やること盛りだくさんで引きこもれない!②
食事を終えると、ガイウスを引き連れてキッチンに顔を出す。
昨夜とは打って変わって、使用人たちは歓迎してくれる……のは、きっとゼリーを食べたいからよね。
いつも朝は出てこない料理長まで居たりするのだから、期待を裏切れない。
実は入れすぎたワインが、冷やしてどれくらいの風味になっているのか気になるところではあるのよ、私も。
冷蔵庫から丁度良く冷えたゼリーを取り出し、試食用を切り分けて使用人たちといただく。
ガイウスも料理長もひとくち分は行きわたったみたいなので、胸を撫で下ろす。せっかくなら集まった全員にひとくちは味わってもらいたいもんね。食べられなかったというのは悲しいもん。
今回は集まった人数が多かったので、自分用も試食に回した。私は作った特権で桃の果肉が多い部分をいただく。
薄いピンクのプルプルとしたゼリーは、口の中につるんと飛び込んでくる。
シロップと桃のやわらかい甘さが満足度高い。白ワインの香りがふんわりと鼻の奥をかすめていく。やっぱり白ワインの量は多すぎたみたいで、全体的に大人っぽい味に仕上がっている。
茜くらいの大人だとちょうどいいけど、学生にはどうだろう?
「どうかしら。これはこれで美味しいですが少しワインが多かったように思いますわ」
「ものすごく美味しいです!」
「むしろ香りづけのワインが最高です!」
「もっといただきたいです!」
「あの硬くてエグい実が、あの簡単な工程でここまで仕上がるとは! お嬢様素晴らしいです!」
集まった使用人たちの感想は、絶賛だった。全員大人だから口には合うよね。
料理長からは、感動が伝わってくるような感想までいただいた。
「好評で良かったですわ。では、こちらをラッピングしてしまいます」
何やら恨めしそうな顔の使用人たちの視線が痛い中、必要な数だけ一つずつ箱に入れて行く。忘れないようにメッセージカードを添えて。
また氷魔法を使える使用人に氷をお願いして、保冷バッグに詰め込んだ。
「今回は少なくてごめんなさい。材料が少なかったものだから、沢山作れなくて。
またあの果実を仕入れていただければ、同じゼリーを作りますわ。
今回はちょっと匙加減を間違えて白ワインが想定外に入ったものだから、今食べたものと味が同じになる保証はありませんけれど」
「市場で見かけたら、すぐに大量に取り寄せておきます!」
仕入れ担当者が張り切ったようにすぐ返事をくれる。和やかな雰囲気のまま試食会は終了したので、自室に戻り学問所へ行くための支度をする。
白ワイン、ちゃんとアルコールが飛んでいるかな? 結構お酒の風味が強く感じたのだけど、大丈夫かなあ。
少々の不安はあるものの、みんなが美味しいと言ってくれたのを良い方向に受け止めることにして、家を出る。
いつものように少々早い時間なので、まだ学び舎には「いつメン」のアメリアとナイルしか居なかった。アメリアとナイルは私の持ち込んだ保冷バッグを見ると、餌付けでもされているのかと思うくらい同時に叫ぶ。
「「待ってました!!!」」
「どうして、私がお菓子を持ってきたって分かるの? そんなに匂いがしたかしら?」
「そのバッグ、前にゼリーをいただいた時と同じものだもの、見間違えないわ」
「そうだ! 俺はずっと待っていたんだ、あのつるんとした食感を!!!」
アメリアもナイルもゼリーの虜になっていたようで、心待ちにしていたのだとか。
「ええ、ご指摘通りゼリーを作ってきたの。しかも、今回は桃よ、桃!」
「「もも……?」」
二人とも桃を知らないのか、きょとんとした顔をしている。そういえば、桃は別の地域の輸入品で珍しいと言っていたっけ。
「まあまあ、まずは食べてみて! はい、アメリア! こっちはナイル様!」
「お前、なんかアメリアの方がデカくない?」
「気のせいですわ。いらないなら、ナイル様の分は私がいただきます!」
冗談を言うと、慌ててナイルはゼリーを口に入れた。そういうところは、普段大人びているナイルもまだティーンの男の子だなあと微笑ましく思う。
ひと口食べたところで、アメリアもナイルも無言になり、手が止まった。
「あれ、美味しくなかった? 使用人には好評だったのだけど……やっぱり白ワイン強すぎる? ごめんね?」
フリーズしたまま動かない二人が気になって先に謝ると、二人とも目を輝かせて「そんなことない!」とシンクロして答えてくれる。
「むしろ、強めのワインが良い味を出していて、一気に食べてしまいたいくらいだ」
「そう、そうなの! でも、全部食べてしまうのが勿体なくて。葛藤しちゃった!」
二人の感想を聞いて、ホッと胸を撫でおろす。
案外問題なかったようだ。そう言えば、ピーカラは十六歳から飲酒OK設定だったっけ。イベント内で、スパークリングワインで乾杯しているスチルがあった記憶が蘇る。あれは確かクロムとの恋愛EDだったように思う。婚約パーティーの様子がエンドロールでアニメーションとして描かれていて、最後は二人で笑い合って乾杯して終わる。
その中に、二人の友人として招待されているクロエの図が、鮮明に思い出される。
よく考えると、結構残酷な構図よね。
私が脳内の記憶アニメーションにトリップしている間に、二人はきれいにゼリーを食べ終えていた。無言で食べてくれていたので、私も思い出に深くトリップ出来た気がする。
「桃、食べたことある気がするぞ、俺。でも、こんなに美味くなかった。どうやったんだ?」
「私は初めての味でした。こんな食べ物が存在するなんて……クロエってお菓子作りの天才だわ」
ナイルもアメリアも少々大げさなのでは?と思ったけど、褒められるのは素直に嬉しい。
「綺麗に食べてくれてありがとう。実は桃って貴重らしくて、あまり入手できなくて。沢山作れなかったから、みんなには内緒にしててね?
それから、ナイル様が食べたことがあるのはそのままでしょうか?」
「うーん、よく分からん! けど、この白い実の形には見覚えがある。確か輸入品として取り扱いをして欲しいと献上されていたものの中にこんなのがあったような……?
でも、こんなに甘くはなかったぞ。あんまり旨くないから試しに少しだけならと兄上と相談して許可した覚えがある」
「!! ということは、ナイル様のおかげで桃が手に入ったの!? わあ、すごい!」
「「ありがとう!!!」」
私とアメリアは感動のあまり、ナイルの手を握って大喜びをする。
流石のナイルも、女の子二人からグイグイ来られるのは照れたらしく、しおらしく「ああ」と言ったまま、この話は終わってしまった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は11時更新予定です。
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