10. ぼっちではいられない
幼稚園の入園日、くるみは初めて瑠璃花と対面した。
くるみの父親は瑠璃花の父親の直属の部下だった。その関係は娘達の立場にそのまま反映された。
そういうものなのだ、とくるみは納得しているつもりだった。
瑠璃花は何不自由無い、気ままな令嬢なのだ、とくるみはそれまで思っていた。
瑠璃花の告白は、だからくるみにとって衝撃以外のなにものでもなかった。
幼稚園からずっとそばにいたというのに、くるみは何ひとつ、瑠璃花という人を知らなかったのだ。
そういえば、心の内を語り合うような会話を、瑠璃花とは一度もしたことがなかったな、とくるみは気づいた。
そんな、とても友達とはいえないような瑠璃花だったが、くるみの学校生活は瑠璃花を中心に動いていた。
その瑠璃花を失ってしまうと、途端にくるみは自分の立ち位置がわからなくなった。
課題のグループ分けや、昼休みを、ひとりぼっちで過ごす気概などなかった。それでいて、どこかのグループにいれてもらう勇気もなかった。
悩んだ末に、結局、柊の後についていく形で、くるみは忍と昼休みを過ごすことにした。
何を思ったのか、柊は体育準備室の一件以来、忍の従者のようにふるまいはじめていたのだ。
記憶を失った後の忍は堂々として寛大だった。
そばにいると、不思議な安心感を得られた。
スマホの使い方を熱心に誠から教わっている忍を見つめながら、人間の記憶というものは不思議だな、とくるみは感心していた。
まるで中身がそっくり入れ替わってしまったのではないかと思えるほど、忍は、以前とは別人になってしまったからだ。