11. あこがれの女性
望遠レンズで、スマホで、時と場に応じたツールで忍を撮影しながら、百峰学院新聞部部長、八剣明日見は、鼓動が早まるのを感じていた。
(武士みたい)
(かっこよすぎ)
階段落ちして記憶を失った後の忍から、明日見は目が離せなかった。
普段は150センチと自称しているが、実は149センチという小柄な体型にくるくるの天然パーマ、黒縁のウェリントン眼鏡、という明日見は自身のすべてにコンプレックスがあった。
明日見があこがれるのは、イーダ・ターベルやサーシャ・ファイファーといった、まさにペンを剣に変えた勇者のような女性達だった。
けれども、明日見の外見は、どこからどう見ても、リスやハムスターのようなげっ歯類タイプで、威厳のかけらも無い。
そのためか、インタビューに出かけても軽くいなされたり、まるで小学生のような扱いを受けることもたびたびあった。
ぶつかり男や痴漢の被害にもよく遭遇した。
(ムキムキマッチョに生まれたかった)
(この容姿のせいで生きにくい)
そんなふうに思ってきた明日見だったが、どちらかといえば、明日見寄りの外見だった忍の変貌ぶりを見て、外見など、内面の力には取るに足らないものなのではないか、と認識を改めていた。
黒髪をなびかせ、下僕(と勝手に明日見は思っている)を従え、悪役令嬢いじめっ子を撃退し、堂々を風を切って歩く忍は、明日見のあこがれそのものだった。
強さと気高さが、内面からにじみ出て、忍の全身を包んでいた。
重要なのは、心のありようなんだ――。
そんな衝撃を、明日見は忍から受けていた。
(独占取材したい。記録したい。インタビューしたい)
明日見の頭の中は、忍一色になっていた。
裕福な家庭に育ったおっとりした生徒が多いせいか、新聞部は人気がなかった。
部員は明日見一人。
ジャーナリストは孤独なもの、とうそぶいてはいたものの、やはり、明日見は仲間が欲しかった。
忍のグループを撮影しながら、これまで気づかなかったそんな自分の思いを、痛感していた。
取材と称して忍を追いかけてはいたが、本当は、忍に近づきたいだけなのかもしれない。
柊のスカートジャージを興味深く見つめ、何事か質問している忍を見つめながら、明日見はあこがれに胸を熱くしていた。