第七話 癒やしの力を徹底コントロールの授業です!
「近い近い近い!」
「近いのは嫌いか?」
「お嬢の頼みじゃなかったら嫌いにきまってんだろ!」
たまたま休日を味わうアシュに、居合わせたサリスへ頼み込む、二人の絡み合うデッサンをしようとしたの。
サリスを押し倒すアシュ、女王受けっぽくしてほしくてお願いしてみた。
やっぱり美形っていいわ、美形と美形が重なることで妄想が高まって、このあと二人はどうなっちゃうの!? なんておもうし。
アシュも楽しそうだし。
デッサンをとっていると、後ろであぐらをかいて調度品に座っているロス様が不思議そうに笑った。
「ローズは恋愛概念が壊れてるね」
「どういうこと?」
「普通はあんなことまでしてくれるなら、自分のこと好きなんじゃって思うよ」
「アシュ?」
「ううん、もう一人の人。騎士のほうは楽しんでやってるでしょ?」
「サリスは慈愛に満ちているの」
「あんな真っ青な顔で鳥肌たてながら、押し倒されていて慈愛、かあ……」
微苦笑めいた声でロス様は時計を見やる。
「そろそろ時間じゃないかな」
「ああ、それもそうね。行かないと。アシュ、サリス、今日はもうこのへんでいいわ! ありがとうね、素敵なの描けた」
「お嬢! うおお、早く退きやがれ貴様あ、俺のお嬢がもう勘弁してくれるっつってるんだ!」
「まあまあ、そう焦るなよ。折角だ、ゆっくりこうしてみてはどうだ」
「ふざけんな、どけー! いやー! 襲われるー! お嬢、助けてー!!」
「ふふ、仲良しね。それじゃあ妾、ちょっと授業があるから」
聖女候補にはしっかりと祈りの力が定着するように、魔法を学ばないといけないらしく。
個別授業を受けるようにと仰せつかったので、妾は今度から町の方にある学び舎へ行かなければならなくなった。
サリスとアシュを置いて部屋を出ればサリスの悲鳴が響き渡る、楽しそうで何より。
馬車に乗って、絹のドレスを揺らしながら毛皮のファーを背負う。
とても可愛いのに、みんなこの格好をあまり気に入ってくれないの。
最近は絹のドレスだけは認めてくれたのだけれど。日常的に着ちゃ駄目だって。
憂鬱な気持ちを飛ばしたいなと思って、歌ってみる。
メロディは適当に、言葉の羅列は適当に思いついたものを。
そうだ、今日のサリスとアシュのカップリングを歌にしてみよう。
「か細い腰の君、赤い髪は誘うように。麗しの瞳は涙を堪え、劣情を訴える。
一体何を望むのか、手塩に掛けて捧げようとする蒼の君」
適当な思いつきの割にはイイリズムになりそう。ご機嫌で歌い続けていると一緒に乗っているメイドがにこやかに微笑んだ。
「素敵な愛の歌ですね! 赤い髪の姫君かあ、きっと可愛い人なのですね!」
「ええ……きっと、愛され体質よ」
あれだけ愛想が良かったら、きっとどんな殿方も落とせるに違いない。
そういった物語もいいなあ、ふふふ。
沢山の人に愛されるサリスの話は書いていて楽しそうだな、と考えてる辺りで馬車が止まる。
歌っている間にあっという間に学び舎へついたみたいだ。
*
ある教室に案内されて、そこには机一つと、巨大な黒板がある。
席に座れば、ふおんと側にあった青い球体の道具から、男が現れた。
テレポート装置となっている様子だ。今まで男は自室にいて、この教室を監視していたのだろう。
「お初お目にかかります聖女様、リーゼルグ・プロキオといいます」
「イデアローズでおねがいします、妾はその、聖女って呼ばれると気まずいんです」
「どうして?」
「ちょっと訳ありでね」
まさか妄想を気に入られてるなんて言いづらいじゃない。
言い淀むと、目の前の眼鏡をかけた教師はにやりと笑った。
黒髪はすこしべったりとしていて、艶めいている。紺色の目は神経質そうなつり目なのに、何処か自堕落な表情にも見える。
