第四話 神様のお気に入りは妾の妄想!
町通りを歩いていると話題にも出ていた教会が通りからも見える。
サリスの店を出てから、少しだけ他の買い物をして帰ろうと思っていた。
昨今は劣化が酷いと聞くが、信者の方や貴族からの寄付でまた近いうちに立て直しするらしい。
(神様か、神様からの寵愛もののホモもいいなあ。遠い村の風習で、生け贄となる美少年を見初める男神……神様だからきっとテクニシャンね)
「きっと大きな国宝の持ち主よ……やだ壊れちゃうんじゃないかしら、ふふっ」
思いを抱かせていると、じんわりと教会が光り始めている、気のせいかしら。
何処からか声がする。
『神様はどうしてテクニシャンなんだ?』
(考えが漏れてる? 聞こえたのかな、そんなの長い月日生きてきたからじゃない! でも逆にそれで初々しいのもありね! そしたらウブ同志の初夜が滾るじゃない。ウブ同士で始まらない初夜。痺れを切らした受けが神様に馬乗りして、搾取していくの! ぎったんばったんよ!)
『おじょーさん随分面白い考えだね!』
笑い声がしたかと思えば、教会が盛大に光って、教会からの鐘がごんごんと連打されるようになり続ける。玄関の鈴くらいうるさい。
いったいこれはどうしたのかとぽかんと見上げている妾。
「……まさかね」
『そのうちお嬢さんとこにお使いの人がくるよ、おめでとう。君は選ばれた。君のその面白い脳内のお話が決め手だ』
「ホモ好きの同士?!」
『君の面白い話が見られるなら力を貸してもいい。君はこれから、聖女になるんだ。面白い話を聞かせてくれたお代だ、これからもよろしく』
街通りの先に、ふおんと人が見える。
大勢が通っている割にはそのひとしか目に入らない。目立つ外見でもないのに、視界に入るのはその人だけで。
教会がよくつくる像と同じ格好の人だった。
銀髪の三つ編みを揺らし、金と赤の目でにこおと微笑む異民族の服装。
「もしかして」
『君の好きな名前を当てはめるとイイ。それを僕は名乗ろう』
「そんなのそんな見た目で人外なら神様以外ないでしょ!?」
『君がそういうなら僕はきっと神様なのだ! はは、では今日から僕はロスだ。ロス=ハートだ』
「まるで他人事ね?」
『記憶がないんだ。今までなにをしていたかの。人々を眺めてヒントを探して脳みそを覗いていた。そんなとき、君の面白いお話しをつくる脳に出会った』
「それが気に入ったの?」
『うん、少女思想的な人はいるけれど。脳内が筋肉男だらけな女の子ははじめてだ』
さすがに言葉にされると恥ずかしいし、何かの間違いであってほしい。
ただ普通に聖女に選ばれるなら立派だし心から喜べたのだと思うのだけれど。
こんな選ばれ方で喜べない。
妾は慌てて馬車に戻り、買い物を中断し、家に帰って貰った。
「いいのですか、お嬢様」
「今日はもう疲れたの」
「そんな格好してるから風邪でも引いたんですよ」
「妾からしたら、みんなのが暑そうだけれど。ああ、でも。本当に風邪かも。よくないものもみたの」
「それはいけませんな、帰って治さないと。婚礼前の大事なお身体です!」
従者との会話に疲れて、目を閉じて揺れに耐える。
馬車の揺れが心地よくなった頃に自宅に着いた。
自宅に着き部屋で、先ほどまでのことは忘れて絵をせっせと描き始めた。
いいえ、先ほどのことはあってはいけないから。忘れたいと念じて、沢山男同士のくんずほぐれつを妄想して書き続けていたら部屋にノック音が響き渡る。
「何をしたんだローズ。婚姻の次は、聖女抜擢だと!? 聖女候補かもしれないから、教会に来てくれと申し渡されたぞ!」
「そ、そんな気のせいでは」
「お前も見ただろう教会のあの輝き。あれで教会に控えていた冒険者たちは怪我が治ったらしい。治ったと同時に一瞬お前の名前が刻まれたらしいのだ」
「ひえっ」
びくっとして書いてた絵を握りつぶせば、お父様の後ろに見えるロス様。
不敬な娘でごめんなさい、信仰心ではなく、ほもへの妄想力で治療となったのでしょう。
ロス様はお父様には見えていないらしく。お父様は興奮している様子だ。
「聖女になればうちの格もあがる、お前はやっとこの家で幸運の象徴になれるのだ!」
「まあ。まるで今まで不吉だったような物言い」
「お前の趣味がな~~~~~~父は許せないのだ」
その趣味で聖女候補になったんだけど、とは口が裂けても言えない。
お父様はるんるん気分で部屋をでていき、代わりにロス様が入ってきた。
『娘思いのひとだね』
「どうして」
『からかってはいるけど、心から君を嫌いじゃないよ』
「そうだといいんだけれど。ねえ、きっと他に面白い考えの子はいるわ。妾じゃないとだめ?」
『うん。君のお話が見たいんだ』
「ばちが当たったのねこれは……」
神様で不敬な妄想をしてしまった代償かしら。
でももうバチが当たったからには怖くない。マダムレイティに今度、こっそりお話相談してみよう。