12. スカートジャージ
「スカートが嫌いなんだ」
柊は、真剣そのものといった表情で答えた。
なぜ君はいつもスカートの下にズボンを履いているのか、と質問した忍に、誠とくるみがハッとした。
実際、制服のスカートの下に学校指定のジャージを履いている女生徒は他にもいて、忍、ことマーガレッタはそれを不思議に思っていたのだ。
スカートジャージを見かけても、暗黙のうちに了解する、という空気が満ちていて、忍のように真正面からそれについて問いかける生徒など、これまでいなかった。
柊によれば、以前はジャージで登校していたのだという。
しかし、高等部に上がったとたんに、教師から厳しい指導を受けるようになり、仕方なく、学校指定のブレザーとスカートの下にジャージを履くスタイルになったのだという。
きっと、他の生徒も似たような状況だと思う、と柊は言う。
「なるほど。お仕着せのようなもので着用が強制なのか」
マーガレッタは忍の母親がクリーニングに出し、用意してくれた制服をそのまま着ていたが、それはこの世界のことが分からず、とにかく様子を見よう、と思ってのことだった。
あらためて見てみれば、なるほど。中途半端な長さのひらひらしたスカートは、ただ垂れ下がっているだけで、防寒対策にも不向きだし、防刃効果もまったく望めない。
柊のように足を露出したくないという生徒にとっては、不条理でしかない代物だった。
しかし、と忍は誠を見た。
「誠はズボンを履いている。スカートがお仕着せというのなら、誠はスカートを履かなくても良いのか? 似合いそうな気もするが」
誠は頬をさっと赤らめ、すぐに咳払いすると、説明した。
「この生徒手帳にある通り、女子は制服スカート着用、男子は制服ズボンを着用、が校則なんです」
誠の指し示す生徒手帳の校則部分をじっと見つめ、マーガレッタは不思議そうに聞いた。
「制服ズボンがあるのなら、柊もそれを着れば良いだろう」
誠、柊、くるみは、しばし黙り込んだ。
「そうできればどんなに……」
そう言いかけた柊の言葉は、厳しい声に遮られた。
「桜崎柊! また校則を破っていますね」