誤解を解かないと引きこもれない!②
「やっぱりって、何?」
アメリアの言葉でおかしなところを指摘して、私はハルへの恋愛感情が無いことをアピールする。けど、アメリは少し青ざめたままだ。返し方、間違えたかも!?
「いえ、なんでもない……」
アメリアは言葉を詰まらせる。そりゃそうだ。親友が同じ人を好きだと思ってるわけだから、言葉に詰まるよね。
「私、ハルには感謝してるんだー! うちの執事がハルの占いのおかげで病を克服できたから。
昨夜も、執事の快気祝いでお食事をご馳走したところ。うちの執事ったら、ハルのおかげって始終感動しきりだったんだから!」
「え……昨夜のは、じゃあ?」
「昨夜? ああ、うちの執事と一緒に、お礼でハルと食事に行ってたよ。アメリア、どうしてそれを?」
昨夜の視線の正体がアメリアだということは、分かっていたけど知らない顔をして質問してみた。
「たまたま見かけたから、どうしたんだろう?って思っただけ。そっか、執事も一緒だったの」
「安心した?」
ニンマリと意地悪な顔でアメリアを見ると、アメリアの顔はみるみる耳まで真っ赤に染まっていった。
「やだ! クロエ、いつから気が付いていたの? 恥ずかしい!」
ザ・女の子の反応がとっても可愛くて、思わず抱きしめたくなる。
「態度がバレバレだもん、分かるわよ。アメリア、頑張ってね!」
さりげなく手を握ったりしちゃった。これで、アメリアの誤解は解けているはず。ハルの親密度も上げないといけないので、更にひと押しの提案をしてみる。
「私、こっそりハルがアメリアをどう思っているか聞いてこようか? アメリアとハル、どちらも友だちだし応援する!」
「えっ!? そんな……私が勝手に好きなだけなのに、ハルさんに悪い……」
「人を好きな気持ちに悪いなんてことは無いよ。ちょっと探りを入れてみるだけだから任せて!」
見ると、目の前のアメリアが花を背負っている。
どうやらスチルが発動したみたい。誤解が解けて親密度が上がったからかもしれないけど、唐突にスチルが発動するとびっくりする。
アメリアも昨夜のことは自分の誤解と分かってくれたし、今回はちょっと強引ではあるものの、私がハルとアメリアの恋愛に協力することは嬉しいみたいなので、ひとまずホッと胸を撫でおろす。
そんな私たちの会話に割って入ってきたのは、ナイルだ。
「いーなー。アメリアが持ってるの、クロエの手作りお菓子だろ?」
ジト目でアメリアのラッピングをロックオンしているけど、アメリアも渡したくないとラッピングを隠すように胸に抱え込む。
「ナイルにはあげない! 私が貰ったんだから」
「ふふ、本当に二人は仲がいいね。ちょっと妬けちゃう!」
「「そんなことない!!!」」
二人同時に否定してくる。息もぴったりで、本当に付き合っていないのか怪しく見える。けどこれは私の誤解みたいなので今後はからかわないようにしなきゃ。
クスクス笑いながら、アメリアのついでに作った小さい包みをナイルに渡すと同時に「授業ですよ!」と先生が教室に入ってきたので、おしゃべりの時間はそこで終了した。
授業が終わったあと、クロムの執務室にクッキーを届けに立ち寄った。
クロムは満面の笑みで私を迎え入れてくれ、更にナイルの救出話を聞いたのかお礼までしてくれた。
アメリアと違うところは、どうやらクロムは口移しのことまで聞いていたようで、やたらそれが本当かどうかを怖いくらいの迫力で聞いてきた。
「クロム様は、そんな慎みの無い行為を私がするとお思いなのでしょうか? 悲しいです」
「ずるいですよ、クロエ。そんな目をしては……私が悪いことを聞いているみたいに思える。あなたのことは婚約者として信じています」
ちょっと伏目のウルウル顔が悪かったのか良かったのか、いきなり目元にキスをされてしまった。不意打ちすぎて私の顔は見る間に真っ赤に染まる。
「ありがとうございます。分かっていただけて嬉しいですわ。私、このあと用事がありますので失礼しますわ」
逃げるようにクロムの執務室を後にしたんだけど、クロムはガイウス以上に要注意しておかないといけない。キラキラリア充王子は、婚約者の立場を使ってすぐにクロエに手を出そうとしてくる。
そして何だか胸の奥がくすぐったいのは、元のクロエがクロムのことを好きだったからかもしれない。
茜の意識が目覚めた時は、クロエとクロムの関係は決して良いものではなかったけど、クロエのほうは心を寄せていたみたい。どうやら魔法が使えない落ちこぼれの自分が抱いてはいけないと蓋をしていたことが、今なら分かる。
魔法を自在に使えるようになって、その蓋が少しずつ綻んできているように思える。
そのうち、私もクロムを本当の意味で好きになるのかな?
