ぬるま湯展開なので引きこもりたい①
クロムの執務室のある高等学問所を出て横にそれると、学び舎が見える。
本当はこんな道、良家の子女たる私が使ってはいけないのだけど……ぐるっと大回りするのが面倒だから、使っちゃうよね~?
二メートル以上ある柵を風魔法を使って飛び越える。
少々スカートが気になるけど、ペチパン履いてるから見えても問題なし!
……と思ったのに、その姿をナイルに見られてしまった。
いやだ、居たの?と思ったけど、実はナイルも同じように柵を飛び越えてクロムの執務室へ行こうとしていたみたいだった。
「おい、クロエ! 流石にスカートでそれは無いぞ!?」
若干照れ気味で指摘されてしまった。
「あら、おほほ。ごめんあそばせ。……見えまして?」
「み、見てないぞ! っていうか、その話し方……やめてくれ!」
ちょっと赤くなっているところを見ると、多分見ちゃったんだろうな~と思う。
一応反省するけど若い女の子のスカートの中身を見れて役得だよね。
クロエはキツ目の顔だけど、美人だもんなー! 一応ジト目でナイルを見てはみるけど、ペチパンくらい見られても気にしない。スコートみたいなもんでしょ?
こういう恥じらいに対して図太いところは、自分でも年齢を感じる……ごめん、ナイル。
「そんな目で見るなよ、事故だろ!? ……その様子だと兄上のところに行っていたのか?」
「ええ、私が起きないと聞いてお手紙を下さったので、お礼をと思いまして」
「ああそうか。それで……兄上はどうだった?」
「少し憔悴されていたようですが、お元気そうでした。起きてからあまり時間が取れなくてお手紙をまだ読めてないから、授業前に見るために少しでも早く学び舎に入っておきたくて。
ナイル様もこれからクロム様のところへ?」
「ああ、そのつもりだったけど……クロエが元気な姿を見たんなら、大丈夫だろう。兄上はお前が起きないと聞いて取り乱しておられて、今日も様子を伺いに行こうと思っていたんだ」
「ナイル様、お優しいんですね。そうだ! ナイル様も私のお見舞いに来てくださったとか。本当にご心配おかけしました。ありがとうございます」
頭を下げると、ナイルはとんでもない!と手を振る。
「いや、そんなのは当然だろう。クロエは大切な友人だし、王家の指示で行われた捕獲に参加してああなった訳だしな。一応王家の人間としては様子ぐらい見に行かないとな」
「ナイル様は本当にお兄様想いですね。スカートの中を見たことは気にしておりませんから、ナイル様も気にしないでくださいませね?」
「いや、お前! そこは気にしろよ!」
「おほほほ、申し訳ございません」
「だから、その言葉遣い……!」
ナイルをからかいつつ、楽しく移動して教室に入る。
まだ誰もいない教室に入り、ゼリーを食べるか聞くと食べたいとのことで手渡す。
ナイルもゼリーを知らず、食べると感動していた。
「なんだこれ、ぷるぷるでつるんとしてる!」
いちいち反応可愛いな!と思いながら、ゆっくり食べてねと言い貰った手紙を開く。
クロムの手紙は、私を心配する言葉と自分を責める内容が便箋二枚にびっちりと丁寧な字で書かれていた。
そういえばクロムも言っていたけど、手紙にも自分の命令でワイバーン捕獲を進めたこと、そのせいで私に無理をさせてしまったのではないかと苦悩する姿があった。
そんなの、気にしなくてもいいのに……むしろ過度に気にさせてしまって申し訳ないと思う。
忙しい中でこんなに沢山心配してくれたのかとほっこりする。また何かお菓子を作って持って行ってあげよう。
ルカの手紙は、几帳面な文字は機械?というくらい角度までキッチリしている。
今回の捕獲で無理をさせたことの謝罪と、スムーズに捕獲を進めた褒賞について書かれていた。
褒賞は自分の欲しい物を選ぶか、お金とのことだけど……いったいどのくらい貰えるんだろう?
一度、魔法局まで足を運んで欲しいとのことだった。
流石にルカの手紙は内容が簡潔だ。
手紙って性格が出るなあと思いながら、こんな風に自分のことを気にかけて貰えることに感謝する。
引きこもりたいばっかり言っててごめんなさい。多少は改めます!
手紙を読み終えて、ふと横を見るとナイルがじと目で私を見ている。
相手にしなかったから拗ねてるのかな?
「え、どうしたの?」
「これ、もっと食いたい」
「お口に合ってよかった! また今度作ってくるから……」
「クロエ!!!」
私の会話を遮るように、アメリアが教室に入ってきた。
駆け寄って抱きしめてくれる。
「よかった、クロエ!!」
「アメリア! やっと逢えた~! どこに居たの?」
「ちょっと花の水やりに。って、私がここに来てるって知ってたの?」
「うん……ほら、鞄があるから。」
何処に居るかMAPがあるからとは言えず、咄嗟に目についた鞄を見て答えた。
「アメリア、心配かけてごめんなさい。お詫びにゼリーを作ってきたので食べて!」
「全然! 友達なんだから心配するのは当たり前でしょう? ところで、ゼリーってどんなものかしら? 楽しみ~!」
なんとアメリアもゼリーを知らなかった。
もしかして、この世界にゼリーってないの?
モヤモヤしながらゼリーを出し、アメリアに振舞う。
それをナイルがやたら恨めしそうな顔で見ている。
「うう、旨そう」
「ナイル様はもう召し上がりましたよね?」
「でも……」
「そんなに見られては、食べにくいです」
ぷるぷると揺れるゼリーの柔らかさに見とれながら、アメリアがひと口食べる。
ナイルはそれを半泣きの表情で見ている。
「すごい……! つるんと口の中に入る! 甘くてほんのり柑橘の香りがお口の中に広がります。美味しい!」
「俺のゼリー……!」
恨めしそうなナイルを横目に女子トークに花を咲かせ、アメリアがゼリーを食べ終えた頃には、誰もいなかった教室に少し学生が増えはじめていた。