先行き不安なので引きこもりたい
『クロエ様、おめでとうございます』
ぱんぱかぱーん!と大きな音を立てて、ウエンディが目覚ましとばかりにステータスを表示してまくし立ててきた。
『ご覧ください、クロエ様。ガイウス様との親密度カンストは間もなくでございます! ルカ様とも500の壁を越えられました。ワタクシはとてもウキウキしております』
眠い目をこすりながら、ウエンディの表示しているステータスを見る。
--------------------------------
クロエ・スカーレット(17歳)
Lv.22
属性:火・地・風・闇・光
HP(体力)…………… 120
MP(魔力)…………… 6000
ATK(物理攻撃力) … 60
MAT(魔法攻撃力) … 2500
DEF(物理防御力) … 35
MDF(魔法防御力) … 2500
LUK(運の強さ) …… 646
親密度
アメリア(幼馴染)…… 499/500
クロム(婚約者)……… 670/999
ナイル(婚約者の弟)… 550/999
ガイウス(執事|暗殺者) 885/999
ハル(占い師)………… 445/500
ルカ(魔法局長)……… 502/999
ジーン(用心棒)……… 462/500
シモン(近衛師団長)… 443/500
特別スキル
スチル耐性……………… 570
虫の知らせ……………… 704
--------------------------------
わあ、色々とレベルアップしている。
特に親密度の上がり方がすごい。ウエンディ曰く、ゼリーは効果が高かったようで一人50ずつ上がったそうだ。
ガイウスは、恋愛イベント二回目の人助けイベントを攻略したから一気に200、更にゼリー分も合わせて合計250も上がったんだそう。
私はまだ恋愛ターゲットを決められていないから、目指しているのは友情エンド。だから無理に恋愛イベントを攻略しなくてもいいのだけど……。何かをプレゼントすれば勝手に上がっていく好感度、一度上限を解放してしまうと500以下に好感度が落ちて行かないシステム、この先結構苦労しそうだなと思うとため息が出ちゃうな。
『このままガイウス様とのエンドを選ばれますか?』
ウエンディが煽ってくる。そもそもゲームシステムなので正しくゲームが進むように設定されているのだろうけど、あくまでも今の私は友情エンドを目指したい。
私自身、たまに襲ってくるドキドキが自分の推しキャラだからドキドキするのか、恋愛のドキドキなのかわからない。
そもそも、全員顔が整い過ぎてるのがいけない。基本みんな優しいし、そんなの好きとか嫌いとか関係なくドキドキしちゃうに決まってる。
「ウエンディ、私は今のところ特定の恋愛ルートを選ぶつもりはないよ。目標としては友情エンドを目指したいのだけど……言ってなかったらごめんなさい」
そう言えば、なんとなく友情エンドにしようかなんて思ってはいたものの、ウエンディにはどうするかを伝えていなかった気がする。
ウエンディは少しがっかりした様子で、今後のプランを提案してくれる。
『そうでございますか。友情エンドは全員の好感度を500以上に上げていただき、それぞれ皆さんの人助けイベントを攻略する必要があります』
「はあ……人助けイベント攻略。これが一番大変なのよね。そういえば、ガイウスの人助けって全く記憶に無かったけど、あんなルートあったっけ?」
『お応えします。クロエ様にはクロエ様のルートがございます』
「あ、なるほど!」
察した!
私がプレイしていたゲームはあくまでも【アメリア視点】だから、全く違うイベントが発生しちゃうのか!
