救出しなきゃで引きこもれない!
ナイルと馬に乗り、南門からアメリアが居る湖畔を目指す。シモンの屋敷がある方向から道をそれて南東へ走らせる。
程なくして、早朝の霧に煙った湖面が見えてきた。光がまだ淡くしか届かない林道を通り、国境を目指す。
「ナイル様、あの小屋の手前で止まっていただけますか?」
ゲームでは、デートイベントで登場する湖畔にある小屋。地図の一番端にあって、他のキャラクターと遭遇しにくいスポットで、アメリア攻略ではゲームの恋愛イベントの半分くらいが湖畔だった。
この世界に来てから湖畔には初めて来るけど、ゲームとほとんど同じで驚くくらいの再現(?)度。とはいえ、小屋の中に入る演出は無いから流石に小屋の間取りまでは知らないし、調査は必要よね。
「本当に、こんなところにアメリアが居るのか?」
「多分……あ、こちらですわ」
ゲームで何度も足しげく通った湖畔だけに、小屋が見えやすいスポットへは難なく着くことができた。ナイルが「本当に初めてこの場所に来たのか?」といぶかしげに聞いてきたんだけど、その質問に答えるなら「実際に来るのは初めて」になるかな。
ただ、その質問は聞こえないふりをしちゃったんだけど。
死角になり且つ全体を見渡せる場所から小屋を見る。入口に人の姿は見えないけど、裏口には見張りなのかゴツい体格の男性が座って居眠りをしているのが見える。
ちょっと緊張感が足りないような。
索敵で周囲を探ってみたけど、裏口の男のほかに小屋の中に四人ほど人の気配があるくらいだったので、裏口の男が起きないように闇魔法を使ってもっと深い夢の世界へ誘う。
そのままぐるぐる巻きに拘束しておけば、万一目覚めても大丈夫なはず。
────しばらく目覚めないとは思うけど……念のため、ね?
「これで小屋に近付けますわ。行きますわよ?」
「前より魔法の発動が明らかに早くなってるよな? 俺、お前を怒らせる行動は今後絶対に控えようと思う……」
ナイルが肩をすくめながら何かブツブツ言ってるけど、気にしない事にして小屋に張り付く。
ええ、聞こえてないですよ? 「兄上も大変だ」ってこっそり呟いたのなんて、聞こえてませんからね? ふふふふふ。
手ごろな小窓から中を覗くと、誰もいない。ここから中に入れるかな?
流石に裏口は施錠されていたので、窓も施錠されているかと思いきや……なんと開いていた。
「クロエ、お前は来るなよ? 俺がまずは潜入する」
「そんな! 危ないですわ。いくら優秀でも、まだナイル様は学生で……しかも王子というお立場を考えないと────」
「しっ! 声がでかい」
口元を抑えてそのご尊顔を近付け且つイケボで耳元で囁くのは止めてください。死にます、私が。(ここまで早口)
不意打ちをくらわされた格好で、気持ちに余裕が無かった私は無事ゆでだことなり、ナイルが潜入するのを固まったまま見送るしかなかった。スチルじゃないから耐性が効かないのよ。でも倒れなくなっただけマシよね?
小屋の中に入ったナイルが付いてくるなというジェスチャーをしたので、私は別の場所から中の様子を探ろうと再度小屋全体に索敵をかける。
範囲を狭めたので、さっきより中の様子が手に取るように分かった。
ナイルが潜入した場所はどうやらお手洗いだったみたい。だから私に続くなって言ってくれたのかもしれない。一応動きやすい恰好をしているとはいえスカートだし、汚れないよう気を使ってくれたんだと思う。
部屋はキッチンのようなスペースのほかに二部屋あるみたいで、そのうちの湖に面している部屋に人が三人。気配から察するにそのうち一人はアメリアみたい。なるほど、その部屋の位置は道から死角になっているし、人が居るのを確認する事ができないもんね?
