この展開は考えてなかったので引きこもりたい③
いくつか宝箱を開けて進み、目の前にある六箱目の宝箱を開けようとすると、地図上ではまだ遠くにいたはずのミノタウロス三体目が襲ってきた。
グオオオオオオ!!!
「んだよ、コイツ! 角が片方無ぇじゃねーか!」
ジーンが素早く身体をひねり、攻撃を避けながら叫ぶ。
正に宝箱を開けようとした瞬間に襲われたので、まだ箱は空いておらず中身の確認が出来ていない。
まずミノタウロスを倒さないと宝箱の中身は確かめられないみたい。
すでにかなりの数の宝箱を開けてはきたけれど、箱の中身は回復系アイテムかお宝ばかりだった。宝箱を開けようとしたら急に現れたミノタウロスから察するに、この宝箱には恐らく欠けている角が入っているんだろうと推測できる。
対峙するミノタウロスは、今までの二体とは比べ物にならないくらい大きく、多分レベルもかなり高い。この四人での戦闘にも慣れてきたのもあり、アイコンタクトで連携を取りながら戦う。
剣が使えない私は防御とアシスト、余裕があれば攻撃魔法で援護射撃。
ジーンの素早さを風魔法でアップさせて敵を惹きつけ翻弄する。ミノタウロスの注意が散漫になったところで、ナイルとシモンが同時に攻撃。
何だか連携、すごく上手く出来ている気がする!
連携がスムーズにできるのも、宝箱から出てきたHPを一定時間回復してくれる「癒しの香炉」というアイテムの存在が大きい。このアイテムがいくつか手に入ったのはラッキーだった。
宝箱からしか出ないしダンジョンから外で消えてしまう系アイテムだから、戦闘が始まったと同時に惜しむことなく使うことができる。
隙を見ながら香炉に火を付けたので、体力ゲージの心配をすることなく闘いに意識を集中できた。
ミノタウロスの視線を塞ぐように、素早さが上がっているジーンが様々な方向からファイヤーボールを投げつけ煙幕を張る。
怯んだ隙を見てナイルが足元を崩しにかかった。
すねを切られたミノタウロスの体勢が崩れたところに、シモンが大剣を振り下ろす。
倒れたミノタウロスを私が捕縛魔法で床に縛り付ける。
動けなくなったミノタウロスの急所にシモンが一撃を入れて仕留め、一本しかない角を回収するとミノタウロスは砂になって消えた。
「今回の連携はとてもスマートに出来ましたわね! ウインドカッターは威力が高いですが、血しぶきが飛んであまり美しくありません。付着した血液も砂になって消えはしますが、やはりいい気分ではありませんものね」
興奮して良家の子女との立場を忘れた発言をしてしまったけど、みんなも同じように連携が上手く行ったことで気持ちが高ぶっていたようで、スルーしてくれた。
「俺、レベルアップした。連携が上手く行って経験値が沢山入ったみたいだ! ここのところ伸び悩んでいたのに……!」
「ナイル様、素晴らしい連携でした。流石でございます」
「さあ、何が入っているかな? 宝箱ちゃん!」
スルーと言うより、他の事に夢中になっているだけだった。
私のこと、忘れてないよね? 一応、今は私が主人公の周回ですよー?
「お嬢さーーーん!!!」
ジーンが呼んでくれたおかげで、忘れられていなかった事にちょっとホっとした。
「何ですの? 宝箱の中に角はありまして?」
「いや。それが角が入っていないんだ。代わりにあったのはこれだ」
ジーンがつまんだそれは、キラキラ光に反射して綺麗だ。でも、何なのかはよく分からない。
「綺麗ですわね。ですけれど、必要な角でないなら、他の宝箱を探すほかありませんわね?」
「そうだな、今回はこのキラキラしてる何かと、あとは回復薬みたいなものが入ってる。何の薬かよくわからんけど、一応何かあった時のためにお嬢さん持っててくれ」
ジーンが渡した回復薬(?)は、小さな小瓶に入っている。普段見慣れたものとは違う、少し豪華な装飾がされた瓶で中身は深緑色をしている。
何だろう? ゲーム内で見たことがある気がするけど……レアアイテムなのか思い出せない。
これで終わりだと思ったのに、残り一本の角を探さなくてはいけなくなった。地図と宝箱の位置は分かっているので、あとは面倒なモンスターにさえ遭遇しなければ少々歩き疲れる程度で終われる。もうひといき!
難敵に出遭うことなく、いくつかの宝箱を開けてはみたものの、目的の角は出てこない!
何なのもう! どうなってるの? もしかしてゲームバグ??? 点在していた宝箱も残りひとつ。
これで角が出なかったら、もう一階下の層に降りてミノタウロスを討伐するしかないじゃない!
このメンバーなら討伐自体は楽勝だろうけど、そろそろ歩くのも疲れてきたしここで出てほしいところ。
最後の宝箱を開けると、そこには……。
「「「「あったーーーーーー!!!!!」」」」
思わず四人同時に叫んでしまった。こんなにシンクロすることなんて、まずないと思う。
みんなも宝箱開けるだけの展開にちょっと疲れていたのかもしれない。ごめんなさい、こんな依頼を請けてしまってと心の中で謝る。
さあ、早く帰って疲れを癒す名目で引きこもるぞー!
そう思ったのは、ビッグなミステイクだった。
まだしばらくはダンジョンから戻れないなんて……。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
日曜日なので次話はゲリラ的に更新します。
↓↓↓の方に評価ボタンがあります。
作者のモチベーションにもなりますので、面白いと思われましたら☆やいいねで応援をお願いします。