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第十一話 聖女になるには、狐さまから!

 後日妾は教会に呼びだされ、そこにはオズもいた。

 オズは妾を見るなりお辞儀をして、微苦笑した。

 妾が聖女候補だって予感していたのね。オズも聖女候補だったのだ。

 オズに付き添っている老女はきっと妾を睨み付け、司祭様のお言葉を待っている。

 その隣にはソレイユもいる。ソレイユはこの前アシュに言い寄ろうとしてきた少女だ。

 ソレイユは妾をみると鼻で笑った。


 司祭様は、すっと高級クッションに乗った白狐を連れてくる。

 白狐は目を細め、クッションの上で心地よさそうに昼寝している。


「聖女様の試練は此方のフォックス様次第です」

「どういうことでしょうか」

「フォックス様の懐いた方が、聖女様です。フォックス様は、清楚な乙女を好みます。

 清楚で魔力の高い乙女を」

「なるほど、魔法を使うとかではないのですか?」

「ご判断にお任せします」


 司祭様のお言葉に頷くと、一人一人順番にフォックス様と戯れる時間を得る。

 最初はソレイユ。ソレイユはフォックス様を猫のように抱きかかえて、あやし始めた。


「まあなんて暖かく可愛らしいのでしょう♡ ほらあ、わたくしの腕は柔らかで宜しいでしょう?」


 ソレイユは優しく只管フォックス様を撫でて喉元を擽ろうとするだけ。

 ロス様は後ろから眺めて大笑いしていた。


「ありゃだめだな。ねえ、ローズ。僕はどうしたらいいか教えないからさ。もしこれで君が認められたら、ほんとに聖女になってよ」

(そのときは仕方ないから認めるわ)


 ロス様からの問いかけに心で応えれば、満足そうにロス様は頷いた。

 ずっと赤子をあやすように接するソレイユにフォックス様は飽き始めたのか、すすっとオズの元に歩み寄った。ソレイユは追いかけようとするが、間に司祭様が割り込む。


「お気に召さなかったようです。残念ながら貴方は聖女ではない」

「そんな! 何かの間違いよ!」

「そもそも……ああいえ、なんでもないです」


 フォックス様に駆け寄られたオズはフォックス様に挨拶をする。

 軍人のようにびしっとした姿勢で一礼を。


「自分はオズ・チェリッシュ・エメラルドといいます! お見知りおきを! 触れてもよろしいでしょうか!」

 

 オズの礼儀正しさにフォックス様はソレイユを見て溜息をついた気がする。

 ソレイユの顔が真っ赤、そうね、勝手に触って赤ちゃん扱いだったものね。

 フォックス様はオズの前にすっと寄ってくれば手元を舐めた。

 それがオーケイの合図だったのだろう。


「有難う御座います。豊かな体温ですね……」


 オズはわずかにはにかんでいたが、妾ちょっと違和感あるの。

 フォックス様少し疲れてる感覚がする。

 疲れているというより、元気や覇気が無い? っていうの?


 じっと観察していると、ソレイユの時間よりはオズにはフォックス様はそばにいてくれたけど、やがて妾のもとにやってくる。

 オズの失格の合図だ。


 妾は、フォックス様に軽くドレスを抓んでお辞儀してから、そっと触れる。

 フォックス様は妾の狙いに気付いたのか、身を任せている。

 フォックス様の、身体から見える。黒い文様に触れたの。


 ああ、やっぱり。と妾は即座に妄想を浮かべる。


(今日はアシュがリーゼルグ先生に言葉責めされるところ。インテリコンビね、きっとふたりは。言葉の駆け引きがうまそう。それこそけんかっぷるとかになったりして!?)


 妄想した瞬間ロス様が力を与え、教会の鐘は早突きし、大げさな真っ白い光が当たりに広がる。

 今回は妾が願ったこと以外しないという宣告通り、狙いだけを汲んでくれたみたい。


 フォックス様だった物は――光を受けて、水色の少年に変化した。


「やったあ、呪いがとけたあ!!」

「司祭様、いったいこれはどういうことですか!」

「おめでとう、聖女は貴方ですミス・シュルクス。サンフラワー様落ち着いてください。あらかじめこの人はこういう状態です、と判ることなんて稀です。なので事前に何の症例か内緒に、癒やせるか呪いを解除できるか、が本当の診断基準でした」

「そんなのってないわ!! 騙された! 卑怯よ、そんなのがあれば、わたくしだって!!」

「できなかったとおもうなあ! ソレイユちゃん魔力感じなかったもん!」


 少年の言葉に目を見開いていると、少年は快活に笑い、上品な礼をした。

 貴族の上位たるものがする下位のものへの振る舞いだ。

 即座にやんごとなき身分の方なのだろうと判る。

 妾とオズはすぐに対応しお辞儀をし、少年の言葉を待つ。

 ソレイユだけはぎゃーぎゃーわめいている。貴方妾より格式高いおうちなのに大丈夫なの?!


「なにしてんのよ! もう一回やりなおしよやりなおし!!」

「おやあ、まだ気付かないのかね、ソレイユちゃんは」

「ソレイユちゃんソレイユちゃんってそもそも無礼よ! わたくしを誰だとおもっているの!」

「王族のボクより偉いのか?」

「え……あ、ああ……あああああああああ!!!!!」


 ソレイユは少年を指さしてからはっとして、妾たちと同じ姿勢を取る。

 少年はうんうん、と頷き腕を組んだ。


「よく尽くしてくれたみなのもの。此度のことは王族の秘密だ、内緒にしてくれ。

 ボクは第四王子のガニメデ・リオン。ボクは君をちゃんづけしてはいけないらしい」

「と、とんでもございません、殿下! ご無礼をお許しください!」

「よいだろう、ボクは心が広い。よくわかったね、ローズちゃん。どうして判ったのかな」

「判ったのではなく。疲れてそうだったので、その黒い文様を何かしたら、お疲れがとれるのではと思ったのです」

「なるほど、君のそういう細やかな気遣いが奇跡をうむんだね。さあて、宴にしよう。城へおいで、ローズちゃん。君の聖女認定式だ!」

「あのっ!!」

「なんだね、申してみよ」

「正直に申しますと、妾一人じゃ心細いのです!」

「どうしてだね、君の聖女の振る舞いはすばらしい」

「それでも。妾には、妾が相応しいと思うまで、どなたかいてほしいのです」


 そっとオズを見てみる。

 オズはだって。きっとこの中だったら一番適任だと思うの。

 オズが黒い文様少し気に掛けていたのくらいわかるわ。

 事情がわかったうえで、力がなかったからできなかっただけだもの。

 妾だってそれなら条件はおなじ。妾はたまたま妄想を気に入られただけ。


「ふむ、聖女の言うことだ。許そう、オズ。君は聖女のお付きだ。ローズの言いたいことなんとなくわかるよ。君ならば許そう」

「あ、有難う、御座います殿下」


 ガニメデ王子は手をぱんぱんと両手で張り上げると、妾とオズの目が合う。

 オズは妾に口パクで尋ねた。


『金貨百枚のボトルいれますか』


 だからもう。妾は娼婦じゃないんだって、と妾とオズはくすくすと笑い出した。

 ソレイユだけ、妾たちを睨み付けていた。

 

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