人選が面倒で引きこもりたい
ハルとジーンとシモンをどうやって誘うか。それが問題だ。
ハムレットみたいに悩んでみたものの、内容はそんなにカッコよくない。あまり接点のない三人と一緒に討伐に行きましょう!って言いにくい。
組み合わせの相性というのもあるし、別々の討伐で誘うというのもありだけど、私は効率厨なのでどうしても一気に三人の親密度を上げていきたいのよね。
ハルにはまたゼリーを作って持って行く約束したし、食べ物で親密度を上げるのもアリかもしれない。
ジーンとシモンだけなら討伐に誘う形で何とかなるかも?
前回、ハルは回復魔法が使える名目で誘ったけど、私が光系魔法を使えるようになって高ランクの回復系魔法を使えてしまうので、ちょっと討伐に誘いにくかったりする。
目の前で見せてしまったSランク魔法……きっとハルの性格では委縮すると思う。
それに、今回はハード系の討伐にチャレンジしたいと思っているのよね。
免除されていたとはいえ、魔法がコントロールできるようになったし、きちんと卒業に足る分の討伐はやっておきたいというのが私の考えだ。
先生に確認したら、数をこなすのは時間的にも無理があるから内容で考慮すると約束してくれたのよね。大物の討伐だと成績に入るポイントも高いみたいだし、遅れを取っている私はハード系討伐を選択せざるを得ない。
大物を狙うと言えば、レベルが高いジーンとシモンは誘いやすい。レベルの高い捕獲に駆り出されるくらいだから、強いことは間違いないもんね。
ワイバーンと言えば、捕獲の一件も先生方の耳に入っていて、きちんと成績に反映されるとのことだった。これは嬉しい誤算。
この先ハード系討伐を選ぶとなると、やっぱりハルは誘いにくい。効率は悪くなるけど、ハルは討伐以外の方法で仲良くなることにしようと思う。
正直、相性に囚われず一律で親密度が上がるチートアイテムを見つけられたことはラッキーだった。
アイテムがなければ作ればいいのよ! おほほほほ。
レパートリーは少ないけどお菓子を作れて良かった~!
これから先の予定を考えながら歩いていると、あっという間に学問所近くにあるギルドまでたどり着いた。事前チェックでここにはジーンが居ることが分かっている。
すーはー!
ジーンに合うと盛大に照れてしまうので、気合いを入れ直す。気持ちとしては大好きな芸能人に会う、そんな感じ。少々高揚感がある。
恋愛の好きとは違う推しへの愛が溢れてくる……分かるよね?
「よしっ!」
ギルドの扉を開こうと手をかけると、中からジーンが出てきた。
なんてタイミング!
「何してんの、お嬢さん? 早く入ればいいのに、手を貸そうか?」
どうやらジーンは、中から私がやってくるのを見ていたらしい。
気合い入れるところを見られてしまった! 恥ずかしい!
「ななな、何って。ギルドに来ると言うことは討伐依頼を見に来たのですわ」
「あまり覚悟が決まってないように見えたんだけど、気のせいかな?」
「だ! 大丈夫ですわ。それよりもジーン。魔法局から出られたのですわね」
「ああ、お嬢さんの差し入れのおかげで何とかな! ありがとう」
真っ直ぐに見つめられ、ありがとうと言われると……ズキューンって来ちゃう!
不可抗力、これは不可抗力だから!
赤くなる顔も、早くなる心臓の鼓動も、当たり前。だって目の前に居るのは推しだもん!
差し出された手に反射的に手を置いてしまい、そのままギルドの中にエスコートしてもらう。
うう、嬉しいけど照れる。
何となく感じるギルド内の人々からの視線が痛い……気がする。
過剰反応って分かってるけど、周りの反応が気になる。
とにかく、依頼を見るために掲示板の前まで行くと、Aランク依頼が丁度張り出されたところだった。
内容は、北の鉱山の洞窟内に生息するトロール一体とオーク二十体の討伐。
早速この依頼を受けようと思って手を伸ばすと、ジーンが物足りなさそうにため息をつく。
「お嬢さん、俺とはじめて出会った時を覚えてるかな?」
「も、もちろんですわ。あなたの無礼には驚きましたわ」
忘れるわけないじゃない! 推しキャラとの出来事はしっかり脳のメモリーに焼き付けてるに決まってる!! 何ならメモという名の日記だって取ってるし?
オタク舐めんなー!
心の中で叫びながらジーンを見ると、意外っていう顔をして優しく笑いかけてくる。そんな顔されたら、きゅんが溢れて死・ぬ!
「覚えていてくれるなんて、有難いねえ! お嬢さんはケルベロスを上級魔法で消し飛ばしたんだぜ? こんな程度じゃ物足りねぇよな?」
「いいんですの! 私は課題をこなせればそれで」
「お嬢さんほどの腕の持ち主が、課題!? 学生は大変だな。……じゃあ、これなんてどうだ? 課題なんて一気に解決しちまうぜ?」
ジーンが指示した依頼は、Sランク討伐。
内容はミノタウロス三体の討伐とその角六本の回収。素材回収依頼とセットなので、ただモンスターを消し炭にすればいいわけでない。
ある程度手慣れた冒険者だったとしても、この依頼には手をつけたがらないくらいには面倒な内容だ。
「これは……確かに課題はすぐに解決しそうですけれど、メンバーは剣を使われる方の方が良いですわよね? 一緒に行く方の人選が難しいですわ」
「確かにお嬢さんは魔法メインだもんな。俺の他に剣が扱える人選をしなきゃいけないのか。少数精鋭ってのはどうだ?」
「えっ? ジーンが一緒に来てくださるんですか?」
「当り前だろう、先日の礼っていうか……俺なりのアレだよ」
なんだか照れて誤魔化しているみたいだけど、差し入れのお礼ってことかな?
たしかにSランクの討伐なら、非常にシモンに頼みやすい。しかもジーンも自発的に来てくれるわけだし、願ったりだ。
「剣の使い手なら、一人だけ心当たりが……。でも、さすがに三人での討伐は難しいのではないでしょうか。私は多分バックアップになってしまいますし」
「じゃあ、お嬢さんの執事はどうだ? アイツ、実はものすげー実力だろ?」
「確かにガイウスはかなりの使い手ですけれど、今回は連れて行くつもりはありませんの」
ええ、連れて行くと親密度カンストしちゃって恋愛ED迎えちゃうからね!
ガイウスは連れて行くことが難しいので、他のメンバーの親密度を思い出しながら選出する。
魔法使いではあるけれど、上手く立ち回ってくれそうなのはルカ。次点がクロムかナイルって感じかな?
「私の知り合いの中では、魔術側ですがルカ様が一番この討伐には向いているように思うのですが、お誘いしてもよろしいでしょうか?」
「うっ……! それは……!」
しばらく沈黙が続いたあと、ジーンがルカ側がOKだったらいいと返事をくれたので、この依頼をカウンターで受注手続きした。
ランクが高い依頼なので、準備期間が三日貰える。この間に人を誘わなければいけない。
うう、いつもながら人選が大変。
電話一本で終わらせられたらいいのに、私は彼らの電話番号すら知らない。
この世界では、電話は相当大事な用事の時以外は使わないものという位置付けなので、仕事以外では使わないものなんだって。
はあ、人選が面倒でやる気が失われてきた……引きこもりたい~!
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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