今は推しと恋愛なんて考えられないけど、クロエともっと混じればその感情も変わるのかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にかハルのお店まで来ていた。
「こんにちは、ハル。少し良いかな?」
お店を覗くと、誰も居なかったので手を振りながらハルに近づいた。
「あ! クロエさん、いらっしゃい!」
ハルも私に気が付いて、笑顔で駆け寄ってきてくれる。この感じを誰かが見たら、アメリアじゃなくても誤解しちゃうかもしれないなぁ。
「実は、今日はクッキーを焼いてきたんだ。私の悩み相談、占いで解決してもらえるかな?」
「わあ! クロエさんのクッキー、本当に美味しいから嬉しいな! そこに座ってて。お茶入れてくるね」
キラキラ笑顔で対応してくれるハルは、年上の男性と思えないくらい本当に可愛らしい(何度目)。
それなのに、いざと言う時の男らしさと言ったら……ギャップ萌えしちゃうよね、誰でも。
パタパタとせわしなくお茶の準備をするハルを見ながら、きっとアメリアもそんなところが好きになったんだろうなぁと思う。
お茶を淹れてくれ、私の対面席に座ると、ハルはピークカードをシャッフルしながら質問をする。
「それで、何を占うの?」
「私の友人のことなんだけど、いいかな?」
「うん、大丈夫だよ。お友達の何が知りたいのかな?」
「実は好きな人が居るみたいなんだけど、上手く行くかどうか占ってもらえないかな?」
「いいよー! じゃあ、ちょっと集中するね」
そう言うと、息をふーっと吐いてハルは集中してカードを引き始めた。
「そのお友達は、クロエさんのことをすごく信頼してるみたいだね。好きな人というのはクロエさんの身近にいる人物みたいだ。ん?? ちょっと待ってね」
ハルはカードとにらめっこをしている。
「何か悪いカードでも出たの?」
「ううーん、これは良くも悪くもないって感じかな。そのお友達の気持ちはまだ好きな人には届いていないけど、自分なりにアピールを頑張れば届くみたいだよ。具体的な時期は……まだ少し先かなー。じっくり時間をかけてアプローチするといいよ。相手は今、少し気になっている人が居るみたいだけど……今すぐどうこうって感じではなさそうだから」
「なるほど。じゃあ、焦らないで頑張れって伝えておくね! ありがとう、ハル」
「どういたしまして」と、笑顔のハルは背景に花を背負っている。
占いをすることがスチル専用イベントだったみたい。しかしハルは花が良く似合う。目の前で展開する美しいスチルを見ながら「ハルって気になる人が居るのかぁ」なんてぼんやり考える。
その気になる相手というのがアメリアだったらいいんだけど。
ハルの占いが終わって、一緒にクッキーを食べながらおしゃべりをする。
やっぱりドキドキするより、私は推しと一緒に楽しく話をしながら過ごす方が好きだなあなんて思いながら、こんなほっこりした時間がいつまでも続けばいいのにと思った。
今日は誤解も解けて、アメリアとハルのスチルも見れたし、親密度上限解放はきっとできていると思う。
あとは来週末に迫った私の誕生日イベントまで、何事もなく過ごすこと。
親密度に不安があるジーンにクッキーを渡すため、ハルのお店を少し早めにあとにする。
引きこもり生活まであと少し!
目標のためにとにかくやるべきことをやろうと、気合いを入れた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は17時更新予定です。
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