18. あなたを愛している
くるみ、柊、誠、明日見が姫屋敷邸前に集合すると、真っ赤な薔薇の花束を抱いた忍が現れた。
長い黒髪をなびかせ、薔薇を抱いて堂々と歩いてくるその姿に、一同は一瞬目を奪われた。
(なんて艶やかな)
誠は息を飲んでいた。
(麗しい。撮影したい!記録したい!)
明日見はカメラを取り出そうとしてくるみに止められた。
柊は、うっとりしたような瞳で、忍を見つめている。
門扉を守る黒服も、忍に気圧されたような表情を浮かべた。
マーガレッタの放つオーラが、その場を圧倒していた。
四人を従えるような形で、薔薇の花束を抱えた忍が瑠璃花の自室に入ると、瑠璃花は凍りついたような表情で立ちすくんでいた。
あたり一面が、一瞬で薔薇の香りに満たされたような錯覚にくるみは陥った。
「助けに来たぞ、姫屋敷瑠璃花」
そう言いながら、忍は瑠璃花に薔薇の花束を差し出した。
棒を飲んだようにじっと固まった瑠璃花が受け取らないでいると、忍はさらに瑠璃花に近づき、花束を抱かせるように押し付けた。
薔薇の甘い香りが瑠璃花を包んだ。
思わず、といったように、瑠璃花は香りを吸い込んだ。
「何であなたが私のために……」
心底、不思議そうに瑠璃花がつぶやいた。
「あなたを助けてやってくれという、くるみの願いを聞き入れた。それに事情を知った上で見殺しにするような真似はできない」
忍の言葉に、瑠璃花の瞳が潤んだのを、くるみは見ていた。
こうして忍とともにやって来て良かった、とくるみは心からそう思い、泣きそうになった。
「ここに留まるか、私達と行くか、選ぶといい」
そう言って、忍が手を差し出すと、瑠璃花はおずおずと、その手を取った。
そして、耳たぶまで赤くしながら、忍に訊ねた。
「薔薇の花言葉を知ってる?」
「いや」
忍の返答に、瑠璃花はくすりと泣き笑いの表情を浮かべた。
くるみは知っていた。
真っ赤な薔薇の花言葉は、「あなたを愛している」だ。
瑠璃花を連れて、瑠璃花の自室から出ようとすると、当然のように黒服達に阻まれた。
「突破するぞ」
忍の一言で、柊と誠が黒服に立ち向かう。
明日見はスマホで動画を撮影している。
忍、ことマーガレッタも、柊と誠から習い覚えたばかりの柔術や合気道の技で、黒服をいなして進む。
黒服に腕を掴まれた瑠璃花は薔薇の花束を取り落とし、あっと声をあげた。
足を止めて拾い上げようとする瑠璃花に、マーガレッタが微笑みかけた。
「今は捨て置け。また改めて贈ってやろう」
「うん!」
そう答えた瑠璃花の瞳から、涙が溢れた。
真っ赤な薔薇の花びらが舞い散る中、マーガレッタと瑠璃花は手を繋いで走り出した。