ぬるま湯展開なので引きこもりたい②
午前中の授業を終えて、アメリアとナイルがカフェでランチしましょう!と誘うので、小腹も空いたし、飲食エリアは魔法局にも近いのでOKした。
あ、ちょっとキャッキャしたかったって言うのを白状しておきます。
同年代(?)と楽しくカフェ! 絶対楽しいよね!
ランチを食べながら、たわいのないことを話して楽しい時間を過ごす。
こういうのって、学生時代からやってないなぁと思って、満喫する。
「あれ? クロエ様、アメリア様! それにナイル王子ではないですか?」
私が食後のパフェを頬張ろうとしたところで、声をかけられた。
ハルだ。
私が居ることに気が付いて走ってきてくれる。
「クロエ様、お元気になられたのですね!」
「え、ええ。ハル、お見舞いに来てくださってありがとうございました。」
「そんな! 仲良くしていただいている方を心配するのは当たり前です。
本当にお元気そうで何よりです」
「ハルも一緒にいかが? スイーツでも?」
「いいえ、とんでもございません! 王族の方と食事を共になど不敬極まりないです! お気持ちだけ受け取っておきます」
この前の討伐で一緒にランチを食べた仲なのに。
ナイルは気安いから、王族って一瞬忘れちゃうんだよね。
この世界の身分みたいなものが、あんまり理解できてなくてごめんなさい。
心の中でごめんのポーズを取って、いそいそとその場を去ろうとするハルを少しだけ引き留め、あとで家まで行っていいか確認する。
ハルはこのあと昼過ぎから夕方までは占いの店をオープンすると教えてくれた。
ハルの予定をゲットできたので、この後の予定も立てやすくなった。
まずは今の場所から一番近い魔法局へ、その後ハルかガイウスの家へ移動。
何もなければスムーズに進めるルートだ。
「パフェおいしい。アイス冷たい、甘くて幸せ♡」
きっと私、すごくトロトロの顔をしたんだと思う。
アメリアが私にもひと口~!と言ってきたので、ひと口食べさせてあげる。
それをナイルも羨ましそうに見ていたので、ナイルにもひと口ってやったら、なんか拒否された。
え? なんで?
照れてるの? 愛い奴め!
は! そういえば、もしかしたらアメリアとナイルは付き合ってるかも疑惑があったっけ? それでかな?
聞いてみようかな?
「ねえ、ナイル様とアメリアって付き合ってるの?」
「「は!!?」」
「そんなわけないだろ!」
「そんなわけありません!」
二人同時にものすごい勢いで否定する。
ますます怪しく見えてしまうんですけど?
「二人って前から一緒に討伐にも行ってるんでしょ? 結構お似合いに思うのだけど」
「いやいや、討伐は皆に課せられてるミッションだからな? クロエは魔力の問題で免除されてたけど」
「そうですわ! 幼馴染だから少し他の方より気が合うというだけですわ。クロエと行けるなら私だって一緒に行きますのに!」
ふんす!と力を込めてアメリアがにぎりこぶしを作り、気合いを入れるポーズをする。
凄く可愛い。
「俺はクロエと一緒に討伐に行ったけどな?」
火に油を注ぐナイル。そのドヤ顔はアメリアを刺激するんじゃないかと思う。
「わ、わかりました! 私の勘違い、ごめんなさい。そんな風に対立しないで!」
「こほん。私こそ、お見苦しい姿を……失礼しました」
「俺もムキになって悪かったよ。二人ともスマン」
三人ともが謝って、お互いの顔を見て吹き出し、大笑いした。
幼馴染って本当に気楽でいいなあと思いながら、楽しいランチタイムを過ごすことができた。
楽しいランチタイムの後は、私は全員にお礼するというミッションが待っている。
二人とは魔法局近くの広場まで一緒に歩き、城のあたりでナイルと、私の目的地魔法局前でアメリアと別れることになった。
アメリアにさよならと挨拶をし、魔法局に入る。
正直、一番心配かけたメンツがここに居る。
まずはお父様に声をかけてから、が一番よね?
受付で面会手続きをしようとしたところで、受付のお姉さんが私の面会申請書をお父様のものから、ルカのものに変更して持ってきた。
「あの……? ルカ様ではなく、お父様との面会申請をしたのですが?」
「はい。局長のルカより、クロエ・スカーレット様がこちらに来られた際は、何があっても最優先で局長の元へと案内するようにと、仰せつかっております」
瞬きもせず眼鏡越しに私に向けられた視線から、かなり強力な圧を感じる。
これ、行かなかったら受付のお姉さんが罰せられたりするのかな?
