心配なので引きこもれない②
シモンについて奥の部屋に入ると、そこには探していたクロムがソファーに横になっていた。
「クロム様!?」
探し人が目の前に……なんと、最初の一か所目で探し当ててしまった。
「私、クロム様を探してこちらに伺ったのですが、シモン様は私がこちらに訪問するのをご存知だったのですか?」
驚きのあまり、シモンに変な質問をしてしまう。
「まさか。クロエ様がこちらにいらっしゃるなど思いもよりませんでした。ただ、クロム様よりクロエ様以外は通すなと命がありまして」
「どういうことですの?」
「私には分かりかねます。今朝、私が詰め所に出向いた際には既にクロム様が居らっしゃいました。<誰にも合いたくない。クロエ以外は>と仰ったまま、この部屋を貸すよう命じられました。それから三時間ほどこの通りの状態なのです。
ご命令のため、先ほどいらっしゃったナイル様にも誤魔化した次第です」
「そう、ですか」
深い睡眠状態にあるのか、クロムはピクリともしない。相当疲れているのだろう。
「分かりましたわ。私がクロム様を看ていますので、シモン様は職務にお戻りください。
こんなにお疲れになるほど、毎日大変なご苦労をされていたのでしょうね」
最後に会ったクロムは、私の前ではバラを背負ってはいたものの顔から疲れがにじみ出ていた。軽口を言えるので大したことは無いのだろうと思ってはいたけど、ただの虚勢だったんだと思う。
クロエより年上とはいえ、まだ十代の若者がここまで負担になるような日々を過ごしたのかと考えると、転生前 の会社を思い出して身震いする。
働きすぎるのは、身も心もむしばまれてしまうので良くない。
しかもクロムは真面目なぶん息抜きすらしていなかったらしいし、心身ともに疲れ切っていたのではないだろうか。
仕事に戻るため部屋を出ようとしているシモンに、ひとつだけお願いをした。
「あの、シモン様。お願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
「もちろんです。何なりとお申し付けください」
「ナイル様はクロム様を探すためにあちこち奔走されていらっしゃるので、見つかったことと私と過ごすことをお伝えいただけますでしょうか。それから、先ほど騎士の皆さんが試食されていたゼリーの中に、薬草入りのものがあったと思うのですが……ひとついただくことはできますか?」
「ええ、構いません。ナイル様には私が文を書き、届けさせます。薬草入りゼリーは、昨日クロエ様がお帰りになられてから私が作った試作品なのですが、どうしてご存知なのですか?」
「この部屋に案内される途中で、皆さんが口々にこれが良いとお話されているのが耳に入りました。ゼリーそのものは好評のようで私も嬉しいです」
「そうでしたか、これはお恥ずかしい。大声で感想を言い合うとは。私の指導不足です」
「そんな! 食べていらっしゃるところに部外者の私が通り過ぎただけで。皆様いつも堂々として頼りがいがございますわ。
それに、シモン様の応用力は素晴らしいと感心しております。他にはどんなものをお作りになったのか、また教えてくださいませ」
「かしこまりました。感想などはまとめて書面にてご提出します。それでは、薬草入りをひとつお持ち致しますのでお待ちください」
そう言って仰々しくシモンは頭を下げて部屋を出て行った。ほどなくして薬草入りゼリーを持って部屋まで戻ってくると、入り口で私に手渡してそのまま仕事へ戻って行った。
昨日とは違って、仕事中のシモンはどこか壁があるように思えて少し寂しい気持ちになったけど、仕事中は仕方が無いとも思う。
クロムについても心配している気持ちが伝わってきたし、まずは目の前のピンチに対応するのが私の役目のような気がする。
私の息抜きは計画倒れに終わってしまうけど、私はいつも息抜きしているようなものだし、クロムの苦労に比べたら何もしていないのと一緒。スイーツ作って親密度上げてイベントをこなしているだけだもんね。
受け取ったゼリーを机に置くと、眠っているクロムの手を取る。
少し体温が低いのか、指先がひんやりしている。
せめて、良い夢を。
クロムにいい夢が見られる精神系の魔法をかけると、今までピクリともしなかったクロムの顔が穏やかになり、浅かった寝息も深くなった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は17時更新予定です。
↓↓↓の方に評価ボタンがあります。
作者のモチベーションにもなりますので、面白いと思われましたら☆やいいねで応援をお願いします。