心配なので引きこもれない①
料理指南をした翌日。
誕生日までに全員親密度500を無事にクリアしたので、たまには一人でのんびりの休日にしようと思い立って、スケッチブックを片手にふらっと街に出た。
流石に休日ともなると街は賑やかだ。
ここ数日は、親密度上げで結構な頻度で誰かと一緒だったのもあって、一人でのんびり過ごす休日は久しぶりのような気がする。
シモン様は今日はお仕事って言われていたけど、もうゼリーの試食会は終わってるかな?
昨日あった楽しい出来事を思い出し、魔法局の隣にある騎士団の詰め所を眺めながら歩く。
そのまま城の広場を公園方面に向かいながら、今日はどこでスケッチしようかな?と場所の物色をはじめた私を呼ぶ声が聞こえる。
「クロエ! 兄上を見なかったか?」
学問所の方から走ってきたのはナイルだった。
「私もさっき街に出てきたところだから、存じ上げません。クロム様がどうかされたのですか?」
「ああ。兄上は遠征から帰って来てから何かお悩みの様子で……クロエがゼリーを差し入れた日があっただろう? あの日から何か吹っ切れたように見えたんだが、今朝から姿がなくてな」
「それって大丈夫なの? 誘拐……とか……?」
「兄上に限ってそれは無いと思うぜ? 兄上は何だかんだ言って強いからな」
「では、どこに行かれたのでしょうね?」
「だから───それが分からないから、聞いてるんだよ」
二人でクロムが行きそうな場所を考えてみたものの、思い付かない。
「私も探すのを手伝います!」
「すまない、助かる。大事にはしたくないから、出来るだけ少数精鋭で探したいんだ。急にいなくなったと国王にバレたら、兄上はまた自由を失ってしまう」
「また? またって、クロム様は一度自由を失っていますの?」
「ああ、元々兄上は自由人なんだ。困ったことに俺以上に。おまえは覚えていないかもしれないけど、十歳くらいの頃から急に王子としての責務を果たすって言い出してさ。休めと言っても休まないで休日返上で公務を手伝っていたんだよ」
「そう言われれば、いつもお忙しそうですわ。私も一時期は疎遠になっていましたものね。けれど、ナイル様もご一緒にお仕事されていますよね?」
「俺はいいんだよ、ちゃんと隙を見て休んでるからな。でも、兄上は俺と違って完璧を求める質だから」
「あ、それは分かるかも……。そう言えば、ゼリーをお持ちした日は少しやつれていらっしゃったような?」
「一日くらい休めばいいのに。とりあえず、今日は休むために必要な書類を俺が代わりに出しておいたから、今日中に探し出さないと」
「わかりました。では、手分けして探しましょう! 私は騎士団の皆さんにそれとなく聞き込みをしてきます」
「じゃあ、俺はもう一度公園の方を回ってくる。クロエ、ありがとう! じゃあまた!」
そう言うと、ナイルは颯爽と公園の方面に走って行った。
私は踵を返し魔法局に隣接する騎士団の詰め所のほうへ向かう。クロム直属の組織だから、誰かが何かを知っているかもしれないし、それとなく話を聞いてみようと思ったのよね。
騎士団の詰め所は初めて伺う場所だ。
シモンが居ればすぐに話を聞くことができそうだけど、門番とモメたりするのはちょっと嫌かも。騎士団には見知った人は居ないし、クロムの婚約者とはいえあまりクロエの存在は知られていないと思う。なにせ、茜の記憶が蘇るまでの間……特にクロムとは、婚約後「会うと決められた日」以外、ほとんど疎遠だったみたいだし。
せっかく色々思い巡らせたのに、詰め所前で名前を告げると門番はすんなり私を通してくれた。
こんな簡単に入れるなんて……しかも、みんな私を知っているみたいなんだけど。どうして?
「なに!? クロエ様だって!? すぐに騎士団長にお通ししろ!」
なぜか騎士団長までほぼスルーで通されてしまった。
その意味は、団長室に通される前に分かった。案内される途中で、広い場所───多分打ち合わせをする部屋だと思う───に騎士たちが集まってゼリーを試食していた。
ゼリーのことで騎士たちは、シモンから何か聞かされたのだと思う。
「俺はぶどうの味がいいな」
「甘くなくてさっぱりしている紅茶が俺は好きだ」
「薬草も悪くないぞ。適度な回復力があるのに、回復薬より苦くなくて食べやすい。吸収も早いぞ!」
など、口々に意見を出し合っているのが聞こえてくる。私が帰った後にも、シモン様は研究の為に追加で色んな食材を合わせてゼリーを作ったみたいで、私と一緒に作った以外に豊富な種類がある様子だ。
しかし、薬草入りって……。シモン様らしいというか、私には考え付かなかった。子どもにお薬を飲ますゼリーの発想だなぁ。
楽しそうな騎士たちを横目に、団長室を通り過ぎその奥にある貴賓室に通される。
こういう場合、直接団長室に呼ばれるものだと思っていたので、自分のゲーム脳に改めて気付かされた。
ゲームでは建物を選んで「団長室」のコマンドでシモンに合うことができるから。ゲームでは取り次ぎすらないんだけどね。
貴賓室に通されると、先客が居た。
団長であるシモンがすでに居て、快く私を迎え入れてくれる。
案内してきた騎士をすぐに下がらせると、シモンは「こちらへ」と険しい顔つきで貴賓室のさらに奥へ続く扉を開いた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は12時更新予定です。
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