佳境なので引きこもれない!
「どうなってるんだ、クロエ」
洞窟から戻ると、小屋を取り囲む騎士たちと共に超絶不機嫌な顔のナイルが待ち構えていた。
悪夢を見せていた誘拐犯は全員もれなく叩き起こされた様子で、もう二度としませんとか、あの悪魔のような女には二度と会いたくないとか言っているみたいだけど……あとでもう一度顔を見に行こうかな。
まずはナイルに経緯を説明する。騙された逆恨みから貴族を襲ったこと、女性の病気を治すためだったこと、アメリアは私と間違えられてさらわれたこと、ハルが暴行を受けて放置されていたこと、そして洞窟のモンスターのこと。
遭った出来事を洗いざらい全部話して、まずは別室のマリーとネールを起こしに行く。
二人の存在には気が付いていたそうなのだけど、どう見ても子どもと病人なのでそっとしておいたそうだ。
「ネール、起きて」
魔法を解除して優しく起こすとネールは目を覚ました。マリーはまだ意識が戻っていないみたいだけど、呼吸は規則正しくされているし容体は安定しているみたい。
「クロエお姉さん、どうしたの……!!!?」
流石のネールも、自分の横に知らない顔……ナイルと騎士たちが居ることに気付き顔をこわばらせる。
「オレ、捕まるのか」
「事情を聞くだけだ。その女性は騎士団で丁重にお預かりするから心配するな」
「ん……それなら安心かな。オレらが看るよりよっぽど待遇は良さそうだし」
元々計画に加担した時から諦めていたのか、すんなりネールは事情聴取に応じるみたい。小さな少年にこのような罪を犯させたアニキの三人は罪深いよ、ホントに。
「クロエお姉さん、マリー姉ちゃんを治してくれて本当にありがとう。……あれ?」
困った笑顔を浮かべる私の横に居るハルを見て、ネールは驚きの表情をする。
「まさか……ハル兄?」
「はい? 兄……?」
「やっぱりだ! ハル兄だよね? オレ! ネールだよ! 弟の!!」
まさかの展開に、全員の視線がハルに向かう。ハルを見ると、ハルも驚いている様子だ。そう言えばネールを見たときに誰かに似てると感じたっけ。
「嘘だ、ネール……? でもマリーなんてボクの知らない女性が姉って……え?」
「パパとママが死んで、ハル兄が村を出てもう五年だよ? マリーは教会に四年前に新しく来たシスターだよ。ハル兄が居なくなってから村にやってきたから、知らないと思うけど」
「そうか、シスターか。良くしてもらったんだね。人を傷つけてまでも守りたいほどに……」
「ハル兄、王都へ出稼ぎに行ってから仕送りは届けてくれても一度も村には顔を出してくれなかったから……全然気が付かなかったよ。髪が短くなったから気が付いた」
ハルは困った笑顔を浮かべて、悲しそうに目を伏せる。故郷に置いてきた弟が、人を助けるためとはいえ道を踏み外し、大切な友人を傷つけたのだから。
「きちんと証言してきなさい。兄さんはどんなお前でも受け止める。戻ってきたら一緒に王都に住もう」
「うん。女みたいに髪を伸ばしてチャラチャラしてるのかと思ったけど、ちゃんと真面目なハル兄で良かった。金髪のお姉ちゃんとクロエさんを泣かせちゃだめだよ?」
「なっ……! 言うな、マセガキ!!」
ちょっと顔を赤らめ、連行されるネールの頭をくしゃくしゃと撫でるハルは、いつものかわいらしいハルと少し違って見える。今にも泣きだしそうな表情と裏腹な言動に、なぜか私の方が泣いてしまった。
「なんでお前が泣いてるんだよ、クロエ」
「感動の兄弟の再会、そして別れだもの……」
ナイルが私の肩に手をかけ、他の騎士団員から見えないように胸を貸してくれたので、溢れる涙をぬぐうことができた。こういう時にスマートに対応できるナイルは、女性の扱いに長けていて、やっぱり王子様なんだなーと感心する。
「クロエ、もう大丈夫か?」
「ええ、ありがとうございます、ナイル様」
「仕方ない、幼馴染のよしみだ。実はお前が泣き虫なんてことは昔から知っているからな。俺は犯人を連行しなければならない。ハルさんと一緒に馬車で帰るよう手配してあるが……いいか?」
「はい。お気遣いありがとうございますわ」
「だから、その言葉遣い……はあ。まあ、気持ちが持ち直した証拠か。じゃあまたな、クロエも大変だったな」
ぽんっと私の肩を叩き、ナイルは小屋を後にした。
騎士の方に誘導されて私とハルは用意された馬車に乗る。マリーさんは別の馬車に医療士と一緒に乗せられたみたい。小屋には調査が入るらしくて、数人の騎士と鑑定士が残るんだって。