ルカは怒ったら怖そうだし、なんだかお姉さんからも緊張感がビシビシ伝わってくる。
「……わかりました。ルカ様のご指示では、私が自分を通せばあなたに罰があるかもしれませんものね。伺います」
「ありがとうございます。では、ご案内致します。こちらを腕にはめていただけますか?」
ニッコリ笑顔になったお姉さんが差し出した腕輪を受け取り、後について移動する。
いつものエレベーターとは違って、奥のエレベーターに案内される。
どうやら、お父様の執務室がある棟とは別の棟にルカの執務室があるみたい。
ゲームだと魔法局の建物にアクセスして、行き先の選択肢を「ルカ執務室・訓練場」から選ぶだけだからなあ。
実際に建物の中を歩けるってちょっと感慨深い。
エレベーターの中に入ると、エレベーターには魔法陣が描かれていて、動くというより瞬間移動で別の場所に飛ばされた。
どうやら、瞬間移動は限られた人しか知らない呪文と、お姉さんから渡された腕輪を媒介にしているようで、腕輪をしている人間だけを認識しているみたい。
セキュリティが二重なのは流石だと思う。
三度目の瞬間移動でジャンプした先のフロアで、お姉さんが身分証を提示すると目の前の扉が開いた。
広い廊下をそのまま真っ直ぐ進んで歩くと、廊下のゴージャス感にそぐわないくらい質素な扉の前でお姉さんが立ち止まり、ドアを二度ノックした。
「ルカ様、クロエ・スカーレット様をお連れ致しました」
「入れ」
何もしないのにドアが開くと、受付のお姉さんが私に入るよう促す。
ここでお姉さんとはお別れみたい。
昼間なのに暗い部屋の中に恐る恐る入ると、ドアが勝手に閉まり辺りが真っ暗になる。
「ひゃあ!」
バタン!と閉じたドアの音にびっくりして変な声が出てしまった。
「ああ、ここには貴重な蔵書がある。書物を守るためにできるだけ日光を遮断しているからな」
パチン!と指を鳴らす音がすると、魔法の灯りで一気に明るくなる。
う、まぶしい! こんなに明るくできるなら、なぜ真っ暗な中で作業を……?
眩しくて閉じた目をあけると、目の前にルカが立っていた。
「今朝、目が覚めたと聞いて安心した。今回は私の失態であなたには申し訳ないことをした。すまない」
深々と頭を下げるルカ。きっと普段そんなことをしないだろう彼の姿に驚く。
「ルカ様、頭を上げてください! 私もピンピンしていますし! 少し疲れが出ただけですわ。謝っていただくようなことは、何も!」
「だが……」
「とにかく頭を上げてください。私、本当に元気ですから!」
ルカの背中に手をかけ、何とか頭を上げてもらえるように説得する。
なにせ、普段からの寝不足と初めてのことで緊張疲れがダブルパンチになっただけだし、魔法力は有り余るほどあるから魔法枯渇で眠りが深かったわけれもないのに、謝罪されると何だか胸が痛む。
顔を上げたルカは、ホッとした顔をした。
「確かに、あの日みたいな目の下のクマもなくなったようだし、肌艶もいいな」
そういったルカのほうが酷い顔で、目の下にはクマが刻み込まれている。
まさか、心配で寝てないとかのオチじゃないよね?
「ルカ様こそ、かなりお疲れの様子ですが大丈夫でしょうか?」
「ああ、問題ない。ワイバーンの捕獲数が予定より多かったのでな。その配分などで書類がいつもより多かっただけだ。処理はもう終わる。気にするな」
「あまりご無理なさいませんよう、お気をつけくださいませ。そうだ、私ゼリーを作ってまいりましたの。少し休憩されませんか?」
「? 何を作っただと?」
やっぱりルカもゼリーを知らないらしい。この世界にゼリーは無いの?
だから寒天もゼラチンも無かったのかな? 似た食材はあったけど、料理に使うもののようだったし。
まあいいか。
ルカがパチン!と指を鳴らすと、広すぎると思っていた執務室にソファーセットが現れた。
しかもティーセットまで用意されている。
魔法ってスゴイなあと目を丸くしていると、ルカ曰くこれも転送魔法で、別室で執事が用意したものを呼びよせているのだとか。
執事さんのタイミングも素晴らしい!
促されるままソファーセットに座り、保冷バッグからゼリーを取り出そうとすると、「コンコン」と扉がノックされた。