13. 校則
四人が振り返ると、生活指導の男性教師がそこに仁王立ちになっていた。
「ジャージ着用は校則違反です。今すぐに脱ぎなさい」
教師の言葉に、マーガレッタはぽかんと教師を見つめ返した。
「今、何と?」
「脱げと言ったんです」
「今ここで?」
「そうです」
マーガレッタは、周囲を見渡した。
カフェでランチをとった後、中庭に向かっている途中だった四人は、渡り廊下にいた。
行き交う生徒も多く、男性教師の声に、立ち止まる生徒も増えつつあった。
こんな場所で、女性にズボンを脱げと?
マーガレッタが信じられない思いに呆気にとられていると、固まっていた柊が、次の瞬間、猛然とダッシュして走り去ってしまった。
「桜崎、待ちなさい」
柊を追いかけようとする男性教師の前に、マーガレッタが立ちふさがった。
「お伺いしてもよろしいでしょうか」
落ち着いたマーガレッタの声が、凛と辺りに響き渡った。
続々と、生徒が集まってくる。
「影沼忍、真面目な生徒だと思っていたのに、反抗するんですか」
周囲を生徒に取り囲まれる形になった男性教師は、苦々しい表情でマーガレッタを睨みつけた。
「いえ、教師という立場の方に、校則についての質問をしたいのですが」
周囲の生徒が、ざわめいた。
「なんですか」
「なぜ、女性は制服ズボンを履いてはいけないのですか?」
生徒達のざわめきが、一層高くなった。
誠とくるみも、固唾をのんで、男性教師とマーガレッタを見つめている。
男性教師の目が泳いだのが、明日見の位置からもはっきりと見えた。
明日見はスマホを動画撮影に切り替えて、男性教師と忍の二人にカメラをズームした。
「なぜってそれは」
男性教師が一瞬考えた後に、答えた。
「校則だからです」
「この校則というものは、法律なのですか」
たたみかける忍に、男性教師ははっきりと苛立ちをあらわにした。
「影沼忍、教師に楯突くその反抗的な態度は問題です。生徒指導室に来なさい」
ざわつく生徒の中から、誰かの声がはっきりと聞こえた。
「楯突くって、質問しただけじゃん」
それをきっかけに、そうだよな、校則って質問したら駄目なのか、という声が続き、騒ぎを聞きつけた生徒がさらに集まってくる。
明日見は、これ幸い、と燃料投下に加担しようと、生徒達の声に紛れるようにして「教師に質問しただけなのに」「忍さんは反抗的ではなかった」と声を上げた。
明日見の声も、生徒達の声も、しっかり記録されているはずだ。
その時、よく通る別の声が渡り廊下に響いた。
「何の騒ぎですか」