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第二十一話 頼りない思い人だから守らなきゃ

 アシュとルルの交際は順調。

 今のところはルルは図太さを覚えたのか、妾にすみませんお借りしますと宣言してから、アシュの本命は妾で噂は噂に過ぎないと軽い知り合いには向けているらしい。

 久しぶりに会ったルルは清々しい顔をしていた。

 アシュ曰くルルの作ったお弁当を、妾の作ったお弁当と偽れたので助かったとアシュからもルルからも感謝されている。


 そういうときのための妾。

 妾とアシュ――公爵様は、いわゆる偽装結婚を計画している。

 式もあと六ヶ月先のこと。

 ルルに本当に式をあげていいのか問えば、「貴方の思い人が出てきたら一緒に参ります」と笑われた。

 妾に思い人が成立していないと、フェアじゃないと思ったらしい。

 妾を一人にさせたくないというのが、ルルとアシュの意思だった。

 

 実のところ、気になる人はいるといってしまえばいる。

 けれど、その人は普段は口説くのにシャイすぎて、手出ししてくれないのだから。

 式から攫うなんてとてもじゃないけど、無理だと思うのよ。


 今も、定例の屋敷にきてのお買い物で、妾と二人きりの時間だというのに。

 妾の気になりかけてる人は、視線が右往左往していてギクシャクしている。

 サリスはあれからぎこちないの。

 寂しいような、耳が紅いのが見えるから可愛いような。

 本当に理想の受けであると同時に、頼りない思い人だわ、


「やあやあ、ローズ姫、今日のご機嫌はどうかね!?」


 ぬるんっと床から現れたのはガニメデ様。

 折角のサリスとの時間を邪魔しないで欲しい想いで、妾はガニメデ様の出掛けてきた頭を足蹴にして地中の中に押しやる。

 ぐぐっと地中から出たいガニメデ様と、地中に埋めたい妾の足の対決。


「いいね、ピンヒールがとてもいい仕事してるね!!」

「ガニメデ様、少しは空気読んでくださる? 邪魔なのよう、とおっても」

「ああっ!! 君の力強い綺麗なふとももが輝く!! いたいいたいいたいうおおお、愛の痛み!!」

「貴方ど変態で、どえむなの……」

「冷たい眼差しが似合うねえ、君は。そんな君に似合うのは情熱の真っ赤なドレスかな? どう思うサリスくん! サリスくん??」

「え、あ、ああ!!? なにやってんすか、殿下! お嬢、そんな汚い物から離れて!」

「王子を汚い物とは酷いな」


 サリスがぼんやりしていた世界から我に返って、妾を退かせると、ガニメデ様が完全に床から這い出て完全に地面に舞い降りた。

 殿下の衣服は綺麗で豪華。身なりはどうみても王子様なので、汚い要素はないのだけれど、殿下は性質が汚いから。


「サリスくん元気ないね?」

「あ、いえ、その……」


 ガニメデ様が問い詰めれば花のように恥じらうサリス。

 妾の中の何かが目覚めそう。妾が男の人であれば、サリスをお姫様抱っこしてこの土地からさよならしたい程の可憐さ。


「なんでもないわよね?」

「あ、ええと」

「ないわよね?」

「は、はい!!! お嬢が言うならそうですです!」


 ガニメデ様に馬鹿丁寧に可愛いサリスを見せなくてもいい。

 ガニメデ様の攻めも受けも地雷よ、妾は。

 ガニメデ様だけはもうあまり組み込みたくないの妄想に。

 それくらい飽き飽きするほど着せ替え人形にならないかって勧誘がひどいの。

 いやになっちゃう。


「なんだか変な二人だね!? ははーん、さては……」

「転移・マジャヨカバ!」

「ああああっまだ何も言ってないのにいい!! ローズちゃん、君のあんよを眺める日がおおくなってきたね!」

「五月蠅いのよ、消えて……ッ!」


 げしげしとガニメデ様を足蹴にすればガニメデ様は益々高らかに笑い、サリスを指さし爆弾を落としていった。


「さては恋をしたな!?」


 思い切りガニメデ様を踏み込めば、ガニメデ様は地中に埋まりきって消えた。

 華麗なカーペットの真っ赤さに飲まれていく。


 妾はふう、と息をついて手を払った。


「お茶にしましょうか、サリス」

「はい、あの、お嬢」

「なあに」

「強気なお嬢もかっけえっす……」

「んんっありがとう」

 

 恥じらいながら言う貴方は可愛いわね、って言いたくなるけど。

 最近のサリスはギャップが強すぎる。

 サリスの見た目は元から少しだけ強面というか、ちゃらいのに。

 それで花のように恥じらう姿ばかり目にするから、昨今では本当に変な層からファンが出始めているとアシュから聞いてびっくりしたわ。


 妾が守らなくちゃ。


 妾の理想の受けであり、恋人に欲しい人かもしれないのだから。

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