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第十五話 ど変態王族

「やあローズちゃん」

「またきたの、殿下。王子様って暇なの?」

「君の塩対応が恋しくてね! やあ面白い授業をしてるもんだ、ストーリーテラーにでもなるのか」


 ガニメデ様が教室にやってきて授業を受けている最中の妾にちょっかいをだしてくる。

 教室に入って黒板に画かれている内容を見れば、誰もが目を疑うでしょうね。

 だって話作りのヒントの得方ばかりだもの。吟遊詩人むけと想われてもしょうがない。

 リーゼルグ先生は生憎席を外していて、妾は黒板を書き取りしている最中だった。

 こういったことがこれまで呪いを解いてから何回もある。

 リーゼルグ先生のこない時間を見計らうのがとてもうまい。


「ねえ、ローズちゃん。今度二人でデートしないか」

「何を仰るの殿下、妾、夫が出来る予定よ」

「王族に勝る婚約者なのかね」


 くい、と顎をよせられても、見た目が可愛らしい少年だからあまり迫力が無い。

 それでも顔を寄せられて、間近に瞳を見つめられれば緊張感は過るけれど。


「身分で物を語る人、嫌いよ」

「でもそういうものだろう? 王族に迎え入れられる喜びはないのかい」

「妾はアシュの話を気に入ったから引き受けたの」

「そうかそうか! じゃあ僕も君のとびきり気に入る縁談を用意すれば、君も頷くかな!?」

「ご冗談を。なにがそんなにお気に召したの」

「そうだね、正直なことを言えば、聖女を絶対に手放したくないんだ。コークスがこの国に仕えているといっても。コークスがいなくなれば、君もいなくなるのは厳しい」

「どうして」

「それだけ聖女の力は、この国――ううん、世界中で貴重で。大事な存在なんだよ」

 それに、とガニメデ様は手をぱっと放しておでこを重ねて笑いかけた。


「君は神の声が聞けると聞いた」

「……誰から」

「君の担当教諭も、王族に逆らえないのだ、悪く想うなよ」

「……脅したのね。それで、何を望んでいるの、妾に」

「王族の本音とボクの建前は、そんなかんじ。神の声が聞ける聖女は素晴らしい」

「殿下が妾を望む本音は?」

「君を飼いたい」


 耳に残る声の甘さにどっと脂汗が吹き出る。

 声は残忍でいながら、甘く。笑顔を浮かべていて、とろんと理想を語る姿は、「おおきくなったらぼくおむこさんになるのー」と語る幼児となんら変わりない純粋さ。


「一目で分かったんだ、君は最高のおにんぎょうさんになる!!」

「……偉くなると倒錯するって本当なのねえ」

「ボクはねっ、最高に可愛くて見た目も美しい生きた人形をずーっと求めていたんだ!

 君のような種類は初めてのお人形だ! 君みたいな人に、レースをあしらえて、フリルを

 ふんだんに使ったドレスを着せ替えさせたい! 世界中からドレスを集めると誓うよこの空と大地に!」

「誓われても困る……ど変態」

「わあ、いいね素敵な響き。シンプルだね。シンプルイズベストってやつだね。その冷たい声含めてお気に入りだよ!」


 目を輝かせてはあはあして告げる言葉じゃないわ。

 それはリーゼルグ先生も勝手にしてくださいって、此方の情報教えるにきまってるわね。

 近寄ってかかわりたくないもの。


「どうかな、結婚が難しければ月金貨二十枚で契約というのも……」

「ぞっとするのでお断りしますう」

「ボクは諦めないからね、長いこと君を口説いていこう! ボクのドール!」

「歪んでる人ねえ」

「君とは婚礼の儀では百種類のウエディングドレスを着て貰って、それからお色直しに二百のドレス! たのしみだなあ、アクセサリーも拘ろうね! 職人のおすすめは……」

「転移・マジャヨカバ!」


 このままココに置いておくのも何だから、そっとリーゼルグ先生から教わった魔力の転換を試してみると、殿下は床からぬるんと徐々に埋もれていった。

「その魔法の腕! それもすばらしい! 君という人はどんだけ虜にするんだこのボクを!!」

「うるさい~~消えて~~」

 床に抗って殿下は這い上がろうとするけど、格闘したすえにやっと床の中に埋められて、転移魔法を発動させられた。

 妄想を他の魔力に変換し、祈ればお人形がいかに素晴らしいかを語るガニメデ様は消え去った。

 お城まで帰還魔法を送り込んだだけのこと。うまくいかなければ、砂漠に飛ぶだけ。


「板書終わりましたか、ってうわ、すげえ怖い顔!」

「リーゼルグ先生。瞬間移動させる魔法ってわかりますか」

「自分じゃなくて相手をか? 習得するのに時間かかるぞ。お前に魔力はあるとはいえ」

「いいの、高速で習得してみせますわ」


 そしたらいつでも追い返せるじゃない?

 とリーゼルグ先生に、暗にガニメデ様の意味を匂わせたら苦い頬笑みをされた。


「可哀想な王子様なんだあれも」

「なにが可哀想よ、妾のほうが可哀想よ!」

「それは否定しねえけど。いつかわかるよ、いつか」


 はは、と笑ってリーゼルグ先生の板書を終えた妾は授業の再開を受け入れた。

 

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