「もう、夕暮れね」
馬車から見える湖畔はオレンジ色に染まり、光を反射してとても綺麗だ。目を細めて窓の外を見る私に、ハルが謝ってきた。
「クロエさん、巻き込んでごめんなさい。まさか弟が……」
「ううん、仕方ないよ。もしかしたら弟さんと再会するための神の御業だったかもしれないし。アメリアのほうが大変だったみたいだから、フォローはアメリアにしてあげてほしいな」
アメリアもハルと会えるのは嬉しいだろうし、という言葉が出そうになり口を閉じる。危うく余計なお世話をするところだった。
「そう……だよね。アメリアさんには心の傷も付けてしまった。ボクのせいだ」
「そんなことあるわけない。ハルは一生懸命アメリアを守ってくれたじゃない?」
震えるハルの手を握り、まっすぐに目を見る。するとハルの目からは大粒の涙が流れ落ちた。泣き崩れるハルの背中をさすりながら、本当にこの人は私よりも年上なのに……と心で悪態をついた。
私の目にも涙が潤んでいたのは気のせいだと思う。
こうして、波乱の一日は終わろうとしていた。
屋敷に戻った私が、ガイウスにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
二日連続で無茶をしたうえに、なぜ自分を呼ばなかったのかというお説教は、途中で面倒くさくなった私がガイウスを言いくるめて終了した。
やっぱり、ガイウスは恍惚な表情を浮かべていたから、私って怖くないよね? おかしいな。
部屋に戻ると、ウエンディが私に声をかけてくる。
『クロエ様、本日はお疲れ様でした。蜘蛛のモンスターがレアモンスターだったため、経験値が大量に入りレベルが上がりました。ステータスを確認されますか?』
「うん。お願い」
開いたステータスを見て、本当に感慨深いものがこみ上げてきた。
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クロエ・スカーレット(17歳)
Lv.25
属性:火・地・風・闇・光
HP(体力)…………… 210
MP(魔力)…………… 7500
ATK(物理攻撃力) … 180
MAT(魔法攻撃力) … 4000
DEF(物理防御力) … 140
MDF(魔法防御力) … 4000
LUK(運の強さ) …… 910
親密度
アメリア(幼馴染)…… 734/999★
クロム(婚約者)……… 922/999★
ナイル(婚約者の弟)… 820/999★
ガイウス(執事|暗殺者) 923/999★
ハル(占い師)………… 726/999★
ルカ(魔法局長)……… 722/999★
ジーン(用心棒)……… 705/999★
シモン(近衛師団長)… 774/999★
特別スキル
スチル耐性……………… 920
虫の知らせ……………… 999
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運の良さがほぼゼロから、ここまでよく頑張れたと思う。しかも全員人助けイベントをクリアして、ハルともなんだかものすごく親密度が上がってる。
誕生日まで三日を残して全クリを達成してしまったので、あとは引きこもっていてもいいかな?
『そんなわけありません。クロエ様、まだ三日あります』
私の脳内を読んで、ウエンディが猛反論してきた。
あと三日もあるので、まだ親密度の低いアメリア、ハル、ルカ、ジーンの親密度を上げろとのこと……嘘でしょ。
残り三日の間に、アメリアのお見舞い用に作ったお菓子を渡すことで、他のキャラとの親密度も無事750を超えることができた。
幸いアメリアは私の回復魔法で体調は万全、髪を切られたシーンで受けたショックはハルの短い髪形を見たことで無事回復したみたい。
いや、私から見てもハルの短髪は……形容しがたいくらいヤバい。
今はお休みしている占いショップを再開したら、店がお嬢さんで溢れることは必至だろうな。
アメリア、ライバルが増えちゃう……大丈夫かな?
そんなこんなであっという間に誕生日当日を迎えることになった。
これが終わればレッツ引きこもりライフ!
無事に友情エンドを迎えるぞ、おー!
ここまで読んでくださってありがとうございます。
土曜日なので次話はゲリラ公開とします。
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