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【完結】悪役令嬢は引きこもりたい  作者: MURASAKI
ゲーム中盤
40/92

シリアス展開は守備範囲外なので引きこもりたい④

「お嬢様、どうして俺なんかを助けたんですか。ただの人殺しの俺を」


「どうしてって、あなたが倒れて苦しそうにしているのを見て、助けないほうがおかしいでしょう? 人殺しと言っても、あなたは執事として私を何度も助けてくださったじゃない」


「俺は、そんな甘い人間でもないし、本当にクズなんだ。お嬢様に拾われたおかげで何とか執事としてもここまでやってこれたが、それでも……暗殺組織からは足を洗う事ができなかった」


「暗殺の方が本業なら、何か理由でもあったのでしょう? 例えば、神父様と教会が理由のひとつかしら?」


「……! ……俺は孤児だ。俺の両親は暗殺者だった。両親は仲間の裏切りに遭い俺の目の前で殺された。既に暗殺技を教え込まれていた俺は、その裏切った仲間をその場で殺した。そのまま組織の一員として暗殺稼業を続けることになった。

 まだ幼い俺の教育に困ったボスが、正体を隠してあの教会に預けたんだ。そこからが神父(ジジイ)との家族ごっこの始まりだ」



 なるほど、王道中の王道設定というわけだ。暗殺稼業を続けながら、表では孤児として教会で保護され勉学に励むという生活をしていたわけね。

 話を聞いて、まだ十歳を過ぎた頃にクロエがガイウスの容姿を気に入って、強引に執事として雇い入れたという記憶が蘇ってきた。



「昔、私がどなただったかのパーティであなたを気に入って、強引に執事で雇いたいと言ったのでしたわね。あの頃からすでに暗殺者だったのですね」


「ああ、あの時は暗殺の下調べで潜入したパーティだった。侯爵家なら今後も社交界の場に出入り出来るし、ターゲットの下調べにうってつけだとボスの判断でスカーレット家の執事になったんだ。

 神父(ジジイ)も良い就職先に巡り合えたと喜んでくれたし、何より真っ当な金を教会に入れることが出来るようになって、俺も嬉しかった。それまでは人を殺めて手に入れた金を、こっそり寄付として贈るしかできなかったからな」


「そうでしたか……」


「俺は……私は、お嬢様に拾われてから……常々暗殺業からは足を洗いたいと思っていました。神父(ジジイ)と同じようにスカーレット卿は大変優しい方で、沢山の知識を与えてくださった。このまま、お嬢様の為にも執事として真っ当な生き方をしたいと」


「私のためにありがとうございます。でも、組織を抜けるなんて簡単に出来るんですの?」



 ガイウスは顔をしかめて黙り込んだ。あんまり聞いてはいけないことだったのかな?

 何でもいいけど、そろそろ手を離してくれると嬉しい。



「あの、ガイウス。そろそろ手を離してくださると嬉しいのですが……」



そう言った私の手を更にギュッと握りしめたガイウスは、私の手を自身の額まで持って行き、祈るような恰好で話を続ける。



「お嬢様、あれはただの呪いではありません。実はあの呪いは組織からの足抜けの儀式でした。儀式を生き残ることができれば、暗殺稼業を抜け生きて執事を続けることを許してやろうと。

 他の者に示しがつかないので、組織の掟で足抜けする者は呪具を使った儀式をするしきたり(・・・・)なのです。助かった者は、ただの一人もいません。」


「……私以外は」


「それなら、足抜け出来たということでしょうか? あなたは生き残ったのですから!」


「誰かに助けられたという前例はありません。これで足抜け出来たかどうかは分かりません。もしかしたら、私は今後も組織から狙われるかもしれません。そうなれば、お嬢様にも危険が……!」


「大丈夫ですわ。ガイウスは強いですから、何かあれば私を危険から守ってくださるのでしょう? これからも」


「お嬢様!」



 ガイウスが私を抱きしめる。周りはお花がいっぱい……久しぶりのスチルが発動した。



「これからも、お嬢様を守ることを誓います。命にかけて」



 甘い声が響き渡り、そのまま時間がフリーズする。このシリアス展開、もしかしなくても恋愛イベントだった。

 私は何て返事をするのがいいの? 選択肢って出ないんだっけ!!?

 返事をしないと、抱きしめられたまま動けない。うう。無駄に顔はいいのよ、この執事。

 顔が赤くなるのに気付きたくなくて、意識を逸らすためにクロエならなんて言うかを一生懸命考えた。



「当り前ですわ。私の執事ですもの、全力で守りなさい。そうしなければ許しませんわ」



 言い終わると、時間が動き出した。きらきらのスチルも落ち着いて、何とか切り抜けたと胸を撫でおろす。



「いつまで私に抱き着いているの、ガイウス」


「あっ、し、失礼いたしました。まだ体調が思わしくないようで、自制がきかず……」



 慌てて手を離すガイウスは、いつもの余裕が全く感じられない。体調が思わしくないのは本当のようだし、そろそろ私も帰ろうかな。



「ガイウス、そんな大変な時に私のことで心配をかけて申し訳ありませんでした。お詫びのゼリーを作ってきましたの。喉に通るようでしたら、召し上がって?」


「はい! 今いただきます!」


「へっ? 今? 食べられるの??」


「はい! 今すぐ!」



一応病み上がりのガイウスを放っておくわけにもいかず、ゼリーを器に盛りつけてベッドまで運ぶと、ガイウスに渡した。

ガイウスは不思議そうにゼリーを眺めている。やっぱりこの世界にゼリーは無いのね。



「お嬢様、この食べ物はジュゼではありませんか?」


「へ? ジュゼ? ゼリーのことをジュゼと言うの?」


「幼い頃に母が作ってくれたことがあります。隣国のスパイ出身の母は、このデザートのことは秘密だと言っていました。隣国のわずかな地域にしか伝わっていない物なのだそうです。なぜお嬢様がこれを……?」


「私が知っていることなんてどうでもいいですわ。さっさとお食べなさい!」



 ガイウスは、ゼリーをひと口食べると感動したようにフリーズしていた。

 思い出の母の味よりも甘いものだったらしいけど、久しぶりに昔を思い出したらしい。

 私も隣国にはゼリーがあると分かって、ちょっとだけ嬉しい気持ちになった。


 食べている間、ガイウスは両親の思い出話を聞かせてくれた。すごく懐かしそうなその顔は、普段のガイウスからは想像もつかないほど穏やかな表情だった。

 食べ終わったものを片付けて、私はガイウスの部屋を後にした。


 外に出ると陽が傾き始めていた。

 長いお詫び行脚の一日はこうして終わった。



『クロエ様、本日は一日お疲れさまでございました』



 ウエンディが珍しく私のことを労ってくれる。



「本当に疲れたけど、上手く行ったのはウエンディのおかげだよ、ありがとう」



 ウエンディがあの場で光魔法が使えることを教えてくれたおかげで、ガイウスは助かったんだから、本当にウエンディ様々よね!



 けれどシリアス展開は本当に疲れるので、しばらく来なくていいかも。慣れないことをしたから、次のお休みはのんびり引きこもり生活をしたいなぁ。

 夕暮れの空を見ながら次に描くイラストの事を考えながら歩く。



 私はすっかり忘れていた。

 ピーカラは「人助け」の要素もあるゲームだったということを。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

次話は17時更新予定です。

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