【派生ルート】ジーンエンド
ジーンを選んだ場合のifエンディングストーリーです。
最後にキャラのイラスト付き初期設定(最初に作った設定なので本作の内容とは若干異なります)カードを掲載していますのでお楽しみください。
ギイイイイイ…………
ダンスホールの扉が開くと、そこにはまだ誰の姿もなかった。
私が着替えをしている間に天候が悪くなり、外は勢力の強い台風並みに暴風雨が吹き荒れているのだそうだ。
急いで中庭からダンスホールに移動させたからか、飾り付けが少し濡れてしおしおしている部分がある。
「お嬢様、このような事になり……どのようにお言葉をおかけしたらよいか。申し訳ございません」
「仕方ありませんわ。自然は私たちの力で何ともなりませんもの。朝はとても気持ちの良いお天気でしたのにね」
窓の外を見ると、稲光が走る。雷がどこかに落ちたようで、たまに凄い音が聞こえる。
ぼんやり外を眺めていると、私の知っている人の姿が屋敷に向かってくるのが見えた。
「嘘でしょ……? この嵐の中を?」
使用人にタオルとお風呂の用意を指示して、玄関ホールへ走る。
嵐の中やってきたのは、ジーンだった。
「悪ィ。遅れちまったな。パーティはもう始まってるよな?」
ずぶ濡れの姿も絵になる……じゃなかった。濡れた髪をかき上げる姿もサマになる……じゃない! 煩悩が理性を超えてくるの、やめてー!
貴重なシーンを見逃してはいけないとは思うけど、流石にずぶ濡れの姿は見ているこっちまで寒くなる。
使用人から厚手のタオルを受け取ると、ジーンの頭にかける。
「もう! 無茶をしないでくださいませ。なぜこんな嵐の中を……少し待てば止んだかもしれませんのに」
「はは、すまん。嵐になっても行くって言っちまったからな。雷で馬が動きやがらねえから走ってきちまった。けど想定してたよりすごい雨だったぜ。せっかくの一張羅が台無しだ」
そんなウインクされたって、私の心は動きま……す。もう、何したってかっこいいから仕方ないじゃない!
とにかくまずは身体を温めてもらうために、使用人にジーンをお風呂に案内させるよう指示する。「覗いてもいいんだぜ?」じゃないわよ、覗けるものなら……じゅる。
いちいちジーンの言う事に翻弄されている自分が居る。
推しの力とはここまでのものなのねと再確認するのと同時に、自分に呆れてしまう。
暫くすると、さっぱりしたジーンが会場に足を踏み入れた。
「マジで俺しか来てないのか。一番乗りいただいちまったな」
「こんな嵐の中に来るなんて、あなたくらいでしてよ」
「そう言いながらも、嬉しいくせに。お嬢さん、照れてるな?」
図星を突かれて何も言い返せない私を見て、ジーンはけらけらといつも通り軽薄そうに笑っている。
こんな日に、約束だからと来てくれたことは嬉しい。けど、本当に何かあったらどうするつもりだったんだろう?
ちらっとジーンを見た瞬間、まばゆい光と鼓膜が破れるかと思うくらいの轟音が響いた。パーティ会場の広間のすぐ近くに雷が落ちたみたい。流石の私も驚いて、思わず一番近くに居たジーンに抱き付いた。
雷の衝撃で屋敷が揺れ、部屋の明かりが消える。
使用人たちもプチパニックを起こしていて、メイドたちは頭を抱えて床に突っ伏してるし、執事たちは右往左往している。
私は気付くとジーンのたくましい胸と腕に抱き寄せられていた。
「何ていうか、お嬢さんは肝っ玉が据わってると思ってたけど、やっぱりまだ十代のお嬢さんなんだな」
「ごめんなさい。驚いてしまって……私としたことが」
ジーンから離れようと思ったのに、離れられない。私を落ち着かせるためにジーンがしっかり抱き寄せてくれている。
「強がらなくてもいいんだぜ? 俺はキツい顔してるお嬢さんもイイと思うけど、そうやってしおらしくしてるお嬢さんも気に入ってるんだからな。もっと大人を頼れよ」
「ありがとうございます」
「その赤いドレス、気に入ってくれたんだろ? 俺が贈ったものを身に着けてくれて光栄だぜ。よく似合ってる」
私の選んだ赤いドレスは、私の髪の色より情熱的な色でジーンみたいだと思った。だから、この色を選んだ。まさかジーンが贈ってくれたものだったなんて。
「ジーン、あなたのプレゼントでしたのね。素敵な色を選んでくださってありがとうございます」
暗闇の中でジーンの大きな腕に抱かれていると、ドキドキが止まらないのにどこか安心感がある。
明かりが付いた部屋の中は、大惨事だった。雷に驚いた使用人がテーブルをひっくり返したらしく荒れ放題。片付けるのでとホールから全員が追い出される。
お父様とお母さまは自室で待つとのことなので、私はジーンを控室に案内する。
「お呼びしたのに、こちらの不手際で申し訳ありませんわ」
「構わないぜ、お嬢さん。それよりようやく二人っきりになれたんだ。少しだけ俺の話を聞いてくれないか?」
私がソファに座ると、ジーンが私の隣に腰掛ける。なんだかすごく緊張する。
「なあ、お嬢さん。俺とお嬢さんが逢った日のことを覚えてるか? 俺はあの時からお嬢さんに惚れてる」
「え……? 今、なんと……?」
「何度でも言う、俺はお嬢さん……クロエに惚れてる。豪快なところも、そのくせ人を気遣う繊細なところも、全部タイプだ。
俺みたいな流れ者は嫌かもしれないが、チャンスがあるなら俺と付き合ってくれないだろうか」
嘘みたいな告白に、私は息を呑む。だって、ジーンは私の最推しで……大好きで、かっこよくて……。
急にそんなことを言われたら、嬉しくて涙がこぼれる。
「はい、私もジーンのことが全部タイプですわ」
私の涙をぬぐい、ジーンが嬉しそうにほほ笑む。その笑顔を見るだけで心が温かくなる。
時間がフリーズして花が舞い散り、涙をぬぐっているシーンがスチルとなって出現する。キャラクターボイスの声優が歌う恋愛エンディング曲「Colorful Love」が流れ、脳内に今までの出来事が走馬灯のように流れる。
曲が流れ終わると、ジーンはどこから出したのかバラの花束を持っていた。最初から、今日私がこのドレスを着ていたらプロポーズするつもりだったんだって。
推しは恋愛の好きと違うなんて誰が言ったの?
これからはジーンと一緒に冒険の旅に出るのもいいかもしれない。
引きこもり生活とは縁遠くなりそうだけど、毎日このイケメンを眺めていられるなら、それもいいかも。
── ジーンエンド 完 ──
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。
他のエンディングもぜひお楽しみください。
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