勉強が難しすぎて引きこもりたい
早速ブックマークありがとうございます。嬉しいです。
朝食をすませたあと、私はキッチンを借りてクッキーを作った。
実は、独身一人暮らし歴十年の私だけど、料理というと煮物は同じ味にしか作れないし、作るか!と気合いを入れないと作れないくらいの腕前だったりする。
だけど、お菓子作りは中学・高校の頃に良く作っていたこともあって、割と得意だ。
クッキーは目分量でも作れる数少ないレパートリーのうちのひとつでもある。
クロエは料理なんてしないのだろう。
使用人たちがなんだか青ざめて私を止めようとしてくる。
見てなさい! 私の華麗な手つきを!!!
薄力粉をふるいにかけ、グラニュー糖とバターを練る。塩をひとつまみアクセントに。
卵黄を割り入れてもう一度馴染ませるようにまぜて、ふるいにかけた薄力粉を全体に混ぜ合わせる。
あとは生地を練って休ませて伸ばして……という定番の工程で作るクッキーは、軽くこげ色が付く程度焼くと少し香ばしくて私は好きだ。
こねた生地を三分割にして、ひとつはココアで軽く色をつける。
もうひとつは茶葉を混ぜて紅茶クッキーに。
プレーンと合わせて3色クッキーの出来上がり!
試食してみたけど、悪くなかった。
使用人にも食べさせてみたけど美味しいと評判になった。
特にこの世界には無いらしく、紅茶クッキーが人気だった。
製作工程中の私の手際の良さを見ていても、味の信用が食べるまで持ってもらえなかったところに、クロエの闇の部分を見た気がする。
沢山焼いたクッキーを小分けにラッピングして、お父様・お母様にお渡しする。
なぜかお母様は涙ぐんでいた。そして、一口食べてお父様も泣いていたように見えた。
お父様・お母様、中身はクロエより一回り以上歳を取ったアラサー喪女ですよー!
とりあえず喜んでもらえて良かった。
あんまり気乗りはしないけど……今から学問所に行かなければいけないので、アメリアたちの分も袋に入れた。
ちょっと作りすぎた分は、クロエの取り巻きの娘たちにあげればいいよね。みんな喜んでくれると良いんだけど。
一応ウェンディに朝でどれくらいLUKが増えたのか聞いてみた。
『現時点でLUKは15ポイント加算され、20まで上昇しました。流石です、クロエ様』
「えっ!? 15ポイント!!? そんなに増えたの? 嬉しい!」
『この調子で頑張ってください』
「うん、ありがとう! 私これから学問所なんだけど、ウエンディも一緒にどうかな?」
『学問所には、余計なものを持って行くことは禁止されております。ワタクシはこの部屋で待機していますので、もっとLUKが上げられるようにがんばってください』
そっか、持って行くのは駄目なのかー。荷物検査とかあるのかな? ウエンディがそう言うなら仕方ないかと、クッキーを詰めた袋を持って部屋を出る。
教本なんかは執事が鞄に入れて、忘れ物が無いように用意して持ってきてくれるのだから令嬢も悪くないかも?
ちょっとしたVIP気分。
見目麗しい執事を引き連れて、馬車で学問所まで移動する。
クッキーの甘い香りが車の中に充満して、何とも言えない幸福感に包まれていると学び舎が見えてきた。
学問所ではクロエは沢山勉強していたみたいだけど、私に変わりが務まるのか心配。
こっちの勉強ってどんなだろう?
不安とワクワクが同居する中、教室まで執事の後ろについて行く。
歩いていると周りが騒がしい。クロエは性格は最悪だけど、勉強も出来るし攻略対象以外の慕ってくる者の面倒見も良かったみたいで、割と人気があったみたい。
うっすら記憶の中にある女子が挨拶をしてきたので、クッキーを渡すと悲鳴があがっていた。あんまり色んな人に配るのはやめた方がよさそうかも。
教室に入るとアメリアとナイルの姿が見えたので、執事が私の机に鞄をかけたのを見て自分の席を確認したあと、昨日の気絶について謝りに行く。
「昨日はいきなり倒れてしまってごめんなさい。まだ調子が戻っていなかったみたいで心配をおかけしましたわ。これ、お詫びと言ってはなんですが……今朝、私が作ったものです。ぜひ召し上がってください」
丁寧なあいさつをして二人にクッキーを渡すと、二人は顔を見合わせてきょとんと眼を丸くしている。
どう見ても「クロエがこんな丁寧にあいさつするなんておかしい」って顔。
「ごめんなさい、手作りなんて気持ち悪いですわよね。気が付かなくて。また別のお詫びの品をお屋敷まで届けさせますわね」
また顔を見合わせた二人は、クッキーをひっこめようとした私の手を掴み同時に話しかけてくる。
「いや、こちらこそすまなかった。これは有難くいただこうではないか!」
「いえ、私こそお加減が悪いのに申し訳ありませんでした。こちらは是非いただきますわ!」
「聖徳太子じゃないんだから、同時に話さないで~!」
あ、この世界に聖徳太子なんて居ないっけ。
一瞬の間で察してまた私は小さくなる。気を付けなきゃいけないことがいっぱいあるなあ。
しかも昔から知っている仲とはいえ、王族にタメ口をきいてしまった……ヤバイ!
うつむく私の顔をナイルが不思議そうにのぞき込んでくる。ぎゃあ近い!
「確かに、アメリアの言う通りクロエは変だな? 大丈夫か? 階段からかなり派手に落ちたと聞いてはいるが、打ち所が悪かったのか?」
「私の回復魔法が完璧ではなかったせいですわ。本当に申し訳ありません。
でも、今のクロエの方が昔のクロエに戻ったみたいで私は好きですわ!」
「確かに、今のクロエは昔のクロエみたいだな。クッキー自作は兄上が聞いたらひっくり返るんじゃないか?」
美形二人に顔をまじまじと見つめられ、顔が火を噴くんじゃないかと思うくらい真っ赤になる。
しかも拍車をかけるようにナイルがクッキーをひとつ食べて、うちのシェフより旨いとか言い出すから、余計に注目を浴びてしまって……居ても立ってもいられない状態になった。
「ナイル様、ありがとうございます。作って良かったですわ。アメリアもお昼にでも食べてね。授業が始まるから席に戻りますわ」
言い方がまずかったのか、二人の顔がまたぽかーんとなっている。
許して! もう私の容量はマンタンよ! 限界なのよ、GENKAI! また倒れちゃう!
もっとクロエの記憶がはっきり残っていればこんなことにはならなかったのにー!
席に戻った私は、黒板に書かれた授業の教本を机の中(執事が入れてくれていた)から取り出すと、予習しようと思って一通り眺めてみた。
どうしよう、全くわからない……!!!
変な汗がダラダラと背中を伝う。
帝王学って何~!? こんな勉強したことない!
授業の間も、生まれてから聞いたことが無い言葉が沢山出てきて、魂が口から漏れ出るかと思った。
先生も私の様子がおかしいことを聞いていたみたいで、質問を当てないように気を遣ってくださっていたみたい。
ああ、こっちの世界の勉強がこんなに難しいと思っていなかった!
クロエの記憶を取り戻すのが一番最初にやるべきことだったかも!?
やっぱり部屋に引きこもっていればよかった。ぴえん。
そう思ったとたん、頭の中でウエンディからの声が響いた。
『引きこもりたいというネガティブ発言により、LUKポイントが減少しました。学問所にいる間にいち早く回復するように努めてください』
私にはこの世界、ちょっとキビシイかも!!!
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は12時更新予定です。
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