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第六話 清楚な彼女は妾を嫌う

 アシュのお友達の騎士様たる御方が誕生日パーティを開く様子で。

 それならば妾にも付き添って欲しいと申し込まれ、妾は頷く。

 話しに居合わせていたサリスが「それならいいものがある」とぴんと閃いた様子だった。

 異国の絹を使ったドレスで、下品なことはない状態で身体のラインもはっきりとでる、コルセットもいらないものだった。

「スリットも入っていて、お嬢好みだろ」

「これどうしたの。こんなドレスがあるの?」

「そう異国での夜会ドレスだ。これなら違和感なくお嬢も溶け込めるだろ?」

「……有難う、サリス」


 ふふ、と微笑んだらサリスは一気に顔を真っ赤にし天上を仰いだ。

 鼻を押さえて何処かにばっと駆けだしていってしまった。いったいどうしたのかしら。

 眺めていたアシュがドレスを手に取り、頷き妾に宛がってみると、微笑んだ。


「なるほど、ローズにとてもよく似合う」

「見合うコーデをしてくれないといやよ?」

「任せてくれ、君の望む格好いい旦那様を演じるよ」

「それじゃ妾も羨まれるような奥様を演じるわ」


 ふふ、と笑い合ってこの日はサリスからドレスとアシュの服を買い。

 アシュとは別室で眠ることとなった。まだ婚約者だからこうできるけれど、結婚したらどうなるのかしら。

 不思議に思いながら眠りに就いた。


 *


「まあっ、イデアローズ様ッ、なんて素敵なお召し物!」

「噂とは違う、素敵な方だ」

「みて、アシュタルテ様とお似合いだコト! アシュタルテ様もイデアローズ様のドレスに合わせてるのね」

「将来が楽しみな二人ね」


 

 後日誕生パーティで妾とアシュの異国風装いは好評で。それでも主役を食うことなく存在できたのでほっとした。

 ほっとしたのもつかの間、一人の女の子がじっと妾を睨んでいる。

 アシュと婚約してからか、アシュを畏れて陰口は言われないようになってきたのだけれど、それでも挑んでくる視線だった。


 どうしたのだろうと不思議に思っていたら、女の子が近寄ってきて、アシュの目の前で躓き。飲み物をアシュに零した。

 女の子は目に涙をためて、あああっ、と泣き始めた。


「ああっ、ごめんなさい、コークス様ッ。わたくしのせいで!」

「おやおや」

「よければあちらにいきません? お着替えしないと……」


 ああ、これは。よくある色仕掛けのパターンね、とアシュを気の毒に思う。女の子は腕を絡ませおねだりするように上目遣い。

 悲劇のヒロインのように静かに泣いていて、このままだときまりがわるそうなアシュは助けを求めるように妾をみた。

 そうね、こういうときのための妾だものね。


「なら大丈夫でしてよ、妾がお連れしますわ。着替えも持ってこさせます」

「でも、わたくしのせいですしっ。わたくしが最後までお付き添いを……」

「結構ですわ、うちのひとなので。お構いなく」

「し、子爵家のくせになんて口の利き方なの! うちは侯爵家なのよ! サンフラワー家の次女、ソレイユ・サンフラワーよ、わたくしは! 貴方より格がうえなの!」

「あらあ、か弱いお嬢様のお顔剥がれてしまいましたわね。ねえ、もう一度言うわね。その人は、妾の婚約者なの。手をお離し」


 妾が睨み付ければ、ソレイユはびくっとして身を引いた。

 こういう場面もあろうかと、練習してきた甲斐があった。自宅でメイド相手に散々練習して、そのたびに「奥様はもっと胸を強調して仰った方が効果的です!」と言われたわ。

 あの地獄の特訓の日々が生きた!


「助かるよ」


 小声でアシュが小さくお礼を告げて場をあとにして、他の部屋を借りた。

 部屋を借りて着替えをしおわると、座りながらアシュが妾の手を引いた。妾はそばで立っている。


「あの子は、とくにしつこくてね。もう少しここに居ないか。顔を見合わせるのも飽きたんだ」

「貴方みたいに格好良くて、爵位持ちの騎士様なんて。ターゲットにされやすいって決まってるじゃない。慣れるしかないわ」

「慣れないから君のような人を待っていたんだ、有難う。ココで休憩するだけでも、周りは気遣ってくれる。君と二人きりだから邪魔しないようにってね。さぼれる」

「まあ、悪い人。お祝いはよろしいの?」

「顔をだして人脈も繋いでやった、それで充分感謝されるさ」


 手を引いてアシュは妾の手をつないで、妾の手をおでこにあてた。


「本当に。女性を断るのは難しいから。君がいるだけでどれほど気が楽か」

「男が好きだからなんて言えないものね」

「だから理解して盾になってもらえること、とても感謝してる。ゆえにあのサリスという男、ちゃんと値踏みしておいてあげよう」

「どうしてそこにサリスの名前が?」

「君の想いも向いていないようだしね。ふふ、君と彼が結ばれるのなら、俺は少しだけ喜ばしいんだ。あの男はイイ男だよ」

「性的な意味で?」

「もちろん、好みの範囲内だ」

「ふふふ、今度モデルにして絵描いて良い?」

「君のお願い事に、私とあの男が断れるわけないんだよなあ」


 一室にて、妾とアシュは笑い合い、少しだけ仮眠をとることとした。

 扉の外でソレイユが蝉のように張り付いていると知らずに。


 

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