタの眼中にはなかった。
マーガレッタは、司祭とともに立つ、つい数週間前までは、マーガレッタの婚約者だった、王子ジョージ・アーサー・グレイと、ジョージと新たに婚約したマリアンヌだけを見つめていた。
こうなってしまった今でも、ジョージは凛々しく、美しく見えた。彼の隣に立つマリアンヌも、清楚で純粋な乙女に見える。
けれども、マーガレッタは知っていた。
彼女こそが、オブライエン家断絶のきっかけであり、この王国を終焉に導く者だと。
言葉巧みにジョージに近づいたマリアンヌは、隣国の刺客だったのだ。
この国の王子と結婚し、女王となったマリアンヌはやがて、隣国の軍隊を引き入れるだろう。
そうなれば、軍事大国の隣国に叶うはずもない。
マーガレッタの体が処刑人達によって、うつ伏せにされ、白く細い首が断頭台に乗せられた。
この王国の至宝と謳われた、マーガレッタの光り輝く銀色の髪は、今や無惨にも刈り取られ、マーガレッタはまるで少年のような短髪になっていた。
眼下に見える木製の箱には、すでに多くの貴族達の首が転がり、父と母の首も見えた。
マーガレッタは、激怒していた。
マリアンヌを送り込んできた隣国の王に。
隣国にまんまと騙された司祭、民衆、そして、ジョージに。
許さない。
この魂を悪魔に売り渡しても良い。
どんな手を使おうと必ず復讐を果たす。
マーガレッタがそう誓った瞬間、斧が振り下ろされた――。