じゃあ、私はこれから先どんなイベントが発生するか分からないまま、このゲームを進めることになわけだ。
『主人公の数だけイベントがございます。その豊富さが「Peak |of Colorful Love」の特徴であり、人気の秘密でございます』
「ウエンディ、解説ありがとう。もう少し楽に進めるには、まず全員の親密度を500以上に上げるところからだと思うんだけど……。
アメリアとハルはいいとして、あとはジーンとシモン……結構クロエには難しいキャラが残っちゃってるなあ。ジーンとシモンは顔を合わせる場所が少なすぎるよ……」
『討伐にお誘いするほかありませんね。討伐でしたらお二人は自然に誘う事が可能です。シモン様は魔法局への出入りも頻繁ですので、魔法書を読みに行く時は必ず練習場へお立ち寄りください。ジーン様はギルドにいらっしゃることが多いので、討伐依頼はしやすいでしょう。
今日は討伐依頼を確認しに行きましょう。まずは頑張ってお誘いください』
うう、そっか。討伐……そういえば一回しか行ってないし、卒業するためにはある程度の数をこなす必要があるってアメリアとナイルが言ってたっけ。
「しばらく学問所は午前授業だし、昼から討伐依頼を見に行こうかな。ウエンディ、一緒についてきてもらえる?」
『はい。誰がどこにいるかMAPが必要でしたらお連れください。ただ、学問所には無用なものを持ち込んではいけないため……』
「分かってるって。必要な時以外は鞄から出さないようにします!」
『お分かりでしたら結構です。では、そろそろご準備を。朝食の時間に間に合いません』
時計を見ると、すでに朝食の時間が迫っている。
慌てて身支度を済ませると、お父様とお母様が待つダイニングへ急ごうと、スカートの裾をちょこっとだけまくり上げて階段を降りている時だった。
「お嬢様! はしたないです!」
声の主はガイウスだった。身体の調子はもういいのか、元気はつらつに見える。
足音を立てずにすごい速さで移動してきて、私の手を取りエスコートしてくれる。
「お嬢様はもっとご自身のことを良くお分かりにならなくては」
「それって、どういう意味かしら? それよりもあなたの身体は大丈夫ですの? ゼド?」
「今更その名で呼ばれるとは……お嬢様、今まで通りガイウスとお呼びください。お嬢様のおかげでこの通り、体調は万全に回復致しました。ありがとうございました」
「はあ、よかった~! 本当に心配したのですよ。それより、今日はいつもより出勤が早いようですが、どうされましたの?」
「お嬢様に少しでも早くお逢いしたく、馳せ参じました」
「また、そんなことを言って!」
私の耳元で、甘い声で囁くのはやめてください! そんな甘い目で見つめるのも反則ですからね?
そっけない態度はむしろ嬉しいタイプのガイウスに、どう対応して良いか分からない。
階段を降りても手を離そうとしないので、強引に手を引き抜いてダイニングに向かって早歩きする。私の後にはガイウスが従って続き、ダイニングに到着すると入口の扉を私が通るジャストタイミングで開いてくれる。
ダイニングに入る私に頭を下げるガイウスは、扉から中には入ってこない。ここには専属の給仕が居るので、執事は立ち入ることがない。
朝食を取りながら家族で歓談をしていると、お父様が思い出したように話をはじめた。
「そうだクロエ。お前は半年もすれば学問所を卒業するだろう? 今後はどうするつもりだ。魔法局なら私と一緒に働くことが出来るが……それともクロム殿下と結婚するか?」
「お父様、クロム様との結婚にはまだ実感がありません。魔法局への就職も嬉しいお申し出ですけれど……いまひとつピンと来ませんの。まだ考えあぐねていますのよ」
「お前の好きにしなさい。私はクロエを信じているからな。
あ、そうだそうだ。お前付きの執事のゼドだが、住んでいたアパートの改装工事らしい。今日から使用人棟に住まわせることにしたから、何でもすぐに申し付けなさい」
「ええっ!? 今日!? 聞いてないですわ!」
「なにぶん、急だったからな」
アパートの改装工事なんて絶対嘘じゃない? お父様騙されてる!!! 本当に人が良いんだから。あとでガイウスはお説教……と言いたいけど、それを喜ぶ性癖だから困る。
親密度急上昇問題もあるし、頭を抱える展開が私を悩ませる。
食事を済ませ、何食わぬ顔で私に従って歩くガイウスに確かめてみる。
「お父様から聞いたのですけど、アパートが改修工事なんですって?」
じろりと睨みをきかせると、ガイウスは笑みを浮かべ困ったように頭を掻いている。
「実は、お嬢様の光魔法が外に漏れていまして。他の住民からあの光は何だとうるさく苦情が入り、追い出されてしまいました。教会の近くで住みやすかったんですが、新しい住処が決まるまで、こちらでお世話になります。
お嬢様のお世話は今まで以上にしっかり致しますので、何なりとお申し付けくださいませ」
深々と頭を下げて見せるが、見えていないガイウスの顔はきっと喜んでるんだろうな。これから先、私の将来のことも親密度上げもかなり厄介になってくると思う。
何でこのゲーム、こんなに攻略対象が多いの~!?
もう先行き不安なので、このまま一日部屋に引きこもって将来のことを考えても良いですか?
「お嬢様、さあ学問所に行きましょうね」
にっこり笑うガイウスの顔は、それはそれはきれいな笑顔だ。
これから、私の引きこもり生活が守られるのか……本当に不安でため息が沢山出た。
ウエンディが久々に、LUKポイントの低下を教えてくれた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は21時更新予定です。
↓↓↓の方に評価ボタンがあります。
作者のモチベーションにもなりますので、面白いと思われましたら☆やいいねで応援をお願いします。