シリアス展開は守備範囲外なので引きこもりたい③
「クロエさん……」
いつから居たのか、ハルが少し禿げあがったおじいさんを連れ戻ってきていた。ウエンディはいつの間にか荷物の中に戻ってたみたい。
発動した光の魔法陣が消え、ガイウスの肌の色は正常な色に戻り、息も落ち着いている。
「ハル。何か、魔法上手くできたみたい……」
「すごい! すごいよ、クロエさん!! よかった~~~!!!」
ハルが抱きついて喜んでくれるので、一緒に抱き合って喜ぶ。
「おお……何と! このような少女が、呪い消しを唱えるとは。大丈夫ですかな? 魔法力をそぎ取られたのではないですか?」
「うーん? 大丈夫です。Sランクって一回でMP500くらい削られるんでしたっけ? あと十回は余裕ですね」
「おお……何と言う……この御方の力は神そのものではありませんか」
「いえ、そんな神なんてことはありません。ただ、ちょっと人より魔法の能力がチートなだけっていうか?」
言い終わるが早いか、ハルが連れてきたおじいさんは私を拝みはじめた。
「止めてください、本当に私は普通の一般女子ですから。それよりもあなたは……?」
「この方は教会の神父様。教会に万能薬はやっぱりなくて。でも傷薬があったのと、この方が毒消し魔法は出来ると言うので一緒に来てもらったんだ」
「そうでしたか。ご足労おかけいたしましたわ」
「いえ、このような素晴らしい魔法を見れただけで、私は……」
何だか神父様は涙ぐんでいるみたい。
「本当に凄いよ、クロエさん。光魔法が使えたなんて知らなかった!」
「実は、私も知りませんでした。前回のレベルアップで新しい属性が増えていたみたいで。一番驚いてるのは私かも?」
「そんなことってあるの? 本当に、キミは凄い人だね!」
私の手を取ってはしゃぐハル。傷薬があるなら、早くガイウスの腕の傷を治してあげなきゃね。
「ハル、はしゃぐ前に傷薬借りて良いかな? 消えたのは呪いだけで、ガイウスの外傷は消えてないから……」
本当は魔法を使えばいいのだけど、せっかく持ってきてもらった手前、使わないのは不義理だよね。
腕の傷に傷薬をかけると、みるみる傷がふさがっていく。
「うう……」
ガイウスが唸る。
「ガイウス、大丈夫? もしかして傷に染みた??」
顔を覗き込むと、目が開いた。意識が戻ったみたい。良かった!
「ん、お嬢……? ここは俺の部屋のはずだが……夢か?」
「夢じゃないですわ、もう! 本当に大丈夫??? あなたは呪いを受けて倒れていたのよ。
もう大丈夫だと思いますけど、どこか痛むところはありますか?」
「いや、どこも何ともない」
そう言って、ガイウスは身を起こす。少し意識が混乱しているのか、言葉遣いが雑になっている。
「まだ無理をしては駄目! 上半身の半分近くを呪いに侵されていたのだから」
「そうそう、まだ横になっていた方がいいよ!」
心配する私とハルの顔を交互に見ると、ガイウスは丁寧にお礼を述べ深々と頭を下げた。
「お嬢様、あなたが私を助けてくださったのですね。そしてハル様と神父様も。本当に何と感謝の言葉を述べて良いか。ありがとうございます」
「お二人の協力がなければ、ガイウスを助けることはできなかったでしょう。主である私からもお礼を申し上げます。ありがとうございました」
私もガイウスに次いで、ハルと神父様に頭を下げる。
「そんな、気にしないでください。ボクは何もしていません!」
「そうじゃ、私は傷薬を提供しただけじゃからな。しかしガイウス、君がこんな素晴らしいお嬢様に仕えているなんて知らんかったぞ。とにかく助かって良かったのぅ」
「ハルが居てくれなかったら、私は冷静になることさえできなかったと思います。だから、ハル。本当にありがとう」
頭を下げると、ハルが照れてしまった。
さっきまで男らしくリードしてくれていたのに、今はなんだかカワイイぞ。
次は神父様にもきちんとお礼を。
「神父様はガイウスとお知り合いでしたか。傷薬のご提供、ありがとうございました。後ほどきちんとお礼をしに伺います」
「お礼など良いですよ、お嬢様。ガイウスはこんな小さな頃から私たちの家族ですからな。家族の危機に駆け付けない親はおらんでしょう。では、無事も確認しましたので私は失礼しますよ。これから夕食の準備がありますので」
神父様は笑いながら、帰って行った。
ガイウスをちらりと見ると、ちょっと照れているようだ。
「では、ボクも失礼するね。お店もあるし。ガイウスさん、無事で本当に良かったです! お大事にしてくださいね」
「ハル、本当に今日はありがとうございました。また改めてお礼を」
「そんな! お礼なんていいよ。完全にボクのお節介だから……あ、そうだ! じゃあ、また今度ゼリーを作ってきてくれる? すごく美味しかったから」
「ええ、ぜひ!」
楽しみだと笑いながら、ハルは部屋を出て行った。
急に静かになった部屋でちょっと所在が無くなった私は、足元の汗を拭いたタライやタオルを片付けて台所にあったコップに水を入れてガイウスに渡す。
「あれだけ沢山汗をかいたのだから、しっかり水分補給しなさい」
わざと命令口調で言う。ガイウスがワンコ属性なので命令だと従うことは分かっていたから。
「はい、お嬢様。本当にありがとうございました」
「? あれ? しおらしいじゃない? どうかした?」
「いえ…………」
ガイウスはコップの水を一気に飲み干し、溜息をひとつついた。
飲みほしたコップをじっと見ているので水がもっと欲しいのかも?
「どうしたの? お水、まだ足らなかったかしら? あなたのキッチンに水差しがあれば入れてくるのだけど。分かる場所に見当たらなかったから……もう一度汲んできますわ。コップをこちらに」
コップを受け取ろうと差し出した手をガイウスが握る。
なんだか、震えながら泣いてる……?
シリアス展開はまだ続くみたい。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は12時更新予定です。
↓↓↓の方に評価ボタンがあります。
作者のモチベーションにもなりますので、面白いと思われましたら☆やいいねで応援をお願いします。