もう一つの部屋にも人の気配があるから、不意を突かれると危ないかもしれない。ナイルは中の様子を探りながら移動しているみたいで、まだ潜入場所からそんなに動いてはいない。
私はそのまま風魔法を使って屋根の上に移動した。
湖に面している部屋は水の上にでも立たないと中の様子は見れないし、普通に逃げる場所もないから見つかると危険だしと思って、上から様子を探るつもりだったのだけど……。これが大当たりで、屋根に乗ってみないと分からない位置に天窓があった。
さすがウエンディ絶賛のLUK800越え。私の都合の良い展開なのがちょっと怖いと思いつつ、そうじゃなかった事の方が少なかったと思い直して天窓から中を覗いてみた。
『居た……、アメリア!』
拘束されているのか、後ろ手の状態で地べたに座らされている。
『酷い……アメリアは伯爵令嬢なのよ? あんな風にしたら白魚みたいにきれいな腕にあざが出来ちゃう!』
意識があるのかないのか分からないけど、アメリアは下を向いている。何とか状態を知りたいとは思うけど、天窓からでは無理みたい。
中に居るのは男が二人。二人とも落ち着きなくウロウロしている。
「遅い……。あいつ何やってんだ? なあ、本当にコイツがクロエなんだろうな?」
……はい? 今何て? クロエって聞こえたんだけど……?
「兄貴、侯爵なんて俺ら庶民が手を出せる相手じゃありませんぜ?」
「うるせえ。ものすごい魔法の使い手らしいんだよ! しかも、重病を治せるとも聞いた。万一、金をむしり取れなくてもコイツさえ居れば……」
「そんなすごい魔法の使い手が、俺らに簡単に捕まりますかね?」
「知らん! 実際捕まえられたじゃないか。火事を鎮火したらしいし、ちょうど魔法を使い切って疲れてたんだろうよ。それに、魔封じが効いてるんだろ?」
「俺らの全財産、つぎ込んじゃいましたからね……あの魔封じを買う金で魔法薬買った方が良かったんじゃないですか?」
「たった一個の魔法薬がなんの役に立つって言うんだ!? お前も見ただろう、前に買ったやつは不良品だった」
「そりゃそうなんですけどね……」
どうやらモメているみたい。……私のことで。
もしかして、アメリアは私と間違えられて拉致されてるの? そうなら一刻も早く助けないと申し訳ないが過ぎる。会話の内容から、連れ去ったのは思ったより小者のようだし、このまま窓を壊して隙をつけば助けられそう。
「そこまでだ!」
私がすぐに突入できるよう身構えた時、ナイルが部屋へ突入した。会話を聞いてナイルも相手が小者と判断したみたい。
戻ってこない「アイツ」がちょっと気になるところだけど……ナイルが突入したことで、悪党たちも持っていた短刀を抜いて臨戦態勢になっているのが見える。
「誰だお前は!?」
「お前らこそ、なんの目的でアメリアを襲ったんだ? アメリアを返してもらうぞ!」
っひゃーーーー! さすが王子、ナイルのセリフはとってもキマっている。
ナイルと対峙した悪党二人は、そちらに気を取られてアメリアから少し離れた。天窓からそのまま降りれば、丁度悪党とアメリアとの間に私が割り込むことが出来そう。
ガッシャアアアアアン!!
イメージではね、そうやって窓が割れて華麗に私がガラスの破片と一緒に舞い降りる予定だったの。でも現実は全然違った。
勢いよく蹴った窓はびくともせず、なぜか窓枠ごと抜け落ちる格好で私はボトっと地面に着地した。
カッコ悪い……って言うか。なんでこの窓、落ちても割れないの。
突然の私の登場に焦った小者……って、兄貴の方は私が落とした窓枠の下敷きになって意識を失っているし、きょとん顔のナイルを前に、ビビった子分(?)は自ら投降してきた。
二人をナイルが拘束し、私はアメリアに駆け寄る。頭を殴られたせいで傷が出来て血は出てるし、意識は無いしで思ったより緊急性が高い。
回復魔法で傷を治したけど、血を失って体力も無くなっていそうだし、しばらく意識は戻りそうにない。
ナイルの判断で、アメリアの意識が戻るのを待つことになったんだけど……本当にこれで終わったの?
私たちはアメリア救出に安心して、隣の部屋に居る誰かと悪党の話していた遅い「アイツ」のことをすっかり忘れていたのよね。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
土曜日なので次話はゲリラ公開とします。
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