碧色の衣服を身に纏い、眼鏡をかけなおしながら、講師であるリーゼルグ先生は笑った。
「君の悪癖は知っていますよ、ローズ姫」
「えっ……」
「マダムレイティはうちの親戚でね、あの叔母様の行動についていける貴方の悪癖を、僕はご存じだ」
「うぐっ……」
白状しろとの笑顔に見える。
満面の笑みで迫力のある笑みに負けて、事情を説明しようと決めた。
「実は……」
妄想を気に入られた事実、ロス神が目に見えるお話をしたところ、大笑いして腹を抱えて目に涙まで浮かべてるリーゼルグ先生。
あまりの反応の酷さに膨れれば、リーゼルグ先生はすまない、と謝ってくれたので許す。
「いや衝撃的すぎるだろう、神様がそんな快楽主義みたいな楽しみ方をするなんて」
「神様じゃないみたいよねえ」
「事実神様かどうかは置いておこう。問題は貴方の力だ、ローズ姫。実際貴方がほもの妄想で癒やしている内訳は置いといても、聖女になったのは事実だし。
それで得ている力も優秀ではあるんですよ。この草木に癒やしを与えてみてください、そうだな、お題は僕とその神様でどうです?」
流石先生、テーマがあるほうが滾ると判っている。この先生は人の心に機敏なのねと気付いた。
リーゼルグ先生から手渡された植木鉢の双葉を机の上に置く。
すっと手をあて、妄想を巡らせる。
(そうね、リーゼルグ先生はきっと攻めよ。この威圧感は絶対的な攻めで、腹黒ね。腹黒受けも美味しいけれど、ロス様相手なら攻めがイイわ。
いっそのことアラビアンな世界観もいいかもしれない。それで大金持ちのロス様に買われたリーゼルグ先生が、夜な夜なロス様を身体で慰めるの。
ロス様はいずれ、リーゼルグ先生に抱かれないと生きていけない身体になってリーゼルグ先生が家を乗っ取って……)
妄想をめぐらせていれば、妄想を気に入ったのかやたらと手が輝き、手の中の双葉は一気に大きく育ち教室中に根や蔓を張り巡らせた。
教室は一気に森林に近いような碧色。あたりに花がぽんぽぽんっと咲き乱れた。
「ストップ。戻ってこい、現実に戻ってこいローズ姫、おい。ローズ、おい! ひいさん!」
「家を乗っ取ったリーゼルグ様がアシュを侍らせて、さらに三角関係に……」
「おい聞かないと、アンタの悪癖を国にばらすぞ!」
「はっ! な、なあに、先生。って、わあ、すごい! こんなことになるなんて……」
「ったく、世話がかかる。これで判っただろう、規格外の力を与えられるほど気に入られてる妄想力だ。飽きられないうちには、利用価値がある」
「ええと、それはつまり……」
「正式に聖女となってもいい。神に飽きられるまではな。それまでに僕が出来るのは、君に魔法の使い方を徹底的に指導するだけです。
毎回これだけ大規模な力を使うのも問題すぎるんですよ」
「どうしてですか」
「あんたは読書しながら飲み物のむときに、一口ずつじゃなく全部飲み干してわざわざ毎回くみに行くタイプか?」
「……温存して加減した方がいいってこと?」
「困ったときに魔力が空っぽでしたなんて、許されないんですよ大人の世界じゃ。さて。それで。今日からしっかり指導していくので、妄想のバリエーション増やすために……。
まずは貴方の思いつくシチュエーションを聞いておきましょう」
「なんの生き地獄ですか……やだあ、そんなのやだあ!」
「つべこべいわない! ご褒美も用意しますよ」
「何ですか、リーゼルグ先生絵のモデルになってくれるんですか!」
「うるせえ俺をほもにするな。そうじゃなくて、とびっきりの美味しい御菓子でも毎回用意しておきますから」
ね、いいでしょ、とリーゼルグ先生は妾を子供扱いし、頭を丁寧に撫でた。
いつもなら気恥ずかしいし、嫌だけど。その暖かな手はどこか滅多にない優しさや、甘えてイイという感覚になり。
いつもならそれだけじゃ頷かないのに、妾はしっかりしごかれることとなった。




