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第三話 薬師はひそかに怒り狂う

「はあ!? お嬢に縁談がきただって!?」


 いつも万屋を営んでいる薬師のサリス。サリスの店にいって、今度から運んで貰う住所が変わるからと教えたら、心配してたので素直に婚姻の話をしたら、大きな声で騒がれた。

 耳がきーんとしちゃう。赤い髪を振り乱して、サリスは水色の目をかっと見開いていた。サングラスを外して、じいいいいっと食い入るように見つめ店のカウンターで震えている。

 サリス・アーロックというこの男は古い馴染みで。幼い頃に出会ってから、ずっと店を贔屓にしてきた。

 サリスは背丈はアシュよりも低いけど、負けず劣らずのよい体つき。このちゃらさは攻めね。くず攻めとか似合いそう。

 だからきっと贔屓の客が婚姻したことで驚いているのかしら?

 サリスは黒髪交じりの赤い髪を掻きむしり、口元のピアスをぐりぐり弄りながらぶつぶつ何か言ってる。ぶつぶつなにかいう殿方が流行ってるのかしら。


「お嬢が、お嬢が嫁に。いや、そういう年なのは判っていたけれど、もうちょっと期限あるとおもってた、くそっ!!」

「なあにサリス、喜んでくれないの」

「当たり前ですよ、その豊かな胸が他人のものになる。大きな安産型のお尻も、その艶めかしい顔も唇も!」

「不思議よねー、みんな男の人って身体のことだけ言う」

「もーってその膨らませた頬も最高に可愛いっす!! ええええ、駄目ですよお嬢、ずっと俺と仲良く過ごしましょうよお!」

「サリスだっていい年なんだからそろそろ縁談考えないと駄目よ?」

「俺にはお嬢さえいてくれたら、へへ、お嬢……どうですか、俺と一夏のアバンチュールを……いや、愛の逃避行を……ッ」

「はいはい、またいつもの冗談ね。それにしても驚いちゃった、今回初めて縁談貰ったけど、妾うまくできそう、ふふ」

「そんなに相手の男いいやつなんですか!! 俺よりも!?」

「サリスはかっこいいっていうより、面白いひとよ」

「ひどいんだあ、お嬢。ひどいんだあ!!」

「いいじゃない、ああ、このインクいいわね。このインクも十個運んで頂戴ね」

「お勧めはこの羽根ペン、お嬢のためにとっておきましたし、特別価格です」

「じゃあそれも。あら、なあにこの本」

「ああ、流れてきたんですよ。ロスって神様知りませんか? その神様の聖書だそうです」

「ロス様って……あの大聖堂で像になってるひと?」

「そうそう、偉大なるロス=ハート。面白い聖書でしたよ、この宇宙はロス様の身体からできたとか」

「へえ? どういうこと?」

「ロス様が世界で初めての生命体で、ロス様がお亡くなりになり。朽ちた身体から大陸ができ。涙から海ができたとか。勇者様の戦いでも、ロス様はお力をたくさん貸してくださったらしい。聖女がいない限りは祈りの力たる癒やしは使えないはずだが、特例で使わせてくれたみたいなんだ」

「聖女さま? みんな聖女様聖女様っていうけど、そちらのほうは知らないのよ」

「ほもばかりみてるからな。聖女様は世界で癒やしの力が一番強い方だ、ロス様からの幸福を一番得ている。ロス様が選ぶ御方だ。聖女様はこの二十年は選ばれてないらしいんだ」

「ロス様の存在は知っているけど、そんな成り立ちだとは思わなかったわ。うちは母様が東の出だから、仏教だし」

「そうだな、だからこそのホモ書きだもんな、お嬢……」

「東の地域じゃ、男色は珍しいことじゃないんだから! ああ、一度は行ってみたいわ、東の神秘。蓬莱国!」

「お嬢、それなら是非俺と一緒に蓬莱国で駆け落ちを!!!」

「新婚旅行でお強請りしてみようっと。サリス、この赤のインクもおねがい」

「ああっ、相変わらず聞いてない! 聞いてないお嬢も素敵だよ!! 俺のお嬢だもんね!!」


 サリスのごちゃごちゃ言う言葉は気にも留めない。どうせきっと色んな人に言ってるのよ。

 サリスは人当たり良いし、優しいし。もてるのも知ってる。

 だから妾なんて絶対に選ばれないのも、家柄無理なのも判るから、これは妾へのサリスとの軽口のひとつだった。


「どこのどいつと結婚するんですか!! せめて大輪の花を一億本くらい贈りますよ!!」

「アシュタルテ・コークス様ってわかる?」

「判るも何も知らない奴はいない、今一番注目されてる騎士隊長ですよ」

「どんな方なの?」

「品行方正、真面目を絵に描いたらあいつになるやつです。真面目な奴なんてつまんないでしょう!? 俺にしましょお!?」

「ならきっとからかわれてるわけでもないのね、気に入ったわ」

「話を聞かないお嬢!! そこがたまんないぜえええ!!!! はあはあはあはあはあはあ、放置プレイ……」

「お守り代わりにしましょ、この聖書買ってみるわ」

「ああいや、聖書だから金は要らないんだ。配布してくれって頼まれているんすよ。だから、これはお代は結構」

「そうなの? じゃあ浮いた分で、この新作ネグリジェも」

「お嬢のために仕入れたやつ買ってくれるお嬢好きーーー!!! もう好きーーー!!!」


 このうわごとは周りにはいつだったか、ローズ病って揶揄されていたこともある。

 サリスは妾のことと鳴ると過保護だし、イイ人だけどうるさくもある。

 

 

「お嬢のために、レッドカーペットはシルクのもの仕入れておきますね!!」


 それは転んで破局しろって意味合いなのかしら、とサリスを睨んだ。


 

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