やり過ぎちゃって引きこもりたい②
私たちの討伐が終わるまで、馬車は鉱山手前の広場で待機してくれる手筈となっている。馬車を降りると、御者に「行ってきます!」と挨拶をして出発地点となる洞窟前まで徒歩で移動する。
鉱山跡に入ると、洞窟内は真っ暗で奥の方から何やら不気味な声が聞こえてくる。
「着火!」
私は炎系魔法を使って、手持ちランタンに火をつける。
以前、ジーンがやったよりも出力を抑えているので、必要分の炎を出して二つあるランタンを同時に灯してみせると、ヒューっとジーンが口笛を吹いた。
「へえ! お嬢さん、また魔力操作の腕が上がったんじゃねぇ?」
「ありがとうございます。自分ではあまり良く分かっておりませんが、上達していますか?」
「ああ、俺も凄いと思うぞ」
ナイルからもお墨付きが貰えた。
魔法を使う事が出来なかったクロエを知っているナイルは、よりそう思うんだろうなとちょっと複雑な気持ちを抱きつつ奥へと進む。
「ミノタウロスはどの辺りにいるのでしょう?」
「おそらく、地下の階層を三つは降りないといけないでしょう。その間に下級モンスターが数匹は出ると思います。クロエ様は私の後ろに居てください」
「そうそう、お嬢さんは俺らが守るから心配しなくていいぜ!」
「クロエに傷でも付けたら、兄上に何と言われるか分からんからな。ちゃんと守ってやる」
「ありがとうございます。できるだけ負担のかからないよう、魔法で隠密をかけておきますわ。私、自分に出来る限りのことはしないと気が済みませんの」
「すまないな」
「なんの! お安い御用ですわ!」
私はガッツポーズと共に無詠唱で隠密を発動させた。
おかげで特に何かに襲われることもなく、体力強化クッキーの相乗効果もあって、足取り軽く地下に降りる階段がある場所までたどり着いた。
「結構歩きましたわね。ここから地下に降りるんですの?」
「クロエ様、お疲れでしたら少し休みましょうか?」
「お構いなく。クッキー効果で疲れ知らずでしてよ? 皆様は問題ないでしょうか?」
皆が頷いているので、クッキーは効果をきちんと発揮しているみたいだ。
問題は、どれくらいの時間効果を発揮するかだけど……戦闘前に一応もう一枚くらい追加で食べておいてもらった方がいいかもしれない。
地下へ降りる階段を見ると、人が一人通れるくらいの幅しかない。しかも、地下水で濡れていて滑りやすい。
「気を付けてください。特にこの辺りは滑りますので……」
そうシモンが注意の言葉をかけると同時に、私は盛大に滑った。
私の後ろを歩いていたナイルが咄嗟に手を取ろうとしたけど、間に合わず階段から落ちる。
「クロエ!!!」
ナイルが叫んでいるのが聞こえる。心配かけるのは嫌なので、頭の中でどうしたらいいか必死で考えてみると、思い当たる魔法があった。
重力に逆らえる魔法……壁をジャンプするのに使っていた風魔法を咄嗟に使って、華麗に下の階の広場に着地することができた。
「大丈夫か?」
ナイルの声が聞こえる。
「ご心配おかけしました! 大丈夫ですわ!」
手に持っていたランタンは風で火が消えてしまっていた。もう一度魔法で火を付けて、大きく回して無事を知らせる。
グルルルル……
何やら唸り声が聞こえる。
気のせいであって欲しいと祈りながら、着地したその場所をぐるりと見渡すと……狼のようなモンスターが赤い目を光らせて暗闇から出てきた。
嘘でしょ!? なんて数……!
威嚇しながら私の周りを無数の狼が取り囲む。
当然ながらその場所には私しか居ない。頼りの男性陣は、まだ遥か上のほう。男性陣の持っているランタンの光の動きから、急いで駆け下りているみたい。
降りてくるにはもう少し時間がかかりそう。結構これってピンチかも?洞窟の中で派手な魔法を使って大丈夫かな?と思いながら魔法を構築する。
ゲームの中では大きい魔法を使っても問題なかったから、きっと大丈夫……なはず!
とりあえず混乱魔法で敵を混乱させる。自分を中心に円を描くイメージで四方八方に魔法を放つと、混乱したモンスターたちがお互いに襲い合いをはじめた。
その様子を見ながら次の魔法を展開していると、右斜め前方から混乱魔法から逃れた一匹のモンスターが私に向かって飛び掛かってきた。
「きゃああ!!!」
驚いて悲鳴を上げつつ、展開していた炎魔法をぶつけると、モンスターは「ギャン!」と鳴いて吹き飛んで行った。
躊躇していたらやられる。ここは特大魔法で一瞬に消し炭にするしかない!
「ヒートブレス!」
得意の炎系上級魔法を展開し、辺りの狼型のモンスターはキャンと言う間もなく焼失した。
「クロエ、大丈夫か!?」
私の悲鳴を聞いて、ナイルが風系の浮遊魔法を使って飛び降りてきてくれた。
MPはあまり序盤で使わないで、なるべく温存するように伝えていたのに……心配性だなあ。
「ナイル様!? ええ、私は大丈夫ですわ。
素材の回収が無いモンスターは、ご覧のように消し炭にしてしまえば良いのですから」
「…………」
ナイルが無言で頭を抱えているのは何故だろう?
階段を降りてきたシモンとジーンも、モンスターの残骸を見てギョッとしている。
「これ、お嬢さんがやったのか? 相変わらず化け物みたいな魔法力だな」
ジーンが茶化したおかげで、その場の緊張感が一気に緩む。
「お恥ずかしいですわ、おほほ」
「お前、それ誤魔化すときの言葉遣い……」
ナイルがジト目で私を見つめてくる。
「本当に素晴らしい。ルカ様がお褒めになるだけのことはあります。クロエ様はやはり魔法局にお入りになられるのですか?
近衛隊にもここまでの魔法士は少ない。クロエ様さえよろしければ、是非とも近衛隊に来ていただきたいですね」
「お父様と相談して考えておきますわ。おほほ」
なんと、魔法局だけでなく、近衛隊からも勧誘を受けてしまった。
近衛隊はクロムを守るために結成された兵なので、私が入ることは多分クロムの性格からしても難しいと思うけど……今はそれを伝える必要もないので、消し炭の件に引き続きこちらも適当に誤魔化した。
う……ナイルの視線が痛い。
「さあ、このような雑魚モンスターは私が魔法を使って退治致しますので、皆さんは体力と魔力を出来るだけ使わないようにお願い致しますわ。
さあ、ミノタウロスの出現ポイントに参りますわよ!」
私は元気よく地下に続く階段の方向に歩き出した。
「雑魚モンスター……ねえ?」
ぼそっとジーンが放ったひとことに、私はこの場を取り繕う気力が無くなっていくのを感じた。
うう、やり過ぎちゃったせいでみんなが引いている。私の後頭部に刺さる男性陣の視線が痛い……気がする。気のせいであってほしい。
一旦セーブポイントからやり直ししたい!!
このまま家に戻って引きこもっていいですか!?
ここまで読んでくださってありがとうございます。
日曜日なので次話はゲリラ的に更